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ミシェイルの野望 第07話 「タリス国」


ミネルバに海洋交易の構想を打ち明けた翌日、
ミシェイルはミネルバの執務室で決定事項を伝えた。

「あ、兄上…本当に行くのですか?」

「ああ、飛竜ならば1日位で着くだろう。
 ミネルバ……お前も分かっているだろう、海洋貿易には拠点が必要だと」

「ええ……
 しかし、兄上自ら行く必要は無いのでは?」

ミネルバは貿易の件に関しては賛成だが、兄ミシェイル自ら交渉に赴くと知った瞬間から、心の中に広まるよく分からない不安が広まって行き、それが彼女を駆り立てていた。

ミネルバの問いに対してミシェイルは彼女の目を見て、優しく言い聞かせるように言った。

「必要があるから向かうのだ」

「父上は、父上にはどう説明なさるのですか?」

「これから話す」

話を終えるとミシェイルが去って行く。迅速な行動でミネルバはただ呆然とそれを見送ることしかできなかった。彼女も慌てて父王の執務室に向かっていく。

ミシェイルに追いついたミネルバはその後無言で国王の執務室がある城の奥へと向った。国王の執務室の前には警備の近衛兵が数人が立っている。ミシェイルとミネルバの姿を見ると近衛兵は敬礼して通路を開けた。

父王の執務室に入るとミシェイルは父王オズモンドに対して、昨日ミネルバ に言った船団交易による貿易の内容を包み隠さず伝えた。

「お前の船団構想は素晴らしい……
 が、現段階では船は出来上がっても居ないし予算や資材も足りぬ。
 それだけではない、当然ながら造船所も不足している。
 で…お前はどうしたいのだ、何か策があるのであろう?」

「私自身がタリス王国へ赴いて信義に基づいた条約を結びたいと思っております」

ミシェイルは一呼吸すると言葉を続ける。

「この条約が締結されれば、
 タリスとマケドニアを結ぶ航路間の海賊の拠点に対する橋頭堡を得られます。
 更に航路間の湾岸部に3箇所の警戒所を設置して、それぞれに偵察用の天馬隊を配備して、
 沿岸部の監視を行えば少ない艦艇でも大抵の事は対処出来るようになります。
 そして…この条約の最大の目的は小規模であっても船団行動の経験を積む事です。
 経験なくしてバレンシア大陸に船団を送ることは出来ません」

「ふむ……悪くないな、かの国には幼少の姫君がいるし政略……」

「お父様っ!」

ミネルバの剣幕にオズモンドだけでなくミシェイルですら一瞬ひるんでしまう。
火竜にすら通じそうな威圧感がオズモンドの執務室に放たれていた。

「お父様?…いいですか、兄上は外交で行くのですよ?
 そ う で す よ ね ?」

あまりの剣幕にオズモンドは怯んでしまった。

「あ…ああ…」

「ご冗談を…父上」

「それよりも兄上!
 私が行きましょう。同じ王女同士で話が進むと思います!!」

ミネルバの謎の熱意にミシェイルは困惑する。

ふぅ…ミネルバよ…何故、そこまで熱くなるのだ?
ミシェイルは疑問に思いつつ正論をもって諭していく。

「ミネルバよ、それは間違っているぞ。
 タリス国も我が国と同じく条約締結の権利を有しているのは国王だ……

 更に、事前交渉の無い話し合いだ。
 このような場合は王位継承権第一位の私が行けば信頼性も増して向こうの面子も立つ。
 それにだ、せめて第一王子たる俺が出向かねば失礼であろう」

敬愛する兄ミシェイルの隙の無い正論の前にミネルバの反論は抑えられた。 ミシェイルの冷静な態度に落ち着きを取り戻したミネルバは、これ以上食い下がって も何も変わらないことを理解して引き下がった。私情を通して兄を困らせる訳にはいかないという考えもあったのだ。

「そっ、そうだ…ミシェイルの言う通りだ」

娘から発せられる凄まじい剣幕に気圧されながらも、国王オズモンドは亡き妻の怒ったときにそっくりだったと感じ取り、冗談が過ぎたかなと少し反省していた。ミシェイルは妹の政務に取り組む気迫を伴い、冗談すら許さない真剣な姿勢に感心し、もう少し余裕を持てば良いと考えていた。二人揃って見当違いな誤解をしていた。

「とにかく……
 私はタリス王国との通商航路保全条約の締結を進言いたします」

ミシェイルは妹ミネルバによって乱されたペースを直ちに正していく。
条約などの締結の権利は国王が有しており、国王の裁が必要不可欠であった。

「お前の案だ……滞在期間や条約内容はそなたに一任しよう。
 マケドニア王国の為に頑張ってくれ」

「ありがとうございます。父上……」

「ミネルバよ…留守の間は頼んだぞ」

「…分かりました」

ミシェイルの冷静な態度に落ち着きを取り戻したミネルバは、これ以上食い下がって も何も変わらないことを理解して引き下がった。私情を通して兄を困らせる訳にはいかないという考えもあった。

国王の執務室から退室したミネルバは、自分の執務室へと急いで戻った。何故だか泣きたくなってきた。彼女は部屋に入りって扉を閉めると、その扉に寄り掛かりながら呟いた。

「……兄上の馬鹿ぁ……」

ミネルバも14歳ともなればおぼろげながらも、政略結婚を王族にとって避けられない定めであると理解しているのだが納得は出来なかった。

それが実の兄に対する家族愛とは違う愛が原因だと知ったとき彼女はどう出るのか……
自覚の無いミネルバには判るはずもなかった。


決断力と行動力に不足の無いミシェイルは父王との謁見を済ませると直ちに準備に取り掛かる。ミシェイルは父王オズモンドからタリス国モスティン王に対する土産を預かると、修道院で学んでいるマリアに事情を説明し、昼頃には僅かな竜騎士隊を連れてタリス国に旅立った。

見送りに来たミネルバは兄ミシェイルの飛竜が見えなくなっても、飛びだった方角を心配そうに見つめていた。

「…兄上…」

心なしか彼女に当たる秋風が冷たさを増していた。









タリス国はアカネイア大陸東部に位置し、モスティンがタリス島の諸侯を統一して作られたアカネイア大陸の七王国では最も新しい国である。ミシェイルはタリス国に到着した翌日にモスティン王との謁見に挑んだ。

謁見の間に通される前に、ミシェイルはタリス国の内務官に父オズモンドから預かった土産を託した。しばらくしてミシェイルは王の間に通されて謁見を果たした。

「モスティン王、お久しぶりでございます」

「ミシェイル殿、立派になって…
 して、今日はどのような用件で参ったのかな?」

ミシェイルは父王に伝えた内容をモスティン王に理路整然と伝えていく。
モスティンが特に気に入った点が哨戒線の構築による交易路の安全維持と 港町ガルダを観光都市に変えていく構想だ。

建国したばかりで特に大きな産業の無いタリス王国にとって決して損にはならない話である。

「しかし、これだと貴国にとって、あまり利が無いのでは?」

「現在ではそうですね…しかし5年後を見れば話は変わります」

「ほう?」

「港町ガルダが安心して寄航できる場所となれば、
 交易を行う者にとっては東の楽園に等しい場所になります。
 大規模な交易を行うには寄港地は必要不可欠であり、長期的に見れば双方に利はあります」

モスティン王は各方面に広い面識を有しておりミシェイル王子が飛竜を用いた貿易でアカネイア経済で大きな影響力を持ち始めている事を既に知っていた。無能や情報音痴では建国という難事は成し遂げられない。目の前のマケドニア王子は並みの器では無いと建国王としての感が告げていた。

「よし、私としては大賛成だ。
 諸侯と話し合って結論を出したいと思うが、返事は3日後でよろしいかな?」

「分かりました」

「それまで城内にて滞在するが良い……
 話は変わるが、ミシェイル王子は先ほどの贈り物の中身はご存知かな?」

「いえ? 存じておりませんが…」

「そうか…モスティンが感謝していたとお伝えください」

ミシェイルは知る由も無かった。
贈り物の中に一通の手紙が添えられており、それが父王が進めている計画に関連していたことを…









ミシェイルはモスティン王の前から退出すると、滞在場所として宛がわれた部屋に向う。 落ち着いた感じがする室内で今後の事を考えていると一人の来訪者が訪れた。

他国の王族が滞在する部屋に入ろうとするものは限られており、ミシェイルの部屋に来たのは タリスの王女シーダであった。彼女はモスティン王の唯一の子供であり将来、タリス王国を継ぐのか 諸侯の関心を集めていた。ミシェイルも関心があり、ちょうど良い具合に尋ねてきたシーダを室内に快く招き入れた。


「ミシェイル様は何時までここにいらっしゃるの?」

「3日かもしれないし、5日かもしれません」

ミシェイルに話し掛けている シーダは青空のような青い髪に愛らしい顔立ちをしており、7歳という幼いながらも礼儀良く喋ろうとする仕草がまた愛らしさを惹き立たせていた。将来はお淑やかな感じの美人になるであろう。

ミシェイルは思う。

この、マリアに似た年頃のシーダは 可憐な容姿と心優しい性格で人々を惹きつける不思議な魅力を持っていると。 そして、笑みには緊張を解き解す暖かい優しさを感じると……

シーダは思う。

お父様に言われてミシェイル様の部屋に来たけど…
綺麗な顔立ちに強い意志を感じる瞳…そして強さの中に感じる優しさを感じると……

知り合って僅かだがシーダはミシェイルを実の兄のように慕っていく。 そして子供ながらの好奇心も働いてマケドニア王国の事を沢山質問していった。

「ミシェイル様の国では女の人が将軍になれるの?」

「ええ、妹ミネルバは白騎士団団長を執り行っています」

「白騎士団…?」

「ええ、天馬騎士…ペガサスナイトを中核に編成されている騎士団です」

「ペガサス!
 ミシェイル様、マケドニアにはペガサスが沢山いるの!」

「シーダ姫はペガサスに興味があるのですか?」

「はい!」

ミシェイルはペガサスや天馬騎士についてシーダ姫に丁寧に話していく。
会話は晩餐会が始まるまで止むことは無かった。





その同時刻、マケドニア領内で飛竜に跨って白騎士団の一隊を率いて山賊の討伐を行っていた ミネルバは乗竜用の留め具が突然切れるアクシデントに見舞われた。予備具が備え付けられてい る飛竜では大事に至らなかった。もっともミネルバの乗竜技術は愛竜と一心同体ともいえる領域まで昇華されており乗竜用の留め具で左右されるほど未熟ではない。

「何なの! この、胸の中に広がるような嫌な感じは!?」

ミネルバは即座に殺気を感じ取って矢の飛来を察知した。

「!!っ」

ミネルバは上空に達する過程で勢いが減った矢を焦る事無く銀の槍ではじき返す。ミネルバは銀の槍から手槍に持ち替えて直ちに反撃を開始した。白騎士隊に所属する大多数の天馬騎士兵にとって弓は脅威になる。

「そこっ、邪魔ッ……当たりなさい!」

ミネルバは弓を持っている山賊を確認すると武器を銀の槍から手槍に換える。
手を振りかざして上空から手槍を凄まじい勢いで投げ放った。
その手槍は空気を切り裂き、殆ど勢いを殺さずに飛翔していき、矢を構えようとした山賊の胸板を寸分たがわず貫いて絶命させた。

「お頭ぁ〜」

「お頭が一撃で!!」

狼狽した山賊たちを尻目に ミネルバは飛竜を操って落下に近い速度で急降下を掛ける。白騎士団の面々もそれに続く。山賊が反応しきれない速度で急降下したミネルバは限界まで地表に近づくと、急降下で得た速度を殆ど保ったまま飛竜を水平に戻して、そのまま優速を生かした一撃離脱を山賊たちに食らわせた。槍で貫かれ、鞭のように唸る飛竜の尻尾に弾き飛ばされ絶命した山賊はミネルバが飛び去るまで続出した。

数秒送れて行われた白騎士団の天馬騎士隊の急降下襲撃が 山賊たちの希望と士気を完全に打ち砕いてしまった。

飛竜と共に再び空に舞い上がったミネルバは、山賊の士気低下を見抜いたミネルバは張りの有る声で言い放った。

「選びなさい、降伏か死を……」

先ほどの神業のような槍技と圧倒的な戦力差の前に 戦意を完全に喪失した山賊たちは武器を捨てて降伏していった。

「まだ消えない……
 弓兵からの殺気じゃないなら……この感覚は何が原因なの!?」

槍を握る手の力が自然と増していく。
ミネルバは空の一角を見詰めながら理由の判らない不安を感じていた。
彼女は知る由も無かったが、その方角の彼方にはタリス王国があったのだ。
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【あとがき】
早くペガサス三姉妹を出したい………
あの時代なら王族の嫁さんは複数いても問題なさそう(笑)
8人の嫁さんでマケドニア八将妃とか面白そうw
というか真面目な話、王位継承者が途切れないようにする事も王族の勤め…ただし、なまじ近代知識のあるミシェイルがそれを受け入れられるかは謎w

それと犯罪者捕縛後の使い道は、@公共工事の労働力、Aデビルアクス、デビルソードを装備する特別督戦隊で使用、B野戦工兵隊として使用……全ての項目でお給料は出るけどAは激危険だろうなぁw
社会奉仕で減刑なので諦めてもらおうw


【主要メンバー状態】

ミシェイルはシーダと顔見知りになりました。
シーダはミシェイルに兄の様な親しみを持ちました。
モスティン王はミシェイル王子を気に入ったようです。
オズモンド王の計画が一つ進みましたw
ミネルバの心配が増しています……
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