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帝国戦記 第五章 第14話 『ハワイ攻略戦 後編』 


第2任務部隊の各飛行船によって機械化部隊の展開が始まる前に、日本軍による攻撃が始まっていた。行われていた攻撃は事前に侵入していたリョウコ大尉率いる特殊作戦群の兵士によってカポレイ地区のアメリカ軍歩哨の処理と、降下地点のカポレイ地区から西に2.4kmにあるカへ湾に設けられたカヘ石炭火力発電所の制圧である。特殊部隊の作戦に加えて第2任務部隊の制海艦「鳳翔」から8機の4式艦上汎用機「流星N型」からなる攻撃隊が発艦していた。「飛鷹」「隼鷹」「神鷹」「海鷹」には万が一の際の支援部隊として合計16機の12式攻撃型回転翼機(以後、攻撃ヘリと明記)「紫電」が待機する。

ただし、ハワイ攻略作戦が問題なく推移すれば紫電の出番は無い。

攻撃ヘリ「紫電」は帝国重工によって圧倒的大多数の地上軍を有する国家との戦争に備えてAH-64Gを元に開発された機体だった。本来なら第3世代ティルトローターであるV-280ヴェイラーを元に攻撃ヘリの開発が行われる予定だったが、低コストと量産性の点からAH-64Gがベース機に選ばれている。武装は機首下に12式30o機関砲1門、胴体側面のスタブウイング下部に設置された兵装架(ハードポイント)には、10式70oロケット弾発射ポッド、10式対地誘導弾の搭載が可能だった。また、10式70oロケット弾は搭載量と揚力を増やすべく三角柱構造になっている。そして、10式対地誘導弾のみなら最大16発搭載可能で、10式70oロケット弾のみなら最大100発の搭載が可能だ。

16機からなる攻撃隊の隊長は滋野清武(しげの きよたけ)中佐である。

滋野中佐は史実に於いては、日本帝国貴族の男爵でありながらもフランス共和国で日本人初の万国飛行免状(アエロ・クラブ)を取得し、更には第一次世界大戦ではフランス陸軍航空隊に志願してフランス陸軍飛行大尉に任命され、エース・パイロットになるに留まらずレジオン・ドヌール勲章とクロワ・ドゥ・ゲール勲章に叙勲していた人物だ。この世界では帝国軍の航空兵力整備の中心人物として、滋野中佐は日野熊蔵(ひの くまぞう)少佐と共に操縦技術及び航空戦に関するノウハウ習得の為に国防軍に出向していた。

滋野中佐が率いる攻撃隊は計器によって現在位置と高度等の飛行に必要な情報を正確に把握し、更に制海艦「鳳翔」の指示を受けて飛行する計器飛行方式によって飛んでいたのだ。編隊灯は遠方からの被視認性が低い淡い緑色の光を発するもので、被発見性を抑えたタイプになっている。

現地時間5時30分、
日の出まで30分を切っていた。
攻撃隊が最終飛行針路への変更を終えると滋野中佐は命令を下す。

「作戦目標まで後8分。
 全機傾聴せよ。
 これよりナインブリーフィングを行う」

ナインブリーフィングとは対地攻撃機が行う簡易指令である。「攻撃開始地点を示すIP」「IPから目標への自方位」「IPから目標への距離」「目標地域の標高」「目標の概要」「目標の座標」という攻撃に必要な情報に加えて「味方部隊の位置」と「損害を受けた場合の離脱経路」更には「既に位置が判っている敵の対空火器の情報」によって構成されていた。状況によっては友軍機の攻撃手順などの情報も追加される。

「第一目標は2-2-44、ベクター45、24500、104、M1903高射砲8門だ。
 友軍部隊の展開は第一次攻撃後に3-12-1に展開する計画になっている。
 被弾時の離脱経路はC5だ。
 5-21-4に他対空陣地が存在する。注意せよ」

戦前からの戦略偵察によって精密な2km戦術グリッドマップが作られてた事によって、夜間であっても計器飛行方式によって作戦目標まで高い精度で到達する事が可能になっていた。加えて限定的であったが、適切な情報支援があれば戦術グリッドマップを活用する事で夜間爆撃すらも可能になっている。

そして、滋野中佐が率いる攻撃隊の任務は、
降下作戦が行われる前に対空陣地の破壊を迅速に行うのが目的だ。

攻撃隊に対して雲龍に搭乗している統合末端攻撃統制官からの通信が入る。統合末端攻撃統制官は攻撃隊が行った攻撃の爆撃効果判定を行い、また爆撃による誤爆を防ぎ、友軍地上部隊の安全を保つために必要な情報支援を行うのを主任務とする。

「ホークアイよりキロ1-1、聞こえるか?」

ホークアイとは統合末端攻撃統制官を示す符丁で、
キロ1-1は滋野中佐率いる攻撃隊を示す。

「キロ1-1、通信は明瞭だ。
 ホークアイ、状況説明を求む」

「了解(ラジャー)。周辺空域に敵機は存在しない。
 予定通りグリッド2-2-44への爆撃を開始せよ。
 2-1-58以降に於ける被発見率は32%に上昇するので注意が必要だ。
 想定状況4、以上(オーバー)」

盛んに通信が行われていたが、他国では傍受が適わない領域で行われていた。もちろん軍用圧縮暗号化も平行して行われているので、専用の受信装置を入手していたとしても解読することは不可能と行って良い。

そして帝国軍士官も国防軍との交流を重ねるうちに外来語を多用した命令のやり取りにも慣れてきていた。短い単語で伝えられる利便性も大きいだろう。

順調に攻撃隊は洋上からオアフ島に到達する。攻撃隊の各パイロットは統合ヘルメット表示照準システム(IHADSS)に表示される攻撃目標に向かって高度を調整しながら進む。

攻撃目標まで後2分になると滋野中佐が隷下の飛行隊に命令を下す。

「編隊長機(リード)より各機。
 IP(爆撃座標)2-2-44、編隊パターンは二機編隊。
 指定目標に対して精密爆撃を行う。
 復唱は不要だ、以上(オーバー)」

爆撃目標のデータは自動割り振りによって各機に送られる。この自動割り振りはオアフ島の張るか上空に展開するSUAV(成層圏無人飛行船)が得た情報を元に雲龍が行う。

命令を受け取った各機は編隊長機である滋野機を中心に組み変わる。爆撃を行うべく指定の飛行コースへと侵入していく。

4式艦上汎用機「流星」の兵装架(ハードポイント)は左右の主翼下にはそれぞれ7ヶ所、胴体下に設けられた1ヶ所の合計15ヶ所に及ぶ。図抜けた搭載力と並みの戦闘機を超える優秀な飛行性能及び空戦能力に加えて、固定武装である4門の10式20mm重機関砲を除く兵装をすべて機外装備にした事で給油や兵器搭載、整備の手間を大幅低減に成功している。このような優れた性能により流星の存在は人類初飛行の航空機の改良型にして、傑作汎用機(後に戦闘爆撃機)として名を残す事になるのだ。

滋野攻撃隊の各機の兵装は左右の翼面下部に合計6発の10式汎用爆弾(230kg)、6基の10式70oロケット弾発射ポッド(1基25発)、胴体下部に2発の10式汎用爆弾という重武装を誇る。

ヘッドアップディスプレイを無誘導爆弾運用モードに切り替えると中央の上部に機関砲弾着点が表示され、その下に爆弾投下線が記される。最小安全高度を意味する最小投下距離指標、理想投下点指標の順に着弾点を示すピパーが並ぶ。左下には弾着点までの直線距離と、選択兵器と弾数が映る。捕捉済みの目標に四角のマークが付き、ピパーが四角と重なるような飛行経路に修正していく。

「編隊長機(リード)より各機。
 アプローチ(対地上目標攻撃準備)……………………
 ナウっ!(攻撃機動を始め)」

滋野中佐の命令によって各機が攻撃機動が始まり訓練どおりに進む。適切な高度で主翼に付けられた兵装架(ハードポイント)から左右1発づつの10式汎用爆弾が切り離されていく。無駄口は一切無い。この爆撃によって、これ以後の作戦に影響が出ることを知っているからだ。攻撃を行うのは攻撃隊の半数に留まり、残る半数は撃ち漏らした際の後詰めとして空中待機となる。

「…5…4…3…2…1…弾着(インパクト)」

観測機を撃退及び撃墜する目的で配備されていた8門のM1903高射砲によって作られた対空陣地に着弾した10式汎用爆弾が炸裂していく。大きく外れた爆弾は一発も無い。見事な対地攻撃であった。航空機の発動機音と爆撃による爆音によって兵舎で眠りについていたアメリカ陸軍の兵士が目を覚ますも、正確な情報が入手できておらず即応体制には程遠い。カポレイ地区の幾つかの武器庫に仕掛けていた爆弾を指令爆破によって起爆した事も重なって、アメリカ軍の混乱に拍車をかけた。

「ホークアイよりキロ1-1。
 見事な爆撃だ。再攻撃の必要は無い」

「了解した。
 これより第二目標に向かう。
 以上(オーバー)」

滋野攻撃隊が第二目標の破壊を終えると同時に第2任務部隊による部隊展開が始まる。第2任務部隊の部隊展開に対する妨害は皆無だった。特殊作戦群によって行われていた歩哨制圧によって警戒網に穴が開いていたことが大きい。適切な情報が得られなければ対応は後手に回る恒例と言えるだろう。

滋野攻撃隊は作戦地域周辺の対空陣地に対する爆撃任務を終えると、バリー砲台とチャンドラー砲台に対する攻撃に移る。この二つの砲台は真珠湾の水道を守る砲台であり、各砲台に1基つづ有していたM1895(45口径305mm沿岸砲)がカポレイ地区への射界を得ていたのが攻撃の理由だ。10式汎用爆弾によって目標のM1895(45口径305mm沿岸砲)を破壊する。このタイプの沿岸砲は装甲や鉄筋コンクリート層によって守られていないので、大型爆弾を用いなくても破壊が可能だった。

アメリカ軍も激しい混乱の中で抵抗を試みるも、滋野攻撃隊による機関砲とロケット弾による妨害攻撃と、局地制圧用重攻撃機「飛龍」「屠竜」「呑龍」「火龍」からの制圧射撃によって部隊集結が思うように進まない。カポレイ地区のバレット要塞守備隊及び、要塞周辺に駐留していた2個連隊からなる戦力は状況を把握する事も出来ずに、不利な状況で消耗を強いられていく。

西ハッチ砲台と東ハッチ砲台の砲台は洋上艦に対しては相応の戦力価値を有する砲台だが、近接した地上部隊に対しては無力そのものだ。砲術計算室を有するバレット要塞指揮所が押さえられてしまえば、目視射撃しか行えない。局地制圧用重攻撃機「飛龍」「屠竜」「呑龍」「火龍」からの圧倒的な火力支援を受けつつ、8式歩兵戦闘車を先頭に攻撃を行う日本軍の攻勢を前にして、作戦開始から約2時間が経過した朝8時頃にはアメリカ軍はバレット要塞方面に展開していた兵力は壊滅的な打撃を受けて、残存兵力は真珠湾方面への撤退を余儀なくされていた。

無論、アメリカ軍もやられっ放しではない。

アメリカ陸軍は陸軍管轄の要塞によって日本軍撃退を豪語していた分、面子にかけて反撃用の兵力をかき集めると平行して、フォードT型MGからなる車両部隊の投入準備を早急に整えていく。アメリカ海軍も真珠湾に停泊していた艦艇に対する出港準備を急ピッチで進める。なにより、一部の要塞が無力化されたとは言え、ハワイ要塞で最も要塞砲の射界が集中しているのは、停泊している艦艇を守る目的から真珠湾周辺に集中している。故に、アメリカ軍は残る要塞砲を活用すれば日本軍の撃退が可能だと信じていたのだ。

だが、現実は残酷だった。
アメリカ軍が抱く儚い希望を打ち砕くように、
夜明けから時を置かずして日本軍の作戦が次へと進む。

4式艦上汎用機「流星」によって真珠湾周辺に砲撃予告に伴う退避勧告を記したビラの散布がホノルル市内に対して行われる。ビラに書かれた砲撃開始時刻は朝の8時を示しており、朝寝坊の者には強烈な目覚ましになるに違いない。

砲撃予告に対して具体的な行動を起そうにもアメリカ軍はまだ日本側の戦力を正しく把握しておらず、展開する部隊の大まかな位置すら判明していない。停泊している戦艦群による艦砲射撃を行おうにも敵部隊の概略位置が判らなければ無駄弾に終わる。そして日本艦隊との戦闘を備えて榴弾ではなく徹甲弾を重点的に積み込んでいたので、本格的な対地砲撃を行うには心伴い弾薬量だった。 そして日本軍の情報を知ろうにも、威力偵察に出した部隊や日の出と共に飛び立った偵察機は軒並みに未帰還に終わっている。

そういった状況も加わって、アメリカ軍の当初からの目的は要塞と艦隊戦力を用いた日本艦隊の撃退に賭けるしかなかった。 しかし、砲撃開始時刻が迫っても真珠湾から見渡せる水平線には長門級戦艦の姿を見ることが出来ず、それは開始時刻になっても変わりはない。

アメリカ軍が拍子抜けした直後に、彼らの油断を嘲笑うかのようにカポレイ地区の方角から砲撃が飛来した。その数、24発。高台に隠れてアメリカ側からは直視は出来ないが、洋上に展開する戦艦「陸奥」「日向」「山城」からの砲撃だった。カポレイ地区に展開した観測班を用いた間接照準――――を装っていたが、実際は成層圏監視システムを用いた照準補正が行われている――――による砲撃だ。

艦砲射撃に加えて、95式155o野戦重砲からの砲撃も加わる。この重砲は第1任務部隊がポカイ湾に上陸した直ぐに、強襲揚陸艦「飛鷹」「隼鷹」「神鷹」「海鷹」から発艦した計8機の4式輸送機「紅葉」が機体下に吊り下げて運び込んだものだ。ポカイ湾から真珠湾まで26kmに過ぎず、高台のカポレイ地区によって直接照準が行えないので反撃は受けにくい。

砲撃開始から5分の内に、アメリカ太平洋艦隊は日本艦隊との直接砲火を交える前に、旧式小型戦艦「ウェストバージニア」、防護巡洋艦「ニューオーリンズ」が大破となる。このようにハワイ攻略作戦を巡る戦況は、アメリカ軍にとって最悪の方向へと移行しつつあったのだ。









制海艦「鳳翔」の飛行甲板に立つ艦橋上部に設けられた管制塔では、飛行甲板上の全ての権限と責任を負う飛行長が複数の士官と共に任務を遂行していた。その傍らでフランス海軍のユージン少佐、フランス陸軍のウェイガン少佐、アルゼンチン海軍のガルシア大佐、タイ陸軍航空隊に所属するルアン・サックサンラヤーウット少佐の4名が、上陸支援及び制空権を獲得に向けて発艦していく4式艦上汎用機「流星」に視線を向けている。

彼らはハワイ上陸作戦に観戦武官として招かれていたが、日本側の宣伝戦略の一環として、かなり深い部分まで作戦の光景を見ることが出来ていたのだ。鳳翔の様な最新鋭艦の艦内であっても機密区画を除けば自由に動き回れる待遇になっている。また、スペイン王国、北欧諸国、チリ共和国の観戦武官も招かれていた。ただし、戦争当事国に該当する連合国と中央同盟国からの観戦武官の受け入れは行っていない。体の良い断り文句であったが、その本質はイギリス帝国を除外する措置であったのだ。

そして、ハワイ攻略作戦開始から既に4時間が経過していた。

ハワイ近海に達した第1任務部隊の一部はオワフ島北西にあるポカイ湾から4kmの洋上に展開を終え、強襲揚陸艦「飛鷹」「隼鷹」「神鷹」「海鷹」は巡洋艦2隻と自由ハワイ軍の艦艇からの支援攻撃を受けつつ上陸作戦を無事に終わらせていた。戦況は順調と言ってよい。制海艦「鳳翔」は巡洋艦1隻、護衛艦3隻と共にポカイ湾から20km離れた洋上を遊弋して、全体の指揮と航空支援を行っている。

また、制海艦「鳳翔」が後方に展開するのは大きな理由があった。

総司令官として乗船する高野が最前線から離れた場所で作戦指揮を執ることで、今後、帝国軍が陣頭指揮に固執しないように前例を作る目的があったのだ。これからの時代、総司令官に求められる資質は、双眼鏡で眺められるような狭い視野で作戦指導を行うのではなく、距離の離れた各部隊に対して的確に正しい指示を与える事がより重要になる。そして、条約間戦争ではタカノチャージとして近代海戦で稀にみる戦艦隊を含む艦隊による突撃を行った高野ならば、後方から命令を下していても臆病風に吹かれたとは言われない。

航空母艦、制海艦、指揮艦のような艦艇を
安全圏に置いて行動させる軍事的な見地もある。

国防軍は大型艦艇でありながらも直接砲火を交えない鳳翔のような艦艇には司令部指揮所を設置し、国防軍総司令部との直通回線や、戦略偵察網との回線連結を行うことで、戦域に於ける指揮統制・情報活動の要として運用していた。

戦艦「陸奥」「日向」「山城」は交代で弾薬補給を行いながら、護衛艦5隻と共に、上陸部隊の近くに展開して、鳳翔の管制の下で次の作戦準備を進めている。

「航空強襲による兵力展開とはまたとんでもない事を思いつく」

「有効なのは認めるが、
 この作戦は日本機以外では実現不可能だぞ。
 まず我々の機体では紅葉のような運用は行えないし、
 第一に搭載量が絶対的に不足している」

ユージン少佐の言葉にウェイガン少佐が諦めたような口調で言う。

紅葉のような機体を引き合いに出さなくても、流星と比べるだけでウェイガン少佐がには全ての答えが判ってしまう。フランス軍の中で最も性能が良かった単発複座複葉爆撃機ブレゲー4は欧米間では優秀な機体であり、中央同盟国への輸出すら行われていた航空機だが、1900年6月1日に人類初の有人動力飛行機である流星に適うとは到底思えなかった。

「航空機による妨害を行うのが精一杯…
 いえ、それすら無理かもしれません」

タイ陸軍航空隊は帝国重工との技術提携によって東京石川島造船所航空機部門が開発生産していた甲式戦闘機2型を採用しているだけに、流星との格差が判ってしまう。タイ軍としては帝国重工製航空機を欲していたが輸出規制の為に、次点として甲式戦闘機2型を採用していたのだ。無論、甲式戦闘機2型の性能は欧州戦線で飛び交う航空機よりも性能が良好なので、不満には至っていない。

甲式戦闘機2型はアルゼンチン軍とチリ軍に留でも採用されている。

「だろうな。
 これまで見る限り、帰艦してきた日本機の数が全く減っていない。
 例えアメリカ機の性能が劣悪であったとしても凄まじい結果だ」

サックサンラヤーウット少佐の言葉にウェイガン少佐が答えた。優れた分析能力を有するウェイガン少佐にはこれまでの情報から日本軍事技術が条約間戦争時と比べて劇的に向上している事が判ってしまう。帝国重工を抜きにしても、東京石川島造船所のように欧米機と同等以上の甲式戦闘機2型を生産している現実が、帝国重工を抜きにしても日本帝国が侮れない存在になった事を示していた。

「艦載機も凄いですが、
 この艦の射出機も凄まじいと言えます。
 日本機のような航空機を問題なく射出しているのですから」

複葉機と違って輸出対象外に指定されている日本機は装甲版が装備されているらしい噂からして、控えめに見ても重そうだった。欧米諸国では流星を1トンから2トンと見積もっている。

「確かに…
 日本機のような重量物を、
 一体どのような方法で射出しているのだろうか?」

ガルシア大佐が発した疑問に各人が意見を出し合う。火薬、油圧など幾つもの推測が出ていくも、誰一人として電磁式射出機(リニアカタパルト)という正解に至っていない。機関部や砲室の入室を制限する危険物第1類第1燃料系と同じように、離着陸が行われている飛行甲板には資格保持者でなければ立ち入れないのが正解に至れない最大の要因である。そして、無理な情報収集を行えば日本帝国と帝国重工の不興を買ってしまうので、行えるような手段ではなかった。10年前ならいざ知らず、現状では日本帝国は列強の一国であり、その戦力も大きい。そして、帝国重工が生産している医薬品、燃料の輸出規制が行われれば、どれだけの損失になるか判ったものではない。

話の方向性がガルシア大佐によって、
艦載機から完全に艦艇へと移る。

「水上機母艦と比べて素早く飛行甲板での離発着が可能な分、
 優位性は明らかです。
 洋上に浮かぶ航空基地と言って過言ではないでしょう」

ユージン少佐の言葉はフランス海軍軍人らしい言葉であった。この時期のフランス海軍は魚雷艇に代わる攻撃手段として航空機に着目しており、洋上に於いて現実的な運用が可能な水上機を搭載した水上機母艦「フードル」を世界で始めて建造している。だからこそ、鳳翔が有する優れた能力を理解する事が出来ていた。

「確かに鳳翔のような艦艇の有効性は高いだろう。
 だが現実的に取得するとなると話は別だ。
 予算、技術、そして政治的にも前途多難だろうな。
 それならば陸上に飛行基地を整備したほうが安く上がる」

ウェイガン少佐の指摘に誰一人として異論を挟まない。

何しろ15000トンを超える大型艦の建造には相応の時間と予算が掛かる。よしんば艦艇を建造しても艦載機の質が伴わなければ役に立たない。そして新たな分野の人員育成には想定以上の予算と時間が掛かってしまう事例は多々ある。主力艦の建造を見送って得られたものが戦力外の艦になれば、同等の船の取得が更に遠のくだろう。それに軍予算の無駄な浪費は国防に悪影響を及ぼす。

要約すれば、
現状では鳳翔のような艦艇を目指すのはリスクが大き過ぎたのだ。

鳳翔が航空機を用いて敵戦艦を撃破すれば、類似艦の建造に挑戦する価値は出ただろうが、日本帝国の戦略方針からして、そのような戦艦価値を下げるような事は行わない。戦艦の戦略価値はこれからも保ち続ける事になる。

こうして、観戦武官が見る中、
日本側の作戦は次の段階へと移行していくのだった。
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【あとがき】
意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2014年09月21日)
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