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ミシェイルの野望 第09話「ミネルバの想い」


ミシェイルがタリス国に滞在してはや4日が経過した。
一向に帰ってこない兄の動向にミネルバは執務室で焦燥に駆られていた。彼女は紅茶が注がれているティーカップを手にしたまま、執務室の椅子に座って考えふける。

「兄上は何時になったら帰ってくるの…」

「兄上…」

「私は……貴方が居ないだけで、こうも弱いとはな…」

「ふう…」

執務の合間に飲んでいる紅茶の味も頼りないものに感じていた。
半分ほど紅茶を残したティーカップを執務机の上に置く。

将軍として高い資質をもつミネルバだが、彼女は常に心のよりどころを必要としていた。 これは幼少の頃から常に頼りになる兄を見てきた影響ともいえる。ミネルバにとって兄ミシェイルの輝きが大きすぎて、他の輝きを感じ取ることが出来ないのだ。

頼り甲斐があり、かつ押しの強いミシェイルにミネルバは知らず知らずに異性として強く惹かれていた。決定的な要素となったのは、前にもまして感じられる優しさだ。家族愛に加えて何か別の感覚、つかみ切れないような歯がゆい思いがミネルバの心をかき乱していく。

「はぁ…悩んでも仕方が無いわ。
 軍務に集中して気を紛らわさなくては、腑抜けた姿で兄上を失望させたくない」

執務室の椅子から立ち上がると、ちょうど執務室の窓から 城に向けて向かってくる竜騎士の一隊が目に入った。

「今日は城から出撃した竜騎士隊は居ない筈…っ! 兄上が帰ってきたの!?」

ミネルバは急いで執務室の引き出しから手鏡を取り出すと髪の整え具合などをチェックした。
髪を短い時間で整え直す。

「うん完璧!」

先ほどまでの落ち込んだ気持ちは何処吹く風かミネルバの心はこれまで無いほどに弾んでいた。ミネルバいわく、敬愛する兄の帰還を喜んでいる仕草らしいが、ミネルバのこの振る舞いは、知らない第三者が見れば間違いなく 恋する乙女が愛しい男性の帰還を喜ぶ姿にしか見えないだろう。

髪の次に襟を綺麗に正し直して、背面部の状態を確認するために鏡の前でくるりと体を一回転させる。問題が無いことを確認し終えると、最後に鏡に向かって2.3度ほど笑顔を作って表情の確認を行う。

「うふ」

それらの動作を終えると、ミネルバは手鏡を机の引き出しに片付けずに、そのまま上に置いたまま急いで執務室から飛び出すように出て行った。整理整頓に厳格なミネルバであったが、この時に限って兄と会う以外は考えられなかった。大きいマケドニア王城の中をミネルバは風のように駆けていく。

マケドニア王城は珍しい地形ともいえる溶岩台地(ペジオニーテ)の上に突き出たような形の山岳に作られていた。ギプフェルブルク(頂上城)と言える城塞で、要衝の上に出来ていおり軍事拠点としては極めて堅牢である。更にマケドニア王城は幾つかの城館に分かれており、それらの部分はホーフブルク(宮廷城)の特徴を強く押し出していた。

城の地下にあるヘリクタイトが多く見られる鍾乳洞には湧水が存在しており、城内地下に存在する豊かな水源によって長期の篭城を可能にしていた。さらに8キロメートル離れた所には有事の際の避難所としてヘーレンブルク(洞窟城)と貯蔵庫が作られている。また、城下にも大きな湖を有しており、水資源は潤沢である。

マケドニア王国最大の戦略拠点とはいえ、これほどの規模になった理由は第一次ドルーア帝国戦役の際の戦訓を取り入れているからだ。対人戦争では過剰とも言える城塞であっても、竜族が相手ではそうではない。過剰とも言える備えがあっても足りないぐらいなのだ。

更に城内に行政・司法などの国政を司る関係省庁の施設も存在している。堅牢な軍事城塞に囲まれた国家中枢といえば判りやすいであろう。

王城周辺の台地は標高が高いだけで平原と変わらず地形的な要衝を生かして、マケドニア王国の首都になる都市が建設された。標高自体がマケドニア王都を守る防壁となっている。更に台地を囲い込むような形で長大な城壁が作られており、王都は厳重に守られていた。その城塞規模はアカネイア大陸の軍事強国に相応しい規模とも言えるだろう。

歴代マケドニア王が質実剛健を好み、王室費の出費を抑えて浮いた資金を防衛に回してきた結果である。 王民一体の一大事業とも言える。マケドニア王城としてギプフェルブルク(頂上城)を作り上げた建築技術者達は、マケドニアにおける豊かな建築事業に惹かれて永住した者も多い。建築技術を発展させる政治土壌に加えて、重要な戦略物資と言って過言ではない大型石材を始めとした各種の建築資材が豊富に取れるのもマケドニアの強みであった。

そして、その建築技術者たちの子孫が現在も国境付近の要塞を始め国内における重要施設の建設を行っており、現在のマケドニア国の優れた建築技術を支えているのだ。

アカネイア二大軍事強国の一つグルニア王国は黒騎士団に代表される精鋭部隊を多数有して、それらの部隊による機動突破戦に重点を置いていた。もう一方のマケドニア王国は王都を中心に国内全ての要衝において自国の空軍戦力を最大限に運営できるように要塞線の整備を始めとした守勢主体の軍備に重点を置いていた。

ミネルバの執務室がある城館は軍務の関係上からホーフブルク側の城館のパラス(居館)内に設けられてた。ちなみに、ミシェイルの執務室は政務を行いやすい内務省の近くに設けられている。  近隣施設に軍務関連の官庁が連なっているミネルバの執務室であっても、城門の外側にある馬繋場や竜繋場までそれなりの距離があった。

「ミネルバ様、こんにちは」

「こんにちは!
 急いでいるの、御免ね」

侍女との会話もそこそこに切り上げたミネルバは歩みを速めていく。

「行ってしまわれた…
 ミネルバ様は…なんだか凄く嬉しそうだったわ」

ミネルバは擦れ違う城内の人々に衝突しなように避けつつ、竜繋場に向けて通路を駆け抜けていく。大広間に到着するとその先にある、大きな構えの石造りの屋外階段には目もくれずにそのままブランケット(手すり)が付いているバルコニーへと向かう。ミネルバは一瞬の迷いもなくブランケットに手をかけると、そのまま乗り越えて直下にあるテラスへと飛び降りる。彼女はショートカットによる距離の短縮を図ったのだ。

「とっ!」

身体能力の高いミネルバは着地時の衝撃を見事流しきって、体に受ける衝撃を最小に留めて降り立った。呼吸を乱す事無くテラスから走り出す。テラスから太陽の日差しによってクッキリと映し出された瀟洒(しょうしゃ)な風景式庭園を通過して、別棟の外れに作られた門番や衛士たちが住む門衛棟の先にある城門の外にある竜繋場に到達した。

「兄上っ!」

ミネルバは竜繋場に入ると同時と矢先に待ちきれない想いがこみ上げてきた。
抑えきれない気持ちに流されるままミネルバは声を上げた。

「これはミネルバ様!」

「あ、兄上は何処!?」

ミネルバは周囲を見回して兄ミシェイルの姿を探す。
しかし、それらしき面影は見当たらなかった。

ミネルバの疑問に一人の竜騎士が前に出て応える。
名はルーメルと言い、ミシェイルの随伴員として竜騎士隊と共にタリスに向かった騎士の一人だ。

「ミネルバ様、我々は伝令の為に一時帰国したに過ぎません。ミシェイル様は交渉の為にまだタリスに滞在しています」

彼は伝令の為にマケドニアに半数を引き連れて戻ってきたのだ。
重要案件を記した書類を運搬する際には確実を規す為に単騎では行わない。

「…そう…」

先ほどは打って変わって、落ち込んだ雰囲気になったミネルバであった。
晴天から一転してどんより雲のような表現がピッタリであろう。

ミネルバは、それ故に兄の軌跡を知りたくて仕方が無く、その兄の行動がある程度判る書状の内容に対する関心が執着とも言えるレベルまで高まっていた。

「…で書状の内容はどのような事かしら?」

「王に直接渡すように厳命されているので、いくらミネルバ様とはいえお見せ出来ません」

「分かったわ。
 貴方はこれから王の間に向かうのよね? 私も付いていきます」

「分かりました」

ルーメルはミネルバの気迫に呑まれて、ただただ頷く事しか出来なかった。










ルーメルと共に王の間に到着したミネルバは、王に手渡される2通の書状から視線を外すことはなかった。 ミネルバはその内容を一刻も早く知りたくて仕方が無かったのだ。父王宛でなければ王族の権威を用いても見るつもりであった。彼女の心には、それほどの思いを秘めていたのだ。

「なるほど…」

「お父様! 書状には何と?」

「うむ…
 ミシェイルは条約は無事に締結。
 されど港町ガルダの治安維持の為に竜騎士隊の1隊の派遣の必要あり…と記してある。」

「…で、もう一通の方はなんと?」

「これはモスティン王からのワシ宛の書状であり、お前には関係ない」

「分かりました」

質問を取りやめたミネルバであったが、もう一通の手紙に胸騒ぎを抑えきることができなかった。

父上は何かを隠している!

ミネルバはその鋭い感によって何かを嗅ぎ取っていた。
彼女の脳内に事実を知るための策が瞬時にひらめいた。これも愛のなせる業であろう。
ミネルバは呼吸を整えなおすと、ミネルバは父王に向って言い放った。

「父上…タリス国に竜騎士隊を派遣なさいますね?」

「勿論だ。ミシェイルの建策を無駄には出来まい」

ミネルバは父の予想通りの返答に内心で笑みを浮かべた。

「では、父上。
 その竜騎士隊ですが、私が率いて…直ちに向いましょう。
 宜 し い で す ね ?」

その口調はとてもとても、力強いものだった。
ミネルバは兄ミシェイルとの再会と現地調査を兼ねるつもりなのだ。
彼女のルビーのように赤く澄んだ瞳は、その強い想いを感じ取れるような強い輝きを放っていた。
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【あとがき】
今回の話も「ミシェイルの野望」なのに「ミシェイル」が登場しないw

マケドニアにヘーレンブルク(洞窟城)が存在するのはオリジナル設定ですw
あの地形からして大きな鍾乳洞があっても不思議じゃないので、有事の際の避難場所として出しました〜

マケドニアの要衝の上に作られている城壁と王城って考えれば凄いよなぁ…
登山不可能な断崖を有する台地の上を囲い込む城壁に森、池そして城ww
相当な建築技術を有さなければ建城は無理なので、それらしい説得力をもたせる内容にしました。

また、マケドニア派遣軍が駐屯する場所はタリス国の「東の砦」です。


それと、私の目指すマケドニア像は…
ずばり、無駄のない大英帝国ですww
必要な要衝を確保して、通商路の維持と海外からの富の集約。
ハブ港などの建設に力を入れていくでしょう。

有力な人材は結婚を含めて多数確保しなければならない苦難…
どんどんFEらしくない世界になっていく(汗)
帆船でも優れた技術で作れば、1000トンの以上の物資を搭載して14000キロを3ヶ月で移動できたりする。
船の作りに関してはミシェイルの知恵でカバー…
あと、マケドニアに必要なのは、鋳鉄製のフレーム製造技術と、ある程度正しい航海図と訓練された船員…そして海外拠点だなぁ。鋳鉄製のフレーム製造は作り方がわかっていても、職人の技術修練がなぁ(汗)

鉄鉱石を溶鉱炉で熱して液状の鋳鉄を大量に得る技術は現実世界においても 紀元前の確立済みの技術だが、問題は錆び難い鋼(鋳鉄と軟鉄の中間の鉄材)の大量生産が難物。

炭素量がやや多い状態の鋼をゆっくりと冷やすと錆に強いセメンタイトの結晶が出来るが…
これって19世紀の技術だぁあああ…セメンタイトの結晶を調べるために必要な顕微鏡ってマケドニアの技術で作れるのかなぁ(汗)
まぁ、ダ・ヴィンチはあの時代に狙撃銃を作ってるから…不可能ではない?

理想はダクタイル鋳鉄だけど、量産無理だな…
内政編…マケドニアの基礎技術力を上げなければならない、なんだか予定より長くなりそうだ(汗)


とりあえず、ようやく話的にミネルバとミシェイルのXXXまで近づいたなw
小説を書くよりも技術検証の方が時間かかるねorz


【主要メンバー状態】

ミシェイルとシーダの仲がより進展しておりますw
ミネルバは何かを察して、父王に不信感を持ち始めましたw
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