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女帝 第04話【ヘリオポリス防衛戦:3】


メビウス・ゼロ、形式番号TS-MA2mod.00と呼ばれるMA。ザフト軍のMSと対等に渡り合うことができる数少ない機体の1つで、機体中央モジュールの対装甲リニアガンに加え、胴体の上下左右に突出した空間認識能力が無ければ使えない「有線式ガンバレル」を4基搭載している、メビウス・ゼロがザフト軍のZGMF-515「シグー」と戦火を交えていた。

「私がお前を感じるように、お前も私を感じるのか?
 不幸な宿縁だな。ムウ・ラ・フラガ」

彼の名前はラウ・ル・クルーゼ。C.E.70年2月22日の世界樹攻防戦で、モビルアーマー37機、戦艦6隻を撃破した功績を称えられネビュラ勲章を授けられているザフト軍のトップガンであった。そして、今回の襲撃作戦を考えた人物でもある。

対するMAを操るのはムウ・ラ・フラガ大尉は、重要な鉱山基地がある月面のエンデュミオン・クレーターを巡るグリマルディ戦線にて、彼はザフト軍のジン5機を撃墜し、「エンデュミオンの鷹」の異名で呼ばれるようになったエースパイロットである。

二人は空間認識能力と先読み能力を有する卓越したパイロットであり、
お互いの存在を感知し合う事が出来る能力を持っていたのだ。

コロニー外で行われていた2機による戦いは、港湾区画内へと移行していた。
クルーゼは見越し射撃を含みつつ、少しずつ射線を絞っていく。

港湾区画内とはいえ、遠心力によって生まれる擬似重力が及んでおらず、酸素があるのを除けば、宇宙空間に近い。

「くっ! こんなところで!」

苦しそうにしながらも、フラガ大尉は巧みな戦闘機動によってシグーからのMMI-M7S 76mm重突撃機銃の攻撃を回避していくも、メビウス・ゼロが急激な回避を繰り返すごとに、航空戦に於いて重要な速度が失われていく。

継続した回避が困難になる前にフラガ大尉は、対装甲リニアガンにて反撃を行おうと、メインモニターに表示されている、HUDに正方形のTD(目標指示)ボックスにてシグーを捉えようとするが、港湾区画の施設が邪魔で捉える事ができなかった。

「この辺で消えてくれると嬉しいんだがね…ムウ!!」

シグーを操るザフト軍のパイロットが言い放つ。
言葉と同時に放った、76mm重突撃機銃からの機銃弾が有線式ガンバレルに被弾し、1基を損失する。

「くそぉ!」

有線式ガンバレルの損失は大きい。
有線式遠隔兵装と同時にブースターも兼ねている、有線式ガンバレルを1基失うのはガンバレルによって得ていた火力と加速力の25%の損失と同意語である。

フラガ大尉は残されたガンバレルによって反撃と回避を行いつつ、
必死にシグーを食い止めようとしていた。

クルーゼは、ガンバレルから放たれるオールレンジ攻撃を避けつつ、 ガンバレルを破壊する。クルーゼの操るシグーがメビウス・ゼロの本体に対する攻撃に移ろうとしたとき、クルーゼはモニターの片隅に火災による煙に隠れがちな、赤色の機体、薄茶色の機体、純白の3機のMSを捉えた。

「あれは…鹵獲機?…ふむ…しかし…」

クルーゼは思案する。
原因はIFF(敵味方識別装置)の反応だった。

IFF(敵味方識別装置)とは、デジタル信号による質問波と対象機からの応答波と、赤外線画像を用いた航空機の特徴抽出を行い、エンジン数、エンジン配置等の情報から敵味方識別を行うシステムである。

モニターに捉えた健全そのもの純白のMSからは、
ザフト軍とは異なる識別信号が放たれていた。十中八九、地球連合の機体であろう。

それに対して、各所の装甲は剥がれ左腕喪失と右肘以下欠損という誰が見ても満身創痍と言える赤色の機体と、片手と片足を失い移動すらままならない薄茶色の機体の方はIFF(敵味方識別装置)は作動していない。

損傷による故障かもしれぬが、連合機にも関わらずIFF(敵味方識別装置)を作動させていないという事は、鹵獲機としての可能性が大きい。だからこそ、クルーゼは困惑していた。損傷機が鹵獲に成功した機体だとすれば、純白のMSは敵になる。

しかし、それでは鹵獲部隊の援護を行っていた友軍は、現在も交戦中としか考えられないからだ。ヘリオポリスにそれほどの戦力が合ったであろうか? 事前の情報では6機の試作MSと、若干の大西洋連邦軍とオーブ軍でしかない。

だからこそ、クルーゼはコロニー内に侵入したMS部隊が全滅し、
鹵獲部隊が大損害を受けているとは思いもしなかった。

クルーゼが通信によって確かめる前に、全周波数帯のチャンネルにて通信が入ってくる。
通信相手はアスランからだった。

「クルーゼ隊長!」

「アスランか?」

「隊長っ! あの白い機体は危険です!!」

「落ち着け、アスラン!
 他の者はどうしたというのだ?」

クルーゼは質問しながら、メビウス・ゼロを牽制する。
フラガ機の攻撃力は激減したとはいえ、無力ではないからだ。

アスランは、クルーゼ隊長に事情を説明しようとするが、ディアッカに迫る危機に反応して出来なかった。アスランは、状況説明よりも戦友の生命を優先したのだ。

「ディアッカ!」

白い機体が連合機と判ったクルーゼの反応は早い。
ザフト軍のトップエースとして君臨しているクルーゼが操るシグーは、 アスランが警告を発したときには、すでに76mm重突撃機銃を白い連合機に向けて放っていた。

攻撃に曝されたハマーンは冷静に反応する。

「ほう、無駄の無い射撃だが…この私には当たらぬ」

(しかし、あの機体から感じる黒い衝動は一体…)

最小限の回避で、ハマーン機はバスターへと向かう。 ザフト機から感じる禍々しい気配は気にはなるが、ハマーンは定めた優先順位を変える気はない。
連合機の回避を見て、珍しくクルーゼが驚く。

「容易く避けるか! しかし、これは!?」

連合機が行った一連の戦闘機動を見たクルーゼは感嘆の声を上げつつ、白いMSからは、フラガと似たような感覚であったが、彼とは比べ物にならない圧迫感を放っているのも感じられた事に戸惑いを隠せない。

(この…感覚、フラガ家に関係する者か?)

アスランの警告と、クルーゼの援護によって回避時間を稼いだディアッカはスラスター推力を全開にして後方に飛ぶも、その程度で攻撃を避けられるほど、ハマーン機の戦闘機動は甘くはない。回避を見越して折り込み済みだった。

「邪魔が入ったが、遠慮なく受け取れ」

ハマーンは冷たく言い放つ。
白い機体が放った閃光のようなビームサーベルの剣閃はバスターの胸に走った。

「ぐぁあ」

ディアッカは機体に襲いかかる衝撃に苦悶の声を漏らす。傷は浅くは無くフェイズシフト装甲がダウンした。 ハマーン機はそれ以上の追撃は行わず、シグーからの射撃を回避しつつ、周辺の地形や状況を巧みに利用して次の目標へと移る。

(こいつはやばい、クソ!)

アスランは焦る。
これまでの戦いから、この女が相手では、いかにクルーゼ隊長とはいえども、 勝てるとは思えなかった。アスランは最悪最低な事態から逃れようと必至になって連合機を探す。

その努力は実り、指揮官機として設計されていたイージスの優れたセンサーはシグーの真下に充ちつつある煙に紛れながら急速接近を計っている連合機の熱源を捕捉した。

「隊長!! 下!」

「何ぃ!?」

卓越した空間認識能力と操縦技量を持つクルーゼは、アスランの警告前に回避準備行動に入っており、ハマーン機からの第一撃に反応する事が出来た。回避行動によって増したスラスターの推力によって煙が辺りに散る。機体を横滑りさせると、直前までいた場所にビームサーベルの一閃が走る。

「ほう? 直撃を避けたか…少しはやる様だが…しかし」

「……何だと!?」

シグーが持っていた76mm重突撃機銃があり得ない個所からずり落ち、地面へと落下する。
蔓延する煙でシルエットしか見えないが、その中で連合機のデュアルセンサーが放つ光と、ビームサーベルが放つ鈍い閃光が厳かに輝いていた。

クルーゼはライフルを失ったが、慌てることなく間合いを取ると、背部スラスター側面にマウントされていたMA-M4重斬刀を取り出す。戦争に慣れているクルーゼは慌ててはいなかったが、敵機が見せた信じられないぐらいの近接格闘能力に驚く。

「この圧迫感! お前は何者だ!?」

クルーゼは気持を引き締める。蓄積ダメージによって機体の限界点を突破したバスターが爆発したが、集中するクルーゼには気にもならない。それに、クルーゼは戦場で他者に気を取られる愚かさを知っている。

「私の名前か?」

一呼吸おいてから、ハマーンは言い放つ。

「私は、大西洋連邦軍所属、ハマーン・カーン大尉である!」














「分かっている!
 艦起動と同時に特装砲発射準備! できるな、曹長?」

代々続く軍人家系の出身で、女性でありながら優秀な戦闘指揮官であるナタル・バジルール少尉がLCAM-01XAアークエンジェルのブリッジにて命令を下していた。

アークエンジェルとはオーブの資源衛星ヘリオポリスのドックで極秘裏に建造が行われた大西洋連邦の新鋭強襲機動特装艦である。陽電子破城砲「ローエングリン」やラミネート装甲の使用、地球軍艦艇として初めてのリニアカタパルトの採用、大気圏突入能力を持たせるなど、実験艦的な要素も強かったが、最初からMS運用艦として設計された艦艇である。

「発進シークエンススタート!
 非常事態の為にプロセスC30からL21まで省略。
 主動力オンライン」

「出力上昇、異常なし。
 定格まで、450秒!」

「長すぎる!
 ヘリオポリスとのコンジットの状況!」

副操舵士であるジャッキー・トノムラ伍長の報告にナタル少尉は 即座にヘリオポリスにあるエネルギー導管を利用する代案を考え、トノムラ伍長に対して実行可能か確認するように命令する。

「はっ!…生きてます!」

「そこからパワーを貰え!
 コンジット、オンライン!パワーをアキュムレーターに接続!」

ナタルは次々と命令を下していく。
武器システムなどの起動を終えると、ナタル少尉は正面のモニターを見て宣言する。

「気密隔壁閉鎖。
 総員、衝撃及び突発的な艦体の破壊に備えよ。
 前進微速。アークエンジェル、発進!」
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【あとがき】
ヘリオポリス戦が終われば、要衝防御と軍編成の話になります。


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年09月14日)
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