ミシェイルの野望 第02話 「始まり」
「兄上」
ミシェイルは呆然としていた。
目の前の形容しがたい怪しい雰囲気を放つ面妖仮面女とも言える格好をした女
が思いもかけぬ言葉を掛けてきたからだ。その怪しさはあやうく手に持つ
キラースピアを落としかけた程だ。
こんな妹は…知らぬ。
第一、知りたくもないし、関わりたくもないぞ!
父王の隠し子か?
判らぬが、それよりも…あの面妖な兜と趣味の悪い服と一体化している変な覆面を着けた
女は、あの時に脳裏に浮かんだ姿そのもの…
この非友好的な雰囲気からしてもしや、あの脳裏に浮かんだイメージは復讐の予告か?
だとするなら、恐ろしく自信過剰でなおかつ執拗だな…
第一に相手の脳内に直接あの呪われた姿を映し出す事は、
既に面妖で済まされる領域ではない。
『闇魔法』
ミシェイルの脳裏に最悪のケースが思い浮かんだ。
まさか邪神を崇拝し、光の秩序を憎むという暗黒教団というヤツか!
あの怪しさは唯の司祭ではない。
恐らく悪くて幹部、最悪な場合は大幹部に属するはずだ。
父王に捨てられた恨みを果たすために邪道に落ちただけでなく闇の大神官になっていたのか!
しかも、真に妹ならば実年齢は私より若いはず……
復讐の為に暗黒神と取引して若さを差し出したのか…
復讐とは言え、なんという執念、まったくもって侮れん。
ミシェイルの思考に浸る贅沢は中断させられる事になる。
「意外と兄上も甘いようで…」
「何っ!」
自己紹介からして一転、キシリアからどす黒く深海のように深い殺気が放たれる。その濃厚さは火竜の迫力がそよ風に思えるほどだ。何の脈略の無い展開にミシェイルは焦る。思考が読めない相手ほど不気味な存在は居ない。
ミシェイルの反応に興味を示さず、ただ淡々と力有る言葉を紡ぎ始める。
呪文を唱え終えると手に魔道書が無いにも関わらず、彼女の直上から信じられない程に巨大な熱量が生まれた。ミシェイルは知りようも無かったが、その魔法はヴェルトマー家に伝わる魔法戦士ファラの神器にして天より超高熱の熱線を照射する炎の最高位魔法ファラフレイムであった。
超高熱の熱線は爆轟効果となって空気を押しのけ、ミシェイルに向って降り注ぐ。
「くっ、俺を舐めるなぁぁぁぁ!」
ミシェイルは跳躍と共に渾身の力を込めて槍を地面に突き指し、槍の底に着いている輪金に足を掛けて、更にそこでも跳躍を行う離れ業を見せたのだ。前方宙返り跳びによって、5メートル程の飛距離を稼いだ彼は超熱線の直撃を避けることに成功した。未知の魔法であっても当たらなければどうとでもない。余波として降り注ぐ熱線輻射にミシェイルは怯むことなく、無駄の無い動きで腰のキルソードを抜き放つ。あと一瞬、それで勝負がつくはずだった・・・
「トールハンマー」
「無詠唱っ! 馬鹿なっ!!」
回避した直後に響いた無情な声によってミシェイルに轟雷の束が降り注ごうとしていた・・・
イシュタル専用魔法のトールハンマーが王子の運命を決めた。
間を置かず連続して魔法を放つだけでなく、無詠唱という信じられない事実を目のあたりにしたミシェイルは
驚愕のあまり叫び一瞬だが動きが鈍る。その代償は大魔法の直撃という形で支払われた。
「ぐわぁああああああああああああ……
……あ…
ぐぅ、はぁ
ミ、ミネルバ…」
ミシェイルは体の節々が炭化して命の火が弱まっていく中でも妹ミネルバの身を案じていた。
キシリアが表情を変えることなく、ゆっくりと近づいてくる。
口から何らかの呪祖のような呪文が流れた。
「マフー」
その言葉と共にミシェイルの意識は途絶えた。
「はっ…はぁはぁ……」
悪夢から目を覚ましたミシェイルは汗だくであった。
「…はっ…ふう……」
何かとてつもない強大な暗黒司祭に襲われる夢を見たような気がするが…
くっ、思い出そうとすると頭が痛む、何故だ?
思い出せん…
まぁいい。優先すべきは現実だ。
曖昧な夢に悩んでいられるほど暇ではないミシェイルは、
すばやく気分を切り替えると身支度を始める。
水浴びを行ってから着替えを済ませて、少し早めの朝食を食べるために朝食ルームへと向うと、
そこには少量のワイン、じっくりと煮込んだ豆スープ、串焼き肉、焼いたばかりのさまざまなパンが並んでいた。
ミシェイルは手短に朝食を終わらせると政務に取り掛かるために執務室に向い始めた。
アカネイア聖王国から帰路についている父王オズモンドに対する説得材料として、父王が
城内に帰還する前に有る程度進めておかねばならず、大陸全土を見据えた野心の前に無駄にしてよい時間は無かった。
ミシェイルにとって自らの力を強化するためには王室の力と権限を強化が最短であった。
そのため、軍部の掌握、王室領の発展による経済力の確保、優れた人材の確保、さらに計画をアカネイヤ寄りの貴族に悟られない慎重さも必要で、国家偵察局の母体となる専用偵察隊は諸外国から目立たないように、順を追って強化していくことにした。
まずは主に対盗賊・対災害用の早期警戒隊として立ち上げられたのだ。
これだけでも十分に革新的な出来事であった。これは王室が恒久的な盗賊討伐に乗り出し、民の安全をより前向きに守ろうと乗り出した事なのだから。
ミネルバもミシェイルと同じく、朝食を終えるとすぐさま行動を開始した。
ミネルバ自身、ミシェイルから伝えられた新構想を1日でも早く実現化したくて仕方が
無かったのだが、兄と同じようにいきなり全てを求めては居なかった。
本格的な哨戒活動は行わず、最初の週は地表からそれ程離れず移動距離も短めに定めた。哨戒活動に慣れてきたら徐々に高度と飛行距離を伸ばしていく。兄の期待に応えたい一心のミネルバはかつて無いほどに慎重になっていた。
それは感情的だった彼女に、冷静さと認識力を与えていたのだ。
「良いわね、現在地の把握と地形の掌握を常に気をつけるのよ」
「はい!ミネルバ様」
「では各自、指定ルートに従って哨戒行動を開始しなさい」
ミネルバは配下のペガサスナイト隊に張りの良く凛とした声で檄を飛ばすと、
配下の者たち、特に少女たちと少数の少年たちが精力的に動き出す。有能な将の下に弱兵は存在しない。
このように若年中心の編成には訳がある。
ドラゴンナイト隊とは違って体重の軽い人物を好んで登用しているからだ。理由は簡単だ、離床推力不足ではなく速度と機動性、そして航続距離が損なわれるからだ。
そのためペガサスナイトは体重の軽い少女や、華奢な少年で編成されていた。また空中緊急機動においては運動神経や反射神経が特に重要な要素となるため、体重問題をクリアしても高齢のペガサス乗りは存在しない。そのためマケドニア白騎士団はその華やな編成から文学作品の題材になるほどに幅広く知られていた。
マケドニア軍は貧農層の生まれであっても、努力次第で主戦力の一つともいえるペガサスナイト隊やドラゴンナイト隊に入れるのだ。この事も庶民にとって心理的に受け入れやすいのだろう。確かに指揮官の多くは貴族出身であったが、
貧民出身の指揮官は少なからず存在している。これはマケドニア初代国王が奴隷出身という事実がこれを可能にしていた。
これもミシェイルの権限が増していく度に強化され、最終的には家柄ではなく能力をもって決められ、軍や政府機関の上位職ですら例外なく適応されていく。
既にミネルバ直衛部隊に配属されている貴族と平民の意識は一つであった。
他の隊よりも格差は少なく、ミネルバの意思もあって実力重視で編成されており、平民の上級士官も他の部隊よりも多く存在していた。
貴族の既得権を侵しても問題にならなかったのは、ミネルバの強い意思だけでなく彼女自身の外見的な魅力も大きな助けになっていた。
14歳とは思えないほどに凛々しく美しい顔立ちに、印象的な燃えるような赤毛。
赤く塗られた鎧を優雅に着こなす若き戦乙女のようなミネルバの指示に配下の少女や少年たちの表情が赤くなる。平民や貴族を問わず配下の少年少女たちにとってミネルバは憧れの存在なのだ。憧れは美化へと繋がるのは容易い。
高貴な生まれに加えて、憧れの存在というステータスは彼女の政治的発言力を知らず知らず高めていたのだ。
また、ミネルバはその若さにも関わらず訓練や山賊討伐で優秀な竜騎士として抜き出た実力を有し、更に配下の損失を限りなく減らす努力を怠らない姿勢からマケドニアの名将「赤い竜騎士」として自国のみならず他国からも知られている。血筋、政治的発言力、知名度、将来性を備えた相手と正面から戦うのは勇気を通り超えて無謀に達していた。
更に彼女は個人武勇だけでなく部下に対する配慮にも長けており、
その優しさから多くの国民から慕われていた。
更に今回の定期哨戒の自らの努力が故郷に残した家族の安全に反映されるとあって、ミネルバ隊にいる農村部出身の兵士の間では大好評であり、
元々から高かった士気を更に高める効果にもなった。この行いが後にマケドニア国においてミシェイル、ミネルバの信奉者を増やしていく。
ミネルバもこの偵察構想が本格化となれば、守るべき民を山賊や災害の被害からいち早く救えるだけでなく、未然に防ぐ事すら可能になる事を理解しており、ミネルバの熱意は当然のものだった。弱きものを踏みにじる山賊は彼女にとって憎むべき敵であった。
真剣に民を守ろうとする彼女もまた、
ノブレス・オブリージュ(高貴な義務)の良き例の一つなのだ。
熱意をもってミネルバが隊の指揮を取っている頃、ミシェイルは執務室で困難な政務に取り掛かっていた。構想を実現するための根回し、下準備、資金配分。どれも一朝一夕で終わるものではない。しかし日ごろから鍛錬を続けて磨かれた優れた身体能力によってミシェイルには疲労は感じられなかった。
次々と書類を処理していく過程で、
羊洋紙を使う経済性の悪さと、書類や書物の量産の困難さに気が付くと、次なる構想が頭の中に浮かんだ。
亜麻と小麦粉から作った澱粉(デンプン)による洋紙生成の量産化とそれを生かすための活版印刷である。
命令や法令を間違う事無く末端まで伝達するためには書面による通達が必要不可欠であり、当然ながら口答だと捻じ曲げられ改ざんされる危険性があっただけでなく、今までのような写し書きでの対応では時間が掛かり過ぎて作業停滞が大きい。
「紙の量産と活版印刷は情報伝達…いや、国力増強に欠かせないな」
執務室の椅子に座りながらミシェイルは呟いた。
頭の中に浮かんだ画期的とも言える洋紙生成技術と活版印刷技術の概要を早速、
ペンを手にして羊皮紙に書き始める。
流れるようなペンさばきで羊皮紙に必要な内容を書き終えると、それを縦に素早く丁寧に巻いていく。巻き終えた羊皮紙の断面部に熱で溶かした蝋で封を閉じ、マケドニア王室の紋章が刻まれた指輪を羊洋紙についた蝋に当てて王家の印をつける。
この蝋に付いた王家の印は不当な開封を防ぐ力がある。一度はがしてしまうと再び結合させるためには熱しなければならない。
そして熱を帯びると蝋につけた印が歪んでしまう事から、不当開封防止として重宝されていた。当然ながら、送り主と受取人以外が、許可なく開封すると厳罰に処される仕組みになっていた。
蝋で封印を施した書類を手に取ると、蝋の下に送り先をペン先をインクを漬けて書いていく。全ての作業を終えるとミシェイルは侍女を呼ぶために机上の横に置いてある小さな鈴を鳴らす。暫くすると執務室の扉が開いて侍女が入ってきた。
「これを至急届けてくれ」
「畏まりました」
侍女が退出を終えるとミシェイルは、
王室領の内情を記した報告書に目を落として、思案する。
国家偵察局に関してはミネルバに任せておこう。
しかし、王領内の産業の大半が第1次・第2次生産者か…
経済活性に必要不可欠な物資の流通が極めて小規模だから仕方が無い…
世界規模で流通が小規模!
「そうか!」
ミシェイルはあることに気が付き、バラバラだった情報がパズルのように一つになっていく。
山賊や海賊によって大規模交易が困難という事は、
物流網が極めて細く地方の特産品は少量であっても無い場所では高く売れるという点をミシェイルは目を向けた。
「ははは、これは良い!
名案だな」
ミシェイルの興奮は考えが口に出始めてくる程に高まっていた。
「俺のドラゴンナイト隊の中で体格の良い飛竜を集めてやれば交易も不可能ではない。
いや、交易を始めれば証書為替だけでも膨大な利益を出せるな……
損失の少ない香辛料や嗜好品の直接売買も悪くない!
…飛竜による空中輸送は考えを変えれば、
少数精鋭の緊急展開という軍事利用も可能だな…ふふふふ」
軍関連の構想はひとまず取りやめ、ミシェイルは貿易計画を纏めていく。
航続距離と積載を重視した武装を最小限にとどめた中隊から大隊規模のドラゴンナイト隊による交易をアカネイア聖王国からの介入を避けてどのようにして行っていくか、知恵を絞っていく。
「交易だが、大規模なものは他大陸との交易に限定した方が良いな。
さて航続距離をどうやって克服するべきか……」
案は直ぐに浮かんだ。
ミシェイルは航続距離の不足を中継拠点の設置や、飛竜の着陸が可能な様に改装した大型艦艇を中継艦として
所定海域に配置して補おうと考えたのだ。
中継拠点や中継艦が揃わないうちは、
無休憩・無補給で貿易できるように輸送量は軽量に留める。
第一段階としては、資金と建造資材の手配が整い次第、可能な限り周辺に無人島などの人気の無い場所に大陸貿易用の中継拠点を建設して、ピストン輸送による効率化と輸送時間短縮を図る。人気の無い場所を選んだ理由は不要な国境紛争を避けるためだ。
第二段階は、船舶量産に備えて他大陸において海に面した橋頭堡を兼ねた森林資源を有する土地の確保。本土の森林資源を保護するのは、いかに材木が必要だったとしても生活に必要不可欠な森林資源をむやみに消費するのは危険だからだ。
最終段階の中継艦の量産は規格統一と建造機材の一部モジュール化を行い、修理の簡略化だけでなく、建造時間の短縮と価格高騰を防ぐアイディアも振り込まれている。
極めつけの案が特殊改装を施し念話通信中継所を乗せた中継艦を介した大陸間のリアルタイム通信を
試みる計画だが、すでにミシェイルの頭の中では青写真が出来上がっていた。
この案の実現は簡単ではなく難題であったが、
ミシェイルにとって決して不可能とは思えなかった。
湧き上がる自信が彼の心を前向きに向けていた。
「資金に関しては特産品、香辛料、証書為替で稼げるが問題となるのは労働力か…
労働力不足を解消するためにドルーア地方の蛮族やマムクートを教化するしかあるまい。
しかし出来るか? …いや、出来る、俺はやらねばならん! マケドニアの栄光の為に!!
邪魔する者は"死"あるのみ!」
ミシェイルの瞳は野心と決意に相応しい強烈な光を放っていた。
ある程度の書類が
完成すると彼は執務室に忌まわしきアカネイア主義に毒されていない文官を呼び集めて、次々と指示を下していった。
文官の一人として参加していたマチスは貴族でありながら非効率な封建制に嫌気が差し、さしあたりの無い程度に職務をこなしていた。しかし先ほど手渡されたミシェイル王子の新案を読んで背筋に衝撃が走る。優秀過ぎる頭脳を有するマチスにはミシェイル王子の構想の有効性を認識し、その余りにも優れた先見性に戦慄した。
皆がマチスのように理解できたわけではない。
一人の文官がミシェイル王子に換言する。
「このような前例が無く、途方もない計画は危険性が多すぎます!」
ミシェイルは文官たちの換言を聞き入れていく。
文官たちの声は事実を捻じ曲げて、他人を落としいれる讒言(ざんげん)でなかったからだ。ミシェイルはここに居る文官達も彼らなりの
愛国心を持っているのを知っている。最も愛国心ではなく売国心だったら問答無用でキラースピアの餌食になっているだろう。
文官たちの発言を聞き終えると、ミシェイルは一呼吸を置いて椅子から立ちあがり文官たちを見渡す。そして両手を後ろに回すと、鋭い眼光と共に力強く言い放つ。
「過去の偉人たちは、この過酷な辺境を生活の場としながらも、
共に苦悩し、練磨して、今日の文化を築き上げてきた。
それに比べれは何のことがあろうか!
前例が無い物事を実現するのは困難かもしれない!
しかしっ!
知恵を絞り創意工夫で困難に打ち勝ってこそ、我々は新時代へと向かうことが出来るのだ!」
「!!ッ」
文官たちは一同に衝撃を受けていた。
常に必要以上の事を口にしないミシェイル王子がこのような演説をするとは思わなかったからだ。しかも、一字一句振り返るたびに精神が抑えられない程に高揚していく。
そのような状態にて、ミシェイルは更なる精神的な追い討ちをかけた。
「優秀な諸君ならば必ずやこれらの難事を成し遂げられると信じている」
この一言が決め手となった。
執務室から出て行く文官の皆の顔は、新たなる希望を見つけたような表情であった。彼らもまたミネルバと同じように、かつて無いほどのカリスマに当てられたのだ。
その中の一人、マチスも例外では無く、彼はこの日を境に偽りの仮面を捨て去る事を決意した。
昼行灯を装うのを辞めて、全身全霊を尽くそうと決意した、マチスは本来の能力の高さもあって瞬く間に頭角を現していく。後に、マケドニアに敵対した全ての敵国から恐れられる知将マチスが誕生した瞬間でもあった。
ミシェイルはその夜、妹のミネルバと、末妹マリアと一緒に楽しい夕食を過ごした。
昔から家族愛の強かったミシェイルであったが、落馬事故から目覚めたミシェイルを気遣い取り乱すミネルバを見て以来、家族の絆は何よりも大事なものへと変化していた。
ミシェイルは睡魔に負けたマリアをそっと背負うと、起さないように注意しながらマリアの寝室まで連れて行く。ミネルバは兄の優しさにうれしく想い、一挙一頭足の動きを優しく見つめていた。
マリアの寝室に着くと小さな体をそっとベットに下ろす。
優しくシーツを掛けると、マリアが目を覚ました。
「…お兄様…?」
「無理をするな、そのまま眠るがよい」
「…はい…お兄様、お休みなさい…」
「ああ…マリア、お休み」
マリアを寝かしつけるとミシェイルは今後の予定と方向性について話すためミネルバを自室に誘う。ミネルバは表情を明るくして快諾した。未だにミネルバは自覚していないが、彼女にとっても兄との時間は何事にも変えがたいものになり始めていたのだ。
夏といえども夜になれば城内の気温は決して高くはない。その城内に夜風に冷やされた気持ちの良い風が緩やかに流れていく。その風はミシェイルの部屋にも流れ込んでいた。
照明の為に灯した暖炉の火が光となってミシェイルとミネルバを優しく照らす。
二人は葡萄酒を酌み交わしながら言葉を交し合う。
「偵察隊の首尾はどうか?」
ミシェイルに尋ねられたミネルバは今日行った事を漏らさず伝えていく。ミシェイルは時々相槌を撃つが、殆ど無言でミネルバの言葉を聞き続ける。兄の反応が無いことに不安に想いミネルバは意を決して尋ねた。
「…何か…問題ありましたか?」
「違うのだ、お前の働きは大いに満足している。
ただ、予想以上の成果なので次の計画を少し前倒しするべきか悩んでいただけだ。
不安に思わせたようだな…許せよ」
「もう…兄上…」
ミネルバは嬉しい様な困ったような表情な表情を浮かべていた。軍務中に着ている赤色の鎧や執務中に着る服とは違いミネルバの格好はゆったりとしている。少女の中にさりげない女らしさを見せる衣装を着こなしている
ミネルバを、ミシェイルはグラスの中で揺らぐ葡萄酒を通して見つめる。酒によって穂のかに赤くなった表情が魅力的に見える。知らず知らずと見つめてしまう。
ミシェイルの視線に意識が向いたミネルバは焦った。
あ…兄上が私を見ている!?
ミネルバの心臓の鼓動が速度を増していく。不快な感覚ではないが、理由もわからず緊張が高まっていく。己の意思では止めようが無い。意識しないようにするほど、意識してしまい冷静さが失われていく。
えっ……なっ、何でこんなに緊張するの! 体が熱い…
ミシェイルは妹の変化に気が付くと心配そうに声を掛ける。
「酔ったのか?
慣れない事を行って疲れているのだろう、無理せず早めに休むべきだ」
「だっ、大丈夫です!」
ミネルバは慌てて否定した。二人っきりの時間を無駄にしたくなかったのだ。その想いは過去のものと比べて強くなっていた。
「判った…くれぐれも無理はするなよ。
勝手な願いだが、お前が倒れたら私も悲しい」
「はい…」
ミシェイルは真剣な表情でミネルバに告げる。既に真っ赤なミネルバはこれ以上に赤面する事は無かったが心臓の激しい鼓動はまだまだ落ち着きそうも無かった。
「ふふふ…まずは内憂の処置だな。
まずは順を追って聖王国から派遣されているアカネイア貴族のご退場を願うとするか…
わが国の内政干渉の代償は大きいぞ……」
ミネルバは上の空でミシェイルの言葉を聴いていた。
ミシェイルによって極めて悪質でなおかつ彼らにとって自業自得な罠が張られようとしていた。
全ては愛する家族と国を守るために……
夜も遅くなりミシェイルと別れたミネルバは自室に戻ると、体を清めるために侍女に命じてお湯を用意させる。
ミネルバはお湯の用意が整うと身に纏っていた服を脱いでランタンが生み出す光によって照らされている自室で一糸纏わぬ姿を曝け出す。成熟しきっていない14歳の少女の体とはいえ、それを見た多くの男性が感嘆の声を上げるであろう。
美しく整ったボディライン。
染みの無い絹のように艶のある肌。女性をアピールするが如く綺麗な形で膨らむ白く整った乳房。腰から尻に掛けて描かれる美の曲線が見事な気品と美しさを漂わせている。
夜の風がふわりと無防備のミネルバの肌に当たるが、
火照った肉体を冷やしきることは出来なかった。
ミネルバはタオルにお湯を浸して体を拭き清め始める。
汚れを落とし丁寧に肌を磨き終えると、汗をかかない様に目を凝らせば体のラインが見えるネグリジェに着替え、するりとベットに入っていく。ひんやりと冷えたベットのシーツが彼女に程よい心地よさを与える。思わず吐息が漏れる。
ベットの中のミネルバは無意識に兄ミシェイルの事を考えてしまう。愛しい人を思うと心の中に暖かい風が入ってくる。
甘美な響きとなって心の奥底に染み込んでいく。
「兄上…」
再び呟くと心に形容し難い震えが広がり例えようの無い喜びが満ちていく。
濡れた声で愛しい人の事を思いながら小さく呟くと熱病に掛かったように全身が熱くなり例えようのない幸福感に包まれていく。
眠りに落ちるまで彼女は祈りの言葉のように呟き続け、一途に思い続けた。
ミネルバは、この想いをまだ家族愛の一部だと思っていたが、
それが誤りだと気が付くのはそう遠い日では無かった。
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【あとがき】
ドズル・ザビみたいな人がペガサスナイトだったら恐いなぁ・・・
「やらせはせん! 弓兵如きにやらせはせんぞ〜!!」
笑いが無いので夢オチとして出した暗黒司祭キシリアです(汗)
「FE烈火の剣」「FE聖戦の系譜」からの魔法出しちゃったw
魔法が無くても彼女なら外見だけでも魔王ガーネフとタメ張れそうw
【主要メンバー状態】
ミシェイルは空中機動作戦ドクトリンに気がつきました。
ミシェイルは緊急展開ドクトリンに気がつきました。
ミネルバのブラコンはクラスチェンジのフラグを立てましt(誤字にあらず)
マリアのブラコン度が上がりました。
マチスの能力封印『昼行灯』が解かれました。
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