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転移戦記 第04話 『対策』


第一特務艦隊を率いる小沢少将は調査任務を優先を第一とするも、ディクトリアス連邦艦隊の外洋進出を防ぐために軽空母「龍驤」から九六式艦上戦闘機14機、九六式艦上爆撃機9機、九七式艦上攻撃機13機の合計36機からなる攻撃隊を送り込んでいた。この決断は山本海軍次官から航空隊による敵大型艦の攻撃を内密に受けていたのが理由である。また、水上機母艦「能登呂」の水上機は調査用の為に不参加であった。

攻撃を受ける連邦艦隊は、来るべき東方進出の為に地中海内の限られた造船設備で整備が進められてきたディクトリアス連邦地中海艦隊である。連邦が保有する地中海最強の戦力と言っても過言ではない戦力。

連邦地中海艦隊の旗艦は新鋭艦のファルマス。全長が255.8ティンス(1ティンスは1メートル相当)に達するファルマス級重巡洋艦1番艦である。その艦が備える、敵の生命力を広範囲で探知する4型感知装置(受動型生命感知装置:パッシブセンスオーラシステム)が漠然とながらも日本側の航空機(搭乗員)の生命反応を捉えており、迎撃準備に入っていた。レンフォール王国軍は航空戦を得意とする事から、戦争を通じてディクトリアス連邦軍(以後、連邦軍と明記)も防空戦に関してはそれなりの経験を有している。

そして、この4型感知装置は対人用のガーゴイルやゴーレムなどの魔法兵器が目標を補足する際に行うメカニズムを応用した装置であった。この4型感知装置は近年実用化が行われてきた魔力遮蔽状態の敵魔導機の接近を捉える補助装置である。魔力探知に比べれば精度は落ちるものも、大雑把ながら位置の測定が行えるのだった。

旗艦ファルマスの司令部で艦隊の指揮を執るのが今年41歳になるカール・ドーヴェルニュ中将である。下級貴族の出身だが自ら望んで実戦に赴き、実用的な訓練や魔導機を艦艇に搭載する計画案を練るなど、能力と行動力からアルノルト軍務卿の覚えめでたい。

この戦域管制及び防空戦に対応したファルマス級重巡洋艦を考案したのもカールである。当然、近代魔法戦に適応するべく、今までは魔導機や戦艦級の艦艇のみ保有していなかったシールドも搭載していた。

ファルマス級は旧式戦艦を上回る有力な戦力だったが、建造に手間が掛るので造船能力が限られた地中海にはまだ1隻しか配備されていない。

カールは報告を聞きながら思う。

感知装置の反応からして、母艦機能を有する船もあるらしいな。
油断は出来ぬ。

カールは考えを締めくくると、主席参謀に声を掛ける。


「魔導機の発艦準備はどうか?」

「騎士の機上完了、
 テレパシー感応、魔力圧及び魔導エンジン出力、共に問題ありません」

「よ〜し、各機、敵が来襲する前に発艦せよ。
 発艦完了後、艦隊は防空戦に備えて防空陣形に変更する。
 訓練どおり落ち着いて対処を行え」


ファルマスの後部デッキから、手筈にしたがって6機のデビエス型魔導機が飛び立つ。これらの機体は防空ユニットタイプである。背中にあるハードポイントには、推力を司る1基のメナイズ魔導エンジンと機体制御を行うスタビライザー(安定化装置)が纏められている飛行用兵装フォルスが装着されていた。魔石の消費速度から飛行時間が限られており、防空戦での出撃では、このように敵を完全に捕捉してからになる。東部軍には50機もの魔導機があったが、飛行用兵装フォルスを所持する機はコスト面の問題から他には存在しない。

飛行可能なフォルスを装備した魔導機は、
極端な例えをすれば特殊機に準じる存在とも言えた。
洋上を航行する新鋭の大型艦か、重要拠点でもなければ絶対に配備されないだろう。

本来なら、重巡ファルマスの魔導機には新鋭機が用意されるはずだったが、転移スケジュールの早まりによって配備が間に間に合っていない。仕方が無く、先に生産を終えていたフォルスを訓練代わりに旧式のデビエス型を搭載していたのだ。

ともあれ、発艦後は旗艦の通信士とのテレパシー誘導によって最適座標へと移動していく。砲戦能力を旧重巡の水準までに抑え、防空戦に必要な魔法機器の搭載を優先させた巡洋艦だけに、このような防空城塞が有する管制能力に匹敵する機能があったのだ。

重巡ファルマスを中心に、旧式のリーヒ級重巡のペネロピ、ビングスが前後に展開する。
その重巡の周りを対空戦を主眼に置いた4隻のライアンフ級駆逐艦が取り囲むように展開した。

この駆逐艦は上海沖で日本軍が遭遇した無人のバルヒム級とは違って有人艦である。ゴーレム製造技術を応用した無人艦では複雑な対空戦は行えないので有人になっていたのだ。確りとした作りになっている。残る12隻の駆逐艦はバルヒム級であり、艦隊の外周を固めた。カールはバルヒム級は量産が容易なので被害担当艦として運用する。バルヒム級は警備艦程度の能力しかないので仕方が無い。


「くれぐれも言っておく。
 これまでのキメラの被害や先日の海戦、
 これらの情報から侮るなよ!」


カールは司令部要員に檄を飛ばす。
慎重かつ実戦経験の豊富な彼には敵を侮る習慣はない。
カールによって鍛えられたスタッフも機敏に応える。
4型感知装置の表示端末を覗き込んでいたオペレーターが報告を行う。


「空中艦、警戒ラインを通過。
 数はおおよそ10隻以上と思われます」

「大型艦か?」

「いえ、生命反応からして小型艦に間違いありません」

「そうか…
 だが魔導機相手に軽武装の小型空中艦が単独とは無謀だ…
 それとも、何か手があるのか?」


空中艦は浮力に頼れる海上艦と違って飛行能力に魔力の多くを注がねばならない。
故に、積載量が限られる小型空中艦では魔導機と戦えるようなものではなかった。

魔法とは異なる理論で動いているとはいえ、等しく掛る重力によって空を飛ばす際に必要な制約は同じであることから怪訝に思うも、カールは判断材料が不足している現状から、 無駄な追求を止めて指揮に集中する。


「魔導機が迎撃戦を開始します!」


オペレーターの報告により、
戦いが次の段階へ進んだことが知らされた。

日本軍と連邦軍、双方の陣営がそれぞれ保有する技術を駆使した機械兵器と魔法兵器。
この二つが本格的に矛先を交えようとしていた。

歴史に残る異なる文明同士の戦いの先手を取ったのは管制を受けていた6機の魔導機からなるファルマス魔導隊である。先頭を飛ぶのは、ファルマス魔導隊を率いるフリッツ・センフェルト上級騎士の機体であった。

魔導機内にある密閉式操縦席に搭乗しているフリッツは呟く。


「あれが空中艦か?
 …全長は7から8ティンス位、小型艦にしてもやけに小さい。
 しかし魔法が無いのに、どの様に飛んでいるのだ?
 まぁ良い敵は敵だ。悪いが先手を取らせてもらうぞ」


フリッツはこの世界にある飛行に特化した空中艦を極限まで小型化したような敵に対して攻撃行動を始めた。微弱魔力波を信号に変換して機体との情報のやり取りを行う操縦桿を握りながら、機体各所にある複合感覚器を介して視界に収めた敵に対して、爆轟性の衝撃波をぶつける空裂(ヴェイン)の魔法を発動させる。魔導機では旧式に属するデビエス型とはいえ高度魔法兵器である魔導機には増幅器が備えられており、中級レベルまでの各種魔法を実用レベルを保ったまま無詠唱で使う事ができたのだ。

増幅器が無ければ、無詠唱は消費魔力がより必要にも関わらず威力が低減してしまう。

フリッツ機から放たれた衝撃波の塊が九六式艦上戦闘機に向かって行く。

追撃に備えてフリッツは次の魔法を用意するも、
魔法攻撃を受けた敵空中艦に予想外の事が起こる。


「なっ…いきなり撃墜だと!
 奴等の艦はシールドを張っていないにしても脆すぎないか?」


フリッツは脆弱すぎる艦に乗らなければならない敵に同情の念を示すも、
戦争と割り切って次の目標に向けて攻撃を開始する。

戦場に於いて魔導機は遠距離では攻撃魔法を撃ちあい、近接戦では対機サーベルで切り合う関係上から、魔法障壁の一種であるシールドを張っていた。旧式のデビエス型魔導機ですらシールド喪失時に備えて全周8oで最厚部は28oの特殊練成によって生産されたミスリルサーメット装甲版に守られている。例を上げるなら日本軍が開発を中止した九七式軽装甲車の最厚部は12oの表面硬化鋼であり、それよりも厚い。

隊長機に続いて他の5名も同じ魔法で攻撃を行う。最初の攻撃でファルマス魔導隊は2機の九六式艦上戦闘機、1機の九六式艦上爆撃機を撃墜した。

この時点になってファルマス魔導隊は違和感に気が付く。


「敵の数は10隻なんてもんじゃない!
 くそっ、20いや25隻以上だ!」

「慌てるな、1隻あたりの性能は低い!
 落ち着いて対処せよ」


ファルマス魔導隊の間でテレパシー通信が飛び交う。

フリッツの叱咤によって魔導隊の各機は落ち着きを取り戻すも、
日本軍はその隙を逃さなかった。

九六式艦上戦闘機で攻撃隊に参加していた三重県出身の松場秋夫(まつば あきお)少尉は直ぐに敵機を見定めてこれ以上の攻撃を防ぐ為に空戦に突入する。

他の戦闘機も続いた。
敵魔法の回避に失敗した1機の九六式艦上爆撃機が翼をへし折られ墜落する。

松場機は旋回によって友軍機を落した人型―――全長5メートル位の西洋の甲冑を洗練させたようなデザイン―――の形をした敵機をオルジス固定機銃照準器に捉え、間髪入れず引き金を引く。計器板上部にある九二式7.7o機銃が火を吹き、1機の魔導機に対して掃射を行う。機銃弾が魔導機に直撃する前に不可視なる障壁によって弾かれる。

魔導機が備えるシールドであった。
後に撃墜王の一人になる松場は初めて戦う魔導機の非常識さに呆れる。

魔導機のシールドに関してはレンフォール側から知らされていたが、具体的な耐久力までは判らなかった。平均で中級魔法2.3発の防御力と言われても日本人にとっては意味不明だったのだ。友好的な態度を崩さなかったレンフォール側も実弾による試射は頑として応じていない。

情報を秘匿するのが理由ではなく、魔導機のコスト及び生産性が理由である。

魔導機は高性能だが1機あたりの生産コストが極めて高く、例え資材と資金があったとしてもレンフォール王国のような性能重視型では量産機でも1機生産するのに4年5ヶ月もの時間が掛ってしまう。極端な例えを上げれば、レンフォール王国軍が日本軍に対して竣工したての重巡「愛宕」に実弾射撃を申し込むようなものであった。とても応じられるような要求ではないだろう。

このような理由から日本軍は実戦を通じてシールドの硬さを学んでいくことになる。

撃墜は出来なかったが、攻撃は無駄ではない。
機銃弾が当たればシールドの障壁が削られ減退していくので、
十分な牽制にはなっていた。

連邦軍は九二式7.7o機銃の本当の威力を知らず、過大評価していたのだ。

撃墜に繋がらない射撃に対して、
戦闘機パイロットの各員は操縦席で悪態を付くも攻撃を続ける。
狙われている魔導機は垂直に上昇して回避を行った。

松場は予想していなかった回避方法に驚く。


「オイッ、なんだよあの回避は!」


罵りながらも、彼は対処方法を考える。

格闘戦での対応は不可能…
ならば友軍機との連携した一撃離脱しかない!

松場はそう判断すると、友軍機にノイズの酷い九六式空一号無線電話機で知らせようとする。要点を絞った単語を繰り返すことで、近距離だった事も幸いし、ノイズ混じりでも何とか彼の考えが伝わった。次第に部隊の行動が変わっていく。

数に勝る九六式艦上戦闘機が周囲から包囲する形で攻撃を行うも、
敵の防御力と機動性を前に魔導機の撃墜には至らなかった。

しかし、戦闘機隊の奮闘によって、
艦爆隊と艦攻隊は攻撃力を保持したまま、敵艦隊に肉薄する事が出来たのだ。

山本海軍次官が航空本部長時代から力を注ぎ、質量ともに拡張を進めてきた海軍航空隊はその期待に応え、連邦艦隊に対して行った空爆で重巡ビングスを撃沈し、ライアンフ級駆逐艦1隻の大破を果たしていた。

対する日本軍の被害は艦戦7機、艦爆9機、艦攻11機の撃墜である。

ファルマス級重巡の働きによって、
連邦艦隊がこの程度の被害に収まっていたことは疑いの余地がない。

しかし、カールは予想以上の敵に反撃を行わず、
直ちに艦隊を纏めてネレウス諸島に向けて反転させた。

反撃よりも情報の持ち帰りを優先したのだ。
この連邦艦隊の行動によって砲戦は起こらず地中海海戦は終結となる。

第一特務艦隊は当初の目標を達成したが、海戦の結果は双方に大きな衝撃を与えていた。日本軍では重巡撃沈という航空兵力の予想以上の働きと同時に、敵艦の防空力及び魔導機の脅威(ただし魔導機の制空力は評価しても、その火力を甘く見ている)に対する能力不足による被害の大きさが取り沙汰される。貴重な潤滑油を無駄に浪費しない為にも、各部署に於いて火力強化及び防弾対策が囁かれるようになったのだ。

そして、衝撃を受けたのはディクトリアス連邦も同じである。

魔導機の騎士達からは低火力・無防御から「空飛ぶ棺」と酷評を受けた艦戦はともかく、旧式とはいえ重巡を沈めた艦攻は、思わぬ火力の高さから脅威として見られていた。小型艦の量産は容易だったが、重巡のような大型艦でかつファルマス級のような新鋭艦ともなれば3.4機の新型魔導機並みにコストが高い。

それに、兵器の質が問題だったのではなかった。

労働力として酷使するべく召還した国家が、
予想しなかった軍事力を保有していたのが問題だったのだ。

本来の予定では東部軍単独で召還国を制圧し、かの地の住民を労働力として確保する計画だった。1個キメラ大隊程度の兵力で簡単に圧倒できると思っていた相手が、魔法を所持していないにも関わらず、これまでの戦いで多数のキメラ及び、旧式とはいえ重巡1隻、駆逐艦5隻を沈められている。

連邦首脳部は頭を抱えたかもしれない。

南方諸国の制圧を行う為の段取りを整える召喚を行って、
それなりの軍事力を有する敵国を増やしたのだから。

何しろ現在の東部軍は準備が整っておらず、保有兵力の大半は戦闘用キメラで占められており、魔導機などの主力兵器の数は乏しかった。第二線級の中の予備といって差し支えない。強大な連邦とはいえ、スケジュールを歪めてまで東部軍の兵力増強を行えば他の戦線や経済に皺寄せが出てしまう。

連邦はここにきて250年進めてきた戦略の見直しを図る必要性が出てきたのだった。














ディクトリアス連邦の王都フランデンにある王城の皇帝執務室で、ガイウス皇帝とアルノルト軍務卿が予想外の展開に対する対応策を練るべく、カールからもたらされた報告書を見ながら会談を行っていた。


「アルノルト、カールから報告があった敵をどうみる?」

「魔法を保有していないにもかかわらずここまで戦える事から、
 強敵と言っても過言ではないでしょう。
 小型空中艦すら有する予想を上回る軍事力を考慮して、
 クラウディ運河が完成するまで攻勢を控えるべきだと判断します」

「これまで250年待ったのだ。
 万難を排する為にも運河開通まで待とう。
 それに歴史を見ても補給や準備を怠って勝った戦はない」

「ありがとうございます」


軍務卿が礼を言うも、皇帝は手で制す。
ガイウスの基本原則は無理を強いない長期持久型であり、必要とあれば10年だろうが待つことが出来るのだ。場合によっては地中海で長期消耗戦を行う事も視野に入れていた。


「気にするな本来なら現れるのは後3.4年後だった。
 従来のスケジュールに戻ったと考えれば良い。
 で、それまでに行うべき備えはあるか?」

「幾つかはありますが、
 クラウディ運河一帯の防備及び補給線の拡張が急務かと」


クラウディ運河は帝国内海から地中海へと至り東レニウス海に進出する為にクラウディ帝によって転移装置の準備と共に工事が進められてきた運河である。元々、運河の出口となる地点には湾岸基地及びテロス造船所が建設されていたものの、中央地域と比べれば規模も小さく小型艦しか作れなかった。そこで、外洋進出に備えて海軍力の整備と並行して運河工事が進められていたのだ。

もっとも、転移完了までの長期に及ぶロスによって工事の一時中断を経て、本来の転移予定年である3年後の目処に開通を目指して工事が進められていたので、完成は早くても3年後であった。ただし、テロス造船所の拡張は20年前に終えており、小型艦はもとより重巡洋艦の建造すら可能なドックを5つ保有するまでになっている。

連邦地中海艦隊も、その大半がテロス造船所の生まれであった。

ガイウス皇帝は全面的に軍務卿の意見に賛同する。

このように連邦側の対応が早いのは魔法戦のドクトリンに関連していた。魔法戦は分析と解析が戦いの根幹を成しており、同じ魔法でも使い手によっては魔力構成を変えてレジストを行い難くするケースもあるのだ。

故に彼らの軍事思考は柔軟である。
思考が硬直していては大帝国など作れはしない。

ガイウス皇帝は考える様に言う。


「水中を航行する爆弾(魚雷)に関しては、
 各艦の防空能力の強化及び、
 防空機の配備によって防ぐしかないな」

「仰るとおりです。
 ファルマス級のシールド減退率からして、3発以上は厳しいかと。
 手始めに北部のフェイアス騎士団を送り込み、
 更に来年を目処に空中型20機の増援を行いますが、宜しいですか?」


軍務卿が提案を言う。
皇帝も報告書に目を通してから言葉を返す。


「いや、それだけでは不安だ。
 3年以内を目処に新鋭機の配備と、増援として特機を送り込め。
 中途半端な配備では無駄な消耗戦にしかならない」

「特機…レクトディウムを?」

「いや、送り込むのは慣熟訓練に入っているディオディウムだ」

「よ、宜しいので?
 あの重火力型はアーチェス要塞を攻略するために75年前から、
 製造を進めてきた切り札ですが…」

「東部地域が開発できれば、この程度は直ぐに元が取れるよ。
 敵が増長しないためにも痛撃を与える必要がある。
 この世界のルールを教えなければならない。
 その為にも当面は南部軍の攻勢を控えさせ、その余力分を東部に回すのだ」

「判りました」

「しかし、敵の空中艦は面白いな」

「はっ?……面白いとは?」


予想外の言葉に軍務卿は尋ね返す。
それに対して皇帝は歳相応の表情を浮かべて面白そうに言う。


「いやなに…魔法が使えぬ蛮族でもあれだけ戦えるなら、
 その技術と我々の魔法が組み合わされば強力な力になりそうだと思ったのさ。
 全面的に使えぬまでも何かの参考にはなるだろう」

「なるほど!
 敵の残骸を回収した際には最優先で魔法研究所に解析させましょう」

「頼むぞ」


皇帝は普段の威厳に戻って軍務卿に言った。

皮肉な事に、この皇帝と軍務卿の会談と同日、日本帝国に於いても連邦側と同じように異世界の軍隊の対応策を講じる会議が行われていたのだ。日本側では新型機の方向性の選定と、長谷川中将がレンフォール王国軍から伝えられた航空管制ドクトリンの概念を日本風に実現するために伊藤庸二(いとう ようじ)技術中佐による電探等の開発案が議題に上るも、戦闘機開発を優先とし、空中連携は猛訓練で補えると判断され後回しにとなった。

電探などの電子兵装が不要と判断されたわけではない。
日本軍は限られた開発力を戦闘機関連に絞りたかったのだ。

だが、電探の開発を後回しにした事は後に大きな仇となる。日本軍は来年に行われるネレウス諸島攻略戦に於いて、索敵能力の不足から主力艦喪失を含む大損害を受けることになるのだった。
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【あとがき】
性能で劣り、生産性で勝る日本軍。
質的劣勢を日本軍は補充力で埋め合わせることで戦っていきます。
艦艇も戦時急増艦が増えてくるでしょう。


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2011年08月08日)
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