gif gif
■ EXIT
gif gif
gif gif
ワイアットの逆襲 第13話【起動シーケンス】


ジオン護衛艦隊が増援部隊の派遣を決断してから約8時間が経過していた。

ワイアット中将はマゼラン級戦艦ネレイドのCDC(戦闘指揮センター)にて、ロドニー准将と作戦内容の最終確認をしながら、3時間前から次の情報を待っていた。作戦成功の為に1分1秒でも惜しいワイアットは、臨戦態勢を整え終えると直ぐに、ルナUではなく旗艦内に待機していた。

その苦労は報われる。
古来よりの鉄則通り、気難しい勝利の女神は常に正しい方向に努力する者に微笑む。

通信参謀が通信を解析し終えると、直ぐにワイアットの正面まで来て報告を述べる事が出来た。将官が即応体制を整えていた利益は大きい。どのような場合においても連絡する手間が省けるからだ。

「ワイアット中将、ジオン艦隊に動きが第二段階へと達しました」

ワイアットはジオン艦隊の動きを三段階に分けて、監視させていた。

第一段階、輸送艦から降下部隊を乗せた降下用ユニットの発進。
第二段階、降下ユニットが停止衛星軌道から降下ゾーンに向けて移動。
第三段階、降下スケジュールに従って降下に向けた減速を開始。

端末に写し出された遠距離望遠によって撮影された最新のジオン艦隊陣形を見て、ワイアットは観測写真が映し出されている端末の画面に視線を落しながらひそかに笑う。

それは間違いなく、ジオン増援部隊が降下段階へと移行し始めた状態。途中まで進めてしまった降下準備は、おいそれと中断できない。中断した場合は例外なく大きな混乱に見舞われるからだ。

また、混乱なく中断する事が出来たとしても、降下ユニットの収容には最低でも発進に要した時間はかかるのだ。そして、常識的に考えて発艦よりも帰艦の方が技術的難易度が高い。

降下部隊を見捨てない限りジオン艦隊は動く事が出来ない。ワイアットは此方の思惑通りの状況に深く満足し、端末から視線を離すと、ロドニー准将に視線を向ける。

「…よし。これより作戦は第三段階へと移行する。
 ロドニー准将、第一波強襲に参加する全艦艇に作戦開始を伝えよ。」

「了解しました」

ワイアットはロドニー准将に命じてから、周囲を見渡した後にCDC(戦闘指揮センター)にいた士官全員に号令を掛ける。

「では、諸君、我々も作戦開始に備えようではないか」

ワイアットの号令を聞いたCDC(戦闘指揮センター)にいる士官達が一斉に敬礼した。幾多の激戦を乗り越えてきた第7艦隊は間違いなく連邦の精鋭艦隊の一つになっており、士官達の動きは極めて素早く、隷下の艦艇からも僅かな時間で作戦準備完了という通信が戦隊旗艦を通して全艦から伝えられる。

「よし、通信参謀。 タイタンのティアンム中将、ヒペリオンのベーダー中将に連絡。
 "我が艦隊はこれより、所定の作戦を遂行す…"この内容送信を頼む」

「了解しました!」

ワイアットは通信参謀に命令を終えると、矢継ぎ早に作戦参謀に指示を出す。

「作戦参謀、タイムスケジュール開始だ!」

「アイ・サー、タイムスケジュールカウント開始!」

作戦開始を受けて、航海参謀が作戦遂行に必要な手順をこなしていく。

「第7艦隊全艦のブースターチャージングシーケンスと同調完了!」

訓練の成果もあって、航海参謀は焦ることも無く手順を終えた。

ワイアット率いる第一波強襲に参加する第7艦隊の全艦艇は地球上から打ち上げる際に使用するブースターを宇宙空間にもかかわらず装着している。それらのブースターを使用することによって、艦内の推進剤を温存しつつ、突入までの加速をブースター内にある推進剤のみで行う。つまりマゼラン級とサラミス級は、結果的に従来の1.5倍の加速と減速が行えるのと同意語である。

そして、ワイアットはジオン側の観測を逃れるべく、ルナU内の宇宙港内にて全ての作業を行っていた。更に、作戦に同調する第4艦隊と第6艦隊は北米上空の防衛を装っている念の入れようで、静止衛星軌道上近辺に布陣するジオン艦隊は連邦軍の動きに完全に騙されていた。

ワイアットは第三宇宙速度という超猛速状態での一撃離脱という離れ業をもってジオン艦隊に極めて奇襲に近い強襲を敢行するつもりなのだ。

航海参謀は端末上にある起動キーを押すための、最終確認をワイアット中将に求める。

「起動よろしいですか?」

「まて」

ワイアットは航海参謀に待ったをかけて、通信士に言う。

「全艦に通信繋げ」

「アイ・サー……接続完了!」

ワイアットは通信士官に一礼すると、第一波作戦に参加する全艦艇に向けて演説を始める。


「諸君!! これより戦争の推移を決める作戦の第三段階へと移行する。
 非常に難しい任務であるが……数々の激戦を潜り抜けてきた精鋭たる諸君とならば、
 必ず成功すると私は確信しており、心は穏やかである。

 そして、作戦開始を前に一言、言わせて貰おう。

 ジオン公国はスペースノイドを解放を歌い上げて戦争の大義名分としてきた!
 しかし、その実態は諸君らの知るとおり、ジオン公国軍は解放すると公言していた
 宇宙市民に対して組織的虐殺を行ったに過ぎなかった。

 ……彼らに"解放"の意味を問いかけても、明瞭な応えは帰ってこないだろう。
 ジオン軍の行いは、誰が見ても解放の名を騙った史上最悪の侵略戦争に過ぎないからだ!
 故に応えられるはずも無い。

 そして、諸君らにも考えて欲しいのだ…真の解放とは何か?

 私は思うのだ…
 真の解放とは、ザビ家によって引き起こされた戦争を振り払い、
 戦禍に苦しむ地球圏の人々を救う事であると…

 そこで私は諸君らに願う。
 この様な悲劇を繰り返さないためにも
 後の世までサイド1・2・4の悲劇を伝えていく事を…

 人類の半数を死に至らしめたジオン軍は、その行いに飽き足らず、
 母なる星である地球に対しても、その欲望の手を伸ばしてきたのだ。
 これは明らかに宇宙市民の解放と関係の無い、ただの侵略行動であろう。

 しかし、ジオン公国の野望を阻止するために、
 ルウム戦役で勇戦し、ジオンのコロニー落しを阻止した、あのレビル将軍が、
 万端たる準備を整えてきた優勢なジオン軍を相手にして一歩も引かずに、
 不利な状況に屈せず戦っているのである。

 我々は、人類の盾として奮闘してる地球連邦地上軍の
 努力を無駄にしないためにも、勝たねばならないのだ……

 危険な任務だが、今この瞬間も地球圏を守るために戦い続ける同胞のため、
 ジオン軍から市民を守るために各員の一層の奮闘を期待する。
 そして、私は諸君らと共に作戦を実施できる事を喜びに思う…以上だ」


やたらレビル大将を強調し、褒め称えていたワイアットであったが、これには裏がある。作戦終了後に演説を聴いた兵士達が、そのレビル大将を称える内容を噂話として流れていく事に期待していた。ワイアットは懲りずに、可能な限り他者のイメージを強化して、自らの英雄度を名声を汚す事無く下げようとしていた。

紳士はチャンスを逃さない。

下心があるにしろ、彼の演説は確かに第7艦隊の士気を極限まで高めていった。

「宜しい、開始したまえ!」

士気高揚と将来の保身を狙った演説を終えるとワイアットは航海参謀に向って真の意味で作戦開始を宣言した。宣言と同時に、戦艦ネレイドとネットワークリンク下にある、全艦艇に電子信号が送信される。

「コースオールグリーン。
 チャージングシーケンス開始、300秒後に起動シーケンスを完了します!
 カウントダウン開始…」

「うむ、全乗員、急加速に備えろ。点火360秒後に全隔壁閉鎖!」

「アイ・サー」

戦艦ネレイドのCDC(戦闘指揮センター)にいる幕僚スタッフは見事な動きで、仕事をこなしていった。僅か1個艦隊で敵の大艦隊に突っ込む危険な作戦であったが、誰一人として不安そうな表情を浮かべていない。

ルウムでの奇跡の撤退、月機動強襲の経験に加えて、ワイアットの演説によって覚悟を固めていた。そして、冷静なのはロドニー准将が行ってきた度重なる難しい演習の成果でもある。

第一波戦力として参加する第7艦隊は戦艦ネレイド、ナガト、コロラドを中心に巡洋艦16隻、輸送艦8隻である。空母は作戦の性質上不参加であった。









ジオン空挺堡があったオデッサ地域は、静かでない夜を迎えている。 連邦のハラスメント攻撃を目的とした小隊規模の小規模高高度公算爆撃が絶えることなく続いていたのだ。

部隊の損失は少なかったが、弾薬の不足により効果的な反撃が出来なかった。空爆第二陣を終えた後に到来した空爆第三陣、20世紀最強の戦略爆撃機であるB-52ストラトフォートレスの流れを汲む、デプ・ロック大型爆撃機の編隊がすべての原因だった。

500kg対地爆弾を爆弾槽・主翼下合計して81発という膨大な爆弾を搭載している132機のデプ・ロック大型爆撃機が到来したのだ。そのうち、16機には非核型の広域制圧用の特殊気化爆薬を搭載しており、ジオン軍が先行偵察に出している部隊を纏めて吹き飛ばす役目を担っていた。

正面戦力との戦いを避けてきた連邦であったが、相手の目と耳を潰す行動に対しては、常に積極的なのだ。上空待機を続けていた、錬度の高いシュトゥットガルト戦闘団もこの偵察隊狩を期に戦闘に参加している。

そして、ジオン軍はデプ・ロック大型爆撃機1機あたり900mX5,400mを制圧できる事を知らなかった。すなわち、ジオン空挺堡を包み込んでもお釣りが出るほどの爆撃範囲なのだ。この、従来の戦闘爆撃機では有り得ないほど長い爆撃時間がジオン兵を恐怖のどん底へと叩き込んだ。

戦車を上回る装甲化を施しているMS-06Fに関しては、直撃でなければ撃破されなかったが、それでもセンサー部分などの防御力の弱い箇所は何らかの損傷を受け、装甲のない軍需物資に関しては直撃や至近弾に関係なく破壊されていく。

知らなかった事に対する授業料は大きい。

大規模空爆はそれが最後であったが、ジオンが受けた損害はジオン空挺堡の残余物資の大半と、占領下に置いたバイコヌール基地の一部基地機能の喪失に及んだ。遠方に出た偵察部隊は音信不通であったが、それでも降下部隊の大半が無事な状態に安堵したジオン軍は、恐怖の空爆が収まったと判断して、急いで損害回復に乗り出していく。

しかし、ワイアットは紳士的サービス心からジオンが寂しくないように9発に1発の割合で時限信管をセットした爆弾を混ぜて、彼らが退屈で眠ってしまわないように配慮していたのだった。これらの1000発以上に上る爆弾の爆発時間は一定でなく、最長で1ヶ月先のタイマーがセットされた爆弾もあったのだ。

更に、地面落着時の衝撃でタイマーが起動する仕組みで、タイマー起動後に一定以上の特定衝撃を与えれば爆発するのだ。ジオン軍は見た目からでは不発弾か時限爆弾か判らず、排除に苦労する事になる。また、タイマー爆弾には専用のAIが搭載されており、紳士のような冷静に対処を行って、空爆時に発生する地面振動では爆発しない仕組みになっている。

決して正面戦力を狙わない連邦空軍。
ジオンの苛立ちは極限に達していたが、辛辣な攻撃はこれだけに留まらない。

[型攻撃型潜水艦ディニクチスに搭乗するモリグチ中佐率いる18隻の潜水艦隊は黒海沿岸に達すると、深度100mまで浮上して、特定の星座や星をカメラで追跡することによりパターンを認識し、自らの位置を把握するSTS(Star Tracker system:スタートラッカーシステム)を搭載した144発に上る巡航ミサイルを発射した。このミサイルの弾等は特殊弾頭である。

ワイアット中将が立てたハラスメント攻撃に勝るとも劣らぬ、レビル大将が考案した、この攻撃がジオン軍の頭上で爆発したとき、彼らは憤慨の極みに達するであろう。

これから引き起こる悲劇は、超長距離探知が電波だけと思い込み、誘導兵器の誘導システムが電波や赤外線だけだと信じきっていた、ジオン公国軍の想像力の無さと怠慢と無知が引き起こすのだ。

レビル大将とワイアット中将の二人が知恵を絞って開かれているカーニバルはまだまだ終わらない。 夜になっても、その賑やかさは収まりそうも無かった。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】
デプ・ロック大型爆撃機の搭載量ですが、控えめにB-52の約1.5倍にしました。
それでも十分に絶望的ですがw

デンドロビウムやノイエ・ジールのマイクロミサイルって何のシステムで誘導してるんだろう?
あれを航空機や戦艦に搭載すればMSいらなくなるね。

【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
大型空母0+1、戦艦8、重巡39、機動巡洋艦0+4、軽巡洋艦65+6

その他戦闘用艦艇84隻、補助艦艇304隻

【その他情報】
超大型空母ドロス級1番艦、ドロスが戦力化されました。

ザンジバル級の4隻ザンジバル、マダガスカル、キマイラ、ケルゲレンが戦力化されました。
リリー・マルレーンとインゴルシュタットは最終艤装に入っております。

アイランド・イフッシュ防衛戦時の損傷艦、ムサイ級軽巡洋艦6隻の修理が完了しました。


現実的に考えて、連邦との総力戦に突入してからジオンにドロス級なんて建造する余裕があるとは思えないので、戦前からの建造といういう事にします。
gif gif
gif gif
■ 次の話 ■ 前の話
gif gif