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■ EXIT
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女帝 第05話【ヘリオポリス防衛戦:4】


「くそぉ!」

(何故だ! この相手には先読みが通じぬ!!)

クルーゼはハマーンの攻勢により防戦一方に追い込まれていた。 彼が得意とする先読みも、より上位に位置するハマーンでは通用しない。クルーゼの先読みよりも、ハマーンの先読みの方が上手だからだ。

ビームサーベルの軌跡を描くたびに、シグーが追い込まれていく。

隊長機の劣勢にアスランはバルカン砲で援護を始めた。
ハマーン機の背後から多数の75mm対空バルカン砲が飛来する。

「んっ? このハマーン、見くびってもらっては困る」

飛来を先読みしたハマーンはアスランの努力を嘲笑うかのように、機体各所のスラスター推力の調整にて行った完璧とも言える回避機動にて、シグーに対しての追撃を止めなかった。

迫りつつある連合機を見たクルーゼが叫ぶ。

「こんな場所で、私は死ねんのだ!」

クルーゼの表情は仮面で分からないが、 コックピット内で叫ぶように言い放つ様は、迫りくる恐怖から打ち勝とうとする姿にも見える。追撃から逃れるべく、距離を取りながらクルーゼはシグーの左手に装備されているM7070 28mmバルカンシステム内装防盾を起動した。

「喰らえ!」

ハマーン機に対してクルーゼは、アスランの援護射撃に連動した28mmバルカン砲を放つ。
常人では回避できようもない火線がハマーン機に降り注ぐも、射線が読まれているかのように当たらない。ハマーンはイージスを忘れていたのではなく、バルカン以外の武器を失った機体を脅威として見ていなかったのだ。やがてイージスは弾切れに陥る。ハマーンを前にして、こうなってしまえば、イージスは高価な棺桶でしかない。

シグーに対して追い打ちに取りかかりながらハマーンは言い放つ。

「貴様、何か勘違いをしていないか?」

「何を言っている!?」

「このハマーンを前にして、貴様に生死を定めるような決定権があるとお思いか…?」

先ほどクルーゼが死ねないと言い張った決意に対するハマーンの問いは冷たい。 クルーゼの儚い想いを打ち砕くようにハマーン機はシグーに追いつく。モニターに映るデュアルセンサーの鈍い光が、死神の目のようにクルーゼの瞳に仮面のフィルター越して焼きついた。

恐怖に支配されなかったクルーゼは称賛に値するだろう。

クルーゼは咄嗟にシグーの右手に持ったMA-M4重斬刀を斜め上から振りおろして迎撃しようとする。しかし、戦いの主導権はハマーンが握っていた。シグーが振りかざしたMA-M4重斬刀が頂点に達した時に、喰らった右側からの下段蹴りによって、シグーの体勢は完全に崩れて横側に半回転した。

振りかざしたMA-M4重斬刀によって作用点を移動させ、力点が機体下半身に移った瞬間を見計らう、恐るべきとも言えるハマーンが有する脅威の技量であろう。

「その程度の打撃でシグーがバランスを崩すだと!?」

ハマーンが行ったのは、第1種てこの仕組みを応用した戦闘技法である。
合気道と同じく、相手の運動エネルギーを自分に有利になる様に利用したに過ぎない。

「おのれぇっ!」

姿勢を崩されたクルーゼは怒りつつも、
相手からの攻撃を第六感にて感じるとスラスター推力を全開にする。
その決断は正しかった。

ビームサーベルの煌めきが走ると、28mmバルカンシステム内装防盾は腕ごと切り落とされていた。加速しなければ胴体ごと斬られていたであろう。

「ほう、避けたか…
 流石と褒めておくべきか…この程度に過ぎないと、迷うところだが…
 どちらにしても、後が無いなぁ?」

ハマーンは語りかけながらも攻撃の手を一切休めない。
シロッコやシャアと言い合った経験もあり、彼女の言葉の毒は大きく、激しい攻撃と相まってクルーゼの心を追い詰めていく。

「クッ! 馬鹿な!?」

「ほう? 悔しさの次は現実逃避か?
 感情が豊かな事だな…しかし、心だけでは何も出来ぬよ」

MA-M4重斬刀がビームサーベルによって切り落とされ、クルーゼ機を守る武器が無くなった。
ハマーンは巧みに同じ箇所を切りつけることによって、最硬度の材質で作られたMA-M4重斬刀を切断したのだ。

「落ちろ!」

ハマーン機が繰り出した、ビームサーベルの赤い閃光がシグーのコックピットに迫る。
クルーゼが凝視していたモニター一杯に終末の光が映し出された瞬間、辺りに耳をつくような爆発音が響いた。














同時刻、日本国


「皆さん、私は日本国総理大臣、吉田正志であります。
 テレビやラジオのチャンネルはそのままでお願いします。
 本日は悲しいお知らせをしなければなりません。

 プラントは戦争相手国だけでなく、宣戦布告すらしていない中立国に対しても、
 戦略兵器として捉えて間違いないNJを打ちこんだのは皆さんもご存じだと思います…

 NJの被害と共に引き起こされた混乱によって、
 地球全土では血のバレンタインを遥かに上回る死者が発生しました。
 今もその犠牲者は増え続けています…

 しかし、プラントはそれだけでは飽き足らず、
 事前に用意していたとしか思えない、
 地上戦用の兵器を用いて地球に対して独立戦争の名を騙った侵略戦争を行ってきました。
 その勢いは留まることを知りません。

 日本国民の皆さんはご存じのはずです。
 卑怯にも、AFCにて発生した混乱に乗じて地球連合軍を背後から襲った東アジア共和国軍は
 台湾国を制圧し、更にはC.E.70年4月12日には我が国にも攻撃を仕掛けてきました。

 そして、東アジア共和国は大洋州連合と共に、プラントの同盟国であります。

 台湾制圧、NJの無差別散布、我が国に対する軍事行動を含めた、行動の真意を
 プラント、東アジア共和国、大洋州連合に粘り強く問いかけてきましたが、
 納得の行く回答は未だありません。
 それどころかプラント率いるザフト軍は、我が国の平和への想いを踏みにじるかのように
 我が国の宇宙開発の拠点であるL1宙域の飛鳥に対して威力偵察を繰り返しています。

 日本政府はこのような世界情勢において、
 残念ではありますがザフト軍を用いて世界征服を目論むプラント、
 それに同調する東アジア共和国と大洋州連合に対して、
 本日のC.E.71年1月25日を持ちまして、宣戦布告する事を決断しました。

 日本政府は国内に住むナチュラルとコーディネーターの将来における、
 安全と自由を守るために国民の皆様には、なにとぞ、ご協力の程をお願い致します」



首相官邸の会見ルームにて行った、全メディアネットを通じて国民に対する重要発表を終えた 吉田首相は、まだ45歳に過ぎなかったが、卓越した戦略眼と判断力を持っていた政治家である。そして、率いる派閥も大きく戦時下の日本を率いるに相応しい人物と言えた。

プラントが大洋州連合と東アジア共和国の間で締結していた同盟は対地球連合用の軍事同盟であり、その他の戦争には関与していない。日本国の吉田首相が狙い定めて放った、この一手はプラントの対地球戦略を大きく狂わせることになる。

吉田首相は執務室に戻ると、傍に控えていた尾崎官房長官に命じる。

「これでプラントや大洋州連合との戦争が始まった。
 事前閣議で決められた通り、プランFG-58を行う。
 早速、大西洋連邦とユーラシア連邦に商業用核融合発電施設を安価で提供すると伝えよ」

「分かりました。
 しかし…本当に宜しいのですか?
 あれは、我が国の秘匿技術の一つです、それをみすみす他国に…」

「構わん。 どのみち後5年もすれば大西洋連邦も開発するだろう…
 しかし、原子力発電が使えない今こそ、このカードは最大限の力を発揮する。

 後生大事に抱えて腐らせては本末転倒だろうよ。
 技術ひとつで外交戦略の選択肢が増え、パテント料が手に入るのだ、惜しくはない」

第三次世界大戦で現実を学んでいた日本国は、C.E.70年4月12日を境に始まった東アジア共和国との戦争でも、地球連合に加盟せず独力で戦い抜いていた。国家間はボランティアで動くほど甘くはない。同盟国に頼るのは甘えであり隷属化の第一歩である。

ここまで大々的に宣戦布告に踏み切ったのは、日本国防軍は極秘開発していた戦術核に匹敵しながらも放射能を全く排出しないクリーンな戦略兵器とも言えるE3兵器(Electron-Excited-Explosives:電子励起爆薬)が先月に完成し、量産を始めていたからだ。歴史的に核兵器アレルギーが強い日本国は核に変わる戦略兵器の開発に力を入れており、このような兵器を保有できていた。必要は発明の母である。

また、これ以上プラント勢力が拡大すれば日本国の貿易相手が目減りする経済的な理由もあった。 このような日本の行動を可能にしているのは、大西洋連邦に次ぐ世界第2位の経済力と、経済力の源である世界最先端技術の存在が大きい。

また、原子炉には頼らず、地熱発電、太陽発電、潮汐発電、風力発電、バイオマス発電でエネルギーを確保していた日本国は、NJによる混乱が殆ど無く、国力は相対的に増強していると言っても過言ではない。極め付けなのが、半年前に完成して極秘裏に運用している商業用核融合発電所であろう。

「確かに…おっしゃる通りです」

「それに考えてもみたまえ。
 エネルギーを早急に欲している彼らが、こぞって日本製核融合炉を使用するのだ…
 あれはコストからして簡単に作り直せるようなものではない。

 一度建造したら最低25年は稼働しなければ元は取れんよ…そう、25年だ!
 動き続ける限り、保守点検を含めて我が国にパテント料が入ってくる…
 分かるかね、その意味が?」

吉田首相は大西洋連邦とユーラシア連邦の両国に対して恩を売りつつ、日本の目的を知りつつも作らざるを得ない状況を見越していた。事実、後の地球圏における核融合発電所のシェア(市場占有率)は日本製に占められるのだ。

「大きいですね…」

「技術とは利用してこそ価値がある。戦略の選択肢は多ければ良い。
 コーディネーターで占められるプラント評議会にはそれが分からんのだな…
 新人類を自称する割には愚かなことだ…」

一礼の後に官房長官が首相執務室から退室する。
吉田首相は窓の外に広がる風景を眺めながら呟く。

「プラントはやり過ぎた…
 …自覚は無いだろうが奴らの春が終わったのだ、その事に気がつくのは何時だろうな?
 そして、その代償は決して小さくはあるまい…」

日本国による宣戦布告は、即時攻撃を意味するものではない。 戦時体制を明確に宣言することによって、理想を振りかざす愚かなオーブとの永遠の離別を計ると同時に、宣戦布告に伴う戦時支援の名のもとに大西洋連邦とユーラシア連邦の経済圏に紳士的に食い込むつもりなのだ。

その為のプランすら既に動き出していた。

このような卓越した戦略手腕と経済感覚、そして決断力を有する吉田首相は、後に誕生する地球連邦の二代目首相に選ばれる事になる。
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【あとがき】
ハマーン様、相変わらずの無双ですw
そして女王様ですww

日本国がプラントに対して正式に宣戦布告しました。


【日本異様に強くない!?】
この話は現実的な国力に基づいて進むので、日本の強さは当然です。
NJが無ければ大西洋連邦は既にザフトに勝っていたでしょう。

【E3兵器!?】
威力は水爆に劣ります。
しかし…核兵器が使えなくても、これは関係ありませんww
コスト面からE3兵器の世界を焼き尽くすほどの大量生産は難しいですが、抑止効果としては高く、日本国防軍の手ごわさも相まって確実にザフト評議会は頭を抱える事になるでしょう……


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年09月16日)
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