gif gif
■ EXIT
gif gif
gif gif
ワイアットの逆襲 第15話【地球軌道会戦:1】


地球連邦軍宇宙艦隊に所属する戦艦3、巡洋艦16で編成されている第7艦隊から、ワイアット中将の命令に従って次々とミサイルが発射されていく。

「ジオン艦隊索敵圏到達まで後90秒っ!
 ミサイル、後10秒で全弾発射を終えます!」

「うむ」

作戦参謀のカウントにワイアット中将が悠然に頷く。 指揮シートに腰をかけて、両手を組みながら、優雅に足すら組んでいる。 彼の表情は自身に満ち溢れており、その様はまるで第7艦隊の現状を代弁しているようだった。

「ミサイル第一陣、フェーズ3に移行。
 第ニ陣はフェーズ2。第一陣着弾まで後80秒…」

「我々からの贈り物はどの様な状態になっているか?」

ワイアット中将は穏やかな声でロドニー准将に尋ねる。
英国紳士の魂と栄光を受け継ぐ彼は、贈り物の状況が心配だったのだ。礼儀は人間関係を円滑にする。ワイアット中将からの贈り物を秒速10kmを超える速度で受け取らされたジオン軍人は、二度と連邦に歯向かう事は出来ないだろう。

「計算どおりに順調に拡散しております。
 侵入角度も問題ありません、通過600秒後にジオン艦隊宙域に到達するでしょう」

「フッフッフッ…順調、順調、抜かりなし。
 あれを受け取ったジオン艦隊は感涙に咽ぶ事になるだろうな」

「間違いなく、泣きたくなるでしょうね」

上司のジョークにロドニー准将は苦笑いをする。その思いはロドニー准将だけでなく、戦艦ネレイドのCDC(戦闘指揮センター)に居た、全てのスタッフも同じであろう。なぜならば、贈り物によってジオン艦隊がどのような災厄に見舞われるか知っているからだ。

手間をかけて運ばれてきた贈り物の正体は、合計160万トン分にも上る集束爆弾や小弾である。コロンブス級は1隻20万トンもの物資の輸送が可能だった。搭載した爆弾に関しては地球各地の連邦軍基地から集めてきたものだ。贈り物という表現は、英国紳士らしい皮肉を加えたジョークであろうが、これ程の火力を叩き込まれてはジオン艦隊は唯ではすまないだろう。

中には年代物の爆弾も含まれていたがワイアット中将は気にしない。
例え爆発しなくても、運動エネルギー兵器として見ても、威力は十分だった。

何よりこのアイディアの素晴らしい点は、 金のかかる老朽化爆弾の処理を戦場で行いつつ、敵に対して凶悪な攻撃手段になる事だった。全てが大気圏に突入するような角度で散布されており、敵に当たらない爆弾は大気圏が自動的に処理してくれるので不発弾問題もない。

8隻のコロンブスもジオン艦隊近辺で自爆し、その破片は大気圏に突っ込む事になるが、損傷の激しいコロンブスを使用しているので問題はなかった。自爆せずともコロンブス級程度の質量では大気圏で燃え尽きてしまうが、これは質量兵器として見られないようにする処置である。

ワイアット中将の何としても条約を守る紳士的な対応によって、自爆により四散したコロンブスだった残骸がジオン艦隊に対して猛速で降り注ぐ事になるが、ご愛嬌であろう。

戦後、ワイアット大将の回想録によると、慣性飛行を続ける残骸の進行上に偶然、ジオン艦隊が居たに過ぎないと書かれている。

しかし、偶然と見る者は地球圏にはワイアット以外は誰一人として居なかった。

他者の戦訓を褒め称え、自らの功績を低く抑える、英雄ワイアットからして、残骸攻撃すらも計算上の無駄のない攻撃だったと、連邦だけでなくジオンからも後々見られるのだが、その事は今のワイアットには知る由も無い。

「陣形パターンF-2、変更完了」

「ジオン艦隊索敵圏到達まで後20秒っ!」

航海参謀の言葉に、作戦参謀が続く。
そしてワイアット中将がジオンを更に歓迎するべく言葉を紡ぐ。

「よし、始めろ」

「アイサー」

ワイアット中将の言葉に対して、砲術参謀が反応して、第7艦隊の各艦艇は猛然と対空射撃を開始した。 機銃弾の速度に艦隊速度の16.7km/sに加わった鉄の雨がジオン艦隊に降り注ぐのだ。命中率を重視したためにジオン艦隊がいる宙域を掃射するような広範囲の射撃であった。

それは、浴びせられるジオン艦隊からすれば、
友軍の血の雨が降り注ぐ攻撃に等しいものになるであろう。

狙われるジオン艦隊にとって不幸だったのは、御もてなしの精神に富んだワイアット中将の本当のサービスが更に控えている事であった…

ケチでは紳士は務まらない。









地球衛星軌道上に展開する、
ドズル中将率いるジオン艦隊は可能な限りの全周警戒に入っていた。

「周辺警戒を強化せよ」

旗艦グワランにいるドズル中将が幕僚に対して命令を下す。
増援部隊を地上へと降下させようとしており、このタイミングで連邦軍に襲われては目も当てられないからだ。

降下ユニットは降下中がもっとも無防備であり、
ドズル中将にはその事は良くわかっていた。不運だったのは、ワイアット中将はドズル中将よりも、その事に精通していたことであろう。

どのような敵がどの様な方法で襲撃してくるとも知らずに、ジオン軍のMS部隊は綺麗な編隊を組みつつ、奇襲を避けるべくジオン艦隊の周辺にて、警戒飛行していた。

そのような状況の中、職務に熱心なオペレーターは僅かな変化を察知する。

「警告、上空9-1-4、閃光を確認!」

「なにぃ!?
 連邦軍による奇襲に備えよ!」

ドズル中将は直ちに反応するも、現実は余りにも無常であった。
人間の反射速度を大きく超える超猛速の機銃弾幕が輸送艦隊を護衛していたジオン艦隊に降り注いでいったのだ。

数発の機銃弾の直撃を受けると、超猛速によってもたらされた凶悪な衝撃によってチベ級重巡洋艦のピネラピは中破炎上、ヴォルフが小破。ムサイ級軽巡洋艦は9隻が大破炎上して、運の悪い2隻はすぐさま爆沈となった。

閃光確認の報告から、僅か3秒足らずで、2隻損失、9隻損害という被害を受けるという、連邦軍による攻撃としては、あまりに非現実的な出来事にドズル中将は、茫然自失とは言わないが周囲のあまりの光景に声を出す事も出来ない。

艦艇より悲惨だったのは周辺警戒に出ていたMS部隊であろう。 部位を問わず、何処かに喰らっただけでも、衝撃でバラバラになって爆散してしまうのだ。艦隊周辺の周りにて連邦軍の襲撃に備えていたジオンMS部隊は広範囲の面制圧弾幕ともいえる機銃掃射によって、直接の戦火を交わさずして、MS戦力の1割以上を喪失した事になる。

事態進展から4秒後、ドズル中将が状況を認識しようとした、瞬間…
より大きな災いが降り注いだのだ。

ミサイル第一陣が混乱の淵に落ちている護衛艦隊を尻目に、守るべき輸送艦隊に対して 第7艦隊が放った超猛速のミサイル群の第一陣がパゾク級輸送艦42、パプア級補給艦68に降り注いでいったのだ。

その一部始終を艦橋から見ていたドズル中将は、
輸送艦隊に対して幾多の閃光が降り注いだように見えた。出来の悪い物語を見ているようだ。

直撃を受けた前後2つのコンテナで構成されている260m級大型輸送艦パゾクは、機銃弾を上回る凶悪な衝撃と、その後発生した大爆発によって艦艇が引き裂かれるように折れて爆沈した。双胴艦の形式の旧式化しつつあった300m級パプア級補給艦も同じような末路を辿る。

運良く爆沈せずとも、多くの輸送艦は重大な損害を受けていた。

輸送艦隊の護衛として周辺に付いていた、
ムサイ級軽巡洋艦も1隻が引き裂かれるように爆沈して、3隻が大破、8隻が中破して炎上漂流している状態になっている。

ようやく状況の変化に対して、思考が追いついたドズル中将が叫ぶ。

「まさかっ!!」

ドズル中将は、自軍が所持する最大の戦略価値である降下部隊の方向を見た。
自分が連邦軍の指揮官ならば、何を狙うか…そして、その思いは残念ながら当たっていた。

地球に降下しようと展開してたオデッサに対して降下準備中だった、増援用の降下部隊の中に幾多の閃光が発生していたのだ。全滅はしないだろうが、軽微な損失とは思えない。
これは、第7艦隊が放ったミサイル第二陣の仕業である。

最初の被害から、まだ8秒…ジオン艦隊は状況の把握すら出来ていない。
そんな中、ワイアット中将が第一波強襲にて楽しみにしている、砲戦が始まろうとしていた。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】
ジオン軍に資源はない…
しかし、コロニーを解体して資源に転換すれば?


【Q & A :輸送艦はもったいなくないの?】
対費用効果を考えると大黒字です!
それに、地球連邦ならば輸送艦程度は幾らでも建造できますw


意見、ご感想を心より、お待ちしております。

(2009年08月24日)
gif gif
gif gif
■ 次の話 ■ 前の話
gif gif