■ EXIT
帝国戦記 第三章 第03話 『領有宣言 前編』


国民から認められると宗教と言う名を与えられ、
国民が否定すれば迷信という名を付けられる。

トーマス・ホッブス





1905年9月3日、日曜日の早朝、さゆりとイリナは2匹の狼を伴って高野公爵邸のテラスから行ける、低くかつ傾斜のゆるやかな地形である小さな丘を歩いていた。時刻は朝の6時30分である。4kmほど西には旧津田沼村の丘が見える。イリナが家族と一緒に住んでいる近代和風様式の邸宅は高野邸から徒歩5分の場所に建っており思いのほか近い。

だからこそ、早起きの二人は何時でも朝の散歩を一緒に行う事が出来るのだ。

さゆりの手前にはチョコがイリナの手にはアールグレイと名付けられている、やや大きくなった狼のリードが握られていた。二匹とも高野公爵邸にいるニホンオオカミであり、アールグレイという名前はイリナが名付けている。

高野邸に残る5匹は今日は眠いのか珍しく散歩には不参加である。

夏の朝の気持ち良い太陽の日差しを浴びながら歩道を歩くイリナが口を開く。

「さゆり〜 ここから見える幕張も随分と開発が進んだね」

「ええ、10年前は荒地だったなんて信じられないくらい」

「うんうん!
 この幕張は10年前と比べて人口も増えて、町並みも様変わり。
 それだけじゃなく、
 南にある千葉町の寒川港、登戸港も貿易港として発展してるのも嬉しい♪」

「千葉町と佐倉町に掛けての道路工事も進んでいるから、
 堀田伯爵の喜びようが目に浮かびます」

「だね〜」

堀田伯爵とは下房総の印旛郡佐倉町に住む堀田正倫(ほった まさとも)伯爵の事である。彼は廃藩置県で佐倉藩の藩主ではなくなっても佐倉に戻ると、私財を投じて佐倉町に農事試験場を作り、街の農業と教育の発展に尽くしていた人物なのだ。また生活が困窮した旧武士や農民を私財を投じて救ってすらいる。この世界でも彼の高貴な行いは変わらない。

また堀田伯爵と意気投合した高野の計らいによって、
史実よりも多種多様な穀物を栽培する農地が広がっていた。

イリナにさゆりが応じる。

「同感ね。
 この時代の日本に低層マンションの建設が本格的に始まっているんですもの」

「高級住宅地に見えるって海外の人が驚いていたからね!
 それだけじゃなく広報事業部の方にも取引先の商会から購入の申し入れもあったし」

「さ、真田さんは凝り性だから…」

帝国重工では建設中の超高層ビルの一部を社宅として用いる計画があったが、超高層ビルと言えども一棟では拡大を続ける幕張地区にて従事する帝国重工の社員は収容しきれない。何しろ幕張に住む帝国重工関係者は8万人を超えている。 そこで周辺地域の開発を兼ねて都市開発事業部が社宅用の低層マンションを建設していたのだ。もちろん社宅とはいえ、都市開発に情熱を燃やす真田率いる都市開発事業部は手抜きを行わなかった。真田は景観を考慮し、人々が末長く暮らしたいと思う環境を構築していたのだ。

それゆえに外部販売は全く考えられていない。

社宅が立ち並ぶエリアから少し離れた場所には、遠方から来た社員の家族や観光客用に幕張海に面した宿泊施設、食事施設、娯楽施設がある。全体的に見て、帝国重工が好むポストモダン近代建築様式に、近代日本様式を取り入れた建築物が並ぶ美しい町並みと言えた。現在は観光地区として再整備が進められている。

また郊外にはニホンオオカミの保護区を兼ねた森林も景観向上に役立っている。

その区画には広報事業部が運営する神道系の狼森神社もある。この神社は既存の宗派ではなく、帝国重工がその科学力の粋を凝らして作り上げた格式と伝統とからなる、高野の一族が信仰している高野宗神道であった。一族の歴史と同じく作られた証拠であったが、やはり帝国重工らしく一分の隙もない。また分類としては山岳信仰系に属し、ニホンオオカミを神格化しつつ、自然を崇拝している。

ともあれ、開放派が務める煌びやかな巫女達がいる
神社として観光名所になりつつあった。

更に観光地区の川と海辺に面した風光明媚な場所に、バロック様式とオスマン様式を折衷した豪華な近代型大劇場の建設が進められている。そこで開放派に属する彼女達が新体操競技や演奏会などのイベントを開いて観光地としての地位向上を図る予定だったのだ。この観光事業は帝国重工が日本各地に張り巡らせた大型スクリーンを始めとした情報発信媒体を宣伝活動に使う事が出来るので、成功は約束されたようなものである。

さゆりが言う。

「それにしても2日後に行われる例の領有宣言が楽しみだわ」

「うんうん。
 北極点には福島大尉、南極点には白瀬中尉が到達しているし根拠も十分!」

イリナが言った福島大尉とは史実に於いて弘前歩兵第31連隊の中隊長として活躍した福島泰蔵(ふくしま たいぞう)の事である。彼は例年の冬とは比べ物にならない寒さにも関わらず、慎重かつ毅然とした指揮によって八甲田山の雪中行軍を一人も脱落者を出すこと無く成功させていた。同日に行われた第5連隊による行軍では210名中199名が死亡するという世界山岳史上最大とも言われる犠牲者を出した山岳遭難事故が発生している。これだけでも、福島大尉の優秀さが伺えるだろう。

当然ながら、この世界ではその様な惨事は起こっていない。

福島大尉の所属は白瀬中尉と同じく厳冬期の中、特殊作戦群の下で、毎年厳しい冬季雪中戦技演習を受けている帝国軍第5連隊であった。帝国軍第5連隊は極地に於ける不正規戦を目的としている。

また北極は氷の塊と知っていたが、日本帝国では将来の領有(領海)に向けて準備が進められていた。史実に於いて1948年に発見される、ノヴォシビルスク諸島の北1800kmの地点から北極点そばの北極海中心部を横切り、カナダのエルズミーア島、デンマークのグリーンランドの近辺まで伸びるロモノソフ海嶺を領海の根拠の一つとするのだ。ロシアが行った手法を、より紳士的に行うと言えば判りやすいだろう。

イリナの方に視線を向けてさゆりが口を開く。

「広報事業部も忙しくなるわね。
 帝国軍との合同探検も大成功、これらの書籍化を行わなければならないし」

「書籍化といえば、北極の探検隊に随伴した広報官から
 探検隊の内容に関して面白い一文があったよ」

「何かしら?」

南極と北極で行動している帝国軍と国防軍からなる領有化目的の探検隊には広報事業部の準高度AIが臨時の国防軍軍属(国防軍広報官)として配属されていた。目的は探検の状況を克明に残すためである。探検隊の編成は帝国軍7名、国防軍7名、広報事業部1名からなる、合計15名であった。

「えっとね…「確かに環境は厳しいが訓練に比べれば天国だ」、って
 帝国軍の士官が言っていたらしいよ」

「………なにそれ。
 まって、確か…探検隊の選抜メンバーは帝国軍第5連隊からで…
 冬季雪中戦技演習で優良成績を出した者からだよね?」

「うん。私も気になって調べてみたら…
 なんとなんと、冬季雪中戦技演習に参加した教官の一人に、
 リョウコの名前があったんだ!」

「嘘……あ、頭が痛いわ……」

リョウコとはストレートロングの髪をした深窓の令嬢のような雰囲気を有する準高度AIである。フルネームは霧島リョウコ。第一印象は黙っていれば美人。しかし怒ると恐い、果てしなく。かつて高野達がこの時代に遡る前に勃発した東南アジア紛争の際には、黄色い悪魔と恐れられた黒江の下で、カオリと共に活躍した一人であった。また、茶道の達人でもある。

この一件だが、さゆりが知らなかったのは組織からすれば当然であった。

リョウコは特殊作戦群の一員とはいえ、
任務として動いている領域は軍隊に於ける一部隊の訓練であり、
国家戦略レベルで動いているさゆり達とは違う。

リョウコの訓練は厳しくはあっても定められた規範から逸脱しておらず、厳しくとも兵のために行っている訓練であった。その事を黒江は理解しており、慣れれば問題はないと判断を下してもいた。このように規範から外れず、直属である黒江が納得していれば、高野やさゆりの下へ伝わる訳がなかった。

また冬季雪中戦技演習にリョウコが放った言葉の一つは次のようになる。

「あらあら……それで訓練に慣れたおつもりですか?
 ………甘いんだよッ!
 訓練だぜ? お遊戯じゃ意味はねぇ、楽には終わらせねぇよ」

おっとりとした口調から始まり、
突如として激しい口調へと変わっていく独自の口調であった。

さゆりより先に知っていたイリナは既に納得しており、
リョウコのフォローを行う。

「で、でも、愛情から来る厳しさだから、問題は無いと思うよ。
 訓練で手を抜いたら実戦で支払う代償が大きくなるだけだし」

「そうね……結果としては問題ない…かな」

「特殊作戦群が受けている訓練よりは優しいと思う」

「あ、確かにそうね」

さゆりは納得する。比べるものが悪かったが明確な比較対象が存在する以上、これも問題にしても意味は無い。それにさゆりもイリナと同じく戦争経験者だけあって甘い訓練に意味はないと理解していた。

「ともあれ、領有宣言を行ったら、オーストラリアは驚くだろうね〜」

「それは間違いないわね。
 ただの宣言ではなく、探索済みに加えて更に、
 小規模とはいえ南極に基地が出来あがっているのですから」

イリナの言葉にさゆりは上機嫌に応えた。

領土宣言とは南極圏にある南極とその他諸島と、北極圏の冬月諸島(セヴェルナヤ・ゼムリャ諸島)を始めとするコテリヌイ島、ノヴォシビルスク諸島、ウランゲリ島、ノヴァヤゼムリャ島、コルグエフ島からなる一帯を日本帝国の領土として編入を行う宣言である。

南極の現状は冬月諸島(セヴェルナヤ・ゼムリャ諸島)と同じような方法で国防軍の手によって短期間のうちに各主要地点に恒久基地を作り上げていた。これらは冬月基地と同時期に建設が進められていたが、冬月基地のような大規模なものでは無く、少人数が駐留可能なものであった。もちろん、トラック諸島からの充実した定期補給によってそれなりに快適に暮らせる点が大きい。

今年の8月8日に建設が始まった南極点の基地ですら、補給さえ絶やさなければ長期生活が可能になっている。これも銀河が支えている先進的な航空輸送システムの成せる業であろう。

また1841年にロバート・ファルコン・スコットが発見した無人島で何処の国の領土にも属していないロス島は南極圏に於ける船舶が接岸が可能な島だった事に加えて、島の南部にはロス棚氷と言われる南極にある棚氷としては最大の面積を持つ、厚さ数百メートルに及ぶ棚氷が南極大陸まで繋がっていた。

ある意味、南極大陸と陸続きと言っても過言ではない。

その重要度から国防軍によって40人ほどが駐留する間宮基地の建設が行われていた。間宮とは江戸時代の探検家である間宮林蔵(まみや りんぞう)である。更には間宮基地の追加設備として港湾設備の建設も始められている。

高野には抜かりはなく、後々に面倒が無いように南極圏の無人島でかつ領有権が主張されていない、スコット島、ルーズベルト島、バレニー諸島、ピョートル1世島、ブーベ島、にも大きく日章旗が印された小さな観測所を構築していた。これらも日本領となるのだ。

ただし南極諸島の中で南アメリカのチリの南方にあるサウス・シェトランド諸島は1819年10月16日にイギリス領と宣言されており、その大半が放置に近かったが日本領に編入はしない。またサウス・オークニー諸島、サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島、プリンス・エドワード諸島も同様である。

さゆりが言う。

「オーストラリアが慌てても後の祭り」

「列強が黙殺などが行えないように各地の通信社を集めて会見を開くからね」

「ええ。私達が先手を打って情報を流してしまえば、
 彼らも自分達の支配領域の安全を守るために先占を認めるしかない」

「だよね。
 海外支社にでも電文で概要は伝えるし、防ぐ手立てはないとおもうよ。
 北極はともかく、南極はそれなりに注目されていた場所だから、
 一国が報道統制を行っても他の国の誰かが抜け駆けすれば意味は無いし」

「それに新聞社にとって売り上げに影響が出てしまう情報なのも大きいわ」

「新聞社は特ダネから決して逃げられないからね」

日本帝国の領有宣言に列強が異議を唱えれば列強各国が首を絞める事になる。何しろ、彼らが世界各地に領有する、少なくない諸島に関しては、ほぼ未開発というものは珍しくは無い。開発が行われていない島と行われている島では根拠が違いすぎる。列強の横暴に渋々ながら領有を認めていた小国に禍根を残す事になるだろう。

有名な例を上げれば、1833年1月3日、アルゼンチンの領土だったフォークランド諸島にイギリス帝国は何ら通告を行うことなく軍艦を派遣し、武力によって実効支配は確保した前例すらあるのだ。このような歴史の積み重ねの為に、より礼儀正しく物事を進めてきた日本の領有行動を認めなければ、白人諸国を推し進めてきた植民地支配の秩序に大きな亀裂が入る事になるのは火を見るより明らかである。

情報戦で有利に立っている日本に対して彼ら欧米諸国の選択肢は限りなく零に近い。

しかも広報事業部は前々から準備しておいた北極・南極での写真集を世界各地にて販売する事で情報の拡散を促していくのだ。念入りにも写真の説明文には地名と一緒に日本領という一文も書かれており、抜かりは無い。もちろんイリナもモデルの一人として参加し、これらの写真集の価値が上がるように後押ししていた。美術性の高い裸体写真も含まれており、文字通り諸肌(もろはだ)を脱ぐ献身といえるだろう。

更には領有祝いとして、簡略版というべき無料配布版すらも存在する徹底ぶりである。

「これで宇宙進出が遅れても日本が有する海洋支配地域は広大!
 範囲内にある海底鉱脈の埋蔵量からして資源供給源はばっちりね」

「ええ、後は例の工場が各地で本稼動すれば、
 燃料に関しても問題は無くなるわ」

「海洋資源工場かぁ、
 進捗具合は計画の0.1パーセント程度だから先は長いよね」

「確かに時間は掛かるけど、
 達成の暁には日本の生存性は大きく向上する事になるわよ。
 江戸時代のときに成し得ていた完全自給体制も夢じゃないわ」

海洋資源工場とは、生命科学の技術を応用して太陽エネルギーを炭水化物へと変換し、天然に存在するアミノ酸のひとつアルギニンを生産するコリネバクテリウム属のコリネバクテリウムグルタミカム特変異種を介してバイオマスエタノールを生産している無人施設の事を指す。帝国重工は、そこで得たバイオマスエタノールを特殊精製する事によって少量ながらもバイオ燃料ペレットと第五世代型バイオ燃料の生産を開始していた。このように帝国重工は穀物を媒体とせずとも、燃料供給体制が行えるように技術開発を続けていたのだ。

諸外国に施設を見られても問題が無いように、
帝国重工は浮体式風力発電を装っている念の入れようだった。

このように帝国重工が採取対象になっている資源は陸上はもとより、自律型海中ロボットによる海底鉱脈を始めとした海底資源のみならず大気中、環境に存在するエネルギーすらも資源と見做している。これも帝国重工に熱、圧力、振動、電磁波といったエネルギーを電力に変換するエネルギー・ハーベスティング(環境発電)技術を独占保有しているからこそ行えるのだ。日本帝国は宇宙進出を目的としていたが、その究極的な目的は文明維持に必要な必要量の資源を他国に握られない事であった。日本の戦略は幅は広がっても、その根幹には必ずと言ってよいほどに生存圏と資源の確保がある。

イリナが少しだけ困ったように言い始める。

「一応、海洋資源工場は欺瞞として浮体式風力発電を装っているけど…
 あの欺瞞も諸外国からすれば異様な技術なんだよね」

「確かにね……夏島港よりは健全だけど、どうしようもないわ。
 1910年には浮体式風力発電として公表しても良いけど、
 それまでは警戒海域として立ち入りを制限するしかないでしょう」

「そうだね。今のところ警告を振り切ってまで、
 トラック諸島に無理をしてまで侵入しようとしているのは、
 オーストラリアの漁船だけなので対応可能だね」

欺瞞用とはいえ帝国重工が作るものとして恥じずに浮体式風力発電は本格的なものであった。作りとしては、直径500mの六角形浮体に、2基の直径100m、12500kW級の全方位対応型風車が取り付けられているものである。その浮体式が20個連結されているのだ。これだけで50万kWもの電力を生み出しており、工場の補助動力源としても期待できる。帝国重工では低周波公害を考慮して陸上では風車による風力発電は行われていなかったが、このような人口希薄地帯である洋上ならば問題は無い。また浮体の外縁に波力発電装置を備えており、風力発電以外の電力も得ていた。このように大事な部分を隠すためとはいえ、説得力を持った欺瞞施設を作るのは帝国重工の悪い癖と言える。

さゆりがイリナから大空に視線を向け、苦笑を浮かべて言う。

「……もっとも事故と言う不幸は避けられませんが」

「だけど不幸中の幸いかな?」

「ええ、犠牲者は最小限に留まっています」

「うんうん、こっちは国防軍がいつでも救助が出来るように即応体制だからね〜」

二人の言うように強引とも言える操業を行っていたオーストラリアの漁船には不幸な事故が多発していた。突如として海面に発生する三角波、予兆無く爆発するエンジン、長期航海からくる乗員の錯乱、これらのような多岐に及ぶ不幸な事故である。

その不幸な事故の一つとして、先月には公爵領で違法漁業を行っていた筈のオーストラリアの捕鯨船が、アメリカ海軍の防護巡洋艦ニューオーリンズとフィリピン海にて接触事故を起こしていた。ただの事故ではなく、事も有ろうに、沈没直前の捕鯨船から火薬の爆発力によって銛を発射する捕鯨砲がニューオーリンズに打ち込まれていたのだ。自体をより複雑にしたのは救助された漁船の乗員は錯乱し、「神がアメリカの軍艦が沈むことを欲している!」「我は神の代理人」などの言葉を繰り返していた事であろう。

イギリス帝国の仲介によってアメリカと和解したオーストラリアであったが、
この事件によって国際的に大きく恥をかいた事となった。

もちろん、これは偶発的に発生した不幸な事故などではなく警告を無視した船舶に対する国防軍による攻撃であった。攻撃の種類は炸薬量を減らした魚雷による潜水艦からの単純な攻撃や、マダガスカル戦域で使用した超指向性の音波照射機であるパサード(PSAD)を長期に亘って照射による精神不調への誘導などに及ぶ。

また、人命を重んじる帝国重工は日本の領海に於ける"不幸な事故"に関しては、国籍を問わず手厚く救助している。特に仮想敵国のような相手の場合はより慎重に対応し、例え目立った外傷が無くても帝国重工が管理する特殊病院に緊急入院させた程であった。流石にフィリピン近海の事故まではカバーできなかったが、今月に起こったオーストラリア漁船によるトラック諸島近海での事故は、迅速かつ完璧と言える救助を行っていたのだ。もちろん治療費は帝国重工が負担しており、また人道的な帝国重工らしく不幸な事故にあった相手から後日改めて請求することは無い。

入院する前は白豪主義の塊であった彼らオーストラリア船員も、帝国重工による手厚い治療(印象の操作を行う軽度の洗脳処置)によって、 非の打ち所のない親日家として更正され、熱烈に日本への協力を確約するほどであった。彼らは白豪主義の仮面を被りつつ、水面下では親日家として行動していく事になる。

ともあれ、散歩の折り返し地点に達した二人は会話に花を咲かせながら
元気よく走り回る狼を従えて帰路に就いた。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】
今回は南極大陸の地図は省きました。省いた理由は描いていたら今年中の更新に間に合わなくなりそうだったので……ごめんよー。 また北極や南極の地名には最上徳内、近藤重蔵を使う予定です。

また、今年一年、帝国戦記を応援してくださりありがとうございました。
来年も何卒、帝国戦記をよろしくお願い致します。


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2010年12月31日)
■ 次の話 ■ 前の話