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ワイアットの逆襲 第22話【アンブッシュ】


ジオン艦隊は108機のFF-S3から放たれたミサイルを緊急発艦させた24機のMS-06Fと共に迎撃を開始する。必死に打ち上げた対空砲火により、ミサイル攻撃を輸送船2隻の損害で切り抜ける事に成功するも、彼らの受難は終わりではなく始まったばかりであった。

ミサイル第一波の迎撃を終える矢先、
船団を護衛するジオン艦隊に凶報が入る。

その凶報とは3隻のマゼラン級戦艦を中心に6隻の巡洋艦からなる連邦艦隊が後方から急速に迫ってくる報告であった。もちろん、その連邦艦隊はワイアット率いる第7艦隊。しかも、その追撃はジオン側にとって最悪と言える形になりつつあった。

中距離砲戦距離に近づくと、
連邦艦隊は加速を止めて緩やかな減速に入っていく。

連邦艦隊の動きにより、ジオン側は連邦艦隊の狙いが優勢な数を有する航空戦力で牽制しつつ、砲戦にて艦艇を攻撃する事だと嫌でも気付かされてしまう。

何しろムサイ級は後方に対して砲撃は一切行えない。

一応は慣性航行のまま旋回し、迎撃を行う事も出来たが旋回中は敵に晒す面積も増え、被弾箇所も大きくなる。ミノフスキー粒子によって電波妨害を行っていても連邦軍の優秀な光学システムが相手ではリスクが大きすぎたのだ。

その事実を知ったジオン艦隊の将兵は一人として例外なく、強大な砲撃力を有する連邦艦隊から反撃を行う事すら出来ずに釣瓶撃ちされようとしている状況に恐怖した。ジオン艦隊は防空戦用に発艦させたMS部隊を不利を承知に、後方に陣取る連邦艦隊に差し向ける。下策だったが、MS隊を差し向け無ければ、連邦艦隊からの艦砲射撃が始まってしまう。それを避けるための苦渋に満ちた決断であった。

軽巡洋艦6隻、小型艦31隻はそれなりに有力な戦力であったが、戦艦3隻、巡洋艦6隻が相手となれば分が悪い。しかも戦闘では、お荷物とも言える性能のバラバラな輸送船37隻からなる船団が加わっている。駄目押しとして連邦艦隊は優位な位置に居るのだ。

ジオン艦隊の動きを見てワイアットは言う。

「ジオンの諸君らに推進剤の重要性を教えてやろう」

ワイアットは作戦前からジオン艦隊が取り得る手段を予測していた。
むしろ、概ねそのような状況になるように誘導していたというのが正しい。

ワイアットにとって厄介だったのはジオンの艦艇ではなく、密着されてしまえば厄介この上ないMSだった。撃沈に至らなくとも上部構造物が近接武器で破壊されれば作戦能力に影響が出てしまう。だが、熟慮に熟慮を重ねたワイアットはMSに対する対応策も万端である。

ジオン艦隊と併進していた24機からなるMS隊は第7艦隊に向けて加速、つまりジオン艦隊から見れば減速を開始した。しかし、減速は簡単にはいかない。MS隊は加速状態の艦隊から射出されており、艦隊と同じような速度が加わっていたからだ。つまり後方にて距離を取る連邦艦隊に迫る為には減速を行わなければならない。緩やかな減速ならば推進剤の消耗も少なく済むが、一刻を争う状況だけに大量の推進剤を消耗する急減速が必要だった。時間を掛けて友軍艦隊が大損害を受けては本末転倒である。

ワイアットはジオンMS隊を恐怖のどん底に落とす命令を下す。

「敵MS隊が中距離レンジに入り次第に艦隊減速開始。
 そのままMS隊との距離を保ちつつ攻撃せよ。
 良いか! 敵機の撃破よりも推進剤を浪費させる事を狙え」

「艦隊ミサイル戦発令」

ワイアットの作戦を実行に移すべくロドニー准将が命令を下した。事前にワイアットと共に作戦を検討し合っただけに素早い反応である。その直後にCDC(戦闘指揮センター)に低い電子音が鳴り響く。ミサイル戦の開始を艦内に知らせる警告である。

「アイ・サー、弾種及び誘導方式は?」

「弾種は対艦。赤外線・レーザー誘導方式にて行え」

「了解! ラジャー(了解)……全システム、インホット、
 システムオールグリーン、発射準備良し」

「シグネチャーよりデータ入力。
 解析値の確度47%です」

索敵士官と砲術士官の言葉にワイアットは十分すぎると満足そうに応じた。
ミサイルの安全装置が解除信号が送信され、発射待機状態となる。

「敵編隊正面に対しミサイル1番から3番発射…
 射線25度仰角、4番、5番、6番発射!、2秒遅れて俯角20度、7番、8番発射!」

ワイアットの意を酌んでロドニー准将はミサイルの射線が扇状に為る様に発射した。戦艦ネレイドと電子的に連結している各艦も旗艦に続いて攻撃を行う。72発のミサイルがジオンMS隊へと向かって行く。

「どうだ?」

「敵MS隊、回避行動を開始しました」

「そのままMS隊にダンス(回避行動)を強要させよ」

第7艦隊からの攻撃に対してジオンのMS隊は回避行動を行いつつも確実に第7艦隊に向かって加速(船団から見れば減速)を行う。しかし無傷とはいかず、2機のMSが撃墜されていた。そして第7艦隊もMS隊と同じように減速を行っており、簡単には距離は縮まらない。しかも攻撃によってジオンのMS隊は第7艦隊より下方へと追いやられていった。

MS隊の決死の努力もあって第7艦隊との距離は徐々にだが縮まっていく。
ワイアットにもMS隊接近の報告が入る。

「敵機、急加速開始。
 後180秒で近距離レンジに入ります」

「そうか。そろそろ頃合いだな。
 命令、第五戦速にて40秒上昇を開始、以後パターンT5を実行せよ」

「アイ・サー、艦隊新針路、ベクター(方位)2-7-8。
 加速開始!」

「ふっふっふっ、ジオンの諸君。
 君たちは働き過ぎだ、遠慮は要らん。
 ゆっくりとそこで休んでいたまえ」

第7艦隊は再び加速を開始する。ワイアットは紳士に相応しく遠方から遥々とお越し頂いたジオンのMS部隊に対する置き土産を忘れない。6隻の巡洋艦から近距離防御用の6連装ミサイルランチャーが火を噴き、多数のミサイルがジオンのMS隊に向かう。そして連装機銃からの防空射撃も加わった。それらの連邦艦隊からの攻撃を損傷を受ける事無く回避するも、推進剤をさらに消費させていく。

ブースターを装着している第7艦隊は推進剤や推力に十分な余裕を持っていたが、対するジオンMS隊では、そのような余裕は無い。慌てて追撃を開始するも、推進剤不足によって確実に引き離されていく。駄目押しのミサイル攻撃によって回避行動を強要され、もはやどうにもならない速度差になる。ワイアットは現状の優位を活用し、牽制攻撃のみで敵航空兵力の無力化に成功したのだ。

MS隊に回避行動を強いる攻撃はなおも続く。
やがて第7艦隊はジオン艦隊の中距離戦にまで追いすがると直ちに砲撃戦を再開する。

おもむろにワイアットは言う。

「戦艦の無い艦隊がどうなるかを教えてやろう……」

艦隊による追撃と航空隊の反復攻撃によってジオン艦隊とその船団は徹底的に叩かれていった。最終的に彼らの中でジオン軍が制宙権を得ているソロモン宙域へと逃げ込めたのは8隻のソドン級巡航船と輸送船3隻のみであったのだ。














輸送船団襲撃の翌日。

通り魔のような十数隻からなる連邦艦隊がルナU宙域に向けて離脱する様子をサイド6にあるジオン寄りの観測施設が有する長距離望遠が辛うじて捕捉。また同時に辛うじてだが救出信号も受信する。

それらの情報からジオン公国軍は、直ちにサイド3から重巡1隻、軽巡2隻、支援艦1隻からなる救出艦隊を救出信号の発信源に向けて発進させた。何しろ、その宙域にはソロモンに辛うじてたどり着いた生き残りからの報告によると、大破漂流している少なからずの友軍艦艇と20機以上のMSが残されており、機材とパイロット共に見捨てる事は出来なかったのだ。

また救出艦隊に含まれる支援艦とは補助艦艇として運用される商船改装のヨーツンヘイム級であり、連邦軍が誇るコロンブス級輸送艦とほぼ同型サイズの輸送艦である。

救出艦隊の重巡ヨルク、軽巡ロストック、ミヒェル、支援艦メーインヘイムからなる4隻が選ばれたのは、即時に展開が出来る艦艇である事と、万が一に連邦軍が通商破壊作戦として投入しているサラミス級巡洋艦からなる小規模艦隊と遭遇しても優位に運べる戦力だったからだ。理想を言うならば戦艦を含む有力な戦力を送り込むべきだったが、大軍になればなるほど編成に時間を要し、それでは救助の意味は無い。 また参加艦艇が増えれば消費物資や軍事費も嵩む。このような現実的な判断から、連邦の小規模艦隊に優位に戦える戦力のみとなっていた。

やがて救出艦隊が救助宙域へと到達する。

「そろそろ救難信号の発信地点となります」

「うむ。デブリが酷いな……敵艦の反応は有るか?」

「レーダーに艦影及びレーダー波の反応なし」

「よし、減速開始。全艦観測密にせよ。
 哨戒機の発艦させ、辺りを捜索するのだ。
 事情が知りたい、最初の1機目は本艦に収容せよ」

「了解しました」

僅かの時間でチベ級のヨルクから8機、ムサイ級の各艦とメーインヘイムから4機づつ、合計20機のMSが哨戒機として発艦した。ヨルク以外は全ての機体を発艦させる念の入れようである。

しばらくして1機のMS-06Fが発見されたと報告が入る。しかし被弾時の衝撃かコックピットハッチが歪んでおり開閉できず、またMSに搭乗しているパイロットは意識が無いのか無反応だった。機体シリアルナンバーにてパイロットを判別し様にも、運が悪い事にその部分は被弾によって喪失している。とにかく放置する事は出来ず、MSに曳航され重巡ヨルクへと向かう。

「司令、漂流中の1機を収容しました。
 引き続き、軽巡ロストックの隊がもう1機を発見した模様です」

「幸先が良いな」

「ええ、不幸中の幸いです」

「そのMSの状況はどうなっている?」

「連絡によりますと先ほどのMSと同じくコックピットハッチが歪んでおり、
 開閉不可能との事です」

「シリアルナンバーは確認出来たか?」

「その箇所は被弾している模様です」

「パイロットの反応は?」

「無線には反応がありません」

「救難信号を発信後に気絶は有り得ない話ではないが、
 2機そろって応答が無いとなると…
 まさか……いかん! ブービートラップだ!!
 艦隊に警報を出…」

救出艦隊の司令を兼任する重巡ヨルクの艦長が警告を言いきる前に艦内に収容し、複数の作業員がコックピットの開閉作業を行っていたMS-06Fが大爆発した。重巡ヨルクの艦長の推測通り、救難信号を発したMS-06Fはワイアットが随伴させていた3隻のコロンブス級輸送艦の1隻がブービートラップとして運んできたものである。戦場で回収したMS-06Cのうち、損傷の激しい機体を連邦軍工廠が簡略AI搭載型の自爆機へと作り替えていたのだ。 今回は8機が持ち込まれており、僅かな時間でMS-06CからMS-06Fへと外見の変更が行える作り込みであった。逆の変更も然り。前日の戦いにてジオン軍が使用したMSはMS-06Fであり、その備えは無駄には為らなかった。

更には特定周波数帯のレーザー通信による指令爆破も可能になっている。

ワイアットはア・バオア・クー戦に於いて無人のRX-78ガンダムがMSN-02ジオングの頭部ユニットを破壊していた出来事を参考にしていた。

そして、今回設定された自爆条件は連邦軍機に該当しないIFFやIFF無しの機体による回収によって敵艦の艦内へと搬入された際に、60秒を経過後に爆発となっている。データの収集は機体各所に偽装して設置されているマイクロスコープから得られる情報を元に判別する。敵艦と判断する基準は短期間かつ格安で作るべく、民間で使われている顔認証システムを流用している。1世紀以上も使われているシステムだけに信頼性も高い。もっともジオンの艦艇は例外なく特徴的な外見をしており、間違いようが無かった。また、一度でも艦内に搬入してしまうと解除不可能なのも特徴の一つである。その最大の理由は60秒を経過しなくてもAIの判断で自爆が可能であり、物理的に排除を行ってもぎこちない動きながらも艦内に戻ろうとするのだ。撃破すれば爆発し、無理やり押しだそうと試みれば艦外に至る前に爆発する。

英国紳士らしく手の込んだ念入りな贈り物と言えよう。

ただし戦後にジオン側から言い掛かりを避けるべく、核融合炉が誘爆しないように処理されている。ともあれ、この自爆機には対艦ミサイル2発分の炸薬が詰め込まれており、重巡ヨルクは警報を他の艦艇に伝達する前に内部からの大爆発によって格納庫部が中破となった。主砲発射は可能だったが、格納庫に収められていた残り4機と損傷機を曳航してきた1機を全壊させ、更に重巡ヨルクのMS運用能力を完全に奪い取っている。

その直後、軽巡ミヒェルが浮かぶ空間下方にあるデブリ帯の影から合計42線のビームが雷光の様に煌めく。そのうち7発のビームが軽巡ミヒェルに直撃して、瞬時に爆沈となった。戦艦「ネレイド」「ナガト」「コロラド」による攻撃である。中破した重巡ではなく軽巡を目標に選んだのはMSの帰還先を奪う意味があった。爆沈と同時に傷ついた戦友を助ける様に軽巡ロストックの所属機によって曳航されていたMS-06Fが、救助に当たっていた機体を巻き込みながら盛大に自爆する。これは戦艦ネレイドからの指令爆破であった。

更に発艦したMSと救出艦隊との連携を断つべく、
3隻の連邦軍戦艦からのECM(電子戦)による通信妨害が始まる。

これらの戦艦はブービートラップとして配置した自爆機の活動を待ちつつ、ジオンの救出艦隊が放つ電波をパッシブ探知にて収集し、攻撃に必要な諸元を集めていたのだ。ジオン側は万が一に遭遇するとしても連邦軍の小規模艦隊のみと思いこんだ故に、受けた奇襲攻撃と言えよう。

連邦軍の艦艇がデブリ帯の影に巧妙に隠れる事が出来たのは、デブリ帯との相対速度を合わせつつ船体に損傷を及ぼす残骸を避ける航海士の技術もさることながら、付近に潜んでいる自爆機を運び込んだコロンブス級輸送艦が運び込んでいた宇宙空間での建設作業機械として各所で活躍しているSP-W03スペースポッドによる偽装工作の力も大きい。

このコロンブス級輸送艦は自爆機も運び込んでいる功労艦だった。しかもSP-W03のお陰でデブリ帯の外にセンサーを設置し、それを有線にて各戦艦まで伸ばす事も出来ていたのだ。

各艦がデブリ帯に隠れながらも詳細な情報を得られたカラクリである。
つまりワイアットはジオン公国軍を完全にペテンに掛けていたのだ。

確かに第7艦隊はルナU方面に対して帰路に就いていたが、それは全ての艦艇ではない。現に戦艦3隻、輸送艦1隻はこのようにデブリ帯にて潜ませていたのだ。先日の船団襲撃の際に労力を費やしてジオンのMS隊を放置したのは、宇宙に漂流するMS隊を助けに来た救助部隊を叩く為である。連邦軍の優れた電子作戦能力が本物のジオン側の救難信号を妨害し、偽の信号だけをジオン側に届けていたのだ。

客人をもてなす労力や手間を惜しまないのも紳士の嗜みの一つ。

戦艦ネレイドのCDC(戦闘指揮センター)に居るワイアットは言う。

「撒き餌に獲物が食いついたな。
 諸君! 敵の戦力は推定内に過ぎない。落ち着いて作戦を進めれば勝てるぞ。
 現在を持って、輸送艦はルート61から脱出し、合流地点へと向かえ」

「敵艦発砲!」

「ふっ、大雑把な射撃では意味は無い。
 本物の砲戦と言うものをジオンに教えてやれ。
 だが可能な限り1隻は足を止める程度にしておけよ?」

ワイアットは砲術参謀に対して念を押すように言った。

ワイアットが言った通りにジオンからの反撃は見当違いの方向に行われる。対する連邦側は効果的な砲撃によって更に1隻の軽巡を爆沈し、支援艦を行動不能に追い込む。救出艦隊の残りは中破状態の重巡と半死状態の支援艦のみになった。あえて撃沈せず、損傷艦を残すのはジオンのMS部隊に枷を付けるためである。艦砲射撃による母艦撃沈を阻止する為に彼らはデブリ帯に入らなければならない。何しろ突入しなければ母艦は沈み、宇宙の孤児となるだけであった。

電波妨害と爆発光により母艦に引き返してきたMS隊が救助艦隊に辿りつくと、ワイアットの狙い通り、MS隊はデブリ帯に向けて針路を変更する。むしろそれしか選択肢が無い。

「敵MS隊がデブリ帯に接近中!」

「来たか! ルート82は無事か?」

「センサーに異常なし、無事です!」

「よし、砲撃戦を行いつつ敵MSをグリッド2411へと誘いこめ」

ワイアットの命令により3隻の戦艦は低速にてデブリの中を進む。事前に内部探査を行っていただけにスムーズな移動である。相対速度が少なくデブリ帯の大半を形成する小さな破片程度では戦艦の装甲に損傷は無い。デブリ帯に突入してきたMS隊も破片によるダメージを受けない様に連邦戦艦と同じく速度を落として低速にて移動して行く。各バーニアで器用に破片を避けていくのはMS操縦技術の熟練度の高さを感じさせる。連邦軍による電子妨害によってレーダー機器の多くが機能不全に陥っている事を考えれば脅威的ですらあった。

だが、それはMSの速度が大幅に低下した事を意味している。

「さて? 機動性の低い機動兵器がどうなるかを考えたことはないのかな……
 ここまで来れば十分だ、各砲座、接近するMSを狙え!」

ワイアットの指示により、各戦艦からレーダーと連動した20基の連装機銃が火を噴く。合計60基からなる連装機銃による対空砲火が形成され、そこに多数のミサイルランチャーからミサイルが発射され、MSに向かっていった。レーダーシステムによってCIWS(近接防御火器システム)と化している各連装機銃の効果は凶悪そのものだった。

デブリの回避に集中していた18機からなるMS隊は、
速度を落とした中、奇襲とも言える弾幕射撃の暴風に晒される。

十分な回避行動を行う前に5機のMSが旧世紀では砲弾ともいえるサイズの90o機銃弾によって切り刻まれ爆散した。被弾したものも爆発を免れた1機はあったが、それでも損害は中破である。飛来したミサイルを迎撃する為に有るCIWSの前に鈍重な動きでは的に過ぎない。それらの撃破したMSを構成していた破片の幾つかがそれぞれの戦艦に降り注ぐも、戦艦の主要装甲を貫通するほどの威力は無かった。デブリの影に隠れたMSは赤外線センサーにより照準を合わせたメガ粒子砲によって、デブリごと蒸発させられる。

3隻の戦艦は其々が対空砲火の死角を補うように支援し合い、MSが接近するのを阻止していた。必死の思いでMSが戦艦に取りついても他の戦艦が容赦なく弾幕を浴びせかけてMSを撃破する。巡洋艦ならともかく90o機銃弾程度では戦艦の重要区画には致命傷は与えられない。

もっともデブリ帯の外で戦ったとしても結果には大差は無かった。
ルウム戦役が全てを証明している。

あの戦役ではジオン側は純然たる艦隊戦力に劣るものも、連邦艦隊に対してMSが2920機とガトル型航宙戦闘機が400機を投入していた。MSだけに限定しても9.7倍も優勢な航空兵力になる。更にその優勢な航空兵力に加えてミノフスキー粒子による電子妨害と多数の核兵器を使ってもなお、連邦軍の戦艦を29隻(ワイアットが介入しなかった前の世界では36隻)を撃沈するのが精一杯だったのだ。しかも、大戦果と引き換えにジオン軍は多くの航空兵力を失っている。冷静に見るならば、連邦艦隊は制空権が無い状態にもかかわらずジオン側の戦略目的を阻止し、更には彼らの航空兵力に大打撃を与えていたのだ。

連邦艦隊の強大さが伺える戦役である。

そして、この戦場に於いては連邦戦艦に対する有効な打撃兵器だった核兵器も無く、またミノフスキー粒子による電波妨害も十分では無い。3隻の戦艦に対して少ないMSでは出来ることは、MS隊の全滅と引き換えに1隻を中破に追い込むのが精々だったであろう。もっとも、その儚い可能性もワイアットの罠によって実現せず、実益の無い可能性の一つに留まっていた。紳士は可能性を大事にする。紳士的な表現を行うならば「大事な可能性を使わせないための工夫さ」という表現であろう。

半数のMSを撃破した段階でワイアットは作戦を次の段階に進める。

「頃合いだな。 加速開始、ルート82を通ってデブリ帯より出る!
 各位、突発戦に備えよ」

「精密計測完了まで後15秒!」

「完璧だな。
 さて、諸君。戦争を始めようではないか!」

ワイアットは号令を下す。

あらかじめ探索済みの安全ルートを加速しつつ3隻の戦艦はデブリ帯の中を突き進む。デブリとの接触により船体に若干の損害は出るも気にはしない。何しろ例え中破程度の損傷であっても連邦の工業力ならば短期間で治せるのだ。3隻の戦艦はデブリ帯を脱出すると同時に、中破によって懸命に復旧作業に取り掛かっていた重巡に向けて攻撃を開始した。
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【あとがき】
デブリの中での戦闘は0083やF91などで、わりと行われていたので、この話でも行いました。そういやUCでも航行に危険な場所を加速しながら攻撃を行う場面もあったなぁ……


【Q & A :現段階におけるジオン公国軍の戦闘艦艇の被害は?】

グワジン級戦艦
【撃沈】
「グワラン」「グワバン」

【大破】
「グワメル」


チベ級重巡洋艦
【撃沈】
「ラワルピンディ」「ピネラピ」「コルモラン」「フェルスト」

【中破】
「ヨルク」「ヴォルフ」


支援艦
【大破】
「メーインヘイム」


ムサイ級軽巡洋艦 【撃沈】31隻、【大破】7隻【中破】7隻、【小破】2隻

小型艦艇 【撃沈】23隻

補助艦艇 【撃沈】124隻、【大破】2隻、【中破】4隻、【小破】11隻


【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
戦艦6、大型空母1、重巡35、機動巡洋艦4、軽巡48、戦闘用艦艇84隻、補助艦艇223隻
戦艦6、大型空母1、重巡35、機動巡洋艦4、軽巡40、戦闘用艦艇61隻、補助艦艇189隻

会戦前と比べて合計でジオン艦隊は401隻から65隻が減少し、336隻となる。


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2011年02月27日)
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