帝国戦記 第二章 第46話 『戦後計画 4』
一人を破壊するは法によって殺人者である。
…何千という人間を殺害するは見かけのよい名を与えられる。
戦争は栄光の技術であり、不滅の名声を与える。
エドワード・ヤング
1905年 8月5日 土曜日
北極圏と南インド洋に於ける軍事作戦は問題なく成功を収めていた。またカリブ海にて行ったサン・バルテルミー島の占領作戦も、上村中将が率いる日本大西洋艦隊から分派した強襲揚陸艦「飛鷹」、巡洋艦「葛城」、剣埼級大型補給艦1隻からなる第11任務艦隊にて短時間のうちに済ませていた。
なにしろ島の防衛を担うべき駐屯していたフランス共和国軍の1個小隊は、飛鷹による上陸作戦の開始と同時に、その大半が葛城が備えている3基の155o3連装砲による制圧射撃によって駐屯していた施設ごと吹き飛ばされていたのだ。
国防軍の上陸作戦には抜け目が無く、非番として街に出ていたフランス兵も前日から海中から潜入していた特殊作戦群によって始末していた。国防軍が一兵士にまで及ぶ情報を把握していたのは、半年前から工作商会を介して島に潜入していた、白人系女性工作員のお陰であろう。彼女は今後も国防軍には合流せず、レジスタンス活動に備えて酒場で働きつつ情報を収集して行く事になる。
またその間、日本大西洋艦隊として大西洋に来ていた巡洋艦「筑波」「伊吹」「生駒」「鞍馬」、剣埼級大型補給艦6隻からなる残る艦艇はどうしていたのか?
筑波を除いて、大西洋における軍事作戦に備えて展開させていた2機のSUAV(成層圏無人飛行船)のうち、1機の支援の下、周辺を警戒しつつ己の存在を秘匿するように大西洋海域に潜んでいたのだ。
それは大西洋戦域での戦闘を最小限に留める意図からではない。
その証拠に筑波はカリブ海を中心に、周囲に点在するフランス軍事力に対して一撃離脱による攻撃を始めるべく動いていた。大胆にも筑波は単艦でサン・バルテルミー島制圧戦の開始と同時に、サン・バルテルミー島南方の約120kmにあるグアドループ島のグアドループ基地を強襲している。
カリブ海における小規模フランス艦隊の根拠地として存在していたグアドループ基地は、その基地施設を筑波の艦砲射撃によって停泊していた防護巡洋艦 「シャスルー・ローバ」「ビュジョー」共々、悉く破壊されていたのだ。
このような単艦襲撃は敵戦力が手薄な地域でかつ、葛城級が列強戦艦と比べて砲戦能力に優越し、速度と航続距離に於いては圧倒的に引き離しているからこそ出来る芸当であろう。相手が自軍よりも優勢な戦力ならば優速にて逃げればよい。
筑波はグアドループ基地の襲撃を終えると、
そのまま第四戦速の28.56ノットにて針路を南へと向ける。
筑波を指揮するのが準高度AIの山口カエデであった。階級は中佐で準高度AIの例に漏れず容姿端麗でかつ、極めて能力が高い。また部下思いでありながら大胆不敵で非常に好戦的な性格も特長であった。カエデ中佐は戦闘照明に照らされながら、兵に対して命令を的確に下していく。美人で堂々としているカエデに魅せられている者は多い。カエデを表すならばリリシアを日本人にし、より好戦的になったと言えば判りやすいだろう。
グアドループ基地に対する攻撃から2時間程した頃、カエデ中佐が指揮する筑波はマルティニーク島の近海に達していた。28.56ノットの速度ならばグアドループ島からマルティニーク島まで2時間も掛からない。事前の戦略偵察によってカリブ海に於けるフランス軍の配置を知り尽くしていたとしても、極めて大胆な行動と言えよう。
「フォール・ド・フランス基地、有効射程まで後120秒です。
NMPR(次世代マルチパラメーター)にて捕捉中の優先目標、移動は見られず」
「分かった。
デュプティ・トゥアールをターゲット(目標)01、
フリアンをターゲット(目標)02と呼称する。
優先目標は停泊中の01と02とし、
これらを撃沈した後、基地施設を徹底的に破壊するぞ。
ただし民間船や市街地には一切手を出すな」
カエデ中佐が凛とした声で言った。
すでに筑波の艦尾から4式輸送機「紅葉」が飛び立っており詳細な情報を得るべく偵察行動に入っていた。これは航空偵察の実施によってNMPRのような長距離探知技術の秘匿をも兼ねている。大西洋艦隊に所属する、国防軍が運用する葛城級の艦尾には例外なく改修工事によって仮設格納庫が設けられ、そこに1機の4式輸送機「紅葉」が搭載されていたのだ。
そして筑波が基地襲撃の際に優先目標と定めている艦艇は次のようになる。
ナイルの海戦のフランス軍士官の名前を付けられたデュプティ・トゥアールはゲイドン級装甲巡洋艦の三番艦の艦であった。ゲイドン級は単艦での通商破壊作戦から艦隊戦までの任務を行える汎用装甲巡洋艦として天才造船士官エミール・ベルタンが設計した艦艇で、フランス海軍に於いて始めて燃料を石炭と重油を使用できる混焼缶を採用した艦である。 また、フリアンはフリアン級防護巡洋艦の一番艦で、目立つ特徴の無い標準的な4000トン級防護巡洋艦であった。
戦闘指揮所(CIC)のスタッフの一人が言う。
「グアドループ基地強襲の報告を受けていたとしても、
流石にこの短時間では出航準備は間に合わなかったようですね」
「ああ、だが中途半端に間に合っている状況は彼らにとっては不幸そのもの。
出航するために艦に人を集めて必至になっているところを気の毒だが、
和平を拒み、ニューカレドニアを手放さなかった報いの一部を受けて貰おうか?」
カエデ中佐の口元には敵に懲罰を下せるこの時に無常の喜びを感じており、薄っすらと笑みが浮かび上がっていた。好戦的な彼女にとって敬愛する高野とさゆりの戦略をかき乱す存在は消し去ることが最良と信じている。ただ人格の根幹に根付いている日本系AIに相応しく律儀であり、戦争規定を遵守するように心がけていた。また、その激しい敵意の矛先は敵国の軍人のみに抑えられている。
湾内に存在するフランス海軍戦力を撃滅するべく、
筑波が日本刀のようなキレを見せて波を切り裂きつつ湾内へと接近していく。
「距離21000、敵要塞砲沈黙中、敵からの反撃は皆無です」
「ターゲット(目標)01、微速前進を開始しました」
筑波の主砲がフォール・ド・フランス基地を射程へと納めるも、
直ぐには射撃を始めずカエデ中佐は有利な射点に着くべく命令を下す。
「右15度変針!」
「了解」
カエデ中佐の命令によって航海士が艦の針路を変更していく。筑波は面舵をとって右に弧を描き、全主砲を目標に向けられるように艦の側面を見せる。この急激な針路変更にも関わらず、主砲である3基の3連装155o砲の照準は一切ずれていない。
中心都市フォール・ド・フランスの東側にある岬には、その眼下にあるフォール・ド・フランス海軍基地を守る様にサンルイ要塞が存在していたが、その要塞にある砲は有効射程が短いカネー式120oカノン砲が20門に過ぎず、とても最新鋭巡洋艦である筑波と対抗できるような存在ではなかった。
何しろサンルイ要塞は16世紀に起こったオランダ戦争から存在している要塞であり、そのような旧式要塞に過剰な期待をする方が酷と言うものであろう。どちらかと言えば要塞は島の支配の象徴とも言える。
「さて……そこの装甲巡洋艦、
せっかく退避しようにも、どうやら間に合わないようだねぇ?」
「中佐! 何時でも射撃可能です!」
「これは私たちからの挨拶代わりとでも受け取ってもらおうか!
攻撃開始!」
カエデ中佐の命令により攻撃が始まる。
それによって筑波の主砲から耳を突く轟音が海上にこだまし、特殊レニウム外郭徹甲弾が一斉に打ち出された。これら9発の155o砲弾が猛然と敵艦に向かって突き進む。即応弾システムのお陰で次弾の装填は終えているも、弾着地点を確認するまで連射は行わない。
最初の斉射で早くも一発の砲弾が装甲巡洋艦デュプティ・トゥアールの艦首部分に当たった。他の8発はやや近弾となって軍港施設を破壊していく。フランス軍にとって運の悪いことに艦首からの浸水によってデュプティ・トゥアールの速度が低下した。
弾着地点の情報を元に、
直ちに諸元修正を終えると筑波の主砲から第二撃が放たれる。
ゲイドン級装甲巡洋艦は戦艦の主砲並の長射程距離を有する40口径194o単装砲を主砲として建造時から装備していたが、アジア方面に展開させた艦艇と違って資金が掛る測定器などの更新は行われておらず、有効的な反撃は不可能だった。
なぶり殺しに等しいデュプティ・トゥアールの船体に、無情にも4つ閃光が煌いた。必死に退避しようと動き始めた、その努力を嘲笑うかのように4発にも及ぶ155o砲弾が船体に満遍なく命中したのだ。この時代の戦艦すら撃破せしめる威力を秘めた砲弾を4発も食らってしまう。そのうちの1発が第一砲塔の付近に着弾していた。
その結果は明らかである。
レニウム弾による熱励起が弾薬庫へと伝わり、大爆発と共に装甲巡洋艦の船体が砲塔部分を起点にし、1万トン近い船体が引き裂かれて沈んでいく。生存者の存在は絶望的であろう。爆沈した装甲巡洋艦の近くにいた防護巡洋艦フリアンは、その衝撃波によって搭載していた魚雷が誘爆してしまい大破となる。
「ターゲット(目標)01撃沈、02大破炎上中
02は01の爆沈の余波に巻き込まれたと予想されます」
「02に白旗は立っているか?」
「確認出来ず」
「……満身創痍でありながらも抗戦の意思ありか!
その素晴らしい敢闘精神に免じて……」
一呼吸の間を置いてカエデの視線が鋭くなった。
手ぶりと共に凛々しくも鋭く言い放つ。
「目標フリアン、全砲門一斉射撃! 撃てぇッ!!」
戦闘指揮所(CIC)にカエデ中佐の声が響いた。
降伏しない敵を見逃すわけが無い。
攻撃に移る前に5秒も待っていたことが、彼女なりの譲歩であった。
彼女の号令により筑波の砲撃によってフリアンは原型を留めぬぐらいに破壊され、デュプティ・トゥアールの後を追う事となる。これも装甲巡洋艦と同じく誰一人として生存者は居なかった。軍港にいたフランス兵は、沈没するまで続けられる、その苛烈な攻撃に震えあがっていく。
「よ〜し、目障りな艦艇は片付いた。
時代遅れの要塞は最後でよい、先ずは兵舎を砲撃せよ!
出し惜しみは無しだよ。
香典代わりだ、盛大に撃ち込んでやりな」
カエデ中佐がそう言うと、筑波の主砲がフォールドフランス大隊が駐屯する兵舎に向けて火を噴く。猛射と言っても良い射撃速度である。フランス軍にとって最悪な事に撃ちこまれた弾種は先ほどの対艦用のものとは違い、旅順砲撃戦でデビューした広域破壊用の3式汎用弾であった。欧米水準からすればとても155o砲弾とは思えぬ破壊力を、等しく平等に辺りに撒き散らしていく。そして最後に目標となったサンルイ要塞は最初から最後に至るまで、この戦いに寄与することなく完全に破壊されてしまう。史実のようにサンルイ要塞が後に博物館として活躍することは永遠になくなったのだ。
「世界で最も美しい場所」とコロンブスに呼ばしめたマルティニーク島の軍事的価値を完全に喪失させると筑波は悠々と戦域から離脱を行う。現地のフランス海軍は完全に叩き潰され、追撃どころか基地の救助活動すらままならない状態である。
戦闘区域から30kmほど離れてから、カエデ中佐は警戒レベルを第1配備から第2配備に移行し、乗員に休憩を取るように命じた。しかしカエデ中佐は戦闘指揮所(CIC)から移動せず、部屋の中央にて床から1メートルの高さで設置されている、作戦指揮卓に大西洋戦域マップを映し、コーヒーを入れたマグカップを持ちながら次の攻撃目標の選定に入っていく。
「弾薬と燃料もまだ十分にある。洋上補給も5回は受けられる。
そしてカリブ海から南米に掛けて目標は選り取りみどり…
ふふふ、腕が鳴るねえ」
カエデ中佐が見下ろす大西洋戦域マップの視線の先には、フランス領ギアナの首都であるカイエンヌがあった。彼女は現地に駐屯する第9海兵歩兵連隊を艦砲射撃にて大打撃を与える事を思いつく。カエデ中佐には敵を吸引する範囲に於いて作戦の自由行動が与えられており、思うままに動く事が出来るのだ。彼女は筑波の機動力を駆使してカリブ海から大西洋に掛けて、異様な熱意を持ってして縦横無尽に荒らしまわっていく事になる。
幕張地区の南には千葉県千葉町がある。帝国重工が誕生する前は千葉町には大きな産業も無く寂しげな町だったが、今では千葉町の寒川港と登戸港が帝国重工の貿易港の一つとして活用されるようになり、街の各所には活気に満ちていた。また帝国重工資本によって建てられたポストモダン近代建築様式に、近代日本様式を取り入れた建築物もいくつか見られる。
このような事情から千葉町は日本本土でありながらも街を歩く外国人が多く、異国情緒が感じられるような街になっていた。幕張地区とは違った魅力である。また幕張地区と千葉町とは都市開発事業部が運営する都市バスが開通しており、移動が便利になっていたのだ。バスの運用当初は千葉町の住民は驚いたものも、今では慣れ親しんでいる。
それだけに留まらず、
帝国重工によって幕張間を結ぶ、モノレールらしき建設工事も進められていた。
その目覚しい発展を続ける千葉町にある日本風の旅館の一室にて、珠玉のような肌とミディアムタイプのカジュアル・フェミニンの髪型が特徴的な少女の面影を残した白人の美女が、一人の白人男性と話していた。彼は千葉県では珍しくない貿易商であり、また親日家として周囲に知られている。表の顔はそうであったが、裏の顔は工作員との連絡員であった。
女性が言う。
「協力者からの情報だと国防軍に所属する4隻もの葛城級が忽然と消えたらしいわ。
その4隻の目的は不明」
「他には?」
「後は黒江が暫く会えなくなると言っていたわね。
理由は言わなかったけど、暫く会えなくなるなんて初めて聴く言葉だった。
現に6日は会っていない」
「忘れていたが、そういえばお前は黒江少将の愛人だったな。
ヤツに情が移って寂しいのか?」
「私は白人よ。
愛人に甘んじているのは任務の為。
愚弄するなら貴方が私と代わってみる?」
女性はまるで敵を見るような冷たい視線で男性を見た。このような事で当局の切り札とも言える帝国重工の内部に入り込んだ工作員の機嫌を損ねるわけにはいかず、男性は渋々ながら謝る。第一、へそを曲げられ情報を渋られたら元も子も無い。彼女が罰せられる前に上層部から怒りを買ってしまい自分が失脚してしまう。
「悪かった…すまん…そんなに睨むな」
「まぁ良いわ。誤解しないで……これも全ては祖国のためだから。
で……続けるわよ、黒江は国防軍の要職に就いている。
その彼が長期にわたって 会えなくなるなんて不自然なの」
「言われてみれば、そうだな……
これまでなら演習であっても2.3日で帰ってきたらしいからな」
「ええ」
「となると……
本国から遠く離れたなんらかの軍事作戦の可能性が高いか…」
男が深刻そうな顔をする。
女は障子の透間から外を伺いつつ言う。
「判断は軍に任せるわ。とにかく今回の目ぼしい報告はその位よ。
長居をすると疑われるから戻るわね」
「ああ。
これが今回の活動費だ、有効に使ってくれ」
「分かったわ」
一つの小包を男性から受け取った女性は、中身を確認してから鞄に納めると振り返ることなく部屋を出て行った。誰かに付けられていない事を確かめつつ、バスに乗り込む。時刻は17時34分であり、夕日がまぶしく日差しが暑い。その夕日を直視しないように座席に着く。バスに乗っていた乗客は10名程で暫くするとバスが発車した。それから30分程で幕張地区に到着し、降りたバス停から徒歩にて住環境に恵まれた低層マンションの一つへと入っていく。国防軍の高機動車が巡回しているエリアからして帝国重工の社宅として使われているマンションの一つと伺える。
その女性は最上階の一室の前に立ち、ドアベルを押す。
『開いているわ』
インターホンから返事が返って来ると女性は嬉しそうに扉を開けて室内へと入る。ドアを閉めて、靴を脱ぎ、より中へと入っていく。夏にも関わらず絶妙な空調によって丁度よい温度に保たれており、室内は快適な状態だった。
リビングに入ると女性は先ほど打って変わって活発的に弾んだような声で言う。
「お姉さま、任務完了しました!」
「ナタリア、ご苦労様」
そう、彼女は連絡員と接触していた二重スパイとして活躍しているナタリアである。当初はフランスのスパイとして送り込まれていたナタリアだったが、帝国重工による洗脳処理によって、今では帝国重工の下で日本の為に尽くすようになっていた。
ナタリアの任務に対する真剣さはリリシアの了承の元、外国の諜報組織から黒江の愛人として見えるように積極的に行動する程である。彼女は洗脳処理時に公娼婦としての調整も受けており、そのような任務であっても全く精神的な負担は感じないのだ。
リビングに居たテレスは日本国防軍第1種礼装を着ており、
その蠱惑的な唇にて形作られる笑みと、
褐色の肌がなんとも言えない色気を出している。
リビングのソファーに腰を下ろしていたテレスが立ちあがって優しく言う。
「あらナタリア、汗を掻いているわね?」
「はい…あっ」
「そのままで。
汗を掻いたのなら拭かないと風邪の元になるわ。
私に任せてね」
「はい…」
テレスはナタリアの傍によってナタリアの額に小さく浮かんでいた汗を優しくハンカチで拭っていく。ハンカチは額から首筋に移動しつつ、テレスは器用にナタリアが着ていたドレスシャツのボタンの上段部分を外して、胸の谷間から背中にかけて拭いて行った。その優しさにナタリアの頬が緩む。目を閉じてうっとりとした表情でテレスの行為を受け入れていく。テレスから放たれる仄かに甘い体臭がナタリアの気持ちをリラックスさせていた。
(ナタリアはお姉さまの下に居られて幸せです)
ナタリアは心の中で呟いた。
彼女の心に温かい気持ちがあふれてくる。
夢心地に浸るナタリアを愛おしそうに見ながらテレスは汗をふき取っていく。汗の処置を終えるとテレスはナタリアのドレスシャツのボタンを留めていった。
ボタンを掛け終えると何事も無かったようにテレスは言う。
「汗はこれで大丈夫ね。
貴方の行動をずっとモニターしていたけど、見事な演技だったわ」
「ありがとうございます」
「これで他の情報源とあわせてフランス当局は気付くでしょう。
そして慌てることになる」
「その時が楽しみです」
「さて、定時は過ぎてるから仕事の話はここまで。
でも……夕飯まで時間は有るし、
そうね、良かったらサッパリするために一緒にシャワーでも浴びる?」
「本当ですか!? 是非!」
ナタリアは嬉しそうに返事をすると待てないのか軽やかな足取りにてバスルームに向かっていく。テレスはその仕草に微笑みつつ、頑張ったナタリアに対してご褒美をあげようと心に誓う。そして自らも遅れまいとバスルームへと向かった。
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【あとがき】
ナタリアさん大活躍!
正しい情報がフランス当局に流れますが、これから日本側の罠が炸裂していく事に…正しい情報でも解釈を間違えれば大変なことになるでしょう。
また、このような手間を行うのはフランス海軍には、まだイギリス牽制用として残した戦艦28隻、装巡21隻、防巡11隻からなる艦隊が残されており、それを考慮しての安全策です。
意見、ご感想を心よりお待ちしております。
(2010年10月13日)
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