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転移戦記 第05話 『ネレウス諸島攻略戦』 (仮)


昭和13年(皇紀2598年:西暦1938年)3月25日

ネレウス諸島から沖合い15kmの海域を14ノットの速度で航行する空母2隻、軽空母1隻、戦艦7隻、重巡8隻の大型艦の姿があった。その周辺を軽巡に率いられた駆逐艦が警戒している。ネレウス諸島攻略の為に臨時編成された日本地中海艦隊の主力である。

この艦隊を戦艦「陸奥」から率いるのは、軍令部総長の伏見宮博恭王(ふしみのみや ひろやすおう)大将の働きかけで、大将に昇進して連合艦隊司令長官に就任たばかりの嶋田繁太郎(しまだ しげたろう)が執っていた。

前任者の吉田善吾(よしだ ぜんご)中将は大将の昇進と共に軍事参議官になっている。

ともあれ、既に攻略作戦は次の段階へと進んでおり、
駆逐艦6隻の援護の下で、
輸送船団から第11師団の歩兵第22連隊が第二次上陸を開始していた。

戦車第3連隊の先発隊も第一次上陸で揚陸を終えて再編成も完了し、
ネレウス諸島の主要拠点へと進出を待つばかりである。

更に支援部隊として犠牲を出しつつも、九七式飛行艇による定期的な偵察支援と、事前 偵察任務を帯びた伊一型潜水艦「伊1号」「伊2号」「伊3号」「伊4号」「伊6号」の5隻が作戦前から現地入りしていた。しかし、伊1号と伊6号は連邦艦隊に接近しすぎて、2型感知装置を装備した哨戒艦に撃沈されている。数は少なかったが、この世界にも水中型魔導機や海竜も存在しており、それなりの水中用兵器が存在していたのだ。

また、上陸支援として先立つこと1日前。

4月24日から行われている日本艦隊から飛びだった攻撃隊によって連邦軍が地中海に誇るローサス軍港を半壊させ、ローサス軍港から脱出を図った駆逐艦7隻すらも艦載機の猛攻で沈めていた。駐留していた連邦艦隊は日本機の航続距離が4型感知装置を上回っており、退避に失敗していたのだ。また、軍港の守備に就いていた5機の地上の魔導機を対地爆撃で撃破している。

この戦果は地中海海戦と違って凶悪な空中型が基地に配備されていなかった事が大きい。

基地襲撃の際に被った日本軍の損失は艦戦7機、艦爆31機、艦攻13機の合計51機を喪失しているが、戦った相手を考慮すれば軽微な損害である。無論、工業力の乏しい日本側から見れば不気味な損害であったが。

航空兵力に愛着が無い嶋田大将も流石の航空機の消耗に驚き、艦隊直衛任務と偵察任務に専念させていた。幸いにも現状では敵部隊による反撃も無い。これらの状況から敵の抵抗戦力は喪失及び弱体したと判断され、上陸戦が実行に移されていたのだ。

また、指揮下にある戦闘艦艇の編成は次の様になる。

戦艦
「陸奥」「山城」「扶桑」「伊勢」
「日向」「金剛」「霧島」

空母
「赤城」「加賀」

軽空母
「龍驤」

重巡洋艦
「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」
「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」

軽巡洋艦
「夕張」「長良」「五十鈴」「名取」

駆逐艦
「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」
「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」
「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」
「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」
「朧」「曙」「漣」「潮」
「暁」「響」「雷」


まさに大艦隊である。

当初の計画よりも参加艦艇が拡大したのは地中海海戦の戦訓と、米内海相、山本海軍次官、実松譲(さねまつ ゆずる)大臣秘書を始めとした人々の働きかけが大きい。

本来なら彼らは対空兵装の強化が終わってから作戦を決行する心算だった。理想を言えば移転前から建造が進められている空母「蒼龍」「飛龍」の竣工を待って、それまでは不完全な航路情報を調査するべきと考えていたが、新鋭艦の竣工を待っていては作戦決行が2年以上も遅れてしまう。何しろ例え占領を行っても直ぐに石油を持ち出せるわけでもなく、専用の設備を建設しなければならない。

だが、ここにきて軍令部総長の伏見宮大将からの横槍が入る。

軍令部総長である伏見宮大将の介入だった。

伏見宮大将は海軍が地中海海戦で敵重巡を沈めた戦果に対して、陸軍が大きな戦果を上げていない事実を、後の資源分配で大きな優位を得る為に一計を巡らせたのだ。

伏見宮大将の力は大臣総長クラスの人事には伏見宮大将の了解が必要と囁かれるほどに大きい。 伏見宮大将の権限と人脈を通じて、レンフォール側から防空戦力として作戦参加の申し出のあった重巡リブラビス(魔導機6機搭載)、駆逐艦4からなる王国軍のレニウス派遣艦隊を瑞穂方面艦隊との合同演習に変えさせていたのだ。

レンフォール側も日本側が応じない限り作戦に参加することは適わなかった。

確かに魔導機は脅威だったものの戦闘機隊で牽制が行えた実績と、地中海に於ける敵艦隊の最大艦艇が重巡という事実が、軍令部総長と、その同調者達を強気にしていたのだ。


このような日本軍の傲慢から出た隙を付くように連邦艦隊が最大戦速で迫っていた。
カール中将が率いる連邦軍地中海艦隊である。

既に日本艦隊との距離は4型感知装置の実用探知圏である195ラ・ティンス(195km)以内で捕捉しており見逃すことは無い。逆に哨戒に当たっていた2機の水偵を魔導機で撃墜しており日本艦隊は彼らの接近を知らなかった。

艦隊の編成は重巡「ファルマス」「ペネロピ」、ライアンフ級駆逐艦「グリフィン」「クレセント」「エレント」「リージョン」を中心にバルヒム級が6隻周囲を固めていた。合計18隻の艦隊。日本艦隊と比べて隻数は劣勢だったが旧式の重巡ペネロピには対空兵装の強化を行い、敵小型空中艦に対する可能な限りの対策が講じられている。

事前の偵察活動によって日本艦隊の動向をある程度把握していたカールは、定められた戦略方針に従って迎撃作戦を進めていた。カールは主要艦艇や重要機材をローサス軍港から退避させると、敵から怪しまれないようにローサス軍港に被害担当用のバルヒム級を7隻配備していた。

それに前回の地中海海戦と違って、今度の連邦軍には備えが違う。

東部軍にはカイアス級長距離空中偵察艦が配備されており、日本機探知と同時に可能な限りの偵察行動を行っていた。更にはフェイアス騎士団に所属する魔導機隊の2個小隊(6機)が連邦地中海艦隊の指揮下に入っていたのだ。これによりファルマスが保有する魔導機が増加していた。本来の艦載機定数をやや上回るものも、余裕のある大型艦だったので露天繁止を行い、積載スペースの問題をクリアしている。

180ラ・ティンス(180km)の距離から発艦した12機からの魔導機は日本艦隊に突き進む。

ネレウス諸島沖海戦の幕開けである。

敵艦隊の艦艇数からカールは半端な数では打撃を与えるのが難しいと判断し、直衛機すらも攻撃隊として送り込んだのだ。フォルスに搭載した魔石からの魔力によって飛行速度は巡航速度の時速375ラ・ティンス(375km)から、突撃速度である時速480ラ・ティンスまで上げる。デビエス型の両肩のハードポイントには、それぞれ1発(両肩で2発)のザラッシュ8型(対艦用兵装)を装備していた。

魔法でも対艦攻撃は可能だったが、堅牢な艦艇に対して全て遠距離からの攻撃魔法で補えば、機体内の備蓄魔力を消費しきってしまう。ザラッシュ8型はそのような事態を避ける為の携帯火器なのだ。

ただし、フリッツ機にはザラッシュ8型ではなく、ブラゼーリュ・ティラビアンス(高濃度マナ圧縮射出兵装)を搭載していた。これは旧・王国の遺跡からの発掘品の模造品である。オリジナルと比べれば圧倒的に劣るも、大型艦に対する攻撃力は桁違いに高い。欠点と言えば高価なでかつ、連続使用が出来ない点、一度の出撃で機体性能の限界から3発しか撃てない事だろう。新鋭魔導機の配備が遅れた代わりに先月、本国から送られてきた兵装である。


「地中海海戦での借りを返してくれる!」


上級騎士のフリッツは遠方監視魔法(ロティア)で視界に捉えていた日本艦隊に対して突撃を開始した。防空戦を戦った者として重巡を喪失した怒りは大きい。誰もフリッツを責めはしなかったが、責任を負う立場としてカールと共に雪辱を晴らす機会として大いに張り切っていた。

他の8機もフリッツ機に続く。

艦隊上空で直衛に就いていた艦戦26機が魔導機隊に気が付き、素早く迎撃行動に入るも迎撃行動は機銃の一掃射のみしか出来ず、その攻撃の全てがシールドに弾かれていた。しかも魔導機の飛行速度は九六式艦上戦闘機と比べて魔導機の方が早く、追撃が間に合わない。

初の敵艦隊攻撃だったが、カールは地中海海戦に於ける、敵小型空中艦による艦艇に対する機動から、彼らも対空射撃に対する回避訓練を行っているものと決断を下していた。その考えに同意したフリッツは水面を這うような飛行に切り替える。

その判断は正しかった。

各重巡の主砲である203o連装砲からの砲撃(戦艦の主砲は対空砲の妨げになるので行われていない)と共に各艦に搭載されている40口径89式12.7cm高角砲(高射砲)が一斉に射撃を始めたのだ。

この戦線にいる艦の中で40口径89式12.7cm高角砲を搭載していたのは、近年に近代改装を受けた大型艦に限られていた。例外的に軽空母の龍驤が含んだ15隻だけである。

本来ならば高角砲を増設するべきだったが、政治的な都合から作戦に間に合わず96式25mm対空連装機銃の幾つかの増設に留まっている。一応、日本本土では量産型の40口径89式12.7cm高角砲A2の全力生産に入っていたが、元々の工業力が乏しいので生産が完了するのは夏以降になりそうだったのだ。

運悪く高角砲の直撃を食らった1機の魔導機が墜落していく。

フリッツは仲間に対する冥福を一瞬だけ祈ると、
直ぐに思考を戦争に戻して、攻撃のプロセスを組み立てる。


「奴等の対空砲の威力は侮れぬが狙いが甘い!
 第四小隊は外周の巡洋艦を中心に邪魔な船を狙え。
 それ以外はオレに続いて先頭の戦艦を叩くぞ」

「了解!」


フリッツは未知の艦隊にいきなり部下たちを突っ込ませる心算は無い。連邦軍は一定の防戦を行った後、ネレウス諸島を放棄する計画だったのだ。何しろ、敵の本国からネレウス諸島まで遠い。反撃準備が整うまで防御攻勢で敵を疲弊させ、海上連絡路を散発的に襲撃することで疲弊させていくのが目的だった。

ファルマス魔導隊は2つに分かれる。
8機からなる本隊と3機の別働隊に目標が分かれたことで対空砲火が分散した。


「まずは1隻食わせて貰う」


彼は対空砲火を行う最寄の重巡に狙いを定めた。
魔導機の飛行経路から足柄の危険を察知した駆逐艦「白雪」の艦長の一門少佐は航路を変更する。身を挺して足柄を守るつもりだったのだ。

白雪の航路変更と時を同じくして、ブラゼーリュ・ティラビアンスの力を開放した。 レクトディウムを中心に300ティンス(メートル)の周囲に集束の過程で発生するマナの相互干渉による放電現象が発生する。集束を終えると激しい共振音を放ちながら紫色の一条の光となった。

システム開放から3秒までの出来事である。
日本軍が始めて食らう重魔力砲の瞬間でもあった。

大正12年度艦艇補充計画で建造された足柄に圧縮された高出力の魔力砲が向かう。射線上に居た駆逐艦「白雪」の艦橋を貫くも勢いは衰えず、閃光は突き進む。身を挺して盾となった白雪の被弾箇所は赤く溶解して、大破となった。

白雪を貫通した、その数瞬後には本来の目標である足柄に直撃する。重魔力砲の閃光は右舷の102oに達する水線部装甲から左舷水線部装甲を破裂させるように貫いた。高度に集束していたエネルギーも流石に減退して拡散している。僅かに遅れて高エネルギーが生み出した熱量によって溶解した装甲材が飛び散っていった。

船体を中央から折れる形でゆっくりと沈没していく。

防空網の透間を突く様にフリッツが率いるファルマス隊の本隊はザラッシュ8型を発射した。合計16発に上る誘導弾が日本艦隊へと加速する。

ザラッシュ8型は不安定化処置を行った魔石を弾頭とした誘導弾であった。実体型マジックミサイルというべき重装甲の対水上艦用に作られた兵器である。誘導方式は生命及び魔力探知であり、回避方法は攻撃による撃墜か探知方向を避けるような急機動による回避しかない。

11発のザラッシュ8型が陸奥に向かい、
探知不備によって目標から外れた5発が駆逐艦に向かう。

陸奥は自らに向かってくる誘導弾に対して、増設を終えたばかりの96式25o連装機銃による迎撃を試みる。だが96式25o連装機銃には重大な欠点があった。

バーベッド搭載型は上下照準と左右照準が別人で行う必要があった事と、単純な照準装置で目視による直接射撃により命中精度が低かったのだ。大型艦になれば九五式射撃指揮装置を搭載していたが、それも複葉機を想定した装置であり、時速700kmに迫るザラッシュ8型の前には余りにも非力としか言いようが無い。

奇跡的にも2発を撃墜したが、残る9発のザラッシュ8型が陸奥の各所に被弾し、青白い爆発を発生させていった。これは急激な魔石圧壊による爆発反応である。通常の爆薬よりも破壊力が高い。マナの奔流が収まると同時に船体各所から火災が発生する。高角砲や機銃の誘爆である。沈没には至らなかったが上部構造物の破損状況から大破は確実だった。昼戦艦橋に居た嶋田大将は戦死である。

また、戦艦から外れた5発のザラッシュ8型のうち、3発が駆逐艦に突入を果たしており、「初雪」「深雪」「薄雲」の3隻を沈めていた。フリッツはファルマス隊を率いて重巡に向かう。次に狙われたのは青葉であった。高角砲の至近弾を食らった1機の魔導機がバランスを崩す。シールドのお陰で機体破損は免れていた。

しかし速度低下となり、
追い討ちを掛けるように付近の艦艇からの対空射撃が集中していく。

敵機の行動を予測した山口多聞(やまぐち たもん)大佐が指揮する伊勢と角田大佐の山城の副砲、高角砲による攻撃であった。40口径三年式8cm高角砲による攻撃も加わり、 その魔導機は墜落となる。

戦艦2隻の奮闘で1機の魔導機を撃墜したが、それでも勢いは止まらず残る7機からなる本隊は対機サーベルを抜いて青葉の各砲や上部構造物を切り裂いていく。魔力によって発生させた高分子振動を纏うサーベルだけに切れ味は抜群で、30秒ほどで青葉は廃艦同然になっていた。目標は青葉から、近くを航行していた衣笠い向かい、同じように破壊されていく。

追いついてきた艦戦が決死の妨害行動を開始するも、その対応は無視に近い。

地中海海戦の戦訓から連邦軍は敵小型空中艦の対空兵装が貧弱なのを理解していたからである。限られた行動時間を無駄に消費しない為に、そのまま艦艇に対する攻撃を続行した。

別働隊も戦果を上げている。

軽巡「名取」、駆逐艦「朝霧」「夕霧」を撃沈し、「天霧」「狭霧」を撃破していた。現在は重巡「加古」への攻撃に入っている。本隊は衣笠から火災に包まれながらも賢明な消火活動を行う陸奥に向かっていく。

対機サーベルで上部構造物が破壊されていた青葉と衣笠は操舵不能によって互いが衝突し、傾斜浸水を起こしていた。この段階で本隊の魔導機が更に1機が撃墜されており、1機が中破の損害で戦場を離脱し、これで本隊の機数は5機まで減少している。

戦闘の激しさが伺えた。

フリッツは現状を把握すると呟く。


「…帰路を考えれば作戦行動時間も限界に近い。
 最後にあの戦艦でも沈めておくか」


フリッツは部下に手柄を譲るために、辛うじて浮いている戦艦に自分を除く本隊を向かわせた。フリッツは昇進に拘っておらず、また生活も十分に保障されており、その手の競争に関しては全く焦っていなかったのだ。フリッツ機は周囲の軽巡「名取」を沈め、駆逐艦「東雲」を破壊しつくす。次の目標を探している途中で艦隊後方に僅かな護衛戦力に守られている空母群を発見する。

その中の小型空中艦(艦載機)を発艦させようとしていた加賀を視界に捉え、母艦を守ろうと近寄る艦戦を対機サーベルで切り捨てつつ、加賀の飛行甲板に向けて再度発射可能になったブラゼーリュ・ティラビアンスを放った。

重魔力砲の凄まじい閃光が加賀に走る。飛行甲板から艦底まで、閃光が易々と届く。重魔力砲によって格納庫内に敵艦隊の攻撃用に準備が行われていた航空魚雷や爆弾が爆発していった。やがて、破壊の連鎖は主要ガソリン庫にも及ぶ。

断続した爆発によって大火災に包まれていく加賀。

加賀の隣を航行していた赤城にも攻撃を加えようとしたとき、
日本艦隊の先頭付近から大轟音が発生する。

それは、陸奥の爆沈による爆発音だった。

ファルマス隊の1機が突き刺した対機サーベルが弾薬庫を切り裂き、そこに収められていた火薬類を爆発させた事によって発生した爆発である。幾ら魔導機がシールドに守られているとはいえ、特機でもない通常機では大魔法に匹敵する爆発現象には耐えられない。あれほど日本艦隊を苦しめた魔導機が陸奥の爆沈に巻き込まれて3機が粉々に吹き飛び、陸奥から、少し離れていた1機が大破となっている。

怒りの余り唸りながらもフリッツは直ぐに決断を下す。

これ以上の交戦は不確定要素が大きいと判断し全部隊の退却を命じたのだ。
大破した魔導機を庇いつつ、ファルマス隊は作戦行動を撤退に行動に移す。
これにより海上での戦闘は終わりを迎える。

大火災に包まれていた加賀が、ほぼ水平に沈み始めた頃、ネレウス諸島では連邦軍による撤退作戦が始まっていた。撤退戦に先立つ阻止戦闘が魔導機11機によって始まり、上陸していた第3戦車連隊の先発隊と歩兵第22連隊が、陸戦型兵装を装備した魔導機を前に壊滅的な打撃を受けたのだ。

魔導機に対して戦車砲が全く通じず、相手からの攻撃は至近弾であっても戦車を吹き飛ばす程の格差があり、発狂した乗員も存在する凄惨な戦いだった。惨敗を喫したレベルではなく、背後からの攻撃を行っても相手にならない状態だったのだ。後に、とある書籍では日本戦車の非力さから戦車を「憂鬱な乗り物」と称される事になる。

この連邦軍による攻撃はそれだけに留まらず、浜辺にひしめく24隻の輸送船のうち、7隻を沈めている。全滅しなかったのは上陸支援に当たっていた駆逐艦「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」の決死の阻止砲撃だった。しかし4機の魔導機を撃破したものも、駆逐艦も暁を残して全没する損害を受けたのだ。5隻の沈没の理由は攻撃魔法を受けた際に搭載していた九三式魚雷(酸素魚雷)の誘爆が原因である。

連邦軍はそれ以上の反撃を行わず、日本軍が混乱している間に島の反対側から順次、脱出していく。ローサス軍港にはブービーとラップを仕掛けており、また撤退戦を無事に終えるために殿用の軍用キメラを解き放つ念の入れようだった。

こうして連邦軍の撤退によって日本帝国はネレウス諸島を手中に収めることになるも、その過程で更に犠牲を出すことになるのだ。

ネレウス諸島の攻略を終えるまでに日本軍が被った完全損失は、

空母
「加賀」

戦艦
「陸奥」

重巡
「足柄」「加古」「青葉」「衣笠」

軽巡
「夕張」「長良」「名取」

駆逐艦
「白雪」「初雪」「深雪」「東雲」「薄雲」 「朝霧」「夕霧」「浦波」「曙」「漣」 「潮」「響」「雷」

輸送船7隻、航空機118機、1個戦車大隊、3個歩兵連隊である。

軽巡「夕張」「長良」、駆逐艦「浦波」はネレウス諸島沖海戦の翌日、再出撃可能な5機からなるファルマス隊による第二次攻撃(大破状態の青葉も流れ弾によって沈没)によって沈み、白雪は自沈処置、衣笠は曳航途中で船体が折れて沈没となっていた。ファルマス隊に損失機は無かったが、兵装の消耗により撤退している。

日本側の損害ばかりが目立つが、短期間で辺境戦線の東部戦線で15機(特に高価な空中型を6機喪失)もの魔導機を失った東部軍はそれ相応の苦悩を抱える事になるのだ。

このような予想外の大損害に硬直化が甚だしい日本軍も否応なしに本格的な改革を進める事となった。近代文明の継続と奴隷化という危機の前にようやく真剣に動き出したといえよう。

陸軍に於いては進められていた新型戦車を白紙撤回とし、ネレウス諸島戦でそれなりに有効だった海軍の40口径三年式8cm高角砲を主砲とした戦車の開発を開始する。車体も流用するのではなく新開発だった。大型化が確実だった事と、敵の対機サーベルからの魔の手から逃れるべく速度も重要だったのでエンジンは九五式艦上戦闘機で使用していた中島光1型(空冷星型9気筒、730馬力)のデチューンモデルを候補に入れている。巡洋艦どころか戦艦すら切り刻む敵機だけに、日本陸軍の水準から見れば異様なまでの備えである。

車体以外は使いまわしであったが、逆にそれが兵器としての信頼性に繋がっていた。

元の世界で例えるなら、
やがて作られるドイツ帝国のVI号戦車の廉価版という表現が相応しい。

新型戦車は昭和13年から昭和16年の完成を目指した試作一式中戦車として設計が進められたものの、完成するのは3年遅れた昭和19年(皇紀2604年:西暦1944年)であった。正式採用となった時には四式中戦車という名前に代わることになる。四式中戦車の誕生によって10台の四式中戦車で1機のデビエス型と刺し違える事ができるようになるのだ。陸軍としては被害を考えれば憂鬱だったが、それでも一方的に潰される事はなくなっただけでも大きな進歩と言えるだろう。


海軍に於いては九三式魚雷(酸素魚雷)の製造に高品質の潤滑油が必要な事と、防空戦に於いて誘爆の危険から水上艦艇に於いて魚雷兵装が全廃となった。幾つかの軍組織的な苦難を乗り越えて水雷兵科は対潜兵科となり、水雷学校も対潜学校(史実に於ける1944年に誕生した海軍対潜学校に相当)に代わっていく事になるのだ。

現存艦の対空兵装の強化に加えて、建造中の戦艦「大和」は60口径155o3連装砲、13o連装機銃を廃止し、可能な限りの高角砲、25o機銃の増強を行う事が決まった。後に陸軍が使用していた94式37o戦車砲を改良したホ203機関砲も装備される事になる。また、射撃装置を魔導機の性能に合わせる為に九五式射撃指揮装置の後継装置(九八式方位盤照準装置)の開発も始まっていた。

ネレウス諸島と日本本土の海上連絡路を守るために新型駆逐艦の開発と、その大量生産も決定されている。その設計思想は従来の日本駆逐艦とは違う。直線的な船体形状、重量化するが調達しやすい高張力鋼(HT鋼)や普通鋼板を使い、対空・対潜(対水中型魔導機)を主眼に於いた大量生産に適した事が絶対条件になっている。

航空兵力に関しては開発力の集中と資材削減の為に使用機材に関しては陸海軍の共用化を押し進める事となった。また、戦闘機1個中隊で1機の魔導機に当たる事を基本とする集団戦を前提とした機体が今後の方針となるのだ。

こうして日本軍は紆余屈折ながらも連邦軍の反抗作戦に備えていくことになる。



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【あとがき】
史実のコタバル強襲上陸では準備砲爆撃が無かった…
陸軍恐るべし!

また、唐突ではありますが異世界移転系のレーヴェリア戦記を5話で終了とさせて頂きます。短い間でしたがご愛顧頂きありがとうございました〜

最後に、「夢魔族(サキュバス、リリム等)との交流から、物語の各所にR指定的な要素…」と書いてありましたが、早期完結への方針展開に伴い、10話分ぐらいカットしたので無しとなりました。ご安心ください、R指定的な要素は次に用意しているファンタジー物で行います!


(2011年08月14日)
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