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ワイアットの逆襲 第44話【合同部隊 中編】  


訓練に励む地球連邦軍第8艦隊の旗艦「ネレイド」の長官室でワイアットが手にする端末には各地で訓練に励む部隊の編成表が映し出されていた。中には訓練という名目で偽装された戦闘任務を行う部隊も含まれている。

「第335戦闘飛行隊チーフス、
 第494戦闘飛行隊パンサーズだが、
 哨戒任務ならばともかく、索敵攻撃を問題なくこなすには後2週間程の時間が必要か」

「FF-S3と比べると複雑な機材なだけに、
 慣熟訓練には時間を必要としています」

ワイアットの言葉にカニンガム少将が応じた。両飛行隊はそれぞれ24機のFF-X7-Bstコアブースターで編成された戦闘爆撃機隊であった。これまで使用していたFF-S3セイバーフィッシュとは出力から火力が違っており、慣れるまでにそれなりの時間を有する。慣熟訓練を終えたらフィフス・ルナ方面軍に増援として駆け付ける予定だ。

「そうだな…
 時間がかかっても確実に数を揃えるのを優先しよう。
 フィフス・ルナ方面軍に4個飛行隊が揃えば作戦の幅が広がる」

「選択肢が多いほど、いろいろな局面に対応できますからね」

ワイアットは頷いた。
充実した戦力に、それを支える兵站こそが戦争の流れを決める。特殊な例を除けば少数精鋭よりも多勢や多数精鋭の方が強い。

「それと第15任務艦隊への補給作戦は順調か?」

ワイアットにとっては第15任務艦隊への補給作戦は、先ほど話していた2つの戦闘飛行隊よりも重要な案件だった。戦闘飛行隊はジオン軍に対するジャブならば、第15任務艦隊は適切に狙いを定めたボディブローと言ったところだろうか。確実性が高いとなるとジャブよりもボディブローの方がダメージが大きい。

「それについは問題はありません。
 定時報告では後1時間ほどで合流を果たすとのことです。
 また、ペガサス、アタゴ、ボスニア、キプロス、グレーデンの5隻も
 補給部隊に合流を果たしております」

「それは重畳。
 戦力は有効に活用してこそ勝利への布石となるのだ」

強襲揚陸艦「ペガサス」とサラミス級巡洋艦後期型「アタゴ」「ボスニア」「キプロス」「グレーデン」はジャブローからワイアットの元に送られたばかりの増援である。カニンガム少将は有力な戦力を自らの手元に置かずに、躊躇なく各方面に展開させていくワイアットの決断力に感銘を受けていた。

―――ふっふっふっ…
増援として送り込むペガサスには2人のニュータイプに加えて、
エースパイロットが乗り込んでいる。
彼女たちのニュータイプとしての能力はアムロほどではないだろうが、
かなりのレベルのはず。
エースパイロットの方はかつての実績を考慮すれば問題はない。
これらのテコ入れによって第15任務艦隊の戦果拡大を大きく助けるだろうよ。
それにだ…
苦労して暗礁宙域での戦闘に強そうな人材をここまで揃えたのだ、
活躍してもらわねばな―――

ワイアットの心境は、適切な戦力を敵に投入できる喜びに満ちていたのだ。多少の数的劣勢を跳ね返せるMSと、それを操るパイロットの質を確信しているからこその自信である。ジオンの艦隊戦力が減れば減るほど自分の安全が増す。喜ぶのは当然の結果であった。このように、ジオン軍に徹底した出血を強いるのと同時に、新たな英雄の誕生を狙うワイアットの生存戦略は着実に進んでいく。

紳士とは自分の人生を、優雅にどのようにして耐えるかを考えながら生きているものだが、"生きて耐える"という点だけを見るならば、最適解を叩き出していると言えるだろう。




0079年9月11日

ジオン側のリビング・デッド師団、セイレーン機動艦隊、そして2個のパトロール艦隊からなる、第2迎撃艦隊としての再編成が終わりを迎える中、連邦側の第15任務艦隊も再編成を終えようとしていた。第15任務艦隊は損傷艦が無いにも関わらず、再編成を行っていたのは訓練航海の名目で補給艦隊に随伴していた強襲揚陸艦「ペガサス」、4隻のサラミス級巡洋艦後期型が、実弾演習の名目で第15任務艦隊に臨時編入を果たしていたのが理由だ。

その強襲揚陸艦「ペガサス」には、2名のニュータイプ能力を有するパイロットが乗船していた。

1人目のニュータイプは志願兵のパイロットして参加していたクスコ・アルである。彼女は乗船していた貨物船カセッタVがジオン軍の襲撃を受けた際に、ワイアット率いる第7艦隊に保護されてから、紆余屈折の結果このような立ち位置になっていたのだ。サイド6に戻ってもジオン側による口封じの危険性は全くないとは言えないし、結果として貨物船カセッタVの乗員の多くは、ジオン側による口封じを恐れて連邦軍の保護を受ける代わりに志願兵として従事するようになっていた。

その中でクスコ・アルは素質があるというワイアットの強い推薦でホワイトベースのパイロットと似たような経緯でパイロットとなっており、シミュレーターや模擬戦の成績は超絶なものであり、そのレベルは極めて高い反応値を有するアムロ・レイに近いレベルだった事もあってRX-78が愛機として充てられてている。

二人目のニュータイプはララァ・スンだった。

彼女はワイアットがこれまで出版した本の版権料によって、7月の時点で娼館からの身請けを完了している。そしてワイアットの巧みな誘導もあってテストパイロットとしての道を歩んでいたのだ。テストパイロットとして誘う殺し文句は「優れた直感力と洞察力を持つ貴方ならば、鋭い感覚が必要な機体のテストパイロットが向ているかもしれない」などの言葉を始めとした誘導と、ララァは荒んだ環境から解放してくれたワイアットに対する恩義と期待に応えたい一心から、テストパイロットの試験を受けていたのだ。

本来ならば素人がテストパイロットに成れるはずはなかったが、今は平時ではない戦時下だった。そこにワイアットの権限とアムロ・レイに対して行ったような現地徴募を行う前例を活用することで、このような事が実現していた。

結果としてララァはクスコ・アルと同様にシミュレーターや模擬戦の成績は極めて良い結果を出しており、最初はRX-78NT-1の開発計画のテストパイロットとして従事していたが、常に戦場に出ている恩人を守りたい一心から前線勤務の希望を出し続けて、その結果としてパイロットとしてペガサスの乗船となっていた。

クスコ・アルとララァ・スンは、かつての歴史のように一年戦争の戦火が地球全土に広まっていたら、連邦陣営に所属していなかったと言い切れるほど、奇跡的なめぐり合わせである。

訓練の増援という、知らない人間が聞いたら首をかしげるような名目をもって合流を果たした強襲揚陸艦「ペガサス」の艦載機はもとから搭載されていたクスコ・アル准尉搭乗のRX-78、ララァ・スン准尉搭乗のRX-78ガンダムに加えて、臨時の隊長として赴任したイオ・フレミング少尉が搭乗するFA-78-1フルアーマーガンダムのような高性能機を筆頭に、RGM-79SCジムスナイパーカスタム(2機)、RGM-79ジム(3機)、4隻のサラミス級巡洋艦後期型は合わせてRGM-79ジム(12機)を有する強力な部隊だった。

そして、イオ・フレミングとは戦争初期に壊滅したサイド4「ムーア」コロニーの首長の息子である。史実においてはイオは単騎で暗礁宙域に潜むリビングデッド師団を卓越した技術によって壊滅に近い状態に追い込むほどの活躍をしている。首長の息子がムーア同胞団でパイロットとしてジオン軍と戦う、絵に書いたようなプロパガンダとして行動していたことから、ワイアットは鮮明に覚えていたのだ。

イオの現在は史実と同じようにパイロットとして、ムーア同胞団の艦隊に所属していたが、空母「ビーハイヴ」で生じた機関トラブルによってルナUのドックに入港していたが、修理が終えるまでワイアットの意向によって強襲揚陸艦「ペガサス」への移動となっていたのだ。

第15任務艦隊の現有戦力は旗艦を務めるアンティータム級空母「エリクソン」を筆頭に、3隻の強襲揚陸艦、11隻のサラミス級巡洋艦からなる合計15隻に膨れ上がっていた。戦艦は存在しないが艦載機の戦力を考慮すると実力は侮れない。

ホワイトベースのCDC(戦闘指揮センター)で艦長代理であるブライト少佐はオペレータからの報告に耳を傾けていた。彼はこれまでの戦功が評価され大尉から少佐へと昇進していたのだ。

「敵艦隊、減速を開始っ
 進路1-3-51…会敵コースです!」

「向こうもやる気のようだな」

艦長席に座るブライトは好戦的な表情を浮かべた。連邦軍の第15任務艦隊は訓練を装った襲撃任務が主目的であり、ジオン軍の第2迎撃艦隊は襲撃してきた艦隊の迎撃が任務である。実のところ、第15任務艦隊は増援を受けなければ撤退を考慮していたところだが、これまで見てきたFA-78-1フルアーマーガンダムとRX-78ガンダムの活躍から、多少の数的劣勢であっても戦果拡大は可能であるだろうと、旗艦の首脳部は判断していたのだ。これらのことから連邦軍とジオン軍の双方が積極的に会敵を図ろうとするのは当然の流れだった。皮肉な言い回しをすれば阿吽の呼吸というべきか。

「旗艦より暗号文入電!」

電子戦闘に於いては一切の油断のない連邦軍らしく、近距離の弱出力通信であっても高度な軍用圧縮暗号を用いた通信を行っていた。圧縮暗号の解凍は専用鍵を有していたので一瞬で済む。暗号文に記されたのは、艦隊陣形に伴う艦艇の配置、会敵予想時間だった。

「よし!
 会敵まで3時間、戦闘配置発令まで半減休息とする。
 戦闘食を配っておけ」

ジオン軍側の第2迎撃艦隊と、連邦軍側の第15任務艦隊は互いの進路が交わるように積極的に進んでいく。23隻からなるジオン艦隊と15隻からなる連邦艦隊。連邦側の数的劣勢が確実となると、第2迎撃艦隊から撤退の文字は完全に消え去っていたのだ。数ではジオン側が勝っていたが、気の毒なことに第15任務艦隊のMS隊は多少の質的劣勢を覆してしまう怪物揃いだったという点であろうか。
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【あとがき】
更新に間が空きましたが、なんとか9月中に更新できました!
更に2名のニュータイプと超絶テクニックを有するパイロットが加わった第15任務艦隊。ジオン艦隊に絶望が迫る!




【Q & A :現段階におけるジオン公国軍の戦闘艦艇の累積被害は?】

グワジン級戦艦
【撃沈】
「グワラン」「グワバン」

チベ級重巡洋艦
【撃沈】
「ラワルピンディ」「ピネラピ」「コルモラン」「フェルスト」「ヨルク」
「ヴァッペン」

軽巡洋艦 【撃沈】54隻
小型艦艇 【撃沈】23隻
補助艦艇 【撃沈】140隻


【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡142、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇205隻
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡142、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇205隻

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(2022年09月23日)

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