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帝国戦記 第二章 第24話 『日本帝国主義:中編』


夢は現実の苗木である

ジェームズ・アレン





 1904年 9月10日 土曜日

帝国重工は2極真空管の販売を開始。

史実ではマルコーニ無線会社のコンサルタントを務めていたイギリス帝国の大学教授ジョン・アンブローズ・フレミングの発明であったが、この世界では、"さゆり"博士と無線研究の先駆者であるジャガディッシュ・チャンドラ・ボースの共同開発に変わっていた。





 1904年 9月12日 月曜日

帝国軍第11歩兵連隊主力、攻勢開始点であるサハリン島南部中央平野の北部にある東海岸と西海岸が一番最短になるマヌイ川とマトマナイ川に挟まれたセラロロ(白浦)に到着。そのまま北上し、9月22日にはサハリンの要衝アレクサンドロフスクを占領する。

サハリン北部のロシア軍は反撃を試みるも、機械化戦力の前に敗退。





 1904年 9月23日 金曜日

ロシアとフランスの合同艦隊である戦艦7隻、装巡3隻、防巡16隻、駆逐4隻、その他10隻が旅順軍港に到着する。





 1904年 9月25日 日曜日

国防軍は南太平洋におけるドイツ帝国植民地の全てを占領下に収める。





 1904年 9月29日 木曜日

帝国軍の猛攻撃によってサハリン島の残存ロシア軍が降伏し、日本の管理下に置かれる。史実では要衝陥落後も1ヶ月に亘って抵抗を続けたロシア軍であったが、この世界では嫌らしいまでの精密砲撃による指揮系統のマヒに加えて、物資困窮と降伏勧告を誘うビラにより継戦意欲を完全に喪失したのが早期降伏の原因であった。

















 1904年 9月30日 金曜日

アレクサンドロフスクは東部の中心地ルイコフ市とは街道が通じ、南部のコルサコフ市と街道は不完全ながらも、冬季以外は定期汽船により連絡が可能であった。そのために、この街にはロシア調の装飾によって飾られているレンガ造りの中央政庁が置かれ、サハリンで最も重要とも言える場所であろう。

また、中央政庁の周辺にある行政施設の周辺には戦前と変わりなくシベリア商人の支店が数多く見受けられた事が占領行政の手腕の妙を窺わせるものだった。その占領行政を行っていたのは、中央政庁に置かれた日本帝国軍の民事作戦部隊である。

民事作戦部隊とは円滑な占領政策を実施すべく、統合軍令部が新たに設置した部門を指す。その任務内容は地域の治安維持と防衛、宣撫工作だけではなく、各種のインフラ整備を初めとした将来を見越した都市計画や産業計画を構築する。

それらの人材は軍部のみならず民間から出向した人材で組まれており、軍政のみならず憲兵隊に対する指揮権すら有しているのだ。

占領行政府のある中央政庁、かつて軍務知事が使用していた執務室にて日本帝国から行政長官として派遣された床次竹二郎(とこなみ たけじろう)と帝国重工国土開発事業部の長を務めている真田忠道(さなだ ただみち)が話し合っている。

床次長官は史実に於いては絵を嗜み、エリート官僚でありながら公傷退職者を救済するため私財を投じて5,000円という多額の寄付を行った人格者でもあった。また、山本内閣では鉄道院総裁に就任し、鉄道の地方路線拡張方針を打ち出した事でも有名である。

床次は真田に話しかけた。

「町の治安は良好で、
 商業活動に関しても好転に向かっていますな」

「店は人と商品に溢れ、人々の表情から不安が減ってきたのが窺える。
 治安の安定は全ての基本であり、
 必要最低限の衣食住の保障は国家の義務だからのう」

「サハリンの情勢を見ていると、何時ぞやの先進科学にあった統治学コラムにあった、
 衣食住を保証するものこそ統治者に相応しい……
 あの内容を痛感させられますわ」

丸縁メガネを掛けた床次はしみじみと真田に言う。

「うむ。
 インフラ整備に加えて帝国本土との交易が本格化すれば、
 早晩にロシア統治下には戻れなくなるだろうなぁ」

帝国軍によって9月12日に制圧されたアレクサンドロフスクであったが、帝国軍による的確な治安維持に加えて、制圧直後には4式大型飛行船「銀河」が日本本土から来往し、国土開発事業部の先遣隊と共にインフラ整備用の各種資材だけでなく、元々からサハリンで不足気味だった民需物資を運び込んでいた事が状況好転に繋がっていた。

特に、南方地域で生産された果物缶詰は予想以上の大好評を得ている。

そして、小型統合電力システム(IPS)と太陽電池による電力の供給も住民の心を大きく掴み始めていた。更には情勢が落ち着けばケーソン防波堤型波力発電所の建設すら行われる予定になっていたのだ。このようにクリーンな発電に力を注ぐ帝国重工が風力発電に興味を示さないのは高周波公害を避けるためであった。

島の通貨はルーブル通貨と円通貨の両方が使えるようになっていたが、日本の占領政策によってルーブルに関しては外から持ち込む事は禁止されており、帝国重工と取引した者は釣銭が円通貨で統一され、自然と島内のルーブルが消滅するように調整されていたのだ。また、帝国重工の躍進と8月5日に見つかった350万両相当の埋蔵金によって円の価値が上昇していた事実が円滑な通貨交換を実現させていたと言えよう。

サハリンに於ける今後に必要と思われる物資も、島の人口が3万人程度と少なかった事に加えて、帝国重工が戦前から蓄積に努めており問題は無い。

二人の会話は続く。

「しかし、真田さん。
 そちらが大量に雇い入れた農民囚は大丈夫なのですか?」

「心理審査(心理テスト)の調査を終えて選別した。
 農民囚も恩赦と此方が提示した労働条件に満足している様子だぞ。
 それに、ロシア本土に帰れば収容所に戻るだけだと知っているのも大きいのだろうよ」

「なるほど……
 まぁ、あの労働条件なら昔のような生活には戻りたいとは思わぬな」

「だな」

真田が頷く。彼らは国土開発事業部の監督の下、サハリンでの計画的な農業地開発に従事して行く事になるのだ。労働条件は日本人と同じであり決して悪くない。

「農地開拓は農民囚で当面の人材は凌げるとして、
 その他の産業に関してはどのように?」

「基軸産業の根幹を担う人材に関しては、農業は漁業公団から、
 林業は農業公団から出向で対応し、その他は我が社の人材で対処する。
 詳細な計画書は明日には用意が出来るだろう」

「なるほど……そのような手段で基軸産業をいきなり作り出すのですな」

「うむ、根幹はこちらで用意し、
 後はサハリンの住民で肉付けを行う事で産業育成期間の手間を省く……
 台湾島と違ってサハリンの人口が3万人程度だからこそ出来る芸当だろうな」

サハリン島と同じような島であっても、流石に287万もの人口を有する台湾島ではこのような強引な手法は採られておらず、健全な経済成長を睨んだ計画が立てられている。

「ですが、その方法ですとこの地に住む住民らの
 出世の道が閉ざされてしまい、此方に対する反感に繋がるかもしれん」

流石に判事や知事を経験している床次の指摘は鋭い。

「それも織り込み済みだ。
 産業規模が拡大すれば、おのずと有能な人は管理職に就く事が可能になっている。
 後は、労働による正当な報酬が意欲の源になるだろうな」

「なるほど!
 ところで、あの開発計画は真でしょうか?」

「偽りは無い」

「なんと……」

あの計画とは、先ほど真田が床次に提示した書類に書かれていた開発計画の事を指す。その内容はサハリンの主要都市を結ぶ鉄道建設と舗装道路の建設に加えて、鉄道連絡船を運用する事で北海道との連絡路を確保する計画だった。

これも真田と、野村靖の後任として逓信省大臣となった後藤新平が推し進める日本開発計画の一環である。二人はその計画の前段階として、大隈重信が外国人の意見に応じ、日本の鉄道に採用した1067mm軌間(狭軌)から広軌へと順次改軌を推し進めていたのだ。また、本州全線に必要な約6000万円と算段された費用も帝国重工による全額負担で増税を行うことなく計画を進めている。

狭軌は速度と輸送量に劣る代わりに複雑な地形に適したと言われているが、実際は資材倹約と資金不足から工数の資材の少ない狭軌が選ばれていだけに過ぎない。そのような問題があるにもかかわらず、史実に於いて狭軌が継続されたのは、伊藤博文が作り上げ、原敬が率いる立憲政友会が掲げた路線拡大の公約を果たすためだけであった。

しかし、この世界では違っている。

既に大隈重信は失脚しており、明治天皇から準備金を渡されなかった伊藤博文は立憲政友会を結成することが出来ず、また伊藤も不埒な行いを指摘され政界から追われていた。床次も史実に於いて山本内閣時に鉄道院総裁に就任した後に、立憲政友会の意向を受けて改軌論争と言われる狭軌鉄道以外を禁止していたが、この世界では真田と後藤の影響を受けて広軌信奉者に生まれ変わっていたのだ。

床次は言葉を続ける。

「本州から北海道のみならず、この地まで路線で繋がるとなれば、
 我が国の産業のみならず樺太(サハリン)も大きく栄えるでしょうぞ!」

「特にコルサコフ、マウカ、ドブキ、リュトカと繋がる
 ウラジミロフカ(豊原)は陸路の要衝にして肥沃なる平野が広がっており、
 交通網を整備すれば良い穀倉地帯として成長するだろうな」

「それは楽しみでなりません。
 まずは民事作戦部隊の計画通り、ジャガイモから始めていこうかと」

「それは、良い考えだと思う。 ジャガイモは小麦の三倍の生産量を有するほどに重要な食べ物であり、我が国に於いても"お助けイモ"と言われた位の食べ物だ。 ただ、連作障害にならないように注意してくれよ?」

「もちろんです。
 施肥管理を徹底させ大豆や砂糖大根など種類を増やして交互に
 植えていく計画ですわい」

日本帝国は生命環境事業部の指導と広報事業部が出版している先進科学という雑誌の影響もあって、諸外国より優れた農業技術と思想を有するようになっていた。

「話は変わるが、
 漁獲量の上限設定はこの数値で如何かな?」

真田は一つの書類を床次に提示した。
それを見た床次は唸る。

「うーむ………
 しかし、この数値だと定める意味が無いのでは?」

「確かに今のサハリンでは過大数値だな。
 しかし、10年後…いや、30年後を見れば丁度良い量になるだろう」

「漁獲量が拡大してから設定するのではなく、小さいうちに遠い先の上限を定める、
 規制を目標と思わせる手腕、先を見越した計画は見事と言うしかない!」

「だが……我々、帝国重工に出来る事は切っ掛けを作る程度が限界じゃよ。
 サハリンをより良くしていくのは帝国政府であり、
 このサハリン行政を司るお主の手腕じゃて」

豊かになって定められた上限制限は規制のように感じられるが、逆に貧しいうちに定められた同じ目安の上限制限は目標として映るだろう。床次は帝国重工が出版している"先進科学"を学術的見地から愛読しており、さゆり博士が提唱した生物地球化学的循環や資源再循環(リサイクル)による循環型社会の概念を知っており、納得する。

しかし、これらの計画には床次も知らない先があった。

帝国重工は北海道とサハリン(樺太)の初期開発が一段落すれば、青森県と北海道を股にかける津軽海峡と、北海道の宗谷岬から約42km離れているサハリンのクリリオン岬(西能登呂岬)に加えて、攻略予定のサハリン中部からやや北部にあるボキビとラザレフの3ヵ所にて、海底トンネルを建設し、本州、北海道、樺太、シベリアを鉄道路線を繋げる計画を立てていたのだ。
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【あとがき】
大隈重信と伊藤博文の失脚によって日本の鉄道がパワーアップ!
本当のところ、この時期の日本帝国に戦争をしている余裕なんて無いからね。


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2010年03月31日)
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