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ワイアットの逆襲 第41話【奇襲 中編】  (仮)


グラナダから地球のオデッサを繋ぐ最短航路はジオン軍による第一次降下作戦以降からジオン公国の勢力圏と言っても過言ではなかった。経済活動の継続及び戦争継続に必要な希少資源を得るために死守しなければならない地域でもある。その為にオデッサ近辺とそれを繋ぐ航路の防衛には可能な限りの戦力が投入されていた。その代償として第二次降下作戦は無期限延期になっていたが。

ともあれ、ジオン側の努力の結果かは判断しかねるが、連邦軍による攻撃は戦争初期のワイアットが行った強襲攻撃を除けば、ハラスメント攻撃を目的とした少数部隊による通商破壊に留まっている。

このジオン勢力圏といっても差し支えがない、
航路に一つの船団が航行していた。

オデッサで得た資源を運び込むパゾク級輸送艦8隻、パプア級輸送艦16隻、護衛戦力のムサイ級軽巡洋艦8隻、から成るジオン公国側の582船団だ。徴用した民間船ではなく全て軍用の輸送艦で占められていることから重要な船団なのが判るだろう。そして、本来なら重要な船団なので護衛戦力の強化の為にチベ級重巡洋艦「ヘッセン」が所属していたが、護衛任務の着任まえに見舞われた機関トラブルによってグラナダで整備中になっている。

航路防衛を主目的としたコンスコン少将率いる戦艦「ギドル」、重巡「チベ」「フェルディナント」、軽巡12隻からなるコンスコン独立機動艦隊などの艦隊もあるが、582船団を護衛する戦力は別のものであった。また船団護衛に用いる小規模の艦隊旗艦として「ヘッセン」の他にチベ級重巡洋艦の「ヴェッティン」「ツェーリンゲン」「メクレンブルク」「エルザース」「ロートリンゲン」が各方面で船団護衛に従事している。正面戦力以外にも主要艦艇を割り当てていることからジオン公国軍が航路防衛に力を注いでいる証拠といえるだろう。地球からの資源がジオン公国の生命線なのだから当然といえる結果であったが。

582船団を護衛する艦隊旗艦の代わりを務めるのは軽巡「ニーダーザクセン」である。

「近くに熱源らしくものだと?」

「数は少数ですが間違いなく巡洋艦級の加速中の熱源になります。
 十中八九、敵でしょう」

副長から報告を受けた指揮官代理の艦長は考えた。敵味方識別反応の探知圏外であったが、艦の動きと出現位置からして襲撃を意図したものだ。とても友軍とは思えない。

「……だろうな。
 このまま進めば船団前方に回りこまれるかもしれん」

幾つかの情報を確かめた艦長は口に出す。

「ハラスメント攻撃ならばブースター装備による巡洋艦を用いた一撃離脱もありえるが、対抗策の整備が進んだ今としては、決定打にはなりにくいだろう。砲撃による攻撃の可能性が大か……敵艦隊は少数だが暗礁宙域を背後にしている以上、伏兵がいる可能性も大きいので此方から打って出るのは危ないだろうな」

艦長は二つ案を考える。一つは船団を解放して各艦艇が独行艦となって友軍艦隊に向かって突き進む。旧式のパプア級輸送艦は被害担当として大きな損害を受けるだろうが、5時間ほど進めばパゾク級輸送艦ならばコンスコン独立機動艦隊が活動している宙域に逃げ込める。

二つ目は陣形を保ったまま、可能な限りの加速を行って友軍艦艇に向かう。急な船団航路の変更は出来ず、旧式艦の速度に合わせねばならず進路変更を行う際の減速がネックになるが上手くすれば船団全体の護衛が可能な案だ。

「では?」

「独行艦になったとしても被害は避けられぬし、
 別働隊がいた場合はもっと酷いことになる。
 輸送艦は一隻たりとも無駄には出来ない。
 友軍に支援要請を打診しつつ、船団を最大加速させるぞ」

「了解です!」

艦長には判っていた。
ジオンには輸送艦が決定的に足りていない事実が…

戦闘艦艇の増産は順調だったが、その分だけ輸送艦の建造計画に皺寄せがいっていた。民間貨客船の徴用や代用で補っているが、経済性はともかくとして輸送効率の低下は著しくなる。全ての民間貨客船が輸送艦に劣っているわけでもないが、小型船舶では著しい低下は避けられない。現にサイド3や月の宙域の安全圏では軍の輸送作戦でも民間船の徴用で代用を始めていたが、案の定、大規模輸送になるとかなりの負担が増えていたのた。

艦長が戦略に通じていたわけではない。

原因は明白だった。第一次降下作戦の際にジオン公国軍の仇敵である、ワイアットが仕掛けた罠によって多数の輸送艦が沈められたことが原因であると、ジオン軍人ならば誰もが知っている"事実"だったのだ。

そして、艦長の決断は後に彼の名誉を救うことになる。
もし独行艦の作戦を採っていたならば、最悪の結果になっていただろう。

護衛対象が護衛戦力のカバーから逸れたところを狙い撃ちして沈めていく。その光景は映像として保存していくことで戦後に護衛対象を見捨てた事実を中立国のマスメディアに公表して見捨てた事実を強調し、また犠牲となった輸送船の遺族を活用することで宇宙市民がジオン公国軍を美化しないように色々と活用していく予定だった。

現状のジオン公国にとっては将来の宣伝戦略は知る由もなかったが、ワイアットはジオン残党軍を高く評価しており、その活動妨害に向けた準備に余念がなかったのだ。

582船団が友軍に向けて支援を打電しつつ加速を開始する。それにあわせるように敵艦隊と思われる熱量も加速状態を示すように増大した。

「艦長、前方に新たな熱源多数感知っ!
 熱量からMSと思われます」

「なんだと!?」

582船団が探知した熱源はパオロ・カシアス率いるアンティータム級空母「エリクソン」、強襲揚陸艦「ホワイトベース」「サラブレッド」、サラミス級巡洋艦7隻の合計10隻からなる第15任務艦隊から発進して回り込むように進んでいたサブフライトシステム(SFS)のベースジャバーに搭載したMS隊である。また、第15任務艦隊には砲戦に於いて主力を勤める戦艦を有していなかったが、強大な攻撃力を有する2機のFA-78-1フルアーマーガンダムがそれを担っていたのだ。むしろ下手な戦艦よりも攻撃力は高いといえるだろう。

そして、582船団の状況は要約すると暗礁宙域側から迫る艦艇と、船団の斜め正面から向かってくるMS隊による挟み撃ちであった。速度に劣る船団では逃げ切れない。

余談だが、時代を少し先取りしたベースジャバーはワイアットの要望によって戦略戦術研究所が作り上げたシステムである。また、機体後部への固体ブースターの装着によって急加速・急減速の回数増加及び長距離移動になって戦術の幅が広まっていたのだ。

そして、攻撃隊の編成は次のようなものだった。

ホワイトベース隊
FA-78-1フルアーマーガンダム(2機)
RX-78ガンダム(4機)
RGM-79ジム(2機)

エリクソン隊
RGM-79SCジムスナイパーカスタム(4機)
RGM-79ジム(8機)

サラブレッド隊
RGM-79SCジムスナイパーカスタム(2機)
RGM-79ジム(6機)

からなる合計28機のMS隊だ。MS隊の中核を担うのは本隊のホワイトベース隊である。サラミス級巡洋艦のMS隊とサラブレッド隊所属である2機のガンダムは直衛に回されているので攻撃には不参加であった。

これは、ワイアットが推し進める作戦の一つだ。

ワイアットは目立つような正面作戦をティアンム大将などの他の将官に任せる一方で、自分自身は地味で目立たない通商路・兵站を攻める後方兵站を叩くエドムンド作戦を立案して押し進めていたのだ。

エドムンド作戦とは1917年にイギリス帝国のエドムンド・アレンビー元帥によって中東戦線で行われた欺瞞作戦及び戦略方針を参考した作戦である。当時の作戦との大きな共通点は偵察・航空兵力を活用した作戦予定地域の把握と欺瞞情報による敵戦力展開の妨害だろう。ジオン公国軍哨戒戦力に対する広範囲攻撃を行い、哨戒範囲・能力、そしてそれらを支える輸送力を減退させるのが目的である。

ワイアットが指示した地球連邦軍第8艦隊による攻撃もエドムンド作戦の一つ。ジオン側の即応戦力を吸引させることで他戦線の戦略予備を減らし、そこを突いて翻弄していくことによって戦争継続に必要なリソースを奪い取っていくのが本作戦の狙いだった。

作戦目標として哨戒範囲・能力、輸送力を叩くが優先順位は狙いやすい方を狙うというジオン側からするとかなり厄介なものだった。更にジオン軍にとって不幸だったのが哨戒範囲・能力を重点的に守れば船団を狙い、船団を重点的に守れば哨戒範囲・能力を担う戦力が狙われる。両方を同時に守る戦力をジオン軍は有しておらず、絶対に必要だった船団護衛のみに絞れば、船団の危険性が増すという本末転倒な結果になってしまう。ジオン側にとって良くて消耗戦、悪ければ蹂躙されるという無難でありながら効果的な作戦である。

ワイアットにとっての誤算は、本作戦は確かに大きな派手さは無かったが、総合的な被害とコスト増しによってジオン軍上層部から更に危険視される結果になるのだった。そのようなことは露知らず、現時点に於いても精力的に各方面でエドムンド作戦を推し進めていたワイアットである。

582船団へと向かう連邦軍MS隊はレーザー通信を用いて艦隊とのデータリンクを行って戦域情報を全機が受信していた。

「HQ(ヘッドクオーター)より各機へ」

「W-01、受信(コピー)」

W-01は隊長機であるスレッガー機を示す符丁である。船団の状況は常に観測されており、必要な情報をリアルタイムで伝達している。またアカウント確認は既に終えていたので確認はしない。このような場面では各員が好き勝手に受け答えをするのではなく、隊長機が隊の代表として艦隊と受け答えを行い、通信ラインが保たれていることを示すのだ。

「警告、敵MSを捕捉。
 針路経路1-4-8、仰角1.1」


目標の船団からMS隊が迎撃として出撃していたのを捉えたことを伝えた。接敵前から敵の接近が判るだけでも戦いの推移は大きく変わる。

「光学観測によるスラスタースペクトラム分析により、
 敵機はMS-06タイプ、28ないし32機と思われる。
 シグネチャー解析により、そのうち4機がR-1Aと推測。
 対処せよ、以上(オーバー)」

「W-01、了解(ラジャー)!、
 W-01より各機へ、聞いた通りだ。
 脅威目標は高機動型のR-1A、これには本隊が対応する。
 他は落ち着いて対処せよ。訓練通りに行えば必ず勝てる!」

ジオン側のMSを無視して船団を攻撃した場合は、艦艇と艦載機によって挟み撃ちに合い、予想外の損害を出すかもしれない。連邦軍MS隊はスレッガー中尉の命令により、船団攻撃の前に迎撃に出たMS隊の排除を決意する。エドムンド作戦の一つとして、582船団を巡る戦いが始まろうとしていた。
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【あとがき】
更新に間が空きましたが、なんとか5月のGW中に更新できました!
不定期更新ですが、今後とも宜しくお願いします。


【Q & A :現段階におけるジオン公国軍の戦闘艦艇の累積被害は?】

グワジン級戦艦
【撃沈】
「グワラン」「グワバン」

チベ級重巡洋艦
【撃沈】
「ラワルピンディ」「ピネラピ」「コルモラン」「フェルスト」「ヨルク」
「ヴァッペン」

軽巡洋艦 【撃沈】47隻
小型艦艇 【撃沈】23隻
補助艦艇 【撃沈】126隻


【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡145、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇221隻
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡142、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇219隻


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(2018年05月06日)

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