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帝国戦記 外伝 第12話 『2式戦闘ユニット』







1922年 09月18日 月曜日

北欧条約機構軍を支援する目的で公爵領であるスヴァールバル諸島スピッツベルゲン島西岸に作られたニーオルスン基地から1機の国防軍所属の戦術輸送機が飛び立っていた。すでに太陽は地平線に隠れており、月の光に照らされながら飛行している戦術輸送機は量産が開始されたばかりのターボプロップエンジン搭載の輸送機である零式輸送機だ。

零式輸送機と聞くとアメリカである旅客機ダグラスDC-3を原型とした輸送機を連想するだろうが、帝国重工が開発したのは自衛隊時代に使われていた「世界最高の輸送機」と称えられて世界中で運用が行われたC-130輸送機を参考にした機体だった。C-130輸送機は完璧とも言える基本設計もあって半世紀以上の運用実績にも関わらず機体設計がほとんど変わらなかった稀有な航空機であり、しかも未整地での運用が可能で、加えて高い短距離離着陸性能を有している機体である。これらの事から兵器の長期運用を試みている国防軍や帝国軍の方針としても一致した機体と言えるだろう。

無論、帝国重工は元の機体よりも性能向上を行ったものを開発・生産している。

航続距離は3200km(空荷状態ならば5500km)、最大積載量は約7トン、最大速度606km/h、巡航速度560km/hという速度だった。最高高度は12200mであり、機内は与圧となっている。

帝国重工からすれば枯れた技術に過ぎなかったが、諸外国からすれば時代を超越した性能だけに4式大型飛行船「銀河」と同じく海外販売は当面は行わない。故に配備は国防軍と帝国軍のみの使用に留まる。零式輸送機と命名された理由は帝国軍・国防軍に於いて初の戦術輸送機だったからだ。一式輸送機になり掛けはしたが、零式輸送機に決まったのは真田からの熱烈な意見が大きい。現状の段階で将来的な改装でC-130Jを凌駕できる冗長性を持たせていた。

また、零式輸送機が開発された背景には、
輸送力の不足が見られ始めたのが必要に応じたというのが理由だ。

船舶で対応できるの沿岸部の重要拠点などは除外するとして、内陸地などの重要拠点には4式大型飛行船「銀河」で十分以上の兵站力・輸送力を保っていたが、そこから先が問題だった。前線付近の小さな基地では陸上輸送で補う状態が多い。諸外国と比べれば桁違いの輸送量だったが、潤沢な物資で戦う帝国軍・国防軍では不安しか感じていなかった。 無論、4式大型飛行船「銀河」も必要に応じて投入されていたが、5トン程度輸送を行う任務に使うには経済的に不適切と言えるだろうし、同時に多方面で小規模な緊急補給・輸送の必要な事態が発生したときに破綻してしまう。また高価な4式大型飛行船「銀河」を前線に軽々と投入したくない経済的な理由もある。

その将来の不安に対応するべく開発された零式輸送機の後部大型カーゴベイの内部には9人からなる兵装からして特殊作戦郡の兵士と思われる180cm以上の高身長からなる人員で占められた面々と2名の国防軍技術開発局の技術将校、そして国防軍技術開発局の長でもある真田が乗り込んでいたのだ。後部大型カーゴベイの内部は旅客機には及ばないが軍用輸送機としては静かなものであった。

「ようやく此奴等の実戦投入か…
 気持ちが高ぶるのう」

真田は悪巧みを浮かべたような表情で呟く。
彼の表情は悪戯を企んでいる少年のような感じが含まれていた。

「性能はどのくらいのものなのでしょうか?」

「万能な兵器というわけではない。
 純粋な正面戦力としては軽装甲車両と互角ぐらいじゃのう」

技術将校の言葉に真田は応じるが、本音としては正面戦力としては期待していなかった。真田の分析からすれば技術的な衝撃はあるものの、実際問題としてその兵器よりも装甲車両の方が使いやすいし、重火器を装備した歩兵でも代用が可能だからだ。

―――使い道次第じゃが、
特に浸透作戦や後方破壊活動で最も活躍するだろうよ―――

だが何事も適材適所というものが存在している。鉈で刺身料理を作る料理人は殆ど居ないだろうし、妙な例えになるだろうが、急須でラーメンを作ろうと試みる事は可能だったとしても異常な手間とコストが嵩むだろう。何事も適した使い方が存在している。

無論、彼らが言う兵器の性能とは零式輸送機の事ではない。

その兵器とは後部大型カーゴベイの内部に座る12人からなる1個分隊の特殊作戦郡の兵士と思われる人員だったのだ。

彼らは人間ではなく真田が高度戦術擬体のパーツに対して擬似的に有機物的な要素を持たせたケイ素系細胞の肉付けを行った戦闘用擬体である。真田を中心として開発されたものであり、高度戦術擬体と比べて敏捷性は低下しているがパワーと耐久性はやや向上していた。無論、低下しているといわれてた敏捷性ですらも人間を超えた性能を有しており、加えて学習機能と軽度の自己修復能力を備えた戦術ユニットでもある。ただし、現状では量産性を保つために高度機械知性として感情を有する水準のものは製造されていない。無論、真田の趣味としブラックユーモラスに富んだ諧謔的な表現が行えるように最低限のプログラムが施されている。

また、彼らの名称は非公開だが2式戦闘ユニットと開発中は呼ばれていた。諜報対策として公爵領に於いて戸籍も用意されているし給与も支払われている。

戦略AIによって指揮されている無人兵器群によって編成されている国防軍第8師団と似ているが、これは正面戦力として扱われているあれらと比べて運用目的が違う。

「まぁ、彼らの活躍は確実に赤軍の士気を大きく下げていくだろうな。
 この時代からすれば人の形をした災厄といってよい対人兵器だぞ。
 正しく運用すれば戦果は高いものになるじゃろうし、
 なにより小数ならば量産は難しくはない」

真田の言葉は誇張ではなかった。人のサイズをした軽装甲車両並みの戦力は通常の兵士からすれば戦うのは悪夢に等しいだろう。2式戦闘ユニットは通常の人間が携帯できるような火器程度の攻撃では撃破は不可能である。破壊するためには重砲などのような高火力を直撃させなければならない。

真田としては最低でも2式戦闘ユニットは北欧方面に対して1個大隊程度の戦力を整備したいと考えている。自軍・友軍の人的資源の消耗を抑えつつ、敵側の消耗を極大にするための措置だ。通常の無人兵器と比べて割高だが、人間に見える利点は大きい。あからさまな無人兵器の運用は帝国重工が隠してきた時代をあまりにも超越している技術を内外に知らしめてしまい、諸外国から要らぬ警戒を招くだろうし、自国内の強硬派が増長してしまう。それらの面倒ごとを未然に防ぐための手間でもあった。

「状況はどうじゃ?」

「全ユニット問題はありません。
 直ちに作戦行動に入れます」

そう問われた1体の2式戦闘ユニットが応じる。彼は指令機としてアップグレードされた真田信孝(さなだ のぶたか)という名を与えられたユニットである。信孝の容姿はタクティカルマスクで表情は伺えないが、マスクを取ると真田の血を引いているような容姿で作られている。とりわけハンサムというわけではないが、その作りは知的な感じと余裕ある雰囲気が感じられるだろう。 そして信孝は2式戦闘ユニットの中では最も高度戦術擬体に近い存在だ。戦略AIと接続できない事態では独自に判断を下して指揮下のユニットを指揮する役割が与えられており、信孝が有する高い権限から不自然が無いように真田の養子という立ち位置で戸籍を得ていた。また国防軍に於ける階級は現在は大尉である。

零式輸送機はフィンランド東カレリア地方のオネガ湖畔上空10000mを、巡航速度にも関わらず諸外国の航空機では遠く及ばない560km/hの速度で飛行していた。高度だけなら実用性を無視するならばアメリカ陸軍が採用している複座戦闘機LUSAC-11でも到達は出来るだろうが、もちろん高度上昇のためにエンジンに過負荷を掛けているような状態では到底追いつけない。

また、零式輸送機は輸出用に廉価版も始まっているが、廉価版といえども世界水準を大きく引き離すものだった。

「そろそろ時間じゃな…」

『降下地点まであと5分です』

真田のつぶやきから少しの間をおいてカーゴベイの内部にアナウンスが流れた。零式輸送機は降下地点であるロシアでも有数の古い地域であり、東ヨーロッパ平原の北東部に位置するヴォログダの北西部に向かっていたのだ。赤軍の主要補給ルートの一つであるが、その3分の2が森林地帯であり小規模戦力でゲリラ戦を行うには適した場所でもあった。

降下するのは当然ながら信孝が率いる2式戦闘ユニットのからなる特務分隊だ。彼らのコールサインはニンジャである。後にニンジャコマンドとして恐れられる特務分隊の人間離れした恐怖の破壊活動が始まろうとしていた……
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【あとがき】
零式輸送機も将来的にガンシップ・プロジェクトIIのような計画によってガンシップ化すると思われますw

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(2019年12月21日)
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