gif gif
■ EXIT
gif gif
gif gif
ワイアットの逆襲 第12話【第一次降下作戦:後編】


ジオン軍の混乱が収まりきらぬうちに連邦空軍の空爆第二陣がジオン空挺堡全体上空の戦闘空域に侵入を果たしていた。

「FAC(前線航空管制官)ナイナー4-5より、キロ1-13へ、グリッド1-25-2への攻撃位置に付け。
 方位(ベクター)1-25-1経路まで脅威は存在しない。
 FL300(高度30000フィート)を維持しろ。状況4、以上(オーバー)」

「了解(ラジャー)、キロ1-13、受信(コピー)、
 既定高度を飛行中、これよりIP(爆撃座標)1-25-2に向う、以上(オーバー)」

第一陣空爆時では作戦上の理由から静観していたFAC(前線航空管制官)であったが、第二陣空爆から積極的に動き出していた。AWACS(早期警戒管制機)が各中隊の大まかな誘導を行い、それぞれのFAC(前線航空管制官)が各中隊を精密誘導する。

「編隊長機(リード)より各機、コース1-25-1、IP(爆撃座標)、
 グリッド1-25-2、編隊パターンはV字編隊、復唱は不要、以上(オーバー)」

編隊長機の合図を受けてキロ1-13中隊の各機は中隊長機を中心にして、二番機が中隊長機の左後ろに、四番機が中隊長機の右後ろに並ぶ。三番機が二番機の右後ろに、五番機が三番機の左後ろへと並んでいく。隷下の飛行中隊が編隊を整えると、爆撃を行うべく編隊を見事に維持しつつ指定の飛行コースへと侵入していく。

上空の湿度が先ほどよりも高くなってきたらしく、フライマンタのエンジンノズルの後方から発生するコントレイル(航跡雲)という排気の中の水分が凝固することにより発生する細長い雲が濃くなっていた。

地上からでもはっきりと見えるぐらいにコントレイル(航跡雲)が無数に発生していた。

第一陣と違ってFF-6制空戦闘機も多数参加していたが、ウェポンベイに搭載されている空対空ミサイルは4発に抑えられており、残りの兵装スペースには空対空ミサイルの半分程度の長さに抑えられたSDB(Small-Diameter-Bomb:小型滑空爆弾) が収められている。

小型滑空爆弾といっても有効範囲が小さくなっただけで、直撃時の破壊力は侮れない。直撃すれば1450mmの装甲版を貫通する破壊力を有し、それを持って対空網が甘い箇所にいるMSを狙うのだ。


煙と爆炎が立ち込める地上からも連邦軍の第二波を察知していた。

第一波の空爆時に難を逃れたMS-06Fに搭乗しているジオン軍パイロットが悲鳴を上げる。 周囲から伝わってくる無線も似たような内容だった。

「なっ…なんだアレは!?」

「連邦の航空隊か!!」

生まれて始めて見る、無数、いや多数の成層圏に作り上げられていく飛行機雲に恐怖した。知識として飛行機雲と知っていたが、実際に目の辺りにすると全く違う。そして、そのジオン兵が感じた恐怖は感覚は正しい。空爆第二陣の540機だったのだ…彼らが投下するのは花束ではなく、侵略者を吹き飛ばす対地攻撃専用の爆弾なのだ。

「チクショー、卑怯者ぉ 降りてきやがれ!!」

ジオンパイロットがMS-06Fのコックピットの中で罵る。

連邦空軍のパイロットがジオンの罵りを聞いたら失笑するであろう。

航空機には航空機に似合った戦い方があるのだ。
少なくとも、航空機は人型ロボットと殴りあうようには作られていないし、連邦軍がわざわざ、ジオンの得意分野で戦う必要も無い。

自分達が有利でない状況に逆切れしたMS-06Fに乗るジオンパイロットは怒りに任せて、反撃のプロセスをこなしていく。

そして、MS-06Fが右手に装備する120mm弾の装弾数が332発に達するザク・マシンガンM-120A1を操作して、此方の方向に向ってくる飛行機雲の先に存在する航空機に向ける。ミノフスキー粒子散布下にあるため長距離電波索敵が出来ないので光学索敵によって連邦機を補足すると、彼は怒りを込めてトリガーを絞った。

「卑怯者め、くたばれっ!!」

数十発の120mm弾が上空へと放たれる。
打ち抜かれて堕ちて行く様を想像したジオンパイロットの表情が歓喜に染まるが…

「なにっ!?」

歓喜は、瞬く間に驚愕へと移り変わる。放たれた120mm弾の全てが、モニター越しからでも判るぐらいに明後日の方向に派手に飛んでいたからだ。彼だけでは無く、反撃に移ったジオン軍各所で見られた光景。

「攻撃が…攻撃が当たらないっ! なぜだぁ」

コックピットの端末を怒りに任せて叩きながらMS-06Fのパイロットは叫ぶ。
彼だけではない、地上に降り立ったジオン軍だけでなく、全てのジオン軍が失念していた。


地球はコロニーと違って大気は常に不安定で大気擾乱が激しい。彼らの放った120mm弾はコロニーではありえない空気の層によって逸らされ、風に流されたのだ。そして、地球は自転しており、そのコリオリ力の慣性の影響も受ける。

コンピュータ制御を受けたレーダー連動による射撃ならばもう少しマシだったかもしれないが、その手段は連邦の優れた電子兵装と電波誘導兵器を恐れたジオン軍が自ら散布したミノフスキー粒子によって使えない。

そして、高高度を飛行する爆撃機を1機落とすのにレーダー管制射撃で2400発〜6000発の対空砲弾が必要なのだ。 レーダーを封じられている今、12500発〜15000発へと敷居が上がっており、最も悪い1%未満の命中率で計算すれば、MS-06Fが高高度を飛行する1機の連邦軍機を墜とすのに45本にも及ぶ、持ち切れない程の120mm予備弾装が必要になる。

更に、高高度を高速飛行している航空機を落すには、高初速の対空砲弾であっても難しく、M-120A1は宇宙運用が前提となっていたため、射撃時の反動を軽減するために砲弾の初速は比較的抑えられており、しかも対空砲弾ではなく通常弾であった事も不利に働いていた。

進入経路を計算して、多数の対空砲網を有する対空陣地を有しているなら話は違っていたであろうが、今のジオンには陣地どころか防空に関する戦訓すら無かった。

後に、気象現象の落雷現象やハリケーン現象を連邦の新兵器を勘違いするほどにお粗末な出来事も起こるのが、これは、ジオン公国軍が有する戦訓が宇宙空間や限定空間のコロニー内に限定されていた事が原因ではない。

純粋に怠慢の一言に片付けられる。

連邦の優秀な防諜組織によって諜報員による地球の事前調査が出来なかったのならば、せめて図書館で地球の自然について調べておくべきだったのだ。

非電探射撃時の命中率を調べもせず、また対策も無しに、侵攻地の気象情報すらも知らないまま降り立ったジオン軍。これほど情報に疎い軍隊は有史以来、皆無に違いない。


貴重な弾薬を盛大に消費しつつ、奇跡が起こらない限り効果の出ないMS-06Fによる対空射撃を続けてきたパイロットの全身から嫌な汗が吹き出てくる。

勘に従って、オーバーヒートの危険を顧みずに咄嗟にバーニアを噴かしてジャンプすると、さっきまで立っていた場所の地面が轟音と共に爆ぜた。爆心地から144mと距離が離れても、着弾した500kg対地爆弾の衝撃が機体越しに全身を襲った。

宇宙と違って、大気の空気が離れた距離であっても、それなりの衝撃波を伝えるのだ。
機体に損害は無かったが、降下中のMS-06Fは衝撃波の影響で着地寸前にバランスを崩して地面に激突して横転する。

「ぐはっ!!」

衝撃緩和装置の限界を超えた衝撃がコックピットを伝わってパイロットに伝わり意識が朦朧となり、そこで彼の人生はそこで幕を閉じた。1発の着発信管型の500kg対地爆弾が倒れたMS-06Fのバックパックに直撃して内部にめり込む。そして、0.9秒後に信管が正常に作動して爆発したのだ。MS-06Fは四散する。

報われないことに、別に彼のMS-06Fを狙った投弾ではない。 連邦軍は爆撃区画を設定して、それらに公算爆撃を敢行していただけなのだ。

運の悪い別のMS-06Fが、回避行動中に高高度からの投下によって亜音速に達していた500kg対地爆弾の直撃を受けて爆散していく。各所で類似した被害が広がっていた。

生き残ったジオン軍の兵站将校は、己が目にした光景に驚愕の声を上げる。

「っ!?」

視界の先には降下部隊が作戦継続に不可欠な物資が爆撃によって爆散し、爆心地周辺では破砕を免れた物資が煌々と燃えていたのだ。武器弾薬、推進剤、予備備品、食料……そして、宇宙に帰るための再利用可能だった機材が集積されていた各所の兵站物資集積所が完全に破壊されていた。

しかし、通信機に入った通信内容を聞いて、僅かながらに安堵する。
空爆の激しさに比べて、揚陸を急いでいた残存降下部隊の損害は思ったよりも少ない事が判明したのだ。また、バイコヌール基地も制圧を終えた報告も大きい。

降下部隊の損害が小さいのは当たり前である。
連邦空軍は第一陣と第二陣の攻撃目標は正面戦力ではなく、兵站組織の破壊を狙っていたのだ。

比較的無事な兵站物資集積所であっても、半数は全壊して、残る半分は半壊しており、ジオンにとって不幸な事は、連邦軍は第一陣の行った投弾データー座標と着弾データーを照らし合わせて修正しており、第二陣よりも命中精度を増していた。兵站将校は徐々に明らかになる損害に驚く事になるであろう。









ロシア上空に展開していたジオン護衛艦隊の旗艦グワランに居るドズル中将が荒々しい感じで作戦参謀に詰め寄っていた。そして、予想に反した戦況に苛立っていた。

「ガルマは大丈夫なのかっ!?」

「はっ、現在防空戦闘の指揮を取っており、少なくない補給物資がやられましたが部隊の大多数は健在です。また、第1機動師団はバイコヌール基地をほぼ無傷で制圧したとの報告が入っております」

「むぅ…連邦の予想外に激しい抵抗を受けているが、大丈夫なのか!?」

弟を溺愛しているドズル中将は気が気でなかった。
連邦軍の素早い動きも、まるでルウム戦役の場景を思い浮ばせ、嫌な予感が離れない。現段階ではドズル中将は知らなかったが、レビル大将が指揮を取っていたのだ。

「第一波に比べて第二波の機体数が少ない事から連邦軍の反撃は限界に
 達していると思われます。 また、後方に控えているのは少数の予備機数でしょう。
 それに、備蓄物資の大半を消費した攻撃だと思われます」

作戦参謀が得られた情報から、現状を分析して報告する。

「つまり、増援を送ってオデッサ周辺を完全に掌握するべきだと言いたいのか?」

「はい!」

作戦参謀の言葉にドズル中将が頷き掛けた時、別の参謀が警鐘を鳴らす。

「お待ち下さい! 予備兵力を投入すれば、第二次、第三次降下作戦に支障が出ます!」

警鐘の声に対してドズルはやんわりと意見を退ける。

「常識的に考えるならば、連邦の抵抗もそろそろ限界に達しているはず。
 第二次降下作戦の兵力も投下して、一気に戦況の挽回を図るべきだ。

 それに連邦軍の戦力が集中しているなら好都合よ…
 撃破すれば、連邦の継戦能力に打撃を与えることが出来る!」

「第二次降下作戦を中止なさるのですか!?」

「北米は大事だが、オデッサの資源はもっと大事だ。
 それに、増援として送り込む兵力は一時的なものに過ぎない。
 オデッサ作戦終了後に宇宙に打ち上げれば作戦は継続できるだろうよ!」

ドズルは知らなかった。

第二波があえて第一波に比べて少数だったのは、航空戦力の限界を演出するための、ワイアットの洒落の一つに過ぎない。英国紳士はジョークも一流なのだ。

そして、空爆連邦地上軍はレビル大将の指揮の元で、0079年02月02日の段階から空軍資材軍団 (AFMC)が中心となって、ペイロード160tを有するミデア輸送機で編成された輸送隊を総動員して、地上各地の駐屯地から必要物資を作戦該当基地までかき集めて、ジオン軍迎撃に備えていたのだ。

連邦空軍総航空兵力は30000機に達している。

基地によって差はあるが、平時であっても3〜5会戦分の武器弾薬燃料と整備部品の備蓄が行われていた。つまり、それぞれの基地から少量ずつ輸送すれば、レビル大将が行おうとしている空爆作戦に十分足りるのだ。

つまり、レビル大将の手元には4000機にも及ぶ作戦機が7回もの回数にわたって全力出撃が出来る分の軍需物資がかき集められていた。さらに連邦軍の一大軍事拠点キャリフォルニア基地を初めとして、各地の軍需工事ではゴップ大将の働きかけによって、早い段階から24時間稼動による軍需物資の増産に取り掛かっている。 十分な消費に耐えうる体制が整っていた。

そして、損傷機が生じた場合は、遠方の連邦空軍の基地から補充する手筈は整っているだけでなく、2週間後には準備が整った1250機の作戦機が追加されるのだ……それすらも、補給に応じて順次拡大していく。

第二次、第三次の降下作戦用の兵力を転用することによって、オデッサ方面のジオン軍戦力は向上するが、それに比例して連邦軍の戦力も向上していく。つまり、ジオン軍には決定的な破滅に陥る瞬間まで挽回可能と信じ込ませつつ、連邦にやや有利なシーソーゲームを強いていくのが本作戦の主要目的である。


悪夢といえる戦場が待っているとも知らずに、ドズル中将は勝利を確実なものにするべく、第二次降下作戦用の部隊の投入を命じた。

第3機動師団、第4機動師団、第8MS旅団がオデッサに降り立つことになる。実史では第二次降下作戦(北米方面)と第三次降下作戦(オセアニア方面)の制圧を担当した兵力が増援戦力として送り込まれる。ジオン護衛艦隊に守られた輸送艦隊が、これらの兵力を48時間以内に送り出すための準備が慌しく始められる。

前回と同じように、地球連邦軍は衛星軌道上のジオン艦隊の動きを深宇宙探査用の光学望遠観測によって、逃す事無く捉えていたのだった。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】

連邦軍の兵站ならICチップで総合的に管理してそうだね〜
ジオンがMSを50機下ろせば、連邦は500機の航空機を用意するような戦場になって行きます。

この話にはワイアット出てこなかったね(汗)


【ジオン艦隊の残存戦力(ワイアットの獲物)】
戦艦8、重巡39、軽巡洋艦65、その他戦闘用艦艇84隻、補助艦艇304隻
gif gif
gif gif
■ 次の話 ■ 前の話
gif gif