帝国戦記 第二章 第47話 『戦後計画 5』
1905年8月8日火曜日、
カエデ中佐が指揮する巡洋艦「筑波」が南米フランス領ギアナのカイエンヌ基地に対して砲撃を実施し、その基地に駐屯する第9海兵歩兵連隊に少なくない打撃を与えた。その翌日、おりしも香港にて第二次停戦予備交渉が始まるも、フランス共和国は日本側が制圧した地域は辺境でかつ人口過疎地域であり条約側にとって、なんら痛手では無いとし、停戦は時期尚早として交渉はまたもや平行線を辿ったのだ。
不思議な事に本土の一部すら奪われたロシア帝国は強行な意見は述べず、
他の二国の意見を尊重すると言う姿勢を崩していない。
ドイツ帝国も大国としての威信から停戦に乗り気ではなかった。
フランス共和国とドイツ帝国は戦後を見越して有色人種の国家である日本帝国と負けたままで和平を結ぶのは本国政府の支配下にある植民地の現地住民を奮い立たせ、植民地支配に支障をきたすとして、負けた印象が無い有利な条件でしか和平には応じられなかった事情もある。
最高意思決定機関は、このような事態を停戦交渉の停滞を前々から予想しており、
準備を終えていた作戦を次の段階へと進めていく。
カイエンヌ基地襲撃の翌日、4式飛行船「銀河」に乗船した国防軍の1個小隊よってインド洋南部に位置するフランス領南方・南極地域を制圧する。この島は約440Kuの大きな島であったが、人口は150人にも満たない世界有数の過疎地域であった。
このフランス領南方・南極地域に於いては本国からの日本軍の襲撃に関する事前警告があったものも、簡単に増援を送れるような場所でもない。フランス領極南諸島の政庁のあるケルゲレン諸島のポルトーフランセに駐留していた兵力が分隊程度だった事もあって、他の過疎地域と同様に無血にて占領となっていたのだ。 その同日、帝国軍と国防軍の合同からなる1個分隊が4式飛行船「銀河」にて南極点に日章旗を立て、基地の設営を開始した。また帝国軍側の責任者は史実に於いて陸軍在籍中に南極探検を行った白瀬 矗(しらせ のぶ)中尉である。
1905年8月10日木曜日、カイエンヌ基地襲撃から畳み掛けるように、強襲揚陸艦「神鷹」「海鷹」、巡洋艦「蔵王」「浅間」、剣埼級大型補給艦2隻、これら合計6隻からなる帝国軍と国防軍の合同艦隊はインド洋にある長さ約1570km、最大幅約580kmで世界第4位の大きさを持つフランス領マダガスカル島の北端にあるディエゴ・スアレス(アンツィラナナ)軍港を中心に部隊の展開を始めていた。
攻略部隊は神鷹に乗船していた山根 信成(やまね のぶなり)大佐が率いる近衛歩兵第2連隊に隷属する近衛歩兵第3大隊の940名である。この部隊は台湾平定作戦で活躍した部隊の一つで、帝国軍の中でも熱帯地域での経験に富んでいる部隊といえよう。海鷹には主に基地施設を建設するための国防軍の国防軍の工兵部隊と、特殊作戦群1個中隊が乗船している。
この艦隊を率いるのは異例だが特殊作戦郡を統括する黒江少将であった。合同部隊として帝国軍からは島村速雄(しまむら はやお)少将が浅間を率いて参加している。黒江は帝国軍の島村少将と同列の階級だったが、黒江が先任順を得ており指揮権に問題は無い。
また浅間は日本海海戦にて中破の損傷を受けていたが、モジュール設計のお陰で幕張工廠にて短期間のうちに現場に復帰していた。モジュール式とは極端な例を上げれば壊れた部分を部品単位で交換していくのだ。これは史実に於けるズムウォルト級駆逐艦と同じである。
ともあれ、この攻略戦で不幸だったのがディエゴ・スアレスに駐留していたフランス陸軍第11海兵砲兵連隊の主力であった。「蔵王」「浅間」が上陸部隊を援護するようにディエゴ・スアレス湾へと侵入し、兵舎を始めとした各施設に対して砲撃を行っていたからである。反撃不能な状況に対して第11海兵砲兵連隊は南方に逃げようにも、4式輸送機「紅発」からの弾着観測によって絶えず、砲撃が降り注いでいた。第11海兵砲兵連隊は抵抗らしい抵抗を行う前に、広域破壊用の3式汎用弾の洗礼によって壊滅させられていたのだ。また、ディエゴ・スアレス軍港に停泊していたフランス海軍の艦艇は湾内侵入と同時に砲撃が叩きつけられ、廃艦同然になっていた。
巨大な島であるマダガスカル島に侵攻した理由は、インド洋の要衝であることと、このディエゴ・スアレス湾は天然の良港に恵まれていたが、それに反して北部は過疎地域なのだ。その理由はマダガスカルの主要地域から離れており、かつ軍事基地区画としてフランス軍によって一般人の立ち入りが大きく規制されていたからである。マダガスカル島の人口の多くは中部から南部に掛けて分布していた。
2隻の剣埼級大型補給艦がディエゴ・スアレス湾に物資を揚陸していく最中、神鷹の戦闘指揮所(CIC)にて居る黒江少将は作戦指揮卓に身を乗り出すように両手を乗せて、状況の確認に務めていた。作戦指揮卓には軍事力が詳細に記された印度洋戦域マップが鮮明に表示されている。そこには戦力判定から日本優勢と映し出されていた。
黒江少将が副官のカナエ中佐に言う。
「旧式艦とはいえ植民地警護には欠かせぬ船を失ったフランスは、
この地域に於けるプレゼンスを大きく失ったことになる」
「艦艇を再び展開させようにも、
私たちが居座っているとなれば簡単にはいかないですからね」
「そうだ、フランスはインド洋の自由に航行する権を失ったに等しい」
「はい。 上陸作戦時の攻撃にてフランス海軍がこのディエゴ・スアレス軍港に派遣していた装甲巡洋艦ラトゥーシュ・トレヴィルとアルジェ級と思わしき2隻の防護巡洋艦を撃沈しました。ただ、昨晩のうちに大型艦を含む2隻の戦隊が出航しており、沈められなかったのは残念でなりませんが、フランス海軍がインド洋に展開させていた艦艇は欧米水準から見ても旧式艦に過ぎず、大きな脅威にはなり得ないでしょう」
黒江少将の副官としてサンクトペテルブルクでの作戦でリリシアやシーナと共に活躍した水城カナエ中佐が同意した。彼女は少々目じりがたれ気味でやんわりとした雰囲気がする、軍人と言うよりは広報官が似合う準高度AIである。ややグリーンの瞳がチャームポイントであろう。印象通りにカナエは国防軍と広報事業部を兼職しており、広報とのパイプ役としても活躍しているのだ。
カナエ中佐の言葉に黒江少将が考えを述べる。
「確かにそうだが…他の主力艦と組まれた場合に面倒な事になるかもしれない。
油断は禁物だ。それに燃料と物資には余裕がある。
念には念を入れて蔵王に追跡命令を出そう。
大西洋側に向かうとは思えぬ、航続距離からして恐らくはジブチだろうな」
「分かりました。
可能な限り戦略偵察と行いつつ、3時間後の出撃を目処に調整します」
「頼む。 まぁ、例え敵艦を捕捉が出来なくとも目標には困らない。
その際にはタンザニアのダルエスサラーム港にて反乱軍と対峙している
ドイツの装甲巡洋艦に攻撃を行う。
退避したくても出来ない状況で気の毒だが、これも戦争だ」
黒江少将の言う反乱軍とは、1905年7月にて史実に於いてもドイツ領東アフリカで起こったマジ・マジ反乱の事を指す。反乱の原因はプランテーションでの強制労働である。この世界ではイギリス製リー・エンフィールド・ライフルが武器弾薬と共に少なからず存在しており反乱当初から対応に苦労していたのだ。後の調査でルワンダの金鉱支配などの鉱山利権の獲得を狙ったセシル・ローズが生前(史実と同じく1902年3月26日に没)に進めていた陰謀と判明する。ともあれ、この反乱を食い止めるべく、ドイツ帝国は新鋭装甲巡洋艦を派遣していたのだ。
それを妨害する意味は大きい。
カナエ中佐が尋ねる。
「ところで浅間に関しては?」
「現在、マダガスカル本島にて進めている作戦はノシベの制圧だけだからな。
よし、本来なら警戒待機だが浅間には休息を取らせよう。
どのみち、明後日からは周辺海域の掃討などやる事が増える」
「そうですね、これから忙しくなりますから」
「本土で編成を終えた3個大隊が到着するまで後2週間、
彼らが安心して休息を取れるように、受け入れ準備を整えておかねばならない」
「はい、次の上陸作戦の成否が掛かっていますからね」
「そうだな」
また国防軍が占領を行おうとしているノシベとは、マダガスカル北西部の沿岸部にある珊瑚礁と魚に恵まれた美しい島の事を指し、胡椒、砂糖、バニラ、イランイランの産地でもあった。香水の原料となる花が有名で別名「香水の島」とも言われている。また、今はヘル・ビル村しかなかったが、リゾート土地としても極めて有望な場所でもある。
このノシベには香水の島という異名に相応しく、バンレイシ科イランイランノキ属イランイランノキという、花の中の花の意味を持つ花が咲き乱れているのだ。この花から採れるイランイランの精油(エッセンシャルオイル)はエキゾチックで濃厚な甘い香りを放ち、また性的な気分を高める催淫作用がある。南洋の島では新婚初夜にて使われる程であった。
黒江少将が言う。
「ともあれ、この一帯の占領は時間の問題だろう。この一帯の目ぼしい拠点はディエゴ・スアレス湾近辺に集中しており、その先は幾つかの村々があるが人口は100人程度でしかなく、彼らが中部や南部に避難していなくても制圧は容易だ。それに山岳地帯が連なっており、平地が少なく守りやすい」
「一部の地域を除いて、山岳地帯がマダガスカル北端の付け根、
西海岸のポート・セントルイスから
東海岸のイハラナに掛けてまで続きますからね」
「それにマダガスカルにて残るフランス軍兵力は、
中部にあるアンタナナリボ基地に駐留する第5海兵歩兵大隊と、
南部に展開するマダガスカル外人歩兵大隊に限られる。
防戦に徹すれば十分に対応可能だな」
「はい、それに中部から北部への展開は容易に察知できます。
それにインフラも不十分で、また途中に適した拠点などは無く、
海路を使わなければ補給も困難でしょう」
「守りは十分。
観光地としても期待できる島だけに、施設さえ建設すれば快適そのもの。
また基地施設の建設に関しても、
冬月基地と同系列の機材を使うので短期間で重要部分の設置と撤去が可能か…
状況に応じて撤退も視野に入れなければならないだけに、
その柔軟性は有り難いよ」
こうして帝国軍と国防軍はマダガスカル北端の支配圏を確立していった。フランス政府はマダガスカル北部の失陥に大きく慌てることとなる。ディエゴ・スアレス湾は補給基地としてフランス海軍が重要視していただけに、その衝撃は大きかった。
その翌日には追い討ちを掛けるように、マダガスカル西に330km、モザンビーク海峡の南にあるフランス領の無人島の一つ、28kuに及ぶ島全体がマングローブをはじめとする植生に覆われたユローパ島(ユーロップ島)が4式飛行船「銀河」にて乗り込んだ1個分隊によって占領される事になる。
1905年8月14日月曜日
フランス本土ブルターニュ地域圏フィニステール県にあるフランス最大の軍港であるブレストのフランス大西洋艦隊司令部の一室にて、ド・ラペイレル中将が海軍参謀本部からの難題に頭を抱えていた。
彼は史実に於いて低迷していたフランス海軍を立て直そうと尽力した人物である。
かつてはイギリス海軍を上回る規模を有していたフランス海軍であったが、19世紀初頭のナポレオンの興亡や反動的なウィーン体制、数々の市民革命の勃発によって、貴族出身の多くの海軍士官が粛正され、外洋海軍から大陸海軍へと弱体化を余儀なくされていた。それらの出来毎によって、本来は海軍が担うべき海兵歩兵旅団などの指揮権を陸軍が有するほどに弱体化が進んでいた。 その状態から脱却を図るために、ラペイレル中将は海軍大臣に就任すると、1912年度計画(1912年海軍法)にて16隻の超弩級艦、1914年度計画では追加の巡洋戦艦を建造する艦隊整備計画を議会に提出し、陸軍の横やりを避けて承認を得た人物である。当時のフランス海軍の地位を考えればかなりのやり手であったのは疑いようが無い。
しかし、第一次世界大戦により彼が心血を注いで進めてきた、海軍近代化拡張計画の全てを御破算にしてしまうのだ。3隻のブルターニュ級戦艦三隻を除き総て建造中止されたが、彼が居なければ最悪な状態でフランス海軍は第一次世界大戦に突入していたことになったであろう。
彼のような先見性に富んだ人物が悩む難題とは、
欧米を騒がせている日本軍によるマダガスカル進出であった。
カリブ海のサン・バルテルミー島を拠点に活動を続ける日本艦隊によりカリブ海と大西洋が大きく荒れる中、マダガスカル島に日本軍の大隊もしくは連隊規模の兵力の上陸を許したのだ。少数兵力ではない、この上陸戦はフランスのみならず欧米にとっても青天の霹靂である。 しかも最悪なことに、フランス軍の威信低下によって、現に金やマンガンを産出する南米フランス領ギアナの有色人種たちが不穏な動きを見せ始めている。カイエンヌ基地が砲撃を受け、治安維持と現地の抑えつけになっていた第9海兵歩兵連隊が小さくない損害を受けた事も大きい。
そのような事態がアフリカ植民地にも飛び火しないように、ラペイレル中将は政府の圧力を受けた総司令部から早期にインド洋で活動する日本艦隊の撃滅を命じられている。
この長距離進出が日本帝国の単独ならば国力を無視した行動で、直ぐに限界に達するとフランス政府も冷静で居られたであろう。しかし、あの北極圏にすら容易く侵攻してきた国防軍が関わるとなると全く違う。彼らの後ろには帝国重工が控えており、全くもって油断すら出来なかった。
本来ならば傷口が広がらないように停戦を行い、植民地に対して手を打たねばならない状況だったが、香港での停戦予備交渉にてフランスが強硬論を唱えていた事が事態を複雑にしている。自分達の植民地が占領されて、いきなり和平論に転ずるのは大国としてのプライドが許さなかった。第一に、ロシア帝国とドイツ帝国が、そのような自分勝手な選択を許さないだろう。
このような状況の中、
ラペイレル中将は副官と共に艦隊編成に向けた準備を進めていた。
「しかしマダガスカル島の奪回と葛城級戦艦の撃破命令か……
2隻しか居ないとはいえ、これは難題だな」
「時間が無いのと、
インド洋の主力艦が軒並み沈んでいるのが厳しいですね」
「ああ、本当なら条約軍艦隊を編成して万全の状態で行くべきだが、
それではマダガスカルの状況が悪化してしまう」
ラペイレル中将は政治によって足枷を付けられた現状に頭痛を感じずにはいられない。日本軍がインド洋に展開を始めてたった3日間で、装甲巡洋艦「ラトゥーシュ・トレヴィル」「アミラル・シャルネ」「プリンツ・アーダルベルト」、防護巡洋艦「アルジェ」「イスリー」「ジャン・バール」を喪失している。またプリンツ・アーダルベルトはドイツ海軍のフネである。 だが、帝国重工に入り込んだN機関なる信頼筋からの情報によると日本側が展開させている葛城級戦艦は4隻という内容であった。
普通の情報源ならば参考程度に留めていたであろう。
しかしN機関の長は国防軍の要人の愛人を勤める傍ら、現地協力者やフランスから送り込まれた増援を巧みに帝国重工へと招きいれ、その帝国重工から少なくない情報を得ている実績がある。しかも情報の確度は高く、また情報の重要性も高度なものが多い。少なくとも戦前から活動でフランス当局が絶大な信頼を置くほどになっていた。また4日前の情報ではフランス領南方・南極地域の占領作戦の予兆すら知らせる活躍ぶりだ。
その信頼のある情報を元にフランス海軍参謀本部は商船や現地住民による目撃情報から大西洋に2隻、インド洋に2隻と判断を下していたのだ。この数ならば、戦力の集中さえ為し得れば対抗できる数であった。
佐世保湾海戦がそれを証明している。
副官が励ますように言う。
「ですがラペイレル中将、トゥーロンの地中海艦隊司令部から、
中将の艦隊に対して戦艦2隻を増援として差し出すという噂がありますが?
閣下が掌握している艦隊戦力と合わせれば十分、いえ十二分に勝算はあります」
「その戦艦隊の陣容は知っているかね?」
「インド海に派遣するとなると、シャルルマーニュ級辺りだと思いますが」
「先ほど私の下に届けられた電文だと、
どうやらアミラル・ボーダン、フォルミダブルの2隻ようだ。
旧式で沿岸防衛にしか使えぬアミラル・ボーダン級など話にならん。
例え2隻で挑んでも、あの恐怖の雪風級の1隻にすら勝てぬだろうよ」
日本海海戦にて雪風級が行った主力艦襲撃戦術は欧米諸国の戦艦乗りや装甲巡洋艦乗りにとって恐怖の代名詞となっていた。旧式艦であれば、その恐怖はより大きくなる。戦艦を容易く葬る巡洋艦(日本側では護衛艦)だから当然と言えよう。そして雪風級より強大な葛城級戦艦は悪夢に例えられ、長門級大型戦艦に至っては悪魔のような存在として囁かれている。
「あの葛城級に対してアミラル・ボーダン級ですか……
近代化改装を受けているとはいえ開戦前ならともかく、
戦訓が集まった今では正気を疑いますね」
「まちがいなく新生学派らの横槍だろうよ。
艦隊派の私が目障りなようだ。
旧式とはいえ戦艦を喪失させる事で、私の影響力を弱めたいらしい」
ラペイレル中将の言葉に副官は絶句した。海防戦艦と水雷艇を重視する新生学派(エコール・ジュンヌ)と言われる派閥があり、戦艦を重視し近代的な外洋海軍の整備を推し進めていた艦隊派と激しく対立していたのだ。
ラペイレル中将が言葉を続ける。
「だが、私は大人しく彼らの思惑に嵌まるつもりは無い。
各方面に掛けあってアミラル・ボーダン級を沿岸部の防衛に留め、
海防戦艦の中でも新しいブヴィーヌ級を要求する。
落ち目の新生学派には気の毒だが、損失を被る時には彼らも一緒だ」
「それはそれは…」
ラペイレル中将がたった一手で対立派閥からの謀略を自らの武器に変換しようとしている様子に副官は苦笑した。切れるカードの数からして艦隊派は多い。つまり、海戦に勝てば艦隊派の功績になり、負ければ同じだけ新生学派の影響力が下がる。派閥力学からすれば問題は無い。特に新生学派は沿岸防衛を目的とした海防戦艦に属する戦艦アンリ四世の建造を強行していた事が大きな失点となっていた。何しろ、その戦艦が何ら戦局に寄与する事無く、日本海海戦にて沈んでいたのだ。政治力の低下は避けられない。
しかしラペイレル中将には一つの不安があった。
葛城級の隻数不明という不確定要素である。しかもカリブ海やインド洋に進出してきた一部の葛城級は艦尾が通常型と異なっており、新造艦の可能性が高かった。改装艦だとしても、日本側には帝国軍と国防軍を合わせて最低でも10隻もの葛城級が存在しているのだ。
つまり、現状でも後4隻の展開がありうる事になる。
これらがインド洋に展開していない保障は何処にも無い。
その危険性をラペイレル中将がパリの総司令部に対して上申するも、N機関からの緊急連絡によって齎されていた2つの情報により、早期の出撃が決まってしまう。それは良い方と悪い方が混在した情報だった。良い方は、カリブ海とインド洋に対する大型艦の増派が無い情報である。悪い方は国防軍が帝国重工の商船すら使用し、マダガスカル島に対して兵力の増員と大規模な物資輸送を行うべく船団の編成を進めている情報だったのだ。しかもサン・バルテルミー島の攻略戦にて姿を見せた、数万トンにも及ぶと予想される大型輸送艦(強襲揚陸艦)すら、既に2隻程が先発隊として向かっている情報すら含まれている。
この情報によってフランスに於いて海軍の出撃は政府の圧力の下、
どのような事態に於いても避けられない事となったのだ。
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【あとがき】
現在、日本は過疎地域占領戦略実施中。
過疎地域ばかりと安心させ、最後は意外な場所に上陸していくでしょう。
N機関による情報伝達方法は連絡員に行い、連絡員が国際間無線電報や、海底電信線を介して本国に知らせていきます。極めて重要でかつ時間的な猶予があれば船舶にて。
意見、ご感想を心よりお待ちしております。
(2010年10月17日)
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