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帝国戦記 第三章 第13話 『イギリスの方針』


超知的機械を、いかなる賢人も遥かに凌ぐ知的な機械であるとする。そのような機械の設計も知的活動に他ならないので、超知的機械は更に知的な機械を設計出来るだろう。それによって間違いなく知能の爆発的発展があり、人類は置いて行かれるだろう。

従って、最初の超知的機械が人類の最後の発明となる。


アーヴィング・ジョン・グッド





イギリス帝国首都、ロンドン・ウエストミンスター地区ダウニング街11番地にある第一大蔵卿執務室にて、アーサー・バルフォア第一大蔵卿、ヘンリー・ペティ=フィッツモーリス外務大臣、ジョゼフ・チェンバレン議員、ジョン・アーバスノット・フィッシャー大将の四人が非公式に集まっていた。イギリスらしく各人の席には紅茶が配られている。

議題は日本帝国と三国間条約で行われていた停戦交渉であった。

「ようやくフランスも停戦交渉の席に就いたか…
 交渉の段階で日本が勝ち過ぎているのが、いささか気に入らないがな」

「バルフォアよ。あまり欲の皮を張るものではないぞ。
 これ以上の戦争の長期化は我々にとっても不利益にしかならない」

バルフォア第一大蔵卿の言葉にチェンバレン議員が言った。
フィッツモーリス外務大臣が口を開く。

「ロシアとドイツも態度からして戦争継続を望んでいないのが判ります」

「だろうな。両国にとって、これ以上戦争を続けても得るものは何もないだろう。
 でも良かったよ。
 これ以上続くなら本格的に介入せざるを得なかった」

日本帝国は、これ以上戦争が長引く場合は戦争継続に欠かせない主要港を順々に破壊していく旨を条約側に対して通告していた。もし、実行されれば物流及び経済活動に大きな打撃を受けて戦争の継続どころではなくなる。脅しではなく、今の彼らにはそれを行えるだけの海軍力があった。 海外植民地を保有するドイツ帝国とフランス共和国では、その影響は顕著に出るだろう。中立国の港や船舶を利用する抜け道もあったが、その場合に掛る輸送コストは従来の比では無い。特に、これらの負担によって有力な金融市場を有するフランス経済が崩れると、金融危機が発生してヨーロッパの金融秩序を揺るがしかねなかった。

その余波はフランスだけに留まらない。

プレーヴェ内務大臣の手腕を発揮によって経済は比較的安定していたが、ロシア帝国の工業化に要する資金の多くを戦前からフランス政府から借り入れており、それが無くなった訳ではなかった。フランス経済が悪化すれば猶予されていた累積債務の取り立てによって、ロシア経済も連鎖的に大きな打撃を受ける事になる。フランスから50億フランの借金を抱えているオスマン・トルコ帝国はより深刻だろう。

イギリス帝国はそれらを危惧していたのだ。
金融市場は繋がっており、その被害は予想以上に飛び火する。

また、チェンバレン議員が同盟国でもない日本帝国の和平仲介に積極的なのは金融危機以外にも理由があった。

日本側の奮戦がこれ以上続けば、彼らと同じ非白人民族である植民地人を奮い立たせてしまう。その状態で悪手を打てば民族独立の機運に火をつけてしまいかねないからだ。それを避けるために彼はフランスが停戦交渉に応じる様に、国内に対しては地中海治安維持の名目でフランスに圧力を掛ける為にイギリス地中海艦隊の増強を行っていた。

そして、金融危機を考慮しなくてもイギリスが取り得る選択肢は変わらない。

現状でイギリスが条約側に加担してもイギリス艦隊が殆ど単独で日本艦隊と戦わねばならず被害は大きなものになるだろう。大西洋やインド洋の制海権は獲得できても、補給線が延びる太平洋側で長門級戦艦が相手では分が悪すぎる。第一に、戦局に大きな影響を及ぼす長門級の総数が不明ではまともな戦略は立てようがなかった。例え勝てたとしてもロシア、ドイツ、フランスと日本利権を分配していては旨みは無い。艦隊戦力の回復には膨大な資金と長い時間が必要になるだろうし、それを補おうと自らの利権分配を多くすれば他の三ヶ国から恨まれるのは確実だった。

日本側に立って参戦すれば非白人民族単独による勝利は打ち消せるだろうが、
そのような行動は条約側からとてつもない恨みを買う事になる。

また、帝国重工が輸出していた化粧品や医療品の価格高騰による市民生活に対する影響も徐々にだが始まっていた。帝国重工からの売値は変わらなかったが、供給量の減少による高騰である。帝国重工は戦争の長期化により、生産力を軍需に向けた事を理由としていただけに、停戦を望む声が日増しに強まっていたのだ。

よって現在のイギリスが取り得る選択肢の中でもっとも被害が少ないのは、
控えめに干渉して戦争を終わらせる事だった。

バルフォア第一大蔵卿が言う。

「ともあれ、問題は事実上の戦勝国である日本の利権を何処まで与えるかだな。
 余り与えては悪戯に日本を強くしてしまうし、少なすぎれば我々に敵意が向く。
 日本を強くしない形で三国の恨みを日本に向けさせるべきだな」

「そうだな。日本に厳し過ぎて、彼らの敵意が此方に向いては本末転倒だ。
 シンガポールを挟んで日本艦隊と睨み合うなど悪夢に等しい。
 現に、東アジアにおける一大勢力へと成長しつつある。

 そして両方から敵意を買えば、
 三国間条約が日本を交えた四国間条約にならんとも言えん。
 ……最悪の未来像だけに、そのような事態になれば修正は容易ではないぞ?」

「判っている。
 現時点での我が国と日本の対立で喜ぶのはオーストラリアだけだろう。
 あの国なら対立が生み出す不利益すら完全に無視して泣いて喜びそうだな」

フィッツモーリス外務大臣が残念に言った。
チェンバレン議員がため息まじりに話し始める。

「彼らには困ったものだ。
 日本側に対抗する為に戦艦、せめて装甲巡洋艦の1隻を寄こせと言っておる。
 その程度でどうにか出来る位なら、我々がここまで悩む訳が無かろう」

チェンバレン議員の言葉には
イギリス海軍によって行われた極秘机上演習の結果が集約されていた。

その机上演習とは艦設計委員会が絶対の自信で建造を進めていたセント・ヴィンセント級戦艦が日本戦艦にどれだけ対抗できるかを測る演習である。現在までに集められた情報から導き出された試算は散々だった。長門級に関しては現状では戦いを避けるべきという戦い以前の結果が出てしまう。

そして旧式戦艦でも数を投入すれば対抗可能と思われていた葛城級もトラファルガー沖海戦から艦載機運用型というべき派生型―――いや、海戦結果からして発展型というに相応しいタイプが確認されており予断を許さない。控えめに試算しても葛城級の新型タイプが相手では、2隻では厳しく、最低でも3隻のセント・ヴィンセント級戦艦が必要という結果が出ていたのだ。命中率の高さに加えて、機動力で決定的な差が出ており、戦いのイニシアティブが常に日本側にあるのが大きい。砲撃力、速度性能、航続距離に勝っている敵艦と戦うには相応の苦労と工夫が必要になる。

チェンバレン議員はコホンと咳ばらいをして話を区切った。
紅茶を一口飲んでから言葉を続ける。

「話がずれたな。
 現状を考えれば日本が得る賠償金や利権は最低限に抑えるべきだ」

「そうなると残るは領土か賠償艦になりますね」

フィッシャー大将が残された項目を言った。
チェンバレン議員は重々しく頷く。

「本来なら賠償艦で誤魔化したかったが、
 自国でより優れた艦艇を生産している彼らには通用しないだろう。
 蒸気タービンの軍艦を運用している国にレシプロ機関の軍艦を渡す様なものだ…
 賠償としての価値が有るかも疑わしい」

「確かに日本は極秘軍事支援の名目で打診しました
 キング・エドワード7世級と雪風級の交換にも応じませんでしたからね」

「戦時中にも関わらず日本側が交換に応じなかった事から、
 我々の戦艦に価値を感じていない証拠だよ。
 忌々しい限りだ」

狡猾かつ多角的に物事を分析する事ができるチェンバレンは選択肢が招く結果を正確に予見していた。彼は得られる情報が正しい限り、間違った決断を下した事が無い。その彼による説明が続く。

「そして、日本では使い道の無い……
 賠償艦の末路を考えれば、賠償艦という選択肢は取ってはならぬ」

「その理由は?」

「自国で使わぬからと言って、
 格安で各国に売られてしまっては我々が進めている商売に支障が出てしまう。
 戦艦と言う高価なものはそう頻繁に売る機会に恵まれるものではないからな。
 そして、売れない様な老朽艦では賠償艦にならぬ。

 例え売却されないにしても、彼らが即座に賠償艦を屑鉄としてスクラップにしてみろ?
 欧州の軍艦は改装の価値が無いと世界に宣言する様なものだ。
 廃艦禁止など盛り込んだら、こちらが恨まれてしまう。
 まぁ、賠償艦は、どちらに転んでも良い結果にはならないだろうよ」

フィッシャー大将の質問にチェンバレン議員は疲れたように言った。

イギリス海軍の巡洋艦乗りでさえ、一番乗りたい巡洋艦と言えば縦横の活躍を見せた日本の雪風級巡洋艦になっている。巡洋艦4隻で戦艦に対して優位に戦える船ならば誰だってそう思う。そしてコストパフォーマンスは巡洋艦の方が戦艦よりも優れている。このような風潮はイギリスにとっては危険だった。自国民ですら他国の兵器の方が優れていると思うようになれば、大多数の他国の民はよりそう思うだろう。それは旧式戦艦を改装した戦艦販売計画に大きな影響を及ぶす事にもなりかねない。

バルフォア第一大蔵卿が気乗りしない表情で話し始める。

「となると、残るは領土か…
 カムチャツカ半島からウランゲリ島、後はハバロフスク、
 これらは極寒で極過疎地だ、既に日本に占領されているのでスムーズに進むだろう。
 むしろ、収益よりも維持費が掛るので日本に負担させたいぐらいだ。
 それに対岸のアメリカ合衆国との対立も期待できる。

 ニューギニア、ニューカレドニアは市場価値も乏しいのでまだ良い。
 だが、ラ・ロシェルとディエゴ・スアレスは位置的に不味いぞ」

ラ・ロシェルは大西洋の要衝の一つであり、ディエゴ・スアレスはインド洋への抑えになる。双方ともイギリスの大動脈に直結しており、下手に認める事はできなかった。

「それは理解しているが、
 差し出すのが僻地だけでは日本側が納得しないだろし、
 賠償金を最小限に留めて、領土まで惜しめば停戦交渉が拗れるだけだ。
 ラ・ロシェルとディエゴ・スアレスの代わりに広州や青島などの租借地を差し出すのか?

 ありえんな。
 彼らが中国大陸の市場に足掛かりを持ってしまえば、
 手に負えん地域覇権国家になってしまう。

 せっかく日本と清国が国交断絶状態にあるのだ。

 今の状態を保てば日本は大陸の鉄鉱石は我々を介して買うしかない。
 燃料はあっても鉄が足りなければ近代国家は成り立たん。
 即ちそれは日本の生命線を握るのと同じだ。

 確かにラ・ロシェルやディエゴ・スアレスは一等地だが、
 日本の支配地域の住民の多くが退避してしまった今では過疎地と変わらん。
 しかも、フランス軍と常に対峙しなければならぬ負担地域になるだろう」

「なるほど、日本の軍事負担を増やすわけだな」

「同時にフランスの負担も増えるのだ。
 アフリカ地域に関しては何かしら理由を付けて、
 日本商船の立ち入りを制限すれば収入が得られず維持費ばかり掛るだろうよ」

チェンバレン議員の言葉に誰も反論はしなかった。

世界の海運を握る事で莫大な富を得ていたイギリス帝国らしい考えである。あえてラ・ロシェルに制限を掛けない点も辛辣だった。そしてラ・ロシェルに大軍を展開させても日本に利点はない事をチェンバレンは見抜いていたのだ。第一に、補給線が長く負担ばかり増えてしまう。彼はラ・ロシェルに至るまでの航路を突く事で日本に対する外交カードとして活用していく計画も視野に入れている。

ともあれ、停戦交渉が行われているとはいえ双方の軍事活動が止まった訳ではない。イギリスが帝国重工アルゼンチン支社に入り込ませた諜報員からも大西洋方面に関する補給計画がもたらされており、この事から停戦交渉の流れによっては、日本側が新たなる作戦を行うのは確実だった。

このように会議の流れは基本的に賠償金は最小限に留めて、どこの土地を日本側に与えるかという内容で進められていく。賠償金の代わりにロシア領からはハバロフスクの広範囲、フランス領からはコーチシナ(ベトナム南部)と南沙諸島が有力候補として上げられ会議が続く。差し出すべき植民地(僻地)が残っていないドイツは賠償金の支払い担当である。

もっとも賠償金と中国大陸に対する案件は徒労に過ぎない。

日本帝国は条約側から賠償金を取るつもり無く、また中国大陸とは関わりたくないと言うのが本音である。そして、日本の方針として、領土として編入する土地に人口密集地帯を含むのも願い下げでもあった。更には、講和の暁には占領地を領土へと編入する際に、三国側から恨みを買わない様に条約側に対して購入費(購入には埋蔵金の名目で内外に公表していた金銀の一部と帝国重工が負担する事で捻出)を支払う準備が進められている。

イギリス帝国は根本的な部分で計算違いをしていたのだった。














1905年11月1日 水曜日

幕張地区の機密施設が立ち並ぶ重要区画の中、真田中将とテレス少佐が並ぶ様に歩いていた。テレスが訪れていたのは洗脳処理を受けた女性工作員の進捗確認の為である。テレスが気に掛けるの、その女性工作員の名はシルヴィ。27日前に非合法活動の現行犯によって国防軍情報部によって逮捕され、収監先で受けた脳機能イメージング解析及び、遺伝子検査によってナタリアが生き別れた妹と判明していたからである。

「シルヴィの状態はどうなの?」

「心配せずとも精神的に落ち着きを見せ始めているよ。
 もちろん元の人格にも影響は無いぞ。
 まぁもう少し様子見を行わないといけないが、大きな問題は無いだろう」

「よかったわ…」

「シルヴィも君を気に入っているようだから作業も楽だよ。
 退院後の配属先は先日話し合ったもので良いかな?」

「ええ、もちろんよ」

テレスが力強く頷いた。

ナタリアが危険が多い工作員になったのは亡き父の借金を返済する為と、7年前からイギリスの母方の実家に移り住んでから消息が途絶えていた残された唯一の肉親である妹を探す資金と情報網を得るためだった。気にかけているナタリアの妹ともなれば、テレスとしても可能な限り優遇したい。

そして、シルヴィの罪状は次のようになる。

アルゼンチン支社で勤務していたシルヴィがイギリス帝国のスパイとして、帝国重工が国防軍に対して行う補給計画(アルゼンチンのプエルト・ベルグラーノからラ・ロシェル)の一環を漏らした事である。情報はイギリスを通じて、日本側が勝ち過ぎない様にフランスへと送られ、それがフランス陸軍第1軍団の攻勢に繋がっていた。

これは外患誘致と外患援助に関する刑法第三章の第八十一条「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」と刑法第八十二条「日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する」である。この世界では刑法第三章は10年早く公布されており、これらは未遂であってもその罪は消えなかった。

もちろん、列強各国の刑法に当てはめても結果は変わらないだろう。

故に、すでに身内と化しているナタリアの妹のシルヴィとはいえ、
罪を犯している現状で死刑を免れるにはレベル5(最高度洗脳)の処理を受ける必要があったのだ。

どれほどに科学が進んでも完全に記憶と心を簡単に掌握できるものではない。

安直に記憶を改ざんしただけでは記憶の一部に齟齬が生じてしまい、精神不安定な人材になってしまう。そこで国防軍では、自ら納得して日本側に協力する結論に至った記憶を植え付けるレベル5(最高度洗脳)の処理を行う事で回避していた。本人適性も必要だったが、その記憶に適合性を持たせるために記憶の起点と分岐に及ぶ改ざんを行う。これは新しい記憶と人格を植え付ける処理よりも大変だった。

更には、適性が低ければ、それだけの手間が増える。

脳機能イメージング解析(これも専用の設備が必要になる)にて記憶を参照するのと違って、オリジナルの人格との適合性を考慮した一部書き換えともなれば、複数の高度パラメータからなる計算複雑性理論を並行処理するに等しい難度だった。故に印象誘導のようなレベル1(印象誘導)と違って、レベル5の処理ともなればネットワークを介して51式軍用複合演算機(量子・DNA複合コンピュータ)のリソースを使わなければならない。ナノウェアを使用した脳シナプスに対する視覚化カタリストと適合性レジストリの構成と誘導にも超高度演算が必要だった。

レベル5の洗脳処置が極刑が下された少数の工作員にしか行わないのは、倫理的な問題だけでなくコストと手間がかかるからだ。また、51式軍用複合演算機は自己修復する半有機的なナノウェアで構成されているとはいえ、過負荷を掛ければ専用の補修材が必要になる。補修材の生産は非常に手間の掛るものであり、メインフレームに過負荷が掛らないように51式軍用複合演算機の使用スケジュールは厳密に立てられていたのだ。

それに洗脳用に割り当てられているリソースにも限りがあるので、レベル5の洗脳該当者ともなれば、年間を通じて20名を越える事はないし、高度システムにアクセスする必要があるので真田のような高位の者が行う必要があった。

洗脳を受けた元・スパイが給与及び生活保障に於いてナタリアのように手厚い保護を受けているのは、重要な仕事を担っているのもあるが、相応のコストが掛っているからである。

コスト的に使い捨てなど論外だった。

やがて二人は一つの施設内にある個室型病室に入る。

室内には少女の面影を残した珠玉のような肌と流れるような髪を有する、 ナタリアと同じくハニートラップとして極めて有力な容姿をした女性が読書をしていた。

「こんにちは、調子はどう?」

「あっ、テレスさん、本当に来てくれたのですね!
 私の調子は上々です。
 今週中には退院できるようです。そうですよね、真田さん?」

「うむ。
 今日の検査結果次第だが、
 問題が無ければそうなるじゃろう」

アルゼンチン支社で勤務していたシルヴィは逮捕と言っても衆人環視の前で手錠を掛けられたのではない。就業中に意識を喪失させ、病気治療の名目で幕張地区のこの施設に収監していた。帝国重工は社員に対する保障が桁違いに高いので、このような方法が一番自然だった。場合によっては出張や研修を装う場合もある。公然と逮捕してしまっては二重スパイとして活用し難い。

シルヴィの場合はその容姿と立場から重要度が高く、高度洗脳の適性があれば二重スパイになる予定だったので、このように経歴に配慮した逮捕を行っていた。一通りの処置を終えていたシルヴィは自分が受けた処置を病気治療と信じている。

「退院が楽しみだなぁ…」

「そうそう、シルヴィのお姉さんかもしらない人がいるの。
 現在調査中だから、楽しみにしててね」

「本当ですか!」

「ええ、本当よ」

テレスの言葉にシルヴィは破顔する。
いくつかの検査を行った後、真田は用事が有ると言って退室した。
シルヴィは嬉しそうに椅子に座るテレスの前に立って、懇願するように尋ねる。

「ね…テレスさん、今日は何時まで居てくれるの?」

「そうね夕飯は一緒に食べられるわ」

「ほんと!」

シルヴィは心のそこから喜び、テレスも優しく微笑んで応じた。

高度な洗脳の矯正に含まれている公娼婦用プログラムの中に濃厚な開放派思想が入っており、もはやシルヴィには魅力ある相手に対しては同性だろうが異性だろうが関係ない。胸がときめくのを抑える事は出来なかった。また、擬体の生体素子が放つ人の精神を安定させる他、リラックス感を高めるフェロモンに対して強い好意を感じるように掛けた暗示がテレスに対する好意の一因になっている。

それにシルヴィには今後の計画の都合から、
テレスに対する好感度が最初から少しだけ刷り込まれていた。

こうしてシルヴィに対する処置が進められ、後にシルヴィはテレス、ナタリアの元で公娼婦の中で大きな存在へと成長していき、富豪たちが一度は指名したい3人組みとして名を馳せる事になる。
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【あとがき】
イギリス帝国らしい暗躍が水面下で進んでいますが、
日本側の譲歩に譲歩を重ねた和平案によって全てがご破算に(笑) 

また、掲示板に51式軍用複合演算機の質問があったので、その返答内容と1章19話の捕捉も兼ねたものを話に入れました〜。ただし、51式軍用複合演算機のスケジュールに関してはネタバレになるので、これ以上は秘密になります。

そして、テレス、ナタリア、シルヴィの3人は特殊プレイ対応にw
シルヴィは赤の他人の方が良いかな?


【イリナに関する質問です】
広報事業部の写真撮影9でイリナに水着とビスチェのどちらを着せた方が良いでしょうか?



意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2011年06月17日)
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