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■ EXIT
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女帝 第07話【疑惑】


ヘリオポリスを襲ったザフト軍は、追撃から逃れることが出来ていた。
早期撤退を決意した背景には、部隊長クルーゼの戦死とMS戦力の半壊に加えて、生き残った赤服の猛烈なる撤退進言が大きい。

そして、ザフト軍の撤退は間一髪だった。
何故ならば、補給を終えたハマーン機が追撃の準備に入ろうとしていたからだ。
撤退を決意していなければ、全滅は確実であろう。

しかし、流石のハマーンも加速状態に入った宇宙艦艇には追いつけない。

ハマーンは追撃を諦め、アークエンジェルと合流を果して、ヘリオポリスにて救助活動を始める。彼女は宇宙世紀時代に劣勢な軍を率いて小賢しいエゥーゴや強大な地球連邦と戦い、一時は優勢にまで持って行った指導者だけに、無駄な事は一切行わない。

不可能な事に挑戦するのではなく出来ることを確実に終わらせ、地盤を固める事が何よりも大事な事を経験から学んでいたのだ。

C.E.71年1月24日に始まった短くも激しいヘリオポリス防衛戦は、その日の内に終了した。

しかし、ハマーン大尉はザフト軍撤退による戦闘終結にもかかわらず、別働隊の警戒を理由に、アークエンジェルの電子兵装を使用して電子攻撃(EA:Electronic Attack)を続行し通信を妨害していたのだ。









「ハマーン大尉!
 戦闘は終結したのに何故、オーブ軍に対して偽の敵影探知を伝えてまで、
 電波妨害を継続するのでありますか?」

G兵器開発施設の近くに着陸したアークエンジェルのCIC(戦闘指揮所)にてナタル・バジルール少尉が生き残りの最上位指揮官として指揮を執っているハマーン大尉に質問する。

周辺スタッフもナタル少尉の質問に興味深そうだった。

アークエンジェルに被弾したメビウス・ゼロを着艦させたムウ・ラ・フラガ大尉はハマーンと同階級であったが自分は専門外と指揮権を早々にハマーン大尉へと譲っている。そんなフラガ大尉は、CIC(戦闘指揮所)の壁に寄りかかりながら出来事を興味深そうに見ていた。

また、ラミアス大尉は大きな傷では無かったが、アークエンジェルの医務室にて休んでいる。

尋ねられたハマーンは、ナタルの質問を周りのスタッフを説得するのに丁度よい機会と捉えた。一人ずつ説明するのは非効率の極みなのだ。

「たしか…貴官はナタル・バジルール少尉だったな?」

「はい」

「疑問はもっともだろう」

そう言うと、ハマーンは微笑する。
その笑みには強いカリスマが感じられ、
ナタル少尉や周辺の士官は雰囲気に飲まれそうになった。

かつては1勢力を率いているだけあって、ハマーンは人並はずれた人心掌握術を有している。外見からクールなハマーンだけに、予想外の笑顔によって意外性が近親感を感じさせる事が出来る。笑顔を見せるタイミングも計算済みなのだ。

「通信妨害を継続する第一の理由として、
 ヘリオポリス内にいる敵スパイに対する妨害が大きい」

「スパイ…ですか?」

「ああ、何の情報も無しに中立国のコロニーを襲う程、ザフトも暇ではあるまい。
 狙いも正確だった事から、確証があったと見るべきであろう。
 それに、ストライクを警護していた兵士が捕えた少年の例もある…
 念を入れるべきであろう?」

兵士が捕まえた少年とは、一般人が立ち入る事が出来ないG兵器開発施設、しかもザフト軍の襲撃対象となった格納庫の中に居た、キラ・ヤマトという少年であった。一応はオーブ国籍を持っている事は確認していたが、状況からしてキラなる人物はプラントの工作員か連絡員の疑いが濃厚であり、疑いが晴れるまでアークエンジェルの営倉にて監禁となっていた。

スパイで無くても、大西洋連邦管轄の重要施設に不法侵入した罪は消えない。
もっとも軽い刑罰を適用したとしても、他国の大使館に無断に侵入した罪に等しいであろう。

ハマーンは言葉を続ける。

「それに、無重力下の特殊素材を生産する場所でもあるヘリオポリスを防衛するべき、
 駐屯オーブ軍の少なさを不思議に感じなかったか?
 我が国の研究を抜きにしても、守るべき場所には違いない」

「確かに……まさか、オーブは襲撃を予測…
 いえ、わざと襲わせたと!?」

「オーブが政治取引として我が国の施設使用を認めたのと同じく、
 G兵器開発情報をプラントとの政治取引に使用しても不自然は無いであろう
 最終的に採算が取れれば決断するのが政治家というものだ…違うか?」

ハマーンの推論にフラガ大尉が反論する。

「それは理論の飛躍じゃないか?」

「状況証拠だけで確証は無い。あくまでも、可能性のひとつだ…
 それに軍人は最悪に備えなければならない。
 違うかな? フラガ大尉」

「それは認めるよ」

フラガ大尉もヘリオポリス周辺宙域にて防戦を行っただけあって、オーブ側の戦力の少なさに疑問を感じていた。ヘリオポリス内の戦力があったとしても、航宙機や艦艇の配備が少なければ上陸してくださいと言っているようなものである。ハマーンの言葉によって、オーブに対する拭い切れない疑惑を感じてしまったフラガ大尉は、これ以上の追求は行わなかった。ハマーンも自論を押し通すつもりも無く、話を次に進める。

「そして、第二の理由だが、私があえて事情を偽り通信妨害を継続するのは、
 今後の情報戦略を大西洋連邦にとって有利に運ぶのが目的である」

「…情報…戦略ですか?」

「簡単な事だ。
 オーブ本国からの指示を受けられず混乱している間に、我々が情報収集を行う。
 そして、集めた情報を最大限に利用して、プラントとオーブの関係を悪化させるのだ」

「なんですって!?」

予想外の内容に合理主義で国益優先のナタル少尉が驚く。
一介の大尉が国家戦略を語るだけでなく、実行に移そうとするなら当然であろう。

ハマーンは自分の理想を実現するべく、中立を理由に双方に良い顔をするオーブ連合首長国のような存在が邪魔だった。そこで、ハマーンは大西洋連邦の国益を追求しつつ、効率よくオーブを排除する基本プランを前もって構築していたのだった。そして、今回のザフト軍襲撃はプランを実行に移す、より良い機会と言えたのだ。

機会を生かすのが実力である。

プラン実現のために、あらゆる可能性を予見していたハマーンは、
ナタル少尉の反応に臆することなく応じる。短い時間であったが、ハマーンはナタル少尉の基本人格を把握しており、落とし処を見極めていた。

念入りな準備と実行力…そして、優れた洞察力。これも、人生経験の違いであろう。
ハマーンの人生は並大抵のものではない。

「ナタル少尉、落ち着きたまえ。
 貴官は何かね? 大西洋連邦の軍人であろう。
 そして、その年齢で士官…士官学校を出ているに違いない…
 そうだな少尉?」

「そうであります」

ナタル少尉はハマーンの言葉に応じた。
それに満足そうに頷くと、ハマーンは言葉を続ける。

「つまり職業軍人…
 ならば国家に対して義務を果たさなければならない」

「…義務…」

ナタル少尉のような堅物軍人には頭ごなしの命令では、後々に反感を買ってしまうであろう。それを経験から学んでいたハマーンは、軍の命令系統を生かしつつ共感による共闘というスタンスでナタル少尉を納得させる事にしたのだ。

「そうだ。
 私たち軍人は国家を守り、国家の敵を打ち破る事こそ、
 課せられた崇高なる義務…そう、思わないか?」

「その通りであります」

軍人である事に信念を持っており、良い意味での堅物のナタルにとって肯定しか出来ない質問をハマーンは投げかけていた。心は一気に攻め落とすのではなく、ゆっくりと攻略していく事こそ、最上の方法なのだ。

ハマーンはナタル少尉や周辺の士官に対して言い聞かせるように言う。

「オーブという国はそもそも、外交からしておかしい。
 本当に中立を謳うならば、戦争関係国との貿易は控えるべきだと思わないか?」

ハマーンが言うように、本来の中立国とは戦争に参加してはならず、また交戦当事国のいずれにも援助を行ってはならない。しかし、オーブ連合首長国は中立を謳いながら、自国の経済発展のために戦争当事国に対して貿易を行ってすらいる。

オーブの中立とは実に、自国の都合のよい中立解釈であり、大西洋連邦市民ならば誰でも疑問に思っていた事だった。

「確かに…」

ナタル少尉の迷いを感じ取ったハマーンはたたみ掛けるべく、
決定的になる言葉を紡ぐ。

「オーブは中立を謳いつつ、全陣営に物資を供給する事で戦争の長期化を狙い、
 長期の大戦により疲弊した地球圏を経済支配するのが真の目的としたら?
 大西洋連邦の軍人として見過ごすことは出来ない」

「まさか!」

「それも推論だろ?」

フラガ大尉がハマーンの推論に控えめに反論した。
彼は斜めに構える事が多いが、伊達にエースとして活躍している訳ではなく、鋭い洞察力を有している。

しかし、ハマーンはフラガ大尉の言葉を見越したように言う。

「確かに推論だ…しかし、オーブが地球圏の経済支配を目論んでいないとしても…
 少なくともオーブが行っている対プラント貿易は大西洋連邦にとっては、
 有利に働いてはいない」

「確かにね…」

フラガ大尉はハマーンの説明に納得する。
彼も大西洋連邦の軍人であり、大西洋連邦からの視点から見ればオーブの所業には思うところが大きかった。

ハマーンは言葉を締めくくる様に言う。

「もちろん、私の推論を押しつけるつもりはない。
 しかし、私は大西洋連邦軍の将校としての義務を果たす所存である。

 だからこそ、今回の襲撃に関する原因を調べなければならない。

 それに…これから行う作戦の責任の全ては、このハマーンにある!
 安心して付いてきて貰いたい」

このハマーンの言葉が決定打となった。
オーブに対して疑問を抱かせつつ、軍人にとって絶対なる命令という道を提示する事によって、ハマーン大尉は全員の意識を巧みに取りまとめていた。

それに、ここに居る士官はハマーン大尉の活躍によってザフト軍を撃退したのを知っており、勇敢で有能な上官に付いて行くのは軍人にとっては憧れなのだ。戦時下に於いては、自ら行動する将校は大いに輝くのは何時の時代でも同じである。

ハマーンの命令により、ヘリオポリス内の大西洋連邦軍が動き出した。

ナタル少尉は物資詰め込みなどの出航準備に取り掛かり、フラガ大尉はヘリオポリス内の大西洋連邦軍兵士をアークエンジェルに集結させる任務に就く。フラガ大尉の任務の名目はザフト軍に対する備えであるが、実際は大西洋連邦軍の兵士を呼び集める行動を装いつつ、オーブにG兵器関連の情報を渡さないように関連施設の破壊が目的であったのだ。

ハマーンが流した偽情報によって、ザフト軍の襲撃によって戦力が激減していたオーブ軍は市民誘導やコロニー被害の調査に借り出されており、大西洋連邦軍の真の狙いに気が付かなかった。

そして、ハマーン自身は電子工学のスペシャリストであるダリダ・ローラハ・チャンドラII世と、ザフト軍襲撃の際にハマーンの命令によってストライク警護に就いていた2個分隊の兵士と共にヘリオポリス内にて情報収集を目的とした行動を始めている。

ハマーンにとって、オーブはすでに仮想敵国だったのだ。
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【あとがき】
戦闘終了。
ハマーン様が怪しい動きのオーブを察して、行動を開始しますw


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(2009年10月05日)
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