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ミシェイルの野望 第05話 「真実」


ミシェイルは寝支度を済ませると、その日ラーマン神殿にてガトーから聞かされた事を振り返る。









「……竜族はある日を境に殆ど子供が生まれなくなった。
 種族としての限界が来たのかも知れん。
 しかし本当の問題は別にあった」

「如何なる問題ですか?」

「知能を失い暴れ出す竜が増えたのじゃ。
 知能を失えば竜族とはいえ、猛獣と何ら変わりようが無い。
 それを避けるために神竜族の王族を始めとして、少なくない竜族は人化…
 すなわちマムクートへと姿を変えていった。しかし……」

「竜としての誇りを持っていた者たちが、人化を拒んだと?」

「うむ……王子は相変わらず頭の回転が速いの……
 で、理性を失って暴走した竜族と人化を拒んだ竜族が後に、
 人竜戦役と呼ばれる戦いを引き起こしたのじゃ」

ガトーは竜族と人間の間で起こった出来事を順に説明して行く。

竜族、特に地竜族の圧倒的な力の前に窮地に立たされた人間を救ったのが、神竜族の王ナーガが率いる神竜族であり、彼らは人間に牙を向いた地竜達を激戦の後にドルーア地方の地底深に封印した。

「そして地竜達へ施した封印が解けないようにナーガ王は、
 5つの宝玉(オーブ)の力を与えた封印の盾を安置したのだ」

「そのような事が…
 しかし、私達の伝承には残っていないのは何故でしょうか?」

ミシェイル王子が疑問を口にする。

「ミシェイル王子の疑問はこれから説明する。
 ラーマン神殿には人間達に自らの牙から切り出した、
 竜族に対して力を発揮する神剣ファルシオンと、
 恐るべき威力を持つ三種の武器などの宝は確かに残されていたが…」

「無くなったのですか?」

ミシェイルの言葉にガトーは残念そうに首を横に振った。

「…無くなったのではなく、アドラという名の人間の盗賊によって全て盗み出されたのだ。
 しかも事もあろうに、封印の盾に付いていた封印の力を維持する、
 5つの宝玉を剥ぎ取って売り払ってしまったのだ」

「何のために!?」

「得られた財を元に、アドラという男が兵を起したとすれば?」

「まさか…アドラとは、
 アカネイア聖王国を建国したアドラ一世の事ですか!?」

「うむ……
 諸都市国家を統一し、アカネイア聖王国を建国したアドラが事実の隠蔽に奔走した結果、
 過去の伝承が大きく失われてしまったのだ」

「なるほど…」

「しかも、宝玉が外されてから、封印の盾に掛けられていた地竜族の封印が
 徐々に薄くなってきた事も問題だった」

ミシェイルは衝撃を受けていた。
アカネイア聖王国の建国の建国資金が盗掘で賄われていた事と、宝玉が外されてから封印の盾に掛けられていた、かつて人類を滅ぼそうとした地竜族の封印が甘くなった事に…。

「アドラ一世の野心の為に封印が甘くなったとは……」

「アドラ一世は封印の盾の本質を知らなかったのだ。
 じゃが、問題はそれだけではない」

ガトーは悲しい表情を浮かべながら語り続ける。

ドルーア帝国の建国者でもあるメディウスは、人竜戦役において地竜族の王族でありながら神竜王ナーガに従い唯一人間に味方し、献身的に人間を守っていった。

しかし、時代が進むにつれて力をつけた人間は横暴になり、ただ平和に暮らしているだけの竜族たちまでも虐げて蔑視ようになってくると、その人間達の裏切りに激怒したメディウスは大陸各地に散ったマムクート達を集めてドルーア帝国を興し、アカネイア聖王国を滅ぼすために戦いを挑んだ事をガトーの口から伝えられると、ミシェイルは何とも言えない表情を浮かべた。

ガトーから聞かされた話に衝撃を受けたミシェイルであったが、その中でもメディウスの軌跡がマケドニア国と共通点が多い事に気が付く。

対ドルーア帝国戦の際にマケドニア地方の人間を組織して大きな善戦したアイオテは、アカネイア聖王国から戦勲を評価されマケドニア地方の独立を認められた。しかし、アイオテはドルーア帝国との熾烈な戦いで両手足に両目と両耳を失っていた。その独立も戦乱で荒廃したマケドニア地方の復興から手を引くために押し付けたと言っても過言ではない。

種族は異なっていても結果が同じだった。
少し悲しい気分になる。

人に尽くして裏切られたメディウス。
アカネイアに尽くして裏切られたマケドニア。

過去の事例から、ミシェイルは大望の成就には悪しきアカネイア聖王国の呪縛からの開放と、人間の根本的な意識改革が必要不可欠と痛感させられた。

「偽りの栄光で成り立つだけでなく、
 ドルーア戦役を引き金を引いたアカネイア聖王国は救いがたい存在だな。
 しかし、メディウスの決起は決して『悪』という動機で無い事を知れたのは良い収穫になった」

ミシェイルはあまりにも身勝手で馬鹿馬鹿しい事実に怒りを感じて震えていた。
アドラ一世による犯罪とその後の竜人族迫害の結果が、アカネイア歴493年に起こった 戦乱を呼び起こしたと言う、自業自得の様な愚かな出来事に…

「……しかし、そう捨てたものでもない。
 そなたのような人物が居るのもまた人間なのだ。
 私は王子が成し遂げる大望に懸けてみたいのだ」

元来から情熱家であるミシェイルはその手の裏切りは許せるようなものではなかった。
許すつもりも無い。

偉大な大賢者ガトー、彼の数々の偉大な功績が先ほどの言葉に信憑性を持たせていた。そして優れた知性を持つミシェイルは話に矛盾点が無い事を認め、過去の事例に当てはめて再確認を行った上で信じたのだ。

「ミシェイル、改めて問おうぞ……
 先ほどの話を聞いてもなお、そなたは共存の道を目指すのか?」

「もちろんです」

ミシェイルの声には一切の迷いは無かった。そこには贖罪の目や哀れみの目ではない、ただ純粋な決意が満ちていた。ミシェイルは揺ぎ無い信念をもっていたのだ。ミシェイルの目を見ていたガトーは自らの心配を杞憂に過ぎなかった事に安堵を覚えると同時に、頼もしさを感じていた。

ミシェイルは、この決意を元にある書物の執筆を開始する。後に、ミシェイルが世に送り出す聖典『優性人類生存説』は、人間やマムクートなどの人型知性体を『人類』と一括りに考えた画期的な考えで、アカネイア大陸で若者の中で、大賢者ガトーの暗躍もあって空前の広がりを見せる。

「まだ、全てを話すことは出来ん。
 しかし…ミシェイルよ、これだけは言える。
 マムクートとの共存には封印の盾が必要不可欠じゃ。
 それが戻ったとき深層部に眠る神竜族の生き残りが、王子の力になってくれるはずじゃ」









自室のベットの上に座りなが 昼間の出来事を考えていたミシェイルは呟く。

「5つの宝玉と封印の盾か……手がかりすらない。
 仕方が無い、まずは国力増強から取り掛かろう。
 基盤固めを疎かにしては本末転倒だからな。
 国力が高まれば調査人員も増やすことが出来る…」

「それまでは大雑把な情報集めしか出来ぬが仕方あるまい。
 地竜族の復活に備えてドルーア地方に本格的な城砦も必要だな……」

ミシェイルが悩んでいる姿は魔道の力によって映し出され、一人の幼い女の子がじぃと見入っていた。 その幼い女の子の外見は、宝石の入った金のティアラを緑色の頭髪に付け、将来が楽しみな愛らしくも整った顔立ちに、強い印象を与える可愛く尖った耳、そして茶系のシスターのような身に纏ったローブの隙間から天使のような羽を覗かせていた。

明らかに人間ではない。

「ガトーのおじいちゃま、このお兄ちゃんがそうなの?」

「そうじゃよ……
 チキが外で遊べるようになるよう頑張っているミシェイル王子じゃ」

「……ミシェイルのお兄ちゃん………」

氷竜神殿の深層部にてガトーの目が怪しく光っていた。だたし、陰謀じみた悪質な光ではない、その光は悪戯小僧のような雰囲気を纏っていたのだ。


その同時刻、マケドニア城内の自室でミネルバが寝仕度を整えながら胸騒ぎとも言える何とも言えないしこりを心の中で感じていた。

それは、第六感ともいえる鋭さだ。

「何故かしら、嫌な予感がする……すごく…」

ミネルバは暖炉とランタンの灯りに照らされながら呟いた。
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【あとがき】
もっとキャラの人格が強調できる文にしそうと奮闘中。
…家にある小説って全部、仮想戦記だ…ほとんど参考にならねぇえええ!

次回06話、『女の戦い』こうご期待!(嘘)

【主要メンバー状態】
ミシェイルのアカネイア聖王国に対する反意が更に高まりました。
ミシェイルはドルーア地方の危険性に気がつきました。
ガトーが怪しい行動を開始しましt(誤字にあらず)
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