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■ EXIT
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女帝 第03話【ヘリオポリス防衛戦:2】


ハマーン機のエネルギー残量は 常人ならば危機を感じて撤退を考える状況であったが、幾多の死線を乗り越えてきたハマーンにとっては心地よい緊張に過ぎなかった。それに、自らの計画を土足で踏みにじった無礼者を前にして、御礼をせずに引くほど甘くはない。

そんな中、親友のニコルを殺されたアスランがイージスのコックピット内で叫ぶ。

「よくもニコルをぉおおお!!」

アスランは許しがたい怒りをニコルを殺した連合機に対して伝えたいのか、わざわざ全周波数帯にて音声を流していた。しかし、ハマーンにとっては滑稽そのものである。戦争で人が死ぬのは当たり前であり、戦場のど真ん中で感情を剥き出しにて冷静さを失うなど愚物にしか見えなかったからだ。

ザフト軍と対峙しつつも、隙を見せずにハマーンは考えていた。

(ザフト軍の襲撃…考えようによっては私にとっては好都合かもしれん)

既に実用に耐えうるMSの完成に伴ってG兵器開発計画(以後「G計画」と表記) の重要なデータはハルバートン少将に送られている。これからヘリオポリスにて行おうとしていたのは、5種類のG兵器の中から主要量産機の元になる機体を選ぶための試験評価であった。

(不幸な襲撃であったが…ストライクが他のG兵器を圧倒していた現状からして、
 私が選ばなかった機体は量産候補から確実に外されるだろう)

ハマーンは損失の中に利点を見出して口元を小さく上げて声を立てずに笑う。

よほどのコストを掛けた特殊機でもない限り、中距離戦や長距離戦用のMSは早期に陳腐化してしまうのを、ハマーンは宇宙世紀の経験上から知っている。故に彼女は、ハルバートン少将に対して戦術演習と訓練用を名目にストライク系の先行量産すらも上申していた。

これにより、ヘリオポリス戦におけるザフト迎撃の戦功に加えて、
MS選定の先見性から自らの昇進速度も速まるであろう。

考えを終えたハマーンは無礼を罰する前に幼稚な言葉を掛けてきたイージスのパイロットに対して口を開く。これまで経験したことの無いあまりにも低次元なリアクションゆえに、逆に興味がわいたのだ。

「…それで貴様は何が言いたかったのだ?」

「なっ、なんだとぉ!」

「…貴様や貴様の仲間たちは、先ほどの戦いで私の同僚を何人殺した?
 さぁ、答えて見るがいい」

正論で返されたアスランは言葉に詰まるも、なんとか言葉を繰り出す。

「し、しかし、それはお前達がこのような物を作るからだ!!」

ハマーンの正論に対して、アスランは自らの感情でしか捉えていない、視野の狭いだけでなく話の論点すら離れている未成熟な子供が考えたのような内容で返答した。

相手が敵とはいえ、元の世界ではありえない位に程度の低い軍人にハマーンは呆れる。ハマーンとしては強敵であっても尊敬すべき敵手と戦いたいのだ。頭脳も心も覚悟も子供のような相手と戦って高揚するはずも無い。

「黙れ! お前達のような愚か者に私を非難する資格は万に一つも無いと心得よ」

「貴様ぁああああっ!!」

余りにも予想外の言葉を地球軍から掛けられたアスランは精神未成熟な幼少期に良く見られる逆切れという現象に陥って、怒りは頂点に達する。

アスランは怒りのあまり、SEEDと言われる身体能力が飛躍的に上昇する状態に覚醒し、語らいの時は終えたとばかりに連合機に対して襲い掛かる。右手に構えた60mm高エネルギービームライフルを5連射してから、前面投影面積の少ないMA形態に変形して連合機に向けて突っ込んでいく。そのキレは今までにないぐらいに鋭いものだった。

「ほう? しかし…」

一呼吸の後、ハマーンは言葉を続ける。
ハマーンの凛とした表情はとても魅力的でありならが、背筋が寒くなるほど冷たい雰囲気だった。知、勇、武、覇、魅を兼ね備えた魔性の魅力といえるであろう。

「勢い如きで、この私は倒せん!!」

ハマーンはそう言い放つと、ビームを次々と余裕を持って回避していく。
冷静なハマーンに対して本能で突き進むアスラン。

「地球軍めぇえええ!!」

アスランは絶叫しながらコロニー内で使用する事など想定にすらしていない580mm複列位相エネルギー砲「スキュラ」を憎き連合機を消し去るために放つ。

ビームライフルですら当たらぬのに、より命中精度に劣るスキュラが当たるはずも無く、空しく港湾区画背後にあるコロニーの住宅地へと中に消えていく。想いだけではなにも成し遂げられない。アスランは知らなかったが流れ弾により一つの住宅区画が吹き飛び、1000人近くが死亡していた。

「貴様! コロニー内でそれを放つか!!」

流石のハマーンも目の前のザフト兵が自分の事を棚に上げて行った暴挙に驚く。プラントに住むコーディネーターは宇宙市民の筈にもかかわらず、コロニーに行う蛮行は、ハマーンが嫌った旧ザビ家の行動そのものであった。エネルギーを節約しながら戦わなければならない状況でなければ、ハマーンの逆鱗に触れたイージスは、この段階で撃破されていたであろう。

アスランはMA形態にて近接戦闘の間合いに入ると、両手足のクローに内蔵されたビームサーベルでハマーン機を切りつける。だが、一向に純白の連合機には当たらない。擦れ違い様に振るったビームサーベルによって、ハマーン機はイージスの左手を肘の付け根からシールドの一部を切り落としていた。

ハマーンは他の2機から狙われないように、射線の先にイージスを常に重ねながら戦う。そして、数度の回避行動にてイージスの死角に入り込む。オートセンサーが探知しても人間は反応出来なければ、見つからないのと同じである。ハマーンは反応のタイムラグを突いて、擬似的に死角を生み出していたのだ。

連合機を見失ったアスランは辺りを見回すも、視界の中には見当たらない。

「!?」

アスランがコックピット内のレーダー計器によって背後の反応を捉えも、反応する間もなく、けたたましい衝撃音と共に背後から敵機が迫る。イージスは後頭部にハマーン機の脚部によって繰り出された蹴りによって吹き飛ばされた。イージスは衝撃の強さにメインカメラを損傷する。

「ぐわっ!」

アスランは全身を襲う衝撃による激痛によって正気を取り戻した。

「アスラン!」

イージスが蹴り飛ばされたのを見たイザークが叫ぶ。
ディアッカは連合機による追い打ちを防ぐべく、バスターの左腰アームに接続して連結させた 94mm高エネルギー収束火線ライフルを構えるも、相手の動きを捉えきれない。

「くそっ、全く捕捉出来ない! なんて動きをしやがるんだ!!」

最少の動きで最大の回避を実現している、理想とも言える戦闘機動であった。

バスターによる支援射撃を見越したハマーンはイージスの対する追い打ちを瞬時に取りやめる。順番が代わっただけで、何時でも殺せると瞬時に自分を納得させて目標をデュエルに変更すると、ハマーンはイージスがコロニーの港湾区画の地面に叩きつけられるよりも早く、流れるような動作にて、デュエルに向けて75mm対空自動バルカン砲塔システムを放つ。

「くっ! このぐらい避けて見せる」

実体弾に対して絶大な防御力を有する相転移反応によって強度を劇的に上げるフェイズシフト装甲を展開していたが、被弾を繰り返せば相転移維持のために大幅にエネルギーを失ってしまう。このような強敵が相手では、エネルギーは無駄には出来ない。

驚愕に呆けていたイザークは気を取り戻してザフトのエリートらしい巧みな操縦による回避と、左手に装備されているシールドにて防いでいく。

「ほう? しかし、詰めが甘いな」

僅かに称賛するハマーン。
しかし、ハマーンの本命の攻撃はデュエル本体ではない。

決して広くはない港湾区画内で放たれたバルカン砲は跳弾となってデュエルに、少なくない機銃弾が右手に持っていた175mmグレネードランチャー装備57mm高エネルギービームライフルに当たっている。ハマーンはファンネル型ビットと言われるオールレンジ制圧兵器を容易く操作した技量の持ち主で、高い空間認識能力と計算能力を生かして、正確な跳弾予想すら行う。

必死のあまり、周辺に気を配る余裕の無いザフト軍の3人には判らなかったが、ハマーン機は居住区に対する流れ弾を防ぐために 3機のザフト軍MSをコロニーの港口側の奥に押し込もうと誘導していた。 今のハマーンは厳しくも、必要が無ければ無闇な損害を生み出すような非人道主義者ではない。

イザークが知らないうちに跳弾による被弾が積み重なっていき、ようやく各所の被弾によって火花を放つビームライフルに気が付く。

「なっ、何ぃ!?」

慌ててライフルを破棄すると、その決断の正しさを証明するように爆発した。

そのまま手にしていたら右手は大きな損傷を受けていただろう。
しかし、火力が下がったことには変わりがない。

鈍い痛みを我慢しながら体勢を立て直したアスランは、60mm高エネルギービームライフルにてハマーン機を攻撃するも、掠りもしない。それどころか、すべての動作がエネルギーを浪費する行動にしかなっていない現状にアスランは焦る。

「くそっ!」

「当たらんよ」

ハマーン機は過去に戦ってきた男たちと比べてあまりの不甲斐なさに落胆しながら イージスを無視してデュエルに向かう。追い打ちを掛けられていることを知ったイザークが絶叫する。恥も外聞も無い、無線を切ることすら出来ずに全周波数帯のまま絶叫していた。

「く、来るなぁぁ!!」

デュエルが75mm対空自動バルカン砲塔システムを作動させて弾幕を張るも、連合機との距離が近く散布角度が浅い。

「安心しろ。すぐに終わる…死ね!」

「ッ イ、イザーク!」

ディアッカが叫びながらイザークを守るために対装甲散弾砲によって見越し射撃を繰り出すも、連合機はまるで知っているかのように回避していく。直撃コースにのった弾は盾ではなく、散弾にも関わらずビームサーベルによって確実に弾かれていた。

「マッ、マジかよ!」

ディアッカの支援のお陰で辛うじてイザークは死なずに済んだが、 機体は連合機の放ったビームサーベルの一閃にて、頭から右肩にかけて失われており、デュエルは大破していた。戦力として扱うどころか、機体を艦まで持って帰ることすら怪しい。

親友を辛うじて助けたものの、危険すぎる状況にディアッカが焦る。
そんな中、先ほどからの戦闘によって生じた火災による煙が辺りに広がっていく。悪化する視界に焦りを感じる。大きな煙が連合機を視界から隠す。

そして、煙が晴れる。

「居ない!?」

連合機を見失ったディアッカは必至になって正面、後方、左右を見渡すも、何処にも見当たらない。ニコルが辿ったような末路を連想してしまい、嫌な汗が流れる。不安のあまり声に出して姿を求めていた。

「どっ、どこだ!? 上ッ!!」

ディアッカが気がついた時には、ハマーン機は煙を遮蔽物に見立てて、バスターに対して斜め上から強襲していた。

「くそおっ!」

近接戦装備が全くないバスターは、迎撃しようと94mm高エネルギー収束火線ライフルを上に構えようとするが、ハマーン機によって斜め下に向けて蹴り弾かれる。勢いよく地面に叩きつけられたライフルは嫌な音を立てた。間違いなく破損しているだろう。ライフルの犠牲によって、ディアッカは僅かながらに連合機との距離を取ることに成功する。

ハマーンは逃がすつもりはない。蹴り弾いた運動エネルギーを殆ど殺すことなく、機体を半回転させながら、屈む様にしてバスターに接近しようとするが、ディアッカは咄嗟にバスターの両肩に装備されている220mm径6連装ミサイルポッドから合計12発のミサイルを超至近距離の連合機に向けて撃ち放つ。

しかし、ハマーンは即座に反応。
接近を諦め機体を急速後退させながらバルカンにて弾幕を張る。 12発のミサイルは爆発し、辺りは爆炎に包まれ見えなくなった。

「やっ、やったか!?」

直後、黒煙の中からビームサーベルの煌めきが走る。
モニターに映し出された連合機を見てディアッカは機体に襲いかかる衝撃よりも、この距離で無傷で回避された事に驚いていた。驚きのあまり、自機の胸部装甲が中破している事に気が付いていない。

「この距離でミサイルを全弾回避ぃ!?」

計器やレーダーに頼りすぎているコーディネーターでは、それらが殆ど使えないミノフスキー粒子下での戦争に長けた宇宙世紀の軍人に対抗するのは厳しい。 さらには、先読みを含む超感覚的に動くニュータイプが相手では、更に手強さが増すであろう。オールドタイプがニュータイプを倒そうとするならば、大部隊による物量戦か、精鋭部隊による包囲戦しかない。

3人は一連の攻撃で相手の超絶的な実力に嫌でも気付かされていた。

3対1にも関わらず、確実に削られていく此方側の戦力に対して相手は小破すらしていない。 ディアッカは、この極限状態の中で生き残る方法を計算する。悔しいことに相手の女性は操縦技術は神がかり的で太刀打ち出来そうもない。

追いつめられる余り、ディアッカの思考が僅かながら現実逃避を始める。

(喋り方からして絶対に性格が悪い女だぜ!)

心の中で思った瞬間、ディアッカに理解不能なプレッシャーが掛かる。
嫌な汗が体中から流れ出た。

「ほぉ……バスターに乗っている不届き者は、良からぬ事を思っているようだな?」

(オ、オイ、なんで分かるんだよ!?)

図星を指されて焦るディアッカ。

彼女ニュータイプが持つ精神感応能力を応用して、周囲の人間の大雑把な感情を捉えていたのだ。人はこの様に分かりあえる。もっとも、本来とは全く別の意味だったが……

「まぁいい……大西洋連邦に歯向かう貴様らとは馴れ合うつもりもない」

言葉の後に流れる沈黙が強烈なプレッシャーとなってアスラン、イザーク、ディアッカに襲いかかる。強烈なプレッシャーと迫力を前にして怯む三人に更に、聞きたくなかった言葉が続く。

「では……そろそろ終わりにするか……」

ハマーンは冷たく言い放った。

"終わり"という単語に三人の緊張が一気に高まっていた。"終わりだから今日は帰るね?"のような雰囲気ではない。間違いなく殺しにかかってくる合図であろう。

一連の超絶的な戦いはハマーンの技量の絶対性を証明すると同時に、最小限の動きによる攻撃はハマーン機の残量エネルギーの少なさを証明していたが、アスラン、イザーク、ディアッカにはそれを察する余裕は何処にもない。

もっとも、ハマーン機の状態を察しても打開する足がかりにすらならなかったであろう。現在のエネルギーでも、殺すだけなら十分に足りており、重苦しい沈黙の中、デュアルセンサーが鈍く光る。そして、ハマーン機がゆっくりと終わりを始めるために歩み始めた。





















ハマーン機がザフト軍強襲部隊を追い詰めている同時刻。地球連合の支配下にある月極周回円軌道の上空にて、20隻に上る艦隊が陣形の変更を行っていた。

「アトレウス、メネラオス、ドミニオンが続きます」

「うむ…」

第8艦隊の旗艦を務める300m級宇宙空母アガメムノン級のメラネオスのCDC(戦闘指揮センター)にある提督用の座席にて知将として名高いデュエイン・ハルバートン少将は人のよさそうな表情を浮かべつつ、作戦参謀からの報告を受けていた。

アトレウス、メネラオスは旗艦の同型艦で、ドミニオンはアークエンジェル級2番艦である。

アークエンジェル級とはオーブの資源衛星ヘリオポリスのドックで極秘裏に建造が行われた大西洋連邦の420m級の新鋭強襲機動特装艦である。陽電子破城砲「ローエングリン」や対ビーム用のラミネート装甲の使用、大気圏突入能力を持たせるなど各種の試みに加えて、最初からMS運用艦として設計された艦艇であった。

周辺にはドレイク級宇宙護衛艦が16隻が付き従っている。
ハルバートン少将の艦隊運営の妙を証明するように見事な艦隊陣形であった。

「陣形、再編成完了。
 加速開始、速度両舷前進半速、地球軌道到達時刻、明朝1100を予定」

航海参謀が艦隊状況を報告した。
報告に頷くと、ハルバートン少将は情報参謀に質問する。

「東アジア共同体の艦隊は?」

「L5宙域から動いておりません」

「近くに居れば撃沈してやったものを…」

嫌悪感を露わにしたハルバートン少将に情報参謀が心から同意する。

その嫌悪感の源は、C.E.70年4月1日、エイプリル・フール・クライシス(以後は「AFC」と表記)と言われるザフト軍による軍事作戦を機に行われた東アジア共同体の離反行為にある。

ザフト軍はAFCによって、核分裂を抑制するニュートロンジャマーを東アジア共和国(中国、韓国、北朝鮮、モンゴル)と大洋州連合を除いて、地球全域の中立国を問わず衛星軌道上から地中深くに打ちこんでいった。

ザフト軍が事前の同盟協議を済ませている大洋州連合だけでなく、東アジア共和国に対してもニュートロンジャマーの散布を避けたのは、東アジア共和国は大西洋連邦に対して強烈な対抗意識を強く持っており、ニュートロンジャマーの力を見せつけて利を照らせば寝返ると考えていたからだ。

その為の極秘会談すら行われている。

事実、東アジア共和国はニュートロンジャマーの威力に驚き、地球連合の敗北を予感し、更にはプラント側から参戦の見返りとして、戦勝の証には台湾国、日本国、赤道連合、東シベリア地域の領有保障を打診された事により、地球連合から離反してプラント側へと鞍替えしている。

事前準備を整えていた突如の寝返りによって、東アジア共和国軍によって背後から撃たれた大西洋連邦軍やユーラシア連邦軍も少なくはない。

ともあれ、ザフト軍は東アジア共和国軍の膨大な人的資源と、大洋州連合の海洋戦力を手に入れたことで、近代軍に必要不可欠だった後方支援態勢を手に入れたのだ。

東アジア連合は戦力強化の要である兵器開発技術の提供の見返りとして、L4宙域にあるの資源衛星「新星」をプラントに割譲した。プラントは新星の利用価値を高く評価しており、L5宙域への移送後に名称をボアズと改め軍事要塞として改装していく。

こうした背景によって、ザフト軍、東アジア共和国軍、大洋州連合軍は地球連合軍を構成する大西洋連邦軍、ユーラシア連邦軍との死闘を繰り広げていた。唯一、評価するべき事はブルーコスモスが謳ったナチュラルとコーディネーターの戦争が、ナチュラルによる超大な人口を有する東アジア共和国軍が敵に回ったことで、利益を巡る普通の戦争に戻ったと言えるであろう。

情報参謀から敵情を確認し終えたハルバートン少将は航空参謀に問いかける。

「GAT-X105-E2Sの状況はどうか?」

「ハマーン大尉考案のムーバブルフレームは順調であります。
 ただし、新型の可変スラスターに加えて機体バランスをハマーン大尉用に調整してあるので、
 並みのパイロットでは扱うのは難しいでしょう」

「だろうな…彼女は特別だ。
 だが、軌道運用実験ではリミッターを掛けるんだろう?」

「はい、それでもエースパイロットにしか動かせない機体であります」

この機体はG計画が軌道に乗ると次を見越して、ハマーンがハルバートン少将を通じて開発部に、ムーバブルフレーム、全天周囲モニターリニアシート、イジェクションポッドのアイディアを伝えて、C.E.70年11月18日からGAT-X105Eの設計を元に作られていた機体で、先週に完成したばかりの最新鋭機である。

確かに一線を期した高性能だったが、それだけに製造費も高い。また整備性も良好とは言い難く、量産は出来そうもなかったが、技術試験機としての価値は計り知れないだろう。

「ふむ…なるほどな…
 状況は理解した。実験まで休んでおきたまえ」

ハルバートン少将は会話を終えると、幕僚に対して必要な指示を下していく。

「さて、後は代わりの人員を送り込んで、彼女を迎え入れるだけだな」

当面の艦隊指揮を終えると、ハルバートン少将は呟いた。

実験部隊を立ち上げつつ、作戦遂行に必要な戦力を得る為にハルバートン少将は、ヘリオポリスからスタッフと共にハマーン大尉とマリュー大尉を呼び戻そうと考えていたのだ。その際にハマーン大尉を少佐に昇進できるように人事局に話を通してある。

ハルバートン少将が立ち上がって通信兵に電文を送るように伝えようとした時、副官ホフマン大佐が血相を変えて来た。

「提督! 大変であります」

「どうしたのかね大佐?」

「ヘリオポリス宙域にて強烈な電波障害が発生していると報告がありました!」

「なんだとっ!?
 G兵器、いやハマーン大尉とマリュー大尉は無事なのか!?」

「不明であります! 電波妨害が酷くて確かめようがありません」

報告を聞いたハルバートン少将は苦虫を潰したような表情を浮かべた。
電波妨害は戦闘の証しであり、しかも中立国の宙域という状況からして、ザフト軍の狙いは間違いなくG兵器開発計画に違いない。

ハルバートンは知将に相応しく即座に状況を理解して命令を発令する。

「命令! 艦隊加速中止、60度回頭
 進路1-5-4、速度第五戦速! ヘリオポリスに向かえ!」

「アイ・サー、艦隊第五戦速、進路1-5-4に変更。
 ヘリオポリスに向かいます」

航海参謀が応じる。
矢継早にハルバートン少将は必要な命令を的確に下していく。

「通信参謀! 司令部にA-84を発動すると通達せよ」

A-84とはG計画がザフト軍に察知されヘリオポリスが強襲された時に備えた作戦である。 機密保持と現地スタッフ救出を含めた内容であり、最高幕僚会議の命令が無ければ撤回できないように根回ししていたのだ。
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【あとがき】
ハマーン様無双ですw
というか、ヤザンでも赤服5人程度なら軽く倒せるでしょう。

この大西洋連邦は強いので、バランスを取る意味でも東アジア共和国をザフト側にしました。 というか、そうでもしないとザフト軍の兵員数では兵站や後方支援を維持できないので…

しかし、軍人だけでなく、戦争に不可欠な軍政官(政治家でも可)が足りない…
平行世界と割り切ってマハラジャ・カーンを出そうかなぁ?


【GAT-X105-E2Sって?】
此方が正真正銘の新型機になります。
ザフトが強襲して奪おうとしたのは、元新型機(笑)

【東アジア共和国の動きは?】
AFCの混乱に生じて台湾を制圧した後に、日本国に軍を進めるも、太陽発電、風力発電、地熱発電、潮汐発電、核融合発電によってエネルギーを確保しており混乱が最小限だった日本艦隊の迎撃によって侵攻は失敗に終わっています。

制海権を取れなければ、例え1000万の歩兵戦力が居ても、運べなければ唯の遊兵。


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年09月10日)
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