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神使 第10話 『修行3』
ポップは命じられるままイメージトレーニングを行っている。イメージトレーニングとは動いている自分を思い描くことによって技術や戦術を向上させるもので、集中力の向上や意識の切り替えに役に立つトレーニング法の一種であった。イリナの特訓に相応しく過負荷が掛るように調整されているのも特徴的であろう。
このように、ポップが素直にかつ真剣にトレーニングに励んでいるのは、少しでも怠けるとイリナが鋭く見破り、それに適した対応策を行ってくるからである。そして特訓の成果が少しだが確実に出ていた事も大きい。
つまり、同じデルムリン島でダイがアバンから猛特訓を受けていたようにポップも、それに勝るとも劣らない厳しい特訓を受けていたのだ。ダイはアバン流刀殺法「大地斬」の習得に向けて、そしてポップは魔法集束の基本プロセスの習得である。
しばらく席を外していたイリナだったが幾つかの用事を済ませてポップの元に戻ってきた。
「イメージトレーニングはそこまで良いよ。
少し前から見てたけど魔法力の還元と循環が随分とスムーズになったね!
やっぱりポップは凄いよ」
「お、おう」
楽ではない特訓だったが、イリナは褒めるときには心を込めて褒めるので、美少女から褒められる事もあってポップの達成感も大きかった。これでイリナの胸が大きければポップのストライクゾーンだったかもしれない。
「この調子なら集束ギラも今日で打てるようになるだろうね〜」
「集束ギラ?」
「先ほど見せたイオのギラ版ね。
百聞は一見に如かず♪」
そう言うとイリナは岩石に向けて指をかざすと、指先から閃熱系の初期呪文ギラが放たれてた。信じられないことに岩を焼き切っていく。
「はぁ!? なんだこりゃ…本当にただのギラなのか?」
「うん、ギラだよ。
熱線を一点に集束して威力を増幅させてるの」
この閃熱系の初期呪文をアレンジした集束ギラはイリナがSキラーマシンの残骸を解析して、それに内臓されていたスーパーレーザーを解析した際に得られた技術情報からインスピレーションを得て作り上げた魔法だった。集束による出力向上だけに消費魔法力は少ないが威力は桁違いに高くなっている。
「見ててポップ。
集束と同時展開を習得すれば、こんな事も出来るんだ」
ブゥゥゥゥン………
高エネルギーが生じた際の高周波音が鳴る。
第一印象は極大閃熱呪文ベギラゴンのようだが、
明らかにエネルギー量が違っていた。
「いくよ〜 ベギラゼリュス」
イリナはかざした両手から閃光を放った。直前まで集束ギラの的と化していた岩石の表面に複数の青白い超高温の熱線が閃光のように幾つも走っていく。その直後に岩が切断面を沸騰させつつ、バラバラになるようなかたちで重力に従うようにずり落ちていく。
この魔法は効率よく大多数の敵を殲滅するために編み出したもので、本来の使い道としては単体を細切れにするのではなく、各閃熱が複数の敵を攻撃するのが正しい。強大な固体が相手ならば全てを集束させたモードに切り替える。本来の威力よりかなり抑えて発射しており、本来の威力ならば並みの相手なら掠っただけで全身の血液が沸騰して絶命に至る。そして一点に集中すれば、城砦すらも貫通するイリナの切り札の一つだった。
「これはベギラゴンを拡散させて、その1本1本を集束させたんだ。
貫通力重視の魔法だね。
どう? 習得意欲が沸くでしょ!」
「ここまで見せ付けられると基本がいかに大事なのかが良くわかったぜ…」
「でしょでしょ〜!」
イリナはポップが基本の大事さと集束の利点を理解してくれた事が嬉しかった。
思い出したように腰につけていた柑橘果汁が入っている水筒を渡す。
「そうそう、これを飲んで元気を出してね」
「おっ、ありがてぇ!」
威力を極限までに抑えたヒャドによって適度に冷やされた柑橘果汁がポップの口に含まれていく。こういった気配りから女の子らしさが伝わってくる。柑橘果汁には疲労回復と魔力回復の効能がある薬草のエキスも入っていた。なんだかんだで自分を鍛えてくれるイリナに対する好感度が少し上がったのだ。しかし、ポップは知る良しもなかったが、その好感度もイリナの脈略のない特訓によって、直ぐに下がることになる。
ポップの体調が回復したのを見計らってイリナは次の行動に出た。
「じゃあ、次の特訓に入る前にポップにこれを渡しておくね」
イリナはそう言うと懐から一つの指輪を取り出してポップに手渡す。
指輪を受け取ったポップは、どのようなものか計りかねる。
「この指輪は何なんだ?」
「その指輪は祈りの指輪と言って、
祈りを捧げればMP(魔法力)を回復するものだよ。
使える回数はまちまちだけど、あると便利な指輪ね」
「こ、これを俺にくれるのか!?」
貴重品とも言えるアイテムを渡されたポップは嬉しそうな表情をした。
魔法力の回復アイテムの種類は少ない。ポップが喜ぶのも無理が無い。
「うん、あると便利だよ〜
次の特訓で使ってね。
じゃ、時間も押しているので早速行くよ」
「へっ?」
「特訓を兼ねた人助けよ♪
大丈夫、ポップは初めてじゃないから平気」
「特訓なのに人助けっ!? 初めてじゃない!?
お、おい、説明になってないぞ」
「ごめん、説明不足だったね。
実地試験とは魔王軍に所属すると思われるモンスターとの戦闘だよ。
ようするに昨日のガーゴイル戦と同じだね」
「はぁっ!?
そ、それよりどんなモンスターってなんだよ!?」
「暗黒闘気生命体の軍団ようだよ」
イリナの言葉を聴いたポップは自らの耳を疑った。
単体じゃなく軍団?
まさか軍団って魔王軍の主力か!?
ポップがイリナが発した軍団と言う言葉の意味を理解したときには、彼女の手がポップの腕を掴んでいた。イリナは微笑みながらルーラを発動させる。ポップは驚く暇すらも与えられずイリナと共に身体が光に包まれて大空へと飛び立つ。
ルーラの行先は魔王軍が襲来しているカール王国である。
ポップは想定外過ぎる出来事に現実逃避していた。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
俺は特訓だと思っていたら思ったらいつのまにか戦場に駆り出されていたんだ。
返事を言う前に連れされちまった。
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
俺も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
猛特訓だとかスパルタ教育だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
あまりの展開から現実逃走していた精神が戻るとポップが震えた声で言う。
「マジかよ……魔王軍との1戦目はガーゴイル。
2戦目は軍団規模かよ!? 飛躍しすぎだろ、オイ!」
「同じ魔王軍だから」
「い、いや、所属元を聞いてるんじゃない!」
「暗黒闘気生命体はそんなに強くないから大丈夫だって」
話がかみ合わねー!
ポジティブに捉え過ぎだろ!?
戦うことが前提だぁ!
って言うかいきなり軍隊と戦えと仰いますか、この悪魔(イリナ)は!
なんだかんだでイリナが繰り広げてきた超展開に慣れていたポップだったが、それは甘かったようだ。この予想すらしていなかった展開に呆然としている。もちろん先ほどまで上がっていた好感度も見事に霧散していた。ともあれ、ガーゴイルの次に軍団規模の敵と戦わなければならないというレベルの飛躍が信じられなかった。否定しようにもイリナとポップが降り立った街の麓から見える光景は残酷な現実を物語っている。
戦いは冗談で観光で来る…そのような可能性は皆無だった。
何度見直しても騎士団らしき一団と動く甲冑の群れが死闘を繰り広げている光景に変化は無い。カール騎士団と戦うのは魔王軍六大軍団の魔影軍団である。ただ救いなのが騎士団が優勢に戦況を進めていた事であろう。
ポップは現状の打開を考える。
イリナが楽な敵だと言っている。
嘘付け! 15年の時を経て復活してるんだ…どう考えても準備不足って事は無いぞ。勝てる見込みがあるからこそ決起してるんだからな。魔王軍の猛攻が始まって、その勢いが絶頂と云えるこの時期の魔王軍……しかも軍団と戦うだって!?
ポップはイリナの顔をチラリと見る。
逃げるか!?
無理だ…逃げようにも俺はルーラやトベルーラは使えない。
例えこの場から走り去っても絶対に追いつかれて連れ戻されるだろうし、戦いの恐怖から下手に逃げれば、笑顔で「恐怖を克服するためにギリギリの恐怖を体験しようね」と言ってきそうだぜ…むしろそれしか思いつかない。流石のオレも逃げたときの展開が完璧に読める。って事は、ひぇぇええ! 戦うしか選択肢が無いじゃないのか!?
暗黒闘気生命体とイリナを天秤に掛けて、どちらが怖いか迷うポップだったが、
1人の女性がトベルーラにて飛行してきた事によって迷いも忘れて驚き、鼻の下を伸ばす。
飛んできた女性はイリナの相棒のリリスである。
アダルトな雰囲気が漂う大人の女性。
はっきり言って彼女の格好は凄い。神秘のビスチェという性能は高いが、上品でもあるがかなりキワドイ装備を上半身に装備し、手には女王の手袋と女神の指輪、下半身にはブラックガードとオベロンの靴を装備していた。セクシーだったが上品な感じがするのがリリスの凄いところであろう。
イリナの目前に降り立ったリリスは、そのままイリナに尋ねる。
「町の方はとりあえず大丈夫、で…この少年は誰かしら?」
「彼はポップ、見所があるから連れてきたんだ」
「ふーん…なるほど。
戦場慣れはしてなさそうだけど、
魔王軍に恐れずに立ち向かうなんて見所あるじゃない」
リリスはポップの弱気を隠しきれていない瞳から逃げ腰な性格を見抜いていたが、リリスは大人の女性だけに、それを笑うことなく奮い立たせるような言いようをした。男性を扱うことに関して熟練のリリスにとって女性経験が未熟なポップを誘導するのは難しくはない。
こうしてポップは魔王軍魔影軍団との戦闘に赴く事になるのだった。
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【あとがき】
当初は超竜軍団と戦う予定でしたが、掲示板で指摘があったように原作基準で魔影軍団にしました。流石にあの時点でバランとの戦闘はポップのトラウマになりそうだし。
対魔王用戦術兵器として魔法の筒に内封していた爆弾岩(魔法薬や混乱呪文メダパニで混乱済み)でバランを攻撃という手段もありますが、失敗したらバランは最大限の憎悪と殺意で襲ってきそう…それはとてもとても恐ろしい(汗)
意見、ご感想を心よりお待ちしております。
(2011年07月05日)
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