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帝国戦記 第二章 第48話 『戦後計画 6』


なぜ、悪口が絶えないのか。
人々は他人のちょっとした功績でも認めると、
自分の品格が下がるように思っている。


ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ





イギリス帝国の首都ロンドンの郊外にて立ち並ぶ豪華な館の一室にて白人の資本家たちの中で特に裕福な人々が集まっていた。室内にあるテーブルには豪華な食事が手が付けられていない状態でおかれている。キャビアが惜しみなく食卓を華麗に彩られている事から、その裕福さがわかるであろう。

しかし彼らの多くは、その豪華な食事には殆ど目もくれずに話し合いをしていた。これらの話し合いは一箇所に固まることなく、幾つかに分かれている。

中心の人だかりに居た恰幅の良い男性が初老の紳士に話しかけていた。

「ロシア戦時国債の負債の損失だが、
 フランス軍がある程度の打撃を受ければ解消しますな」

「左様。フランスが打撃を受ければ、
 フランス単体では早期に癒すことは不可能だ。
 傷を癒そうと我々の物資をより多く購入しなければならない。
 財界もそれを今か今かとその日を心待ちにしている。

 戦後の軍事産業の冷え込みを見据えて清国市場に進出していくのも大事だが、
 こういった戦争特有の機会も逃してはならぬ」

「同感です。彼らの世論に対する仕込みも十分。
 フランス凋落説に慌てふためくだろうよ」

「無知な大衆は感情論によって面白いように踊ってくれるな。
 彼らは威信を保とうと戦力の維持を行わなければならない」

「だが、いささか利き過ぎのような気もしないでもないが……」

初老の紳士が首を振って言う。
その表情には悟りきったような静かな表情が浮かんでいる。
人生経験から学んだ哲学と、過去の偉人の格言を交えて言う。

「それこそ民衆が感情的で無知な証拠よ。
 誰かが少し煽るだけで、大きな声で相手を批判していく。
 低劣なものほど激しくな……
 他人の不幸を喜ぶ以外にはもはや何らの興味も持たなくなる。
 相手を罵ることで自分の品格が高まるとでも勘違いしているのだろう。
 まさにゲーテの格言どおり。

 じゃが、民衆は無知だからこそ使い道がある。
 彼らは世論と言う火を燃やす薪だ。感情的になればなるほど燃え上がる。
 その炎で精々、我々の懐を暖めて貰おうではないか」

「その結果、彼らには仕事を、我らには富を……
 働くものには日々の糧を、有能なものには財を与える。
 これこそ正当な取引ですな」

力ある者が無い者を動かし使う。
地位の低い力ある者を取り入れ、自分たちの代わりに人々を管理させる。
これは文明が誕生してから変わらぬ不変の法則であった。
資本主義、共産主義であっても変わらない。

彼らは知らなかったが、帝国重工は工作商会を介して影響下にある新聞各社に対してフランス海軍の出撃を誘発させるように仕向けていたのだ。知らずして二つの勢力が同じ方向に向かって、同じ種類の謀略を行っていた事が、予想以上の効力に繋がっている。フランス海軍にとっては不幸極まりない出来事であったが、これも戦争の一面なのだ。

近くにはいたものも、会話に参加していなかった一人が言う。
まだ30歳になったばかりの若輩者だ。

「しかし、フランス艦隊が大敗すれば欧州に橋頭堡を作られる危険性もあるのでは?」

「欧州に侵攻、いや、フランス本土に限定しても侵攻と制圧維持に300万の兵力が必要だ。それに比べて日本が海外に展開させている兵力は1万にも満たない。大兵力を展開させたくても、日本にはその国力が無い。だからこそ、条約側を揺さぶる様に手薄な過疎地ばかりを狙っている。本格的な侵攻を行えば最終的には撃退されるのが関の山だ」

初老の紳士の言葉に、恰幅の良い男性が続く。

「それにフランス艦隊が壊滅すれば、
 このイギリスにある旧式戦艦の売却の機会にも繋がり、
 それがイギリス海軍からの新規戦艦の発注へと変化していく。
 彼らの壊滅こそ、株主である我らにとって好都合だ」

「言われて見ればその通りですな。
 ご慧眼に感服しました。
 ところで、アフリカでの事業はどうですかな?」

初老の紳士が応じる。

「まぁ順調と言えば順調だが、荒地からプランテーション(大規模農園)の開発には犠牲がつきものだ。 あの広大な大地の開拓には半島からの労働力では足りぬ。より一層の開発を行うなら中国大陸から新たに労働力を運び込まねばならぬよ。 そうだな、次は50万人ほど、戦争が終われば200万ほど運びたいものだ。ともあれ、これらの労働力の移動を可能にしたシベリア鉄道には感謝せねばなるまい」

初老の紳士は朝食のメニューを説明するように、恐ろしい発言を言い放つ。
彼が異常なわけではない。
白人達の植民地開発は初期に於いては例外なく凄まじいのだ。

彼らの歴史は血塗られていた。植民地支配の名の下にアフリカでは2千万から3千万人、アメリカ大陸では2千数百万人もの先住民を直接もしくは間接的に虐殺し、また奴隷として過酷な労働で命を奪っていた歴史がある。北アメリカでは先住民の約95%を死に追いやっていた。中には純血種が絶滅した民族も存在する。これらの所業が行われた時代では火器が未発達であったが、白人達の意欲と獰猛さはそれを十分に補っていたのだ。

その姿勢は近代でも変わらない。

19世紀に於いては阿片を正当な貿易品として輸出し、それを拒まれると議会を動かし清国相手に戦争を仕掛けた事もある。現在に於いても苛酷な強制労働に反発するようにドイツ領東アフリカで反乱が起こっていた。

また、ロシア帝国の内務大臣であるプレーヴェは戦時中に各国から不要な敵意を買わぬよう、条約側のみならず欧州各国にも安価でシベリア鉄道の利用を認めていたのだ。これは外交的な配慮である。またプレーヴェは安価な労働力の供給源だった東方半島の先住民が枯渇すると、資本家らのニーズに合わせて満州地域の先住民を供給に切り替える事で、工業後進国のロシア帝国の存在価値を保つのと同時に、安全保障の一環を担っていたのだ。

壮年の男性が言う。

彼は家督を継ぐ前に主力艦の艦長という職務を経験していただけあって海洋戦略に詳しかったが、マダガスカルはともかく北極圏の価値がわからなかったのだ。

「一つだけ懸念材料があるとすれば、
 日本の狙いが判らぬ。彼らが戦争で得た領土は過疎地ばかりじゃないか。
 マダガスカル島はともかく、
 一部は極圏に展開したらしいが、あのような氷原を制圧して何の得があるのだ?」

それらの疑問についてやはり、初老の紳士が答えていく。
並々ならぬ洞察力を有する人物なのが伺える。

「これは経済的な目的ではないな。
 過疎地や極圏で大規模な経済活動が出来るならば、既に我々が進出している。
 これら一連の占領は長期戦を避けるための交渉用だろうよ」

「言われて見ればそうだな。
 日本の国力はフランスの2割強という程度の小国でしかない。
 その程度の力で条約軍に対して戦線を維持できるのは帝国重工の兵器のお陰であろう。

 日本の経済成長率は躍進目覚ましいドイツやアメリカをやや上回る、
 凡そ4パーセントという高い水準を保っているものも、彼らの経済は元々が小さい。
 小さいゆえに、極小の変化でも大きく見えるものだ」

恰幅の良い男性が言い切った。
それに応じるように壮年の男性が言う。

「それに海外への市場ルートは我々が握っている。
 彼らが我々にとって不都合な行動に出れば資源輸出を止めればよい。
 それに、他の日本製の商品を分析したところ、
 軽工業には見るべき発展があったが重工業は我々の劣化品と言える。
 故に帝国重工を除けば日本は脅威とは言えんよ」

この話にあるように帝国重工は日本帝国の国力や技術水準を無理に高めていない。

歪な成長を遂げる危険性がある好景気よりも末永い、緩やかでも安定した成長が見込める経済にするべく動いていたのだ。また日本経済は資源リサイクルを念頭に置いた経済を構築しているので、この緩やかな成長は循環型の経済体制に丁度良いのもある。それに急激な発展では環境負荷も大きく、また資源のリサイクル体制にも不備が出てしまうのだ。

そして帝国重工が技術提供を控えている理由は、不用意な技術提供は列強の力を悪戯に高めてしまう危険性があったからである。例を上げれば日本で生まれた八木アンテナや分割陽極型マグネトロンがあった。これらは祖国よりも欧米で生かされ、第二次世界大戦に於いて日本帝国に対して大きく牙を剥いたのだ。そのような前例から、日本帝国に於ける鎖国状態が完成するまで、一部を除いて技術提供は特に消費財を製造する繊維工業、食品工業、印刷工業などの軽工業に絞られている。

初老の紳士が応じるように言葉を続ける。

「うむ。だが彼らが今のスタイルを維持するなら、
 我々にとっても有益な存在だよ。
 彼らが手間のかかる開発を行い、我々が世界各地で商品を販売する。
 このままビジネスに有益な存在であり続けるなら、時が来れば和平に協力してやってもよい」

初老の紳士が言うと、周りの者たちが同意見と言わんばかりに頷いていく。

史実に於いても日本と中国を対立させ、アジアを混乱させつつ実利を得ていたのも彼らのような白人の資本家達である。マネーゲームと称して資金の進出と撤退を繰り返し、経済の波を作り出して彼らの富を増やしていくのだ。それによって時には経済の混乱や、国家間の対立をも生み出している。

史実の日本帝国が列強の一つとして君臨するようになっても、近代社会を維持するために必要な資源の多くを欧米の資本家たちに握られていた事から、彼らの力の大きさが伺えるだろう。

彼らは決して表舞台に立つことなく、金融によって世界を操作していくのだ。経済の各方面の奥底に根を張り、根絶することは不可能といっても良い存在であった。














資本家たちの会合とほぼ時を同じくしてマダガスカル島北部のマハヴァーヴィ川沿いにあるアンビルベ村の先にある街道からやや外れた草原の中に、タナナリブ城に司令部を置く第5海兵歩兵大隊に所属する1個分隊からなる偵察隊が居た。彼らは日本軍の航空偵察に見つからない様にしている。先ほど通過したアンビルベ村は既に無人だった。アンビルベ村の住民は上空を飛行する4式飛行船「銀河」の姿を見ると、家財道具を纏めて南部へと逃げ出していたのだ。

それだけではない。日本軍と接触しようとディエゴ・スアレス湾に向かおうとした現地住 民は原因不明の恐怖に駆られ断念し、引き返したほどだった。その有様に精霊の呪いと騒ぐ者もいる。

その騒ぎは偵察隊にも及んでおり、恐怖のあまり体調不良になった兵士も出ていた。
偵察隊に居た一人が抑えつけられつつも何かを叫んでいる。

「神が、神が戦いを嘆いているんだ!
 離せッ、俺は正常だ! お前らには聞こえていなかったのかぁっ!!」

「そんな声は聞こえてないぞ!」

「嘘だッ!」

「おい! 早くあいつを黙らせろ!
 ええい、どうなってるんだ……体調不良の兵士の続出に加えて錯乱者とは!
 この体たらくで我が軍は本当に戦えるのか!?
 7年前のマダガスカル遠征ではこの様な事は無かったぞ!」

少尉の副官として行動している軍曹が言う。

「ですが少尉。 制海権も奪われ、独力では外部との連絡すら取れません。
 また偵察は5度失敗し、そのうち2つの偵察隊が完全に消息を絶っています。
 この状況も仕方が無いのではないでしょうか?
 あの銀河に見つかり、あの葛城級戦艦からの砲撃がいつ降り注ぐかと思うと
 私でも気が気じゃないですよ」

軍曹が指を指す空の先には1機の銀河が巡回飛行しているのが辛うじて窺える。
それが自分達の近くを飛行しない事を祈るしかない。

この軍曹は第2外人歩兵連隊、第11海兵砲兵連隊と共に、このマダガスカル遠征に従事した第5海兵歩兵大隊の中でも古参に入る人物だけにその言葉は重い。流石の少尉も歴戦の軍曹相手では強くは言えなかった。軍曹の勇気はだれよりも知っている。

「少尉。 とりあえず応急策として、
 体調が不調な者を2名をここで退路確保を命じ、錯乱者の監視をさせましょう」

「仕方が無い。他に名案も無い……そのプランで行こう」

少尉が同意すると、軍曹が2名の体調不調者を選び、拘束を終えた錯乱者の監視を命じた。それらの処置を終えると偵察隊は再び前進を開始する。

本来、彼らは勇敢だったが、今回は相手が悪すぎたのだ。

彼らの不調や錯乱の原因は国防軍がマダガスカル島北部の上空に巡回させている警戒用の4式飛行船「銀河」にあった。この銀河には国防軍が地域防御や不審船対策にて使用しているホス(HOS:ヘミシンクオペレーティングシステム)や各種音波兵器のような非認性ストレス兵器をSUAV(成層圏無人飛行船)と同じように搭載していたのだ。 また、これらの装備を最大限に生かせるように、パラメトリック・アレイによって、音波でありながらほぼ一直線に飛ばす事が可能な、超指向性の音波照射機であるパサード(PSAD:パラメトリック・スピーカー・ アコースティック・デバイス)も装備されている。

しかも国防軍は全員を不調にするのではなく、パサード(PSAD)が有する超指向性を持って健全な者と不調の者を生み出し、部隊内に不協和音を作り出していたのだ。時折、部隊の中で一人だけに指向性音波にて平和を説く神の声すらも聞かせている。これでは精鋭部隊であってもたちまち機能不全に陥るだろう。ただしパサード(PSAD)は決して万能兵器ではない。範囲を絞れば有効だが、照射範囲を広めるごとに威力は弱まっていく、使いどころが難しい装置である。

また、全員を不調にしないのは、全ての部隊が同じ症状になれば何らかの現象による効果だと気が付くであろう。つまり使用を制限する事で装置の存在を秘匿していると言っても良い。

国防軍がこのようなシステムを持ち出したのは、フランス軍との衝突を最低限に留める事と、マダガスカル島の占領が恒久的なものかが判っておらず、不要な深入りを避けるために現地勢力との関わりを避けるためであった。これを突破すれば次は侵入防止用として、警戒地区の隙間を埋める様に、国防軍が設置した16ヘルツ以下の超低周音響波地帯が待ち受けている。このようにマダガスカル島に駐留するフランス軍は日本軍と戦わずして消耗しつつあった。


日本軍によるマダガスカル島上陸。この情報が世界に流れるとフランス共和国を除く欧米の各新聞社からはフランス凋落説が流れていく。一部新聞社は感情的に黄禍論をぶちまけていたが、それは少数に留まっていた。その理由は欧米諸国は帝国重工から医薬品や化粧品の多くを頼っていたからだ。特に準老化抑制化粧品は裕福層の女性にとっては欠かせない製品となっていた。 第一に、仲介販売で利益を得ている商会も多く、下手な攻撃はその商会の利益を損なうことになる。そして、これらの商会の多くが大商会であり、それなりの影響力を有するものが多いのだ。一応は条約側の様に中立国を介して輸入する方法はあったが、確実に値段は割高になる。それは商会の利益が減ると同意語であった。

この事からフランス海軍はフランスの威信回復という要求をフランス政府やフランス国民から、急き立てられるように求められ、新聞によって加熱を増していくデモ行進を受けながら大西洋にてフランス艦隊が動き出す事になる。これはフランス海軍史上、最悪の出撃環境と言えるだろう。

ブルターニュ半島西端に位置するフランス最大の軍港であるブレストから出撃したフランス艦隊は、ポルトガル王国の首都リスボンの南に存在する工廠と軍港からなるアルフェイテ軍港にて補給を受け、そこから大西洋と地中海の境に位置している、大西洋と地中海の境に位置しているヨーロッパのイベリア半島とアフリカの北端を隔てるジブラルタル海峡へと針路を向けていた。

出撃していたフランス艦隊の陣容は以下の様になる。

戦艦
「リベルテ」「デモクラティ」「ジュスティス」「ヴェリテ」
「シャルルマーニュ」「サン・ルイ」


装甲巡洋艦
「ジュール・ミシュレ」「レオン・ガンベッタ」
「ヴィクトル・ユゴー」「グロアール」「マルセイエーズ」


戦艦6隻、装甲巡洋艦5隻からなる艦隊の中で、フランス海軍が有するもっとも新しいリベルテ級が4隻も含まれていることから、作戦にかける意気込みと、降りかかる圧力の大きさが窺える。また新鋭戦艦に自由(リベルテ)、民主(デモクラティ)、公平(ジュスティス)、真実(ヴェリテ)という艦名を付ける事がフランスらしい。

このフランス艦隊はインド洋に向けて急ぐべく最短針路を取っており、幾つかの漁船や商船との遭遇もあってフランス艦隊の動きの一部は欧州の新聞各社によって取りざたされる事となった。そのなかでイギリス系新聞社が多いのは流石と言えるだろう。

2日遅れて準備が整った戦艦「レピュブリク」「パトリエ」「シュフラン」「ゴーロワ」「イエナ」、装甲巡洋艦「コンデ」からなるフランス北部艦隊がブレストから出港する。これらの艦隊はトゥーロン軍港にて合流する予定になっていた。

戦艦リベルテの昼戦艦橋にてラペイレル中将が端正な顔にやや疲れた感じがする雰囲気で立っていた。彼らの心の中で怒りと悲しみが混合した感情が交わっている。政治的な要望により、予定より2日も早く出港させられた現状に失望の思いを隠せない。

ラペイレル中将はゲーテの格言を思い出す。

(一国の国民は、その国の国民のレベル以上の政治家を選べない……
 政治家は国民のレベルを表すと言うが、
 政府の介入に加えて、
 軍事作戦の開始時期ですら新聞社の記事に左右されるとは余りにも情けない)

彼は大西洋上に日本艦隊が居たときに備えるべく、全艦がそろって出撃するべきとパリの総司令部に対して上申するも前回と同じく否定されていたのだ。その理由は艦隊出撃を2度に分ければ、その記事が2度も載ることになり、それだけ国民の不満を逸らせられるからである。

ともあれフランス海軍はフランスの威信と実力を証明すべく、インド洋に展開する2隻の日本戦艦(葛城級巡洋艦)を撃破するために動き出したのだ。作戦の大筋として地中海艦隊からの増援を得て、地中海から紅海へと抜けるスエズ運河からインド洋へとなだれ込み、一気に畳み掛ける計画である。またマダガスカル奪回に備えて2個海兵歩兵大隊がトゥーロン軍港にて乗船準備を進めていた。

例え、フランス艦隊の動きを察知した日本艦隊が戦火を交えずして逃走したとしてもフランス側には不都合は無い。フランス艦隊の威容に日本艦隊が逃げ出したと国内外に知らしめることが出来る。第一、マダガスカルを奪回し、威信を証明する事が目的なのだ。 戦闘が無ければマジ・マジ反乱の鎮圧に協力すればよい。

とにかくフランスの威信を証明するために活躍すれば、
フランス政府としては問題はなかった。

政治状況に振り回されているフランス海軍であったが、唯一の救いはスパイ情報と漁船や商船からの目撃情報によりカリブ海とインド洋に於ける日本軍事力を正確に把握していた事であろう。また日本側が勝ちすぎないように、戦後の戦略環境を調整しようとしているイギリス帝国からの情報提供も大きい。

だが皮肉な事に、その偽りの無い情報のお陰でフランス海軍は窮地に立たされる事となる。何故なら、これらの両海域に反して大西洋に潜む日本軍事力についてはフランス軍だけでなく諸外国は一片たりとも情報を入手していなかったのだ。

こうして資本家たちによる介入と、日本側の謀略を交えた戦略環境の調整により、フランス海軍はジブラルタル海峡の西方、スペインのトラファルガー岬沖にて海戦へと突入する事になる。それは1805年、イギリスとフランスの間で行われたトラファルガー海戦以来、この海域で行われる海戦であった。
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【あとがき】
今回は資本家達の会話がメインです。

彼らの行動は決して善ではありませんが、欧米の消費社会を維持するための必要悪ともいえるでしょう。経済と言う魔物に直接触れているだけあって、彼らは魔物染みてますが…誰にも倒せないし、倒しても経済が混乱するだけという驚異的な存在。

例え倒せたとしても、日本帝国が彼らの代わりに世界の統治を行うなど不可能でしょう。日本人では白人のような容赦の無い統治は資質的に無理で、下手に投資を行って自らが衰弱して終わってしまう結果に。歴史を見れば世界帝国を構築するのはローマ帝国、モンゴル帝国、イギリス帝国、アメリカ合衆国。 どの勢力も拡大期には敵対勢力に対して一切の容赦を行ってません。

地球は怖いところだな…


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2010年10月24日)
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