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女帝 第10話【合流】





C.E.71年2月6日

ハマーン大尉率いるアークエンジェルは第8艦隊と合流を果たすと、彼女は旗艦メラネオスへと乗艦し、司令長官の公室へと向かう。直属の上官であり艦隊司令であるハルバートン少将に対して報告を行うためであった。

入室と同時にハマーンは上官から歓迎の言葉をかけられる。

「ハマーン大尉、良くぞ無事だった!」

「閣下こそ、迅速な来援を感謝します。
 で、早速ですが先発させた高速艇の情報は見て頂けましたか?」

「ああ……ディスクは拝見した。
 オーブによる技術盗用疑惑は由々しき事態だな。
 特殊部隊が救援名目でヘリオポリスへと派遣される事になるだろう」

「閣下、宜しいのですか?
 そのような情報を私にお教えしても」

ハマーンはハルバートン少将に言う。

特殊部隊の行動は軍機に属するもので、関係者でもない人物が知りえる情報ではないし、知ってはならないのだ。ハマーンの疑問はもっともであろう。今のハマーンはネオジオンの頃と違い、一介の大尉に過ぎない。そのハマーンの言葉にハルバートン少将は悪戯小僧のような笑みを浮かべて口を開く。

「ハハッ大丈夫だ!
 まだ通達してなかったが我が艦隊は先日、
 特殊作戦軍(SOCOM)へと編入となったのだ。
 とはいっても主任務は緊急展開と強襲攻撃だな。

 そしてハマーン大尉、
 ヘリオポリス防戦の功績で貴官は少佐へと昇進しておる。
 昇進に伴って機密情報のアクセス権限はB4が与えられており、
 先ほどの情報を知る事には問題は無い。
 ハマーン少佐、これからは部隊長として前線で手腕をふるって貰うぞ」

「なるほど、そういう事でしたか。
 了解しました。
 微力ながら最善を尽くします」

ハマーンはハルバートン少将の言葉に対して見事な敬礼を行う。

満足そうに頷いたハルバートン少将は一つの書類をデスクから取り出してハマーンに渡す。その書類の表紙には遠隔誘導攻撃端末開発計画と書かれていた。かつてハマーンがアクシズ軍を率いていたときに使用していたAMX-004キュベレイで使われていた遠隔誘導攻撃端末「ファンネル」を参考にして技術部に考案したが、その時には小型化の難しさもあってお蔵入りになっていた計画そのものであったからだ。流石のハマーンも声を出して尋ねる。

「これは!?」

「流石の少佐も驚いたか。
 前に少佐が提出した無線誘導式ガンバレルの計画書だが、
 当時は技術的困難から凍結となっていたが、それも日本国から提供された
 小型ジェネレーター技術と量子通信技術によって実現可能と判断されたのだ。
 既に試作品の製造に取り掛かっているだろう。
 しかし、まったくもって日本の技術には恐ろしいものがあるな」

「ですが技術大国の軍となれば大きな期待が持てます」

「そうだな……
 あの忌々しい裏切り者の東アジア共和国と
 長年にかけて対立してきた国だけにあって私としても期待は大きい」

ハルバートン少将の期待は間違っていなかった。日本国が改編を進めていた国防軍最精鋭の第七重機甲師団と装甲レンジャー大隊は地球連合軍へと差し出され、各地で大きな活躍を果たすことになるが、それに伴って技術、精鋭兵力を惜しむことなく提供した日本国の評価は大西洋連合とユーラシア連合からも大きな評価を得る事になるのだ。

ハルバートン少将は話題を変える。

「話は変わるが、これが本命ともいえる連絡事項だ。
 最高幕僚会議から最優先指令が下っている」

「それは一体?」

「うむ、少佐にはアークエンジェルとドミニオンを率いて至急、
 ビクトリア基地に向かって貰う」

「ビクトリアに対する増援ですか…つまり、かの宇宙港を巡って
 ザフト軍の攻撃が再び始まるのですか?」

ハマーンの言うとおり、アフリカ大陸ビクトリア湖付近にあるビクトリア基地にある宇宙港は去年の70年3月8日にザフト軍による攻略作戦が行われていたのだ。ただしその戦いでは連合軍の奮戦に加えてザフト軍の地上戦における経験不足によって失敗に終わっている。

ハルバートン少将はハマーンの言葉に頷いてから言う。

「そうだ。大西洋連邦情報局が情報を察知した。
 ザフト軍の兵力配置とここ近日の兵站の動きからして
 近日中に攻撃が行われるのは確実だろう」

「了解であります」

「現地戦力はそのままだが、
 貴官の他にも地球全土から援軍が送られる事になる。
 私も全貌は聞かされていないが、精鋭の多くが参加するらしい」

ハルバートン少将の言うとおり、派遣されるのはアークエンジェルとドミニオンだけではない。地球連合からは精鋭のMS部隊として編成を進めてきた第13独立部隊とアークエンジェル級3番艦キュリオテテス、4番艦デュナメイス、7番艦エクスシアに加えて日本国から装甲レンジャー大隊が向かうことになる。

パイロットもレナ・イメリア大尉、エドワード・ハレルソン中尉などの凄腕が多く、しかもMSの大半がストライクの量産機であるGAT-01A1である、通称「105ダガー」と呼ばれる新鋭機によって占められている事から地球連合の力の入れようが分かるであろう。

また総反撃に備えて温存させていたこれらの兵力がこの時期に送られる事になった背景は、 日本国の吉田首相がアズラエルに対しての会談が決め手になっている。

吉田首相が用意した会談の表向きの理由は両陣営に軍需物資を売り払い血にまみれた春を謳歌するオーブ連合首長国の対策を話しあう内容だったが、本命はザフト軍がアフリカ大陸の支配権を得るべく狙いを定めつつあったビクトリア宇宙港を餌にして、ザフト軍の遠征能力を大きく殺ぐ軍事作戦を行うように働きかけるのが本命だったのだ。

アズラエルも普通の相手ならばこの様な提案はお茶を濁すような発言で誤魔化せばよかったが、日本国首相が相手となればアズラエルも無碍には出来ない。何しろ日本国はニュートロンジャマーの影響を受けない商業用核融合発電施設と各種先端技術の提供に加えて、自国の精鋭部隊すらも差し出すと明言しており、これらの姿勢もあってアズラエルにとって日本国の評価を大きく上げていたのだ。

むしろ、下げるほうが難しい。

そして、会談の際に吉田首相は攻撃地点が判明しているという事は、此方は幾らでも待ち伏せが出来るなど、吉田首相の用意したプランはシビアな目を持つアズラエルも戦略的に納得できるものであり、アズラエルはアフリカ迎撃戦のテコ入れを明言した。それに戦略的に有益でかつ、ハマーン大尉の更なる活躍を見られるならばアズラエルにとっても願ったり叶ったりである。このような計算を実業家に相応しい判断力で決めたアズラエルは即座に吉田首相の提案を受け入れていた。

このような背景があってビクトリア基地防衛作戦で送られる増援部隊は早期展開と情報秘匿の観点から兵数よりも質を重点的に進められている。

ハルバートン少将の公室から退出したハマーンは、ヘリオポリスから連れてきた技術兵などの一部の将兵をアークエンジェルから第8艦隊に乗艦させ、それと同時に補給物資を的確に搭載していく。それらの作業を終えるとハマーンは直ちにドミニオンを率いてアフリカのビクトリア湖上空へと針路を向ける。

この出発に至るまでのスケジュールを考えると驚くべき短時間であった。

ハマーン率いる増援部隊が短時間で準備が出来たのは、知将ハルバートンがアークエンジェルと合流する前から航海参謀に命じ、会合地点から目標地点に達するのに必要な加速と減速の計算を行わせていた事と、補給参謀に物資搬出の準備を整えさせていた事が大きい。

知将の行いに無駄はなく、
流石はハマーンの上官と言える有能ぶりであった。

また増援部隊の士気もヘリオポリス防衛戦にて獅子奮迅の活躍をしたハマーンの存在もあって天井知らずに高まっており、また部隊の錬度も精鋭の第8艦隊に所属しているだけあって十分と言えるレベルである。ともあれ、この日を境にして連合の白い悪魔として恐れられる事になるハマーン・カーンの本当の活躍が始まろうとしていた。
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【あとがき】
日本国防軍に所属する装甲レンジャー大隊が使用するMSはチタンアルミナイド合金セラミック複合材という詐欺じみた装甲で作られていますが、この素材は現実世界における日本の得意技術の一つだからいいよね(笑) ともあれ、外見もジェガンのような機体になるでしょう。


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(2010年07月24日)
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