神使 第05話 『特訓』
いかなる訓練をも受けない精神は、無為の中に鈍重になり不活発になる。
ジャン・ジャック・ルソー
イリナとダイが知り合って2日目。
多忙なイリナであったが、空いた時間を使ってダイに訓練をつけている。
前日は時間が余り取れず、座学中心の講習であった。
ダイは、師事の下で魔法の練習に励んでいる。
「メラ!、 ヒャド!」
メラは火炎系初等呪文であり、ヒャドは氷系初等呪文である。
少し離れてブラスが心配そうにダイを見守っていた。
しかし、うまく呪文が発動しない。
小さな火や氷しか生まれず、目標として海岸に立てた木の枝まで届かなかった。
これでは攻撃呪文として使いようもないものであろう。
しかし、ダイの目には諦めの色は無い。
イリナは勇者には剣の技量だけでなく昨日の講習で魔法も必要な事もみっちりと言い聞かせていたのだ。賢者を極めているイリナの言い回しの妙は見事であり、剣を重視していたダイも魔法の重要性を理解するようになっていた。なにより、イリナから魔法力を剣技に応用するギガスラッシュを見せられてしまっては、ダイにとって魔法剣の習得は大きな目標の一つになったのだ。
憧れは時として、このように大きな原動力になる。
「うーん…おかしいなぁ
ダイってあの時はバギクロスを使っていたよね」
イリナは、対キラーマシン戦においてダイが上位真空呪文バギクロスを唱えていたのを上空から目撃しており、ダイが魔法力がうまく扱えない事に対して幾つかの推測を立てていく。
ダイは言う。
「オレが無我夢中だったから…かな?」
「ダイ、調査もせずに簡単に結論を出さない!
色々な角度から検証して答えを導き出すのも大事な事なんだよ」
イリナはダイに反論するも、その口調は優しい。
このように反論した理由は、無我夢中で上位呪文が使える程、習得が楽ではないのをイリナは知っている。多くの経験が無ければ上位呪文は制御できない。制御できなければ不発に終わるか暴発するかのどちらかになってしまう。そこで、イリナは自らが立てた推測を確かめるべく、ダイに尋ねた。
このように賢者は真理を追究する職業なのだ。
「そういえば…
ダイはその年齢でバギクロスのような上位呪文の契約を済ませているの?」
「ううん、メラやヒャドなら契約しているけど…バギクロスはやってない。
それに…イリナも見ていた通り、どの呪文も上手く発動しないんだ」
イリナはブラスにも確認するが、魔法使いが覚える初等呪文しか契約させていない事が分かった。それらの情報からイリナはダイの言葉から立てた推測の内、条件の合うものを残して纏めると、コホンとりアンションを取ってから口を開く。
「今までの情報からダイの状態を推測すると……今は実用レベルのメラやヒャドは使えないが呪文の発動は可能。そして、特定条件下においては爆発的に魔法力が向上して契約していない、もしくは知らない間に契約していた上位呪文が使えるようになる…また、特定条件とは極限状態における感情の高ぶりの可能性が高い……このような感じだね」
「なるほど……確かに言われてみればそうじゃ」
イリナの言葉にブラスは納得する。
呪文とは魔法力を操作して特殊な現象を起こす技術であり、威力や速度に関しては術者の持つ魔法力、集中力に大きく左右されるのだった。つまり正常な発動が行われないのは、魔法力か集中力のどちらか、もしくは両方が正常に働いていない事になる。
今のダイは真剣そのものであり集中力の問題ではない。
イリナの目から見ても、ダイの練習に対する姿勢は本物である。
つまり、この状態で発動しないのは魔法力の流れに何らかの支障が出ている証拠だった。
イリナが微笑んでから言う。
「解決策は随時調べていくとして、当面の間は集中力を鍛えていくよ」
「えっ!? 魔法力じゃないの!?」
ダイが不思議そうに言うと、イリナが説明を始める。
「昨日、ダイがバギクロスを使えたことから考えると、年齢水準を上回る位に魔法力に恵まれていると言っても良いよ。でもダイは何らかの要因によって使えない。この事から呪文が上手く使えない理由が判明するまで全ての分野で必要な集中力を伸ばしていくのが効率的なの」
「確かに集中力は呪文だけでなく剣でも必要不可欠じゃな」
ブラスはイリナの無駄のない訓練方法に心の底から同意する。
「簡単な調査を兼ねて、集中力を高める措置を行うよ」
ダイ、上着をめくって背中を向けてね」
「わ、わかった!」
言われたダイはイリナの言うとおりに上着をめくって
背中全体が見えるようにしてから背中を向けた。
「ちょっとだけ熱いけど我慢してね」
イリナの言葉にダイは「大丈夫」と答える。イリナはダイの背骨にある胸椎の3番と4番のキョク突起の間の窪みにあるツボに指を乗せて、指先に魔力を集めると指向性を持たせて解き放った。このツボは集中力を高める効果がある。
「熱っ!」
急な熱にダイは驚いたものも、不快な熱ではなく慣れれば問題は無かった。むしろ気持ちが良かったぐらいである。同時に、イリナは慈愛の騎士という称号を手に入れた際に習得した、博愛スキルの能力を使ってダイの体に魔法力を送り込んでいく。
(この子って…すごいキャパをもってる!)
イリナはイオラグランデに匹敵する魔法力がダイに流れ込んでいった事に驚いた。
(やはり魔法力は十分…あとは魔法力の流れ次第だね…)
「今は、集中力を高める部分を刺激したんだ。
もう服は元に戻していいよ。
じゃあ、背中をしまったら次は背筋を真っ直ぐにして、簡単な呪文を使ってみて」
イリナの手はダイ体内の魔法力の動きを詳しく知るためにダイの背中に付けたままである。ダイは言われた通り、両手を突き出して詠唱を行う。イリナも魔法力の流れがスムーズに流れるように、破邪の洞窟にて得ていた知能向上呪文インテを唱えて、少しだけ外部から干渉する。
「メラっ!」
ダイの言葉に応じて、小さな火の玉が生まれる。
大きさは先ほどと違って、一般的なメラと比べても遜色のないものであろう。
「で、出来た!!」
ダイだけでなく、近くで見ているブラスも大喜びだった。
そこに、イリナの声が響く。
「まだ! ちゃんと目標まで飛ばなければ意味が無いよ!」
「う、うん…よしっ!」
ダイは予想外の行動を取った。
進まない火の玉を手で叩いて、目標に向けて押し飛ばす。変則的な方法だったが、ダイから放たれたメラは無事に目標の木の枝まで到達して、攻撃呪文としての役目を終えた。
「で…できた! やったぁ〜」
「ダイ、見事じゃ!!」
火炎呪文の初等とはいえメラを成功させた事にブラスが嬉し泣きをする。
血は繋がっていなくても、本当の家族のような絆にイリナは温かみさを感じつつ、ダイの背中から手を離すと大まかな状況を分析を始めた。
(体内で上手く呪文力が働かないように、何らかの抑えが掛っている感じがする……呪いの様なものではなく、大きな潜在能力から身を守るための保護機能に近いなぁ………うーん、そうなると無理に解いて負担を与えるよりも、自らの意思でコントロール出来るように集中力を高めて力の土台作りを優先した方がよさそうね)
イリナはダイに向かって言う。
「やはり鍵は集中力だね。
安定してメラを使えるようになれば、初等魔法剣の火炎斬りの訓練に入れるから
今の感覚を忘れないように、ダイはレオナ姫が来る午後まではメラの練習をしててね」
「わかった、イリナ!」
(弟って…居たらこのような感じなんだろうなぁ…)
素直なダイにイリナは嬉しくなる。
姉のような気持ちでダイに接し始めていたイリナはダイに微笑んでから褒める意味で頭を撫でると、沢山の練習が出来るようにダイに優しく魔法力を送り込んでいった。
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【あとがき】
ドラクエ9の主人公の能力を冷静に見ると…
かなり強いかもしれない(汗)
【Q & A :博愛スキル?】
ドラクエ9の「はくあい」にあるMPパサーです。
意見、ご感想を心より、お待ちしております。
(2009年12月12日)
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