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ワイアットの逆襲 第18話【地球軌道会戦:4】


第4、第6艦隊の合同艦隊を率いるティアンム中将は戦艦タイタンのCDC(戦闘指揮センター)にて名将に相応しく矢継早に命令を下していた。全ての命令が的確である。

ティアンム中将は合同艦隊の総指揮を行っていたが細部に関しては、ミサイル戦と砲撃戦の全般をティアンム中将が指揮し、航空兵力に長けたベイダー中将が航空部隊を指揮する仕組みになっている。

「間もなく双曲線軌道を抜けます」

「タイムスケジュールの同調は!?」

「誤差20秒、修正範囲内、問題ありません!」

ティアンムが砲撃戦に備えるべく、
砲術参謀に確認を取り終えると命令を下す。

「よし、全艦隊第3戦速まで減速」

「アイ・サー」

航海参謀が端末を操作して艦隊速度の調整を開始する。

ジオン艦隊と違って連邦艦隊はレーザー通信による統合戦術情報伝達システムデータリンクによって一つのシステムとして有機的に動いていた。ジオン公国軍の奇襲作戦によって準備が整っていなかった時と違い、今は十分な準備が出来ている。

開戦から3週間に満たない月日であったが、それだけの期間があれば地球圏最強の工業力と経済力を有する地球連邦にとって戦時体制に本格的に突入せずとも対空砲程度の増産は容易かった。

本作戦に参加している艦艇の対空砲は従来型の90o連装機関砲であったが1割増となっていたのだ。それでも大きな違いであろう。

ティアンムは航海参謀に続いて砲術参謀に命令を言う。

「長距離戦準備!
 砲撃戦パラメーターの計算はジャブローに回せ!」

「アイ・サー。
 データリンク始めます」

砲術参謀が返答し、ジャブローとのデータリンクを開始する。
ワイアット中将が立案し、ゴップ大将が政治環境を整え、統合本部のリチャード・クレッシェンド准将が地球上のシステムを統括して衛星軌道上の艦隊とのデータリンクに備えており、合同艦隊の支援要請に対してジャブロー要塞は宇宙空間での戦争に必要な膨大なパラメーターを一瞬にして割り出していた。

「全データ、入力完了(インホット)!
 有効射程(レンジ)まで1080秒」

砲術参謀が報告を完了した。
その直後に、航海参謀が艦隊陣形の再編完了を通達する。

合同艦隊の陣形は、艦隊前面に旗艦タイタンを中心にして8隻づつの戦艦が左右横一列に並び、その周囲を3隻の重巡洋艦と62隻の巡洋艦ががっちりと固める形になっていた。これは単横陣と言われる陣形で、帆船時代の海戦などで全艦隊が一斉に会敵し、攻撃を加えるために使われていた陣形であった。

唯一の変更点が周辺の巡洋艦が防空戦を意識した展開になっている事だろう。

そして、戦艦隊が集まった前衛隊の後方に戦艦1隻、空母9隻、巡洋艦27隻、補給艦57隻が展開している。連邦艦隊の目的はジオン艦隊から見て、圧倒的な数を有する戦艦の艦砲射撃によってジオン艦隊を少しずつ削り取って行くように見えた。

また、作戦の真意を悟らせないためにも、ジオン艦隊からの観測では前衛隊と後衛隊に分かれている様には見えないように配慮がなされていた。連邦艦隊は地球各地の観測所を利用する事によって、ジオン艦隊を観測し放題に対して、ジオン艦隊側の観測ルートは余りにも狭すぎたと言えよう。

「あとはジオンの反応次第だな…
 もっとも、どのような対応を採ったとしても結果は変わらないだろうがな」

ティアンム中将は苦笑いしつつ言う。
ワイアットの考案した作戦と贈り物が余りにも情け容赦が無かったからだ。











「まずいっ!」

旗艦グワランのブリッジにいるドズル中将は連邦艦隊の布陣を見て叫ぶ。
まだ有効射程外であったが、このまま連邦艦隊の接近を許せばジオン艦隊はたった3隻の戦艦で5倍以上の戦艦を有する連邦艦隊と撃ちあうことになる。しかも、こちら側のなけなしの戦艦のうち1隻は大破しており、軽巡洋艦並以下の戦力価値に低下していた。

それに、ドズルには降下部隊や被弾艦艇を放置したままでは撤退する事も出来ない。
普段から部下を思いやるドズルであったが、それだけの理由ではなかった。

ジオン公国には一度失ってしまえば、再び同じような降下部隊を編成する余力などは、何処を探しても無いのを知っていたからだ。ジオン艦隊の状況から早期撤退はかなわず、連邦艦隊との砲撃戦は避けられない。

それならば、1隻でも多くの戦艦を沈めなければならなかった。
ドズルは決断する。

「連邦艦隊の速度からして、砲戦に入るまで10分以上はある!!
 それまでに急いで攻撃隊を編成せよ!
 目標は戦艦だ、急げぇ!」

ドズルは作戦参謀に命じた。

「わ、分かりました!」

本来ならば、連邦軍第7艦隊による攻撃による混乱と、被弾艦艇に対する救出活動に出撃したMS隊が少なくなく、ジオン艦隊には大規模な攻撃隊を編成出来るような状態ではなかった。しかし、現状のままで連邦艦隊との砲撃戦は壊滅的な損害を受ける事を意味しており、泣き言は言ってられない。

命じられた作戦参謀は直ちに作戦に耐え得る状態にあるMSと航宙機の情報を各艦から集めると、MS258機と航宙機320機が比較的短時間で一次攻撃隊として用意できそうだった。

もうしばらくの時間が有れば、艦隊周辺の警戒任務や救出活動で行動しているMS隊の6割程を呼び戻して、攻撃隊の機数を増やせそうだったが、ジオン軍には彼らの補給整備を行うような時間は残されていなかった。

しかし、作戦参謀からすればルウム会戦の戦訓からして258機のMSと320機のガトル宇宙用戦闘爆撃機があれば、敵戦艦隊の6割は如何にか出来そうだった事から、作戦参謀は理想を追求しすぎて時間を浪費する事は許されないと思い直して、ドズル中将に対して最終報告を行う。

「あと180秒後にはMS258機と航宙機320機が出撃可能であります!」

「判った!
 準備が出来次第、それらを一次攻撃隊として出撃させよ!!」

作戦参謀の言葉に、ドズルは力強く答えた。
予定通り、180秒後にはジオン艦隊からMSや航宙機が次々と射出されていく。

第一次攻撃隊の出撃を終えると、作戦参謀は第一次攻撃隊の帰還後に備えて直ちに艦隊周辺の警戒に当たっていたMS隊と救助活動に出ていたMS隊の約7割を呼び戻して、第二次攻撃隊の編成を開始する。また、ドズル中将も黙って見ていた訳ではない。降下ゾーンへと移動していない、静止衛星軌道に留まっていた降下部隊の中から宇宙での作戦に耐えうる機体の編入も泥縄式あったが始めている。

ドズルも己の職務で出来る範囲の努力を怠らなかったが、ワイアットはその行動すらも予見しており、ジオン軍の行為を無駄にしないように心の籠ったお土産を用意していたのだった。

努力や成果に対して正しく報いるのが真の紳士というものであろう。
このように、ワイアットは一年戦争の激しい戦いを通して、より一層に紳士的な振る舞いに磨きを掛けていたのだ。














ジオン艦隊から発艦したMS部隊はカタパルトからの加速を殺さないように編隊を整えると、連邦艦隊に向けて突き進んでいく。もちろんルウム会戦での戦訓を生かすべく連邦艦隊の真正面からではなく、可能な限り艦砲射撃の射線を避けるように飛行している。

完璧な回避は無理だが、やらないよりは遥かに良い。

そして、第一次攻撃隊に対する連邦艦隊からの迎撃が始まる。各編隊がジグザグ飛行によって大きな損害を出すことなく迎撃を避けていく。ジオン軍の第一次攻撃隊にとって不思議なのは連邦艦隊の規模からして、迎撃密度が高くなかった事であろう。

しかし、連邦艦隊まで後1分の距離に到達した瞬間、迎撃として放たれてきたミサイル群がジオン軍攻撃隊の周辺で炸裂した瞬間に全てが一変した。

先ほどの戦いにおいて第7艦隊が使用した特殊閃光弾と同等の光が第一次攻撃隊に襲いかかったのだ。それもそのはず、特殊閃光弾は第7艦隊が使用したミサイルと同等のものだった。モニターのオーバーロードによって必要以上の光源が再現されなくとも、暗い宇宙を凝視していた彼らの目に対して、強烈な閃光は余りにも刺激が強すぎる。

「うわっ!」
「また閃光か! ……チックショー、見えないっ……」

強烈な閃光によって第一次攻撃隊の編隊が乱れた時を狙いすましたかのように、連邦艦隊からの本命とも言える迎撃が殺到した。

この様な戦術は対閃光フィルターの普及につれて効果は無くなるだろうが、ワイアットにとって今回だけ使えれば十分であり、全く気にもしていない。

何しろ、今回の戦いでジオン軍熟練パイロットを喪失させてしてしまえば、ジオン公国の継戦能力に大打撃を与えられるのだ。熟練パイロットは簡単には育たない。故に、艦隊戦力の撃破は最後で構わなかったのだ。どの様な熟練パイロットであっても光までは避けられず、ジオン軍パイロットはいつ炸裂するともわからない、閃光に警戒しなが戦わなければならなかった。

これはジオン軍にとって大きな負担である。

艦隊防空圏の影響圏下で編隊を崩してしまった第一次攻撃隊に対して、連邦艦隊は90mm連装機銃を始めとした、あらゆる火器を叩きつけていく。5秒〜10秒の間隔で閃光弾がジオン軍部隊の周辺で炸裂するとジオン軍が誇るMSは高価な標的機に変貌していた。

対する連邦軍はジオン軍と違って対光源フィルターを徹底させていたので問題はない。

それでもジオン軍のMS隊の中には、連邦艦隊の防空射撃圏を突破していく機体がいたが、連邦艦隊は火力分散になるのを避けるために対空砲火は回さなかった。それは彼らの安全を意味する訳ではなく、彼らには別の受難が待っていた。




「カガより、リマー4-1(第4中隊第1小隊)へ、
 バンディット(敵機)7機が接近しつつあり、
 方位(ヘディング)3-21-5。迎撃せよ、以上(オーバー)」

「リマー4-1、了解(ラジャー)!
 お前達、聞いた通りだ。
 リマー4-2、俺と同じで右翼、リマー4-3、リマー4-4は左翼から攻撃せよ。
 復唱はいらん、しくじったら腕立て伏せ200回だ! 以上(オーバ)」

ジオン哨戒艦隊戦における防空戦の戦功で大尉へと昇進して中隊長となっていたバニングは11機のFF-S3セイバーフィッシュを指揮する身分になっていた。

「毎回かよっ!? …リマー4-2 了解(ラジャー)」

隊長のバニングと同じく昇進したヤザン・ゲーブル中尉であったが、腕立て伏せの恐怖からは解放されていなかった。通信が切れると軽く悪態は付くが、決してバニング大尉を嫌っているわけではない。叩き上げだけあって、有能であり部下思いで、なおかつ豪胆なバニングが相手では、流石のヤザンであっても頭が上がらない。

「洒落にならねぇ…
 次の出撃だと300回になってるんじゃないか!?」

ヤザンは恐ろしい将来図を想像してしまい、思わず身震いした。
足より腕の方が太くなるなど笑えない。

気を取り直したヤザンは指揮下にある2機に通信を送る。

「ラムサス、ウラキ、聞いたか!
 ジオンのクソッタレ共を叩きに行くぞ。
 二人は初陣だから最初に言っておく。
 敵を前にして速度を落とすな、注意を怠るな、怯むな!
 戦場ではビビッた者が死ぬんだ!  覚えておけ!」

ヤザンの声にラムサスとウラキの二人は直ちに応じる。

「了解」
「了解であります!」

コウ・ウラキ准尉はナイメーヘン士官学校在学生であったが、パイロット適正があった事から、緒戦におけるパイロット不足を解消すべく補充兵としてバニング中隊に配備されていた。同じように士官学校在学生だったチャック・キース准尉もバニング隊に配属されている。

ウラキとキースの二人は戦場に出るには若すぎたが、パイロット不足を解消する為には止むを得なかった。 それに、民間人を徴兵してパイロットに仕立て上げるよりは基礎訓練を受けている士官候補生を鍛えたほうが戦力化も早い。

また、ラムサス・ハサ少尉は実戦経験は無かったが、ヤザンが直々に引き抜いたパイロットだけあって操縦技量は優秀である。

バニングが、やや粗暴が目立つヤザンの下に未熟な少年兵であるウラキを配属したのは、ヤザンが有する後輩に対して良き兄貴分であろうとする気質を見極めていたからだ。現に、ヤザンは厳しくも戦場で生き残れるような実りのある訓練をウラキに課していた。

小隊長のヤザン機を中心に、ラムサスとコウの機体が隊列を組む。
編隊が出来あがったのを確認したヤザンは機体を加速させた。

(敵機を落とす事より生き残れよ…)

ヤザンは二人が初戦を生き残れるよう、心の中で小さく呟いた。









バニング中隊が編隊を整え終える頃には、攻撃目標であるジオンのMS隊をバニング中隊各機は電子戦機の支援もあって正確に捕捉していた。更にはジオンMS隊の戦力をMS-06Cが4機、MS-06Fが7機という正確な情報すら割り出している。判別方法は赤外線、レーザー反射角度、光反射角度、放出電波パターン、無線コード、などの各種信号の放射・反射による敵味方識別を判別するシグネチャーと言われる方法であった。

史実と違ってジオン公国軍が地球連邦軍の情報収集艦EWB-65を無傷で逃してしまった為に、この時期にジオン公国軍が第一線に配備している兵器の少なくない情報が地球連邦軍によって分析されていたのだ。

ジオン公国軍は、
ただ見られる事がどれだけ大きなリスクを背負う事になるのか、まだ知らなかった。

「シグナル解析……隊長機はあれか!」

中隊長のバニングはそう呟くと、素早くレーザー誘導中距離ミサイルを選択し、先頭を進んでいた敵隊長機であるMS-06Fに対してロックオンを行う。電子戦機の支援によってこのような芸当が可能になっていた。

近隣宙域ではブラン・ブルターク大尉率いる中隊が防空戦に参加しており、
バニング中隊と同じように同じように攻撃プロセスに移行している。

「バニング、フォックス・ワン(中距離空対空ミサイル発射、友軍機は警戒されたし)」

バニングは最初に1発を撃ち終えると、僅かな差をおいて2発の中距離ミサイルを放つ。ミサイルによる偏差射撃である。それを合図に他の11機のFF-S3も戦闘機動に入る。

連邦艦隊の周辺のミノフスキー粒子濃度は薄く、シグネチャー情報もあって中距離にも関わらず、2発の至近弾を叩き出す。それに加えてジオン軍パイロットが突発的な閃光に対応できるように、備えていたことが予想以上の疲労をもたらしており、それが彼らの回避率を下げていた。

「予想より当たるな…悪くない」

バニングは不敵に笑うと、被弾させたMS-06Fを完全に撃破すべく、4発のIR(赤外線)ホーミング・ミサイルを発射する。

「バニング、フォックス・ツー(IR誘導ミサイル発射、友軍機は警戒されたし)」

被弾によって速度という回避に不可欠なパラメーターを大きく損なってしまっては、MS-06Cよりも機動性に増すMS-06Fといえども一溜まりも無かった。MS-06Fに2発が直撃し、1発が至近弾となってMS-06Fを撃墜する。

「エンゲージ!(命中) スプラッシュワン(敵機撃墜)」

バニング機による、この攻撃によって機先を制され、足並みが乱れた残る6機のMSは半包囲の状態で倍の数に達するFF-S3から攻撃を喰らう形となった。


このように、連邦艦隊周辺では航空隊による防空戦が多発したが、ティアンム中将の的確な対空防御とベイダー中将の優れた航空戦指揮が相まって、その多くを阻止していく。それでも突破に成功した部隊は幾つかは存在している。しかし……それは作戦の成功を意味するものではなく、ジオン軍にとって新たな絶望が待っていたに過ぎなかった。

「なんだ、この防空網はっ!!!」

突破に成功した38機のMS部隊を率いるジオン軍大隊長は絶句する。

ルウム会戦よりも正確さを増した対空射撃、
ハラスメント攻撃の閃光弾、
最悪なタイミングで一撃離脱戦のみを仕掛けてくる敵航宙機、

これらの攻撃によって彼の部隊は、ここに至るまでに26機のMSを失っていた。

89隻に上るサラミス級巡洋艦だけでも、合計すると534門の単装メガ粒子砲、178基の6連装ミサイルランチャー、712基の2連大型ミサイル発射管、1000門を超える90mm機銃の火力になるのだ。必死に回避するも猛烈な防空火器の前に数秒に1機の割合で撃ち減らされていった。

それでも彼らは、ジオン軍の栄光を信じてMS隊は大隊長機のMS-06Fに続く。
ひたすら攻撃目標の戦艦に向かう。

「隊長っ、たすけ…」

弾幕を避けつつ、目標に接近するだけで精一杯な大隊長には
既に周りの部隊を気遣う余裕などはない。
それほどに激しい弾幕である。

「見つけたぁ!」

永遠に続くと思われる弾幕を突破した大隊長機は歓喜の声を上げつつ、MS-06Fの右肩に担いでいたH&L-SB25K 280mmバズーカの照準に捕えた戦艦に向けて次々と撃ち放って行く。全弾は撃ちこまずにルウム会戦での経験を生かして4発に留めていた。

しかし、戦艦の大爆発を想像した彼の予想は大きく外れる。

「何だと!!!」

彼が放った280mm弾のうち2発は戦艦の装甲板を小破させただけに留まる。
残り2発のうち1発は90mm連装機銃の弾幕によって迎撃され、残る1発が1基の90mm連装機銃を吹き飛ばしただけに過ぎない。

彼は一つの事を失念していた。

ルウム会戦ではH&L-SB25K 280mmバズーカの弾頭には核弾頭が使用されており、戦艦を比較的簡単に沈める事が出来たが、南極条約が結ばれている現在では違う。必殺の核弾頭から通常弾頭に変わっており、威力は数百分の一に低下していたのだ。

そして攻撃目標である戦艦自体も忘れがちだが、マゼラン級戦艦1隻で4隻のサラミス級巡洋艦に匹敵する位の強大な防空能力を誇っている。動きの鈍ったMS-06Fに対して戦艦からの対空機銃弾が殺到し、MS-06Fをバラバラに引き裂き爆発四散させた。彼の死をもって大隊は全滅したのだ。


連邦艦隊は、戦艦2隻小破、重巡洋艦1隻中破、巡洋艦4隻沈没、巡洋艦1隻中破、艦載機53機の損害でジオン軍のMS 242機、航宙機 298機を完全撃破していた。生き残ったのは機体不調で艦隊突入前で引き返した9機のMS、12機の航宙機と連邦艦隊の防空圏突入後に命からがら脱出する事が出来た7機のMSと10機の航宙機に過ぎない。

旗艦タイタンのCDC(戦闘指揮センター)にいるティアンム中将は緊張を若干緩める。

「ワイアット中将からの贈り物が思いの外に効いたな」

「ええ、閃光弾で隊列を乱してくれたのが大きいです。
 お陰で当初の予定通りジオンの航空戦力を大きく削ぐ事が出来ました」

「航空部隊の損害は?」

ティアンムの問いに航空参謀が答える。

「IFF(敵味方識別装置)の反応からして撃墜は53機です。
 損傷機に関しては後衛隊からの報告待ちです」

「許容範囲だな」

「はい、軽微な損害と言えるでしょう」

ティアンムはジオン艦隊に対して戦艦の数を生かした長距離砲戦を行うような姿勢を見せつける事によって、ジオン航空戦力を誘い込んでいたのだ。その証拠に9隻からなる航空母艦兵力はジオンMS隊の航続距離ギリギリの艦隊後方に位置して、航空戦力は前衛隊周辺の防空戦以外の行動は全く行っていない。

もしも、ジオン艦隊が誘いに乗らなければ連邦艦隊は圧倒的な艦隊戦力をもってして防備を固めつつ、艦砲射撃を実施すれば良いだけである。このように、優位な状況を築いた連邦艦隊に対してジオン艦隊が戦い方を選べるような余地は残されていなかった。

チェスで例えるなら、既にキングは追い詰められているのだ。

地球軌道における地球連邦軍とジオン公国軍の戦いは佳境を迎えつつあった。
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【あとがき】
当初、18話で予告していた地上戦は完結を早めるために削りました。

連邦の制宙権が及んでいる場所にソーラーシステムを展開して、サイド3を照準に捉えて無条件降伏を勧告して、終わりにするべきか…迷うなぁ

距離が離れた分だけ、威力が減退するなら倍の数のミラー、倍で足りなければ10倍や100倍のミラーを用意して、更にそれらをコントロール出来るミラー統制艦の数を増やせば良い。光の射程は長いから、威力減退で焼き払えないにしても、放射熱を上回る熱量を与え続ければサイド3の砂漠化が進むでしょう。熱量異常によってジオン公国の経済は崩壊。戦争の犠牲者も最小限で連邦は勝利です。

この方法の最大のメリットは南極条約に違反せずに長距離戦略攻撃が行える事ですねw
そして、戦艦の量産よりも安く付く。

【Q & A :IFF(敵味方識別装置)の反応なんてミノフスキー粒子の中で判るの?】
初代ガンダムも味方同士の通信を行っていたので大丈夫でしょう。
また、ガンダムF91でも、ラフレシアの識別信号云々がありました。

(2009年11月01日)
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