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ワイアットの逆襲 第39話【混戦】  


ガトーを始めとするジオン公国軍第302哨戒中隊は意気込みは別として、戦況は押され気味から劣勢になりつつあった。一部は奮戦するも、それは敗北の時間を延ばす行為以上の効果は出ていなかったのだ。第302哨戒中隊に於いて最大のエースであるガトーが自由に動けていたならば、もう状況はもう少しは好転していたであろうが現実は厳しい。ガトーはヤザン機との戦闘で友軍を支援する余裕が全く無かった。4機居たMS-06R-1Aの内、1機がアムロ機によって撃墜されている。MS-06FザクIIも5機が撃破されており、それらの機体は爆散はしていなかったが、損傷からしてパイロットの生存は絶望的だろう。

第302哨戒中隊の戦力は、虎の子のMS-06R-1A高機動型ザクIIが3機に、通常戦力のMS-06FザクIIが5機にまでに減少している。2機のMS-06Eザク強行偵察型は武装を有していないので戦域外からの情報支援に留まっていた。連邦側の損害はRGM-79ジムの完全喪失が2機、辛うじて行動可能な大破が3機に留まっている。被害の差が大きいのはヤザン隊の奮戦によるものだ。

それでもジオン公国軍第302哨戒中隊はMS-06Eザク強行偵察型による索敵を始めとした戦域管制によって奮戦し、消耗を抑えていたが状況は改善から程遠い。連邦側も艦隊からのレーザー通信による情報支援を受けて、部隊全体の能力を底上げしていたからだ。むしろ、MS-06Eザク強行偵察型が居なければ、第302哨戒中隊はより劣勢に置かれていただろう。

ガトーとヤザンの戦いも加熱していく。
激しい戦いの中、二人の技と闘志がぶつかりあう。
二人は攻撃と回避の応酬の結果、デブリ帯に突入していた。

「落ちろっ!」

ガトー機が明らかに推力の限界を超えた機動を行う。異常な急加速にヤザンの反応が一瞬遅れる。その隙を突いてガトーはヒートホークによる一撃、二撃、三撃と攻撃を繰り出していく。一瞬の隙を突かれたヤザンだが、さすがと言うべきか驚異的な反応でガトー機からの攻撃をビームサーベルで攻撃を受け流していった。

「ぬぅ!?」

ガトーは交戦の合間に搭乗するMS-06R-1Aの推力系リミッターを外していたのだ。安全圏を超えた加速域に入るも、ガトーは更に機体推力を上げる為にスロットルレバーを押し倒す。

(くぅ…レッドアウトか!
 まだだ、もっと踏み込まねばこの敵は倒せん!)

レッドアウトとは眼球内血管に血液が集中して視野が真っ赤になる現象だ。体の軸に対し上方向に大きなGがパイロットにかかった際に起こりやすい。普段は起こらない現象だが、格闘戦のような激しい機動の際に生じるケースが多かった。

ガトー機による猛攻がなおも続くも、ヤザン機からの反撃も猛攻に匹敵するぐらいに激しいものが返ってくる。ヒートホークとビームサーベルが激しく交差して、互いの機体に致命傷には程遠いが確実に少なからずの傷をつけていく。推進剤を惜しまない大胆な戦闘推移により戦闘の天秤はガトー機に傾きつつあった。ガトーはこれまでの中で最高の一撃といえる、鋭く高みに達した一撃をRX-78ガンダムのコックピットに向けて放つ。

「ハッ!」

ヤザンは、その決定的な一撃を待っていた。

対MS戦に於ける決定的な一撃は急所に向けられるものだ。コックピットと融合炉のどちらかになるので、その一撃は格闘戦では深く踏み込んだ一撃になる。

「なかなかの一撃だ!
 久しぶりにレッドアウトしようになった」

ガトーが繰り出した必殺の一撃というべき攻撃はコックピットを狙ったものだが、それをヤザンは驚異的ともいえる機動と近接戦闘技術が組み合わさったビームサーベルで受け流す。数々の戦いを生き延びてきたヤザンの技量は神技と言える領域に達していた。そしてヤザンもガトーと同じようにリミッターを外している。ガンダムの場合は機体の強度限界というよりもパイロットの限界を考慮したリミッターであるが。 ともあれ、ヤザンは正規軍のパイロットとして戦争前から着任し、訓練によって培われた戦闘技術の基礎の上に、劣勢・優勢を問わず激戦を生き延びてきた経験が加味された結果である。ガトーの必殺の一撃を完全に読むだけに留まらず、反撃にも繋げていたのだ。

ヤザン機からの反撃は鋭く素早かったが、
そこに賭博性はない。

反撃で狙うのは撃破ではなく、継戦能力を削ぐことに注力していた。技術と経験に基づいた反撃によって、ガトー機はコックピットの真下にある、核融合炉が存在している腹部の下部に損傷を与えていたのだ。致命傷に至らないが動力パイプの一部を損傷し、機体出力と総合的な出力低下を招く。

「なんのっ!
 まだ致命傷ではない」

「そういった減らず口は心地よいぞ」

損傷を受けるもガトーは闘争心を衰えさせていない。優位に立つヤザンだが、そこに慢心はなかった。あふれる闘争心の半面、冷静に敵機を落す算段を立てていく。

ヤザン機による追撃が始まった。

ガトーは巧みに回避を行うが、損傷によって生じた推力低下によって回避しきれない攻撃も出始める。致命傷ではないが、損傷が増えるたびに回避率が更に低下していく。悪循環の始まりだ。

「もう十分だな」

ヤザンはガトー機との戦いを終わらせるべく攻撃パターンを切り替える。損傷を与えることに注力した攻撃ではなく撃破に向けた猛攻が始まった。必死の防戦を行うもガトー機の損傷は増して推力低下が三割を突破する。ガトー機はデブリ帯から押し出されるように出てヤザン機が続く。既にガトー機は中破しており、ヒートホークも右手首から丸々失われている。状況からして長くても1.2分で決着がつくだろうと流れだったが、運はガトーに味方した。ヤザン機に向けて新手のMSが攻撃を始めたのだ。黒と青系のカラーリングが行われたMS-06R-1A高機動型ザクIIである。全兵装を失ったガトー機は退避を始めた。

「勝負はまたの機会に預ける!」

「クソ!」

「連邦の精鋭か!
 フッ、俺はツイているぞ!」

逃走、追撃、横槍、
三者三様の考えが戦場に交差する。

ヤザン機に攻撃を仕掛けたのはキシリア・ザビ配下のグラナダ特戦隊の隊長にしてエースパイロットのマレット・サンギーヌ大尉だった。特徴的な白髪や三白眼を有していたが、本当の特徴はその精神構造にあろう。プライドが高く他者を見下す傲慢な性格に留まらず、自身を優良種たるジオンの象徴と称していた。キシリア・ザビを崇拝し、グラナダとジオン公国軍突撃機動軍以外なら友軍ですらも見下している。また、マレット大尉はグラナダ第1艦隊から分派された先行部隊として、チベ級重巡洋艦「キュックリヒ」、ムサイ級軽巡洋艦2隻を伴ってグラナダ特戦隊と共に本宙域に来ていたのだ。

「おのれっ、
 奴を逃がしてしまったか!」

ヤザンは仲間に危険が及ぶだろう敵を倒せなかったことと、戦いに水を差された無粋な敵に怒りを露にする。強敵との戦いを好むヤザンらしい反応だろう。すんでのところでガトー機を逃がしてしまったがヤザンは追跡を断念し、目の前の敵を倒す事に集中した。敵機の機動及び攻撃の鋭さからヤザンは敵をエース級と断定する。

「ガンダムとやら、死ねぇ!」

マレットは最大加速でヤザン機に肉薄していく。
彼は自らの功績を知らしめるために全周波数帯で吼え続ける。

マレット大尉の戦意は極めて高い。彼の目的は戦功を立てて、自身及びグラナダ特戦隊と突撃機動軍の地位向上を狙っていた。ジオン軍を苦しめるワイアットの手の者、その主力となるガンダムタイプのMSを倒せば否応にも評価に繋がるからだ。ジオン公国軍にとって恐ろしいことに、撃破確実となったガンダムタイプはまだ1機たりともなかった。

状況が変わったのはヤザンだけではない。

グラナダ特戦隊の3機からなるMS-06RD-4(宇宙用高機動試験型ザク)が12機のMS-06Fと共に第302哨戒中隊の支援へと回った結果、地球連邦軍第8艦隊の迎撃部隊はこれまでの優勢から一転して互角の状況へと戻されてしまう。

このMS-06RD-4は脚部熱核ロケットエンジンを用いた宇宙戦域に於ける次期主力機として軍主導で開発された試作機である。基本設計はツィマッド社で地上戦で使用する局地戦用MSとして開発が進められているYMS-09プロトタイプドムを用いている。YMS-09の評価試験が予想以上に好成績だったことに突撃機動軍が目を付けたのだ。キシリア少将の強い働きによってジオニック社製のザクIIの胴体にツィマッド社製の脚部が着いたMS-06RD-4が誕生している。MS-06RD-4は従来のザクIIよりも速度面に於いて上回っており、実戦に適した調整を行った機体が迎撃用MS及び、MS-06R-1A高機動型ザクIIの随伴機として突撃機動軍で生産が始められていた。

また、キシリア少将はYMS-09プロトタイプドムの宇宙転用の際に、かなりの強権を発動していたが、ドロス級超大型空母「ドロワ」をドズル中将に譲ることで協力を取り付けて実現に結び付けている。これは史実で戦略海洋諜報部隊を設立する際に行った手法と同じである。

ヤザン機とマレット機の攻防が過熱していく。
マレット機は攻勢を強めるが、相手を押し切れない。

「何っ!?」

「勢いは良いが、切れが甘い」

マレット大尉の思惑は思うように進まない。実力、実戦経験共にヤザンが勝っていたからだ。むしろ、ガトー機との戦いで消耗しているヤザン機と交戦して墜されていない事実を褒めるべきだった。

「優良種の中でも優れている、
 この俺が攻めきれないだと!?」

「いいぞ!
 お前も心地よい減らず口を放つものだが、
 どこまで続くかな!?」

ヤザンは相手の実力を認めながらも、その技量を先程の敵より下と見破っている。野獣的なカンの鋭さと豊富な戦闘経験が導き出した結果だったが、その判断は全くもって正しい。

「何だと!!」

相手の反応にいきり立つマレットだが、状況は思うように進まない。ヤザンの巧みな迎撃に攻めあぐねるマレット機。攻撃は悉く返され、逆に損傷すら受けていく現実が彼を焦らせる。だが対するヤザンもそれほど有利とはいえなかった。ガトー機との戦いで推進剤を消耗しているので継戦能力の限界が迫ってきたのだ。ヤザンとマレットが攻防を繰り返す中、輸送船団に対する攻撃を行っていた地球連邦軍第8艦隊の長距離望遠が14隻からなる艦隊を探知するも、それは連邦軍の艦隊ではない。突撃機動軍の中でも知略に富むノルド・ランゲル少将率いるグワジン級戦艦「グワザン」を旗艦とする、ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」、ムサイ級軽巡洋艦12隻からなるグラナダ第1艦隊だった。

このグラナダ第1艦隊は公式には訓練航海として出撃しているが、ノルド少将はキシリア少将の内諾を得て連邦側の通商破壊作戦に対抗するために網を張っていたのだ。
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【あとがき】
ジオンの内情と連邦の強大さを理解しているキシリアは自らの政治力向上の意味合いもありますが、それを考慮しても必死に頑張っています。

ともあれガトーの代わりにマレットが参戦。マレットはかなりの狂犬ですが、さすがに野獣のようなヤザンが相手では荷が重いなぁ…でもマレットはアクトザクに乗せたいのでまだ死にません!


【Q & A :現段階におけるジオン公国軍の戦闘艦艇の累積被害は?】

グワジン級戦艦
【撃沈】
「グワラン」「グワバン」

チベ級重巡洋艦
【撃沈】
「ラワルピンディ」「ピネラピ」「コルモラン」「フェルスト」「ヨルク」「ヴァッペン」

軽巡洋艦 【撃沈】44隻、 小型艦艇 【撃沈】23隻、 補助艦艇 【撃沈】124隻

【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡145、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇221隻
戦艦9、大型空母2、重巡38、機動巡洋艦11、軽巡145、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇221隻


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