gif gif
■ EXIT
gif gif
gif gif
女帝 第06話【ヘリオポリス防衛戦:5】


「なにっ!?」

ハマーンは港湾区画内に巻き起こった大爆発に驚く。
この大爆発は、アークエンジェルが放った陽電子砲が原因であった。 衝撃波によってハマーン機がバランスを崩し吹き飛ばされる。

ザフト軍のトップエースである、クルーゼはその隙を逃さず、咄嗟にスラスター推力を全開にして逃走していた。 ハマーン機がバランスを崩していたとはいえ、ハマーンの必殺の一撃を回避出来たのは、 目的を果たすために、何が何でも逃れなければならないクルーゼの生に対する執着が生んだ奇跡と言えるであろう。

先ほどの爆発は、ハマーンからすれば敵の新手による攻撃の可能性も捨てきれず、周辺索敵と態勢の立て直しに貴重な時間を浪費した。そして、既にシグーだけでなくイージスの姿もない。イージスを操るアスランもクルーゼと同じく、凶悪な技量を誇る連合機から逃れる一遇の機会を逃さなかった。

勝てない敵に挑むのは勇敢ではなく、ただの無謀に過ぎない。

「敵の攻撃…いや、第二射が無い?
 そうか…何らかの理由で放ったアークエンジェルの陽電子砲か…」

ニュータイプの感知能力にて状況を理解したハマーン機が再び動き出す。









「ふ…ふははは、私の運は尽きていなかったようだな!」

大爆発が起こった瞬間を逃さず、逃走に成功したクルーゼはコックピットの中で吠える。 絶望的状況から脱出できた反動と言えよう。コックピット表面が少し融解しており、あと0.5秒でも遅ければクルーゼは死んでいたに違いない。

母艦に戻るために大破したシグーを操りながら、自分の母艦であるナスカ級 ヴェサリウスのフレデリック・アデス艦長へと通信を送る。

「此方、クルーゼ!
 ヴェサリウス、聞こえるか!?」

「隊長、ご無事でしたか!」

「アデス! 撤退準備だ!
 地球軍の新型は予想以上の性能を有している。
 これ以上、この宙域に留まるのは危険だ!
 私も今から戻る」

「な、中に突入した友軍は!?」

「あの敵では、1機も残っておるまいよ…」

アデスは隊長のクルーゼから聞かされた内容に驚く。

6機のジンがヘリオポリスにいる程度の戦力にて失った事実を信じられなかったが、上司のクルーゼが冗談を言うタイプでもないのは知っている。そして、今までのクルーゼが積み上げてきた実績から、その決断に従うのが最善だとアデスは結論した。それに、戦場で迷うのは百害あって一利も無い。

「……判りました、撤退準備に取り掛かります」

クルーゼはアデスからの返答を確認し終えると通信を切る。
呼吸を整えなおすと、操縦桿を握りつつ毒々しい感情を露にして言い放つ。

「そうだ!
 私は、憎しみの目と心と引き金を引く指しか持たぬ者達の世界を滅ぼすまで!
 この私は死ねぬのだ!」

言い終えて落ち着きを取り戻した瞬間、シグー全体に大きな衝撃が走る。

「ぐはっ! な、なんだと!?」

クルーゼは衝撃の原因を知って驚愕する。
MSからの蹴りをシグーの肩に喰らっていたのだ。
そして、モニターの先には先ほど対峙していた忌まわしき純白の連合機があった。

一度見失ったシグーをハマーンが再度に及んで補足する事が出来たのは、クルーゼが放っていた暗い感情を、ハマーンは卓越したニュータイプ能力によって感じ取って追撃していたからだ。日本国の諺で言えば、"人を呪わば穴二つ"であろう。

ハマーンは驚いているクルーゼに対して
機先を制するように全周波数帯のチャンネルにて言い放つ。

「待ったか?」

「き、貴様!」

クルーゼは苦悶の表情を浮かべる。
先ほどよりも機体状況が悪い中で、このような悪魔のような技量をもつ敵と会敵してしまった現実を呪う。どのように考えても、逃げ切れる要素などは無かった。

しかし、 動きが鈍っているシグー機に対してハマーンは、攻撃を仕掛ける絶好の機会にも関わらず、攻撃ではなくただの問いかけしか行わない。

「爆発の隙を突いたとはいえ、先ほどの一撃から逃れたのは褒めてやろう。
 で…貴様の名前はなんと言う?」

「何を言っている!?」

クルーゼは理解できない展開に戸惑う。

「私は名前を聞いているのだ…
 お前は、そのような事も理解できないのか?」

「ラ……ラウ・ル・クルーゼだ…」

「ふむ…クルーゼと言うのか」

ハマーンはその長年の経験によって、場の雰囲気を支配する方法に長けている。
それもその筈、侮られては苦難の歴史を辿ってきたアクシズなどは統治できないだろう。強烈なプレッシャーを当てられたクルーゼはただ、答えるしかない。 先ほど味わった神技が、その効力を高めていた。

クルーゼは更なる攻撃行動ではなく、言葉のみの反応に驚く。

絶好の機会だったにも関わらず、ハマーンがシグーに対して致命傷を与えなかったのは、先ほどの環境の変化を見事に生かした引き際を褒めたかったからだ。昔のハマーンならば、同じような状況であっても、機体に対する致命傷を与えていたが、このような変化も、ジュドーとの邂逅によって僅かながらに増した優しさが原因であろう。

(逃してくれるのか?)

攻撃の無い事実に、クルーゼは淡い期待を抱く。
彼は己の最大の目標である世界滅亡の成就の為なら、どの様な屈辱も甘んじる心算だった。

対するハマーンは静かに対峙するだけだ。
そして、不思議と最終決戦時にてジュドーから掛けられた言葉を思い出す。

『その潔さを、何故もっと他の事に使えなかったんだ、そうすれば地球だって救えたのに!』

懐かしい声を思い出したハマーンは、ほんの一瞬だが穏やかな表情を浮かべた。

(この男からは感じる暗い波動は予想より大きく、地球に仇なす何かを確実に感じさせる……
 攻撃を避けた褒美として、先ほどまでは見逃すつもりだったが…

 あの世界では無理だったが、この世界ではジオンの柵も無い…
 そうなると…ジュドーの想いを叶える為に邪魔になるであろう、この男は生かしておけぬ…)

ハマーンが感じ取ったクルーゼの評価は間違っていない。
クルーゼは地球圏安泰を脅かす存在であり、殺すべき敵である。

瞬時に決断を下した、ハマーンはクルーゼに対して凄まじい殺気を放つ。
卓越したニュータイプが放つことの出来る精神感応波によって増幅された、ハマーンからのプレッシャーが容赦なくクルーゼに襲い掛かる。

「こ…これは、殺意、いや悪意か!!!」

「ほう、やはりお前は、この感覚を感じ取ったか…」

ハマーンは改めて感心した。
クルーゼも場数を踏んでニュータイプとしての素質を伸ばせば、良い敵手になれたであろう。

「な、何だあれはっ!?」

不幸にもクルーゼには成熟していなかったがニュータイプとしての資質があり、連合機の背後に悪鬼のように浮かび上がるハマーンの形容しがたい異様な気配を直感的に感じ取ってしまった。そして、自分が今、この場所で死ぬのを理解してしまう。

「しかし…残念なことに、お前は敵だよ……クルーゼ」

ハマーンは淡々と言葉を紡ぐ。

「動け!、何故動かぬ、シグー!!」

ハマーンが放った力は、パプテマス・シロッコが乗機ジ・Oの制御をカミーユ・ビダンによって無力化されたものと類似であった。カミーユと決定的に違うのは、ハマーン自身の意志の力だけで具現化していた事であろう。彼女はかつて、ジュドーが操るZZガンダムとの最終決戦において、放たれたハイメガキャノンをニュータイプの能力だけで受け止めていたのだ。そのことに比べれば、シグーを無効化することなどは容易いと言える。

「ふっ……暗黒の世界に戻れ! クルーゼ!」

ハマーンはかつてカミーユに言われた台詞を流用したものであったが、クルーゼに対する言い回しとしては言い得て妙であり、最高の言葉であろう。ハマーンはこの世界に来て、優しさだけでなくユーモラスのセンスも向上していた。

「うおぉおおおおお!!!!
 私は、こんな処で終わるのか!
 私はっ……!」

クルーゼは迫り来るサーベルの光を見て叫びながらも回避を試みる。逃れられないのは判っていても、生きている間は足掻くのが人間であろう。しかし、クルーゼの努力も空しく先読みしているハマーンからは逃れることは出来ずに、一寸の狂いも無くシグーのコックピットにビームサーベルが突き立てられた。

殆ど抵抗すら出来ない敵を攻撃する行いは、残酷に見えるかもしれないが降伏行動を行っていない敵を助ける道理は無く、ハマーンの行動は戦場に於いて当然の行いである。

グリマルディ戦線で活躍したクルーゼは、余命が短く早期に老いが訪れるという「失敗作」として誕生させられてしまった体細胞クローニングの自分を呪い、自らを生み出した世界を滅ぼすために、大戦を引き延ばし、人類が滅亡するような最終戦争へと昇華させようとした男であったが、その最後はあっけない幕引きであった。














ワシントンD.C.にある大西洋連邦国防総省にて、大佐の襟章をつけた男が自らの執務室にて電話を掛けていた。 使用している回線は、通常回線ではなく対通信傍受対策が施されているものである。

「NRO(国家偵察局) が行っているコミント(通信傍受)によりますと、
 ヘリオポリスを襲撃したザフト軍は一部は逃したものの襲撃部隊は壊滅状態に陥りました」

「はい。誤報ではありません。
 E-O情報(紫外線、可視光線、赤外線)からも検証済みです」

大佐と話している相手の会話内容は聞こえてこないが、大佐の気を使った話から方からして、相手の位の高さが伺えるであろう。

「以上の事からG計画は極めて有効かと…」

「はい、分かっております。
 戦闘レコーダーの記録は手に入り次第、最優先にてお送り致します」

「はい」

「それと、調査していたザフト建軍の背後関係ですが、
 非理事国がジャンク屋ギルドになる前身の組織を通して支援していた節があります」

「はい」

「ええ、この情勢下ですので…はい」

「はい」

「分かりました。
 優先的に調査を始めます」
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】
登場シーンが少なくて少しかわいそうだったので、今回クルーゼさんが再登場!
死んじゃったけどねwww

クルーゼが進めていた最終戦争計画はこの時点で破綻し、 大国理論による安心が出来る普通の大戦争が始まるでしょう…


【MSの後ろに異様な気配ぃ!?】
ZZ時にて、キュベレイの背後に悪鬼のように浮かび上がるハマーン・カーンの影がありましたw


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年09月19日)
gif gif
gif gif
■ 次の話 ■ 前の話
gif gif