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帝国戦記 第二章 第12話 『ルーブル帝国主義の終焉 3』


神は悪人を許しはするが、けっして永劫ではない

ミゲル・デ・セルバンテス





 1904年 8月1日 月曜日

高野さゆりが生物地球化学的循環説を提唱。
先進科学にて大々的に取り扱われ日本帝国において、自然保護運動が活発となる。

帝国重工が電子式ブラウン管テレビの試作品を発表。




 1904年 8月3日 水曜日

帝国重工から合成繊維ナイロンの販売を開始。
史実よりも31年も早い、石炭と空気と水から作られた合成繊維時代の幕開けとなった。




 1904年 8月4日 木曜日

1882年にドイツ帝国、イタリア王国、オーストリア帝国の間で結ばれていた三国同盟に則って、イタリア王国とオーストリア帝国はドイツ帝国を援護するべく軍事援助を開始。

イタリア王国とオーストリア帝国を合わせて戦艦5隻、装巡3隻、防巡8隻、その他4隻、輸送船5隻がアジア方面への移動を始める。




 1904年 8月5日 金曜日

国土開発事業部が群馬県中央部にある赤城山にて地熱発電所の建設工事を行っていた場所から、大小含めて350万両相当の小判を発掘する。

しかも見つかったのは、並みの小判では無い。

慶長大判金の二条判(金含有量73.6%)、慶長小判(金含有量84.3〜86.8%)、享保小判(金含有量86.8%)、正徳丁銀(銀含有量80%)という日本小判の中で最上質に属する各種小判である。

そのうち45万両が帝国重工のものとなったが、帝国重工は徳川幕府が残した埋蔵金の可能性が高く、そのような金銀は明治政府が使うのが正しいとして全額を日本帝国へと寄贈した。実のところ、この小判の正体は帝国重工がグレシャムの法則で集めた金銀を再加工したものであり、日本帝国が保有する金保有量の増大を大々的に世界に知らしめるために、この様な大きな芝居を打ったのだ。

これによって、日本帝国は正貨計算で3億6750万の臨時収入を得た事になる。
(享保小判を1両:105.26円と計算)




 1904年 8月9日 火曜日

ドイツ帝国にてドイッチュラント級戦艦「ドイッチュラント」「ハノーファー」が竣工。
史実よりも2年も早い竣工であった。




 1904年 8月11日 木曜日

帝国重工は海底作業用ロボットによって海底に眠る、マンガンジュール、コバルトリッチクラスト、熱水性鉱床を始めとした希土類元素の採掘を開始する。




 1904年 8月12日 金曜日

帝国重工は無線通信における国際信号コードとして通話表(フォネティックコード)を公表。




 1904年 8月13日 土曜日

日本帝国において増税の代わりに戦時立法として資源再生法が制定される。
それと同時に、世界に先駆けて天然資源の再利用を前提とした循環型社会の構築を開始。




 1904年 8月15日 月曜日

日本各地にある帝国重工支社のビルにて看板として偽装設置されていたLOEL(ラージ有機エレクトロ・ルミネッセンス・モニター)製大型スクリーンが偽装を解除して帝国重工製品のコマーシャルやニュース速報を開始。総天然色の映像に多くの人々が驚いた。

また、広報事業部が制作し、1904年9月25日にて傘下にある映画館にて公開予定となっている戦争ドキュメンタリー映画の佐世保湾海戦「予告編」が発表される。




 1904年 8月18日 木曜日

ドイツ帝国、フランス共和国がアジア情勢の安泰を計る名目で、ロシア帝国に対する6億2千万円の戦時賠償を含む、事実上の降伏勧告である対日最後通告を提示。回答期限は1904年9月1日となった。




 1904年 8月22日 月曜日

帝国重工から1921年よりも17年も早く、リヤカーが販売される。
動力型、人力型などのバリエーションを有する日本史に残る最強軽車両の誕生であった。














 1904年 8月24日 水曜日

23時40分、ロシア帝国首都とはいえ深夜に迫る頃、静かになったサンクトペテルブルクの町中にて全地域型迷彩(ACU迷彩)が施されている60式個人防護装備を装備していた日本国防軍特殊作戦群が作戦活動を行っていた。規模は戦術核兵器に対応している擬体兵で編成されたペントミック型部隊編成3個中隊(552名)である。首都を守るペトロパヴロフスク要塞を始めとした駐屯施設には無色無臭の無力化ガスが作戦開始と同時に流されており、目的を持った組織的な行動は不可能になっている。また、特殊作戦群の作戦区画にも同等の処置を施していた。

彼らは朝までゆっくりと安眠できるであろう。

作戦遂行にあたって障害になりそうな存在は、SUAV(成層圏無人飛行船)による事前の戦略偵察と、4か月前から潜入していた特殊作戦群偵察小隊による偵察活動によって調べつくされており、完璧とも言える対応が徹底的に行われたのだった。

更にはサンクトペテルブルク市内電話回線網は特殊作戦群が作戦開始と同時に引き起こした電話回線を通じて流したサージ電流によって、回線末端機器が容量性負荷に見舞われて機能停止に追い込まれている。

例え、サンクトペテルブルクの市内各所を巡回している警官が作戦区画に入った としても、特殊作戦群が持っているテーザー銃(電気銃)によって無力化され、彼らも守備隊と同じく朝まで目を覚ます事は無いだろう。人間の身体能力を上回るだけでなく、完全武装の擬体兵が相手では、どのような対処を行っても結果は変わらない。

日本国防軍が、ここまでの手間を掛けてまで死傷者を出さない様に
配慮しているのは後の戦略に関係している。

もちろん、当然のことながら、全員が優秀な突撃銃であるXM8CSを始めとした通常火器のみならず、特殊作戦群の兵士の中には電気回転ドライブ方式で動く、6銃身にて7.62o弾を毎分4,000発を有する帝国重工製の擬体専用の分隊支援火器である4式ガトリング砲を持っている者もいる備えようであった。

使わないに越した事は無いが、万が一の場合は上空に待機している8隻の4式大型飛行船「銀河」から95式70口径40o連装機関砲にて支援攻撃が行われる事になっている。

万全の状況の中、特殊作戦群の指向性無線通信が飛び交う。

「デルタ5-2よりHQへ、
 ネフスキー大通りの制圧完了、以上(オーバー)」

「前線司令部(ヘッドクォーター)より、デルタ5-2へ、グリッド4258まで前進せよ。
 方位(ベクター)1-15-4経路まで脅威は存在しない。
 警戒線を維持しろ。状況1、以上(オーバー)」

「デルタ5-2、了解(ラジャー)」

日本国防軍では無線通話などにおいて重要な文字や数字の組み合わせを正確に伝達するためにフォネティックコードを使用している。国防軍の通信システムを参考にしている日本帝国軍基地システム通信部隊もこの呼び方から始まっており、帝国軍でも使われていた。

黒江少将が4式大型飛行船「銀河」の中に設置した前線司令部から各部隊に対して命令を下していく。黒江の周りにいる幕僚は準高度AIだったので前線司令部にしては驚くほど数が少なく、副司令官として参加しているシーナ・ダインコート大佐と水城カナエ中佐の他には居ない。

シーナは指揮補佐を担当し、カナエは索敵に重点を置きつつ有事の際にはシーナを補佐するポジションに付いている。

また、今回は経験豊かな擬体兵の数が必要だった事もあり、特例としてリリシアが広報事業部を代理に任せて、黒江を手助けするべく本作戦に参加している。現在のリリシアは広報事業部に所属しているが元々は特殊作戦群の将校として所属していた経歴があったので、このような事が可能だった。

全体の統括を行わなければならない黒江に代わって、リリシアは前線部隊の指揮を担当している。 リリシアは愛人の黒江を手助けできるようにお膳立てしてくれた"さゆり"に感謝しつつ、的確にシーナの誘導に従って部隊を動かしていく。

ちなみに、リリシアの愛人は男性に関しては限られていたが、同姓は多い。
有名なのがイリナとの関係であろう。

ともあれ、準高度AIの中でも高い学習・思考能力を有する24基副統括システムに連なるリリシア、シーナ、カナエが配備されている事から、帝国重工がどれほど本作戦を重要視しているかが分かる。

また、シーナ・ダインコートはイリナの姉であり、
水城カナエはイオリとの双子であった。

前線司令部から次々と命令が下されると、
分隊単位で有機的に各員が一定距離を保ちつつ相互支援の中を進んでいく。

無力化ガスを散布していても慢心しない徹底ぶりであった。
彼女たちは未来の第三次世界大戦の戦訓から慢心や油断がもたらす危険性を良く知っている。

「スーパー4-3、ホテル(ロシア中央銀行本店に対する符丁)の制圧完了」

本店内の警備はそれなりに居たが、一発の銃弾も撃つことなく特殊作戦群の手にかかって全員が昏倒しており、被害が及ばない場所に集められ、そのまま放置となっていた。

指向性無線通信によって統制された特殊作戦群の行動に無駄は無い。本店の制圧完了と同時に対応部隊が即座に突入し、対応部隊が4面を廊下で囲まれている大金庫室脇を通って大金庫室の入り口まで到達すると、内部を部外者から守る大金庫の扉に工兵隊が駆け寄っていく。

事前に入手した解除手順に従って金庫扉の解錠に入る。

解除方法が間違っていた時の強硬策として日本国防軍は、ホイヘンスの原理を応用する事によって行うプラズマ溶接の一種であるパス(Phased-plasma-Arc-welding-System:フェイズドプラズマアーク溶接装置:PAS)を持ちこんでいた。

この3500度の切断温度を有するPASを使えば、ドイツ帝国ルール地方から産出されるミネット鉱を用いて作られたベッセマー鋼製の金庫扉と、その扉を固定する26本の特殊鋼軸であっても簡単に切断する事が出来であろう。

しかし、解除手順が合っており強硬策に出る必要はなかった。

突入から金庫攻略まで10分にも満たない時間で、
彼女たちは大金庫室に侵入して行く。

リリシアが空いた大金庫室に入ってくると工兵隊が回収作業の準備を始めていた。
ガスの効果が無くなった今、彼女達はマスクを外しており美しい顔が露わになっている。イタリアの街中を歩けば、間違いなく声を掛けられる美貌だ。

外に残った部隊はSTAR(地対空回収システム)の4式空中回収装置に対応している5式コンテナの準備を行っている。

「大佐! あと65秒で準備が完了します」

「7.5秒遅れの進捗だけど問題は無いわ、そのまま継続しなさい」

工兵隊の報告にリリシアが応えた。

一般的な1本12.5kgのものから100kgの金の延べ棒すらも運び出せるように、 折り畳まれていた50cm四方の小型コンテナが幾つも組み立てられていく。リリシアも1秒でも早く作業を進めるべく、小型コンテナ組み立て作業を手伝っている。

それと同時に世界最強の運搬車として名高い、リヤカーの流れを組む室内での作業に対応した無軌道走行によって動く8トンまで運搬可能な燃料電池型運搬車が次々と組み立てられていった。

「ほんとっ、これは先人の叡智よね…」

リリシアは小型コンテナを組み立てながら、 出来あがって行く小型運搬車を見て言う。

リヤカーのような小型運搬車は自衛隊の時代だけでなく、2063年に於いても人力型ですら使用されているのだ。このように優秀な運搬システムである運搬車の生産は人力型や動力型を問わず、帝国重工において市販が行われている。

この運搬車はロシア中央銀行本店で使う事を想定して作られた特殊タイプであるが、万が一に備えて運搬の際に邪魔になりそうな箇所は工兵によって処置済みであった。

リリシアはタイムスケジュールを確認してから周囲に通達する。

「作戦も半場ね…皆に言っておくわ。
 作戦が成功したら、帰国後に春島で楽しい開放的なパーティーを開催するわよ!
 予定時期は1904年9月4日…各員、努力奮闘するように!」

「!!」

リリシアからのお達しは周辺の者だけでなく、戦術ネットワークを介して作戦に参加している者達に対してリアルタイムで伝えられていた。このパーティーはリリシアが出撃前に根回しを進めていたものであり作戦の成否は関係なかったが、やる気を奮いだたせる意味もあって伏せていた。

特殊作戦群は広報事業部に勝るとも劣らぬ位に開放派が多く、少なくない兵達は頬っぺたを少し赤くする。それもその筈、リリシアは抱かれたいお姉さまベスト3に常に入っている憧れの一人である。

任務のペースが落ちないのは流石と言えるであろう。

この様に日本国防軍では彼女たちの人間性を損なわないように余程の事が無い限り、必要以上に感情を抑制させるモードは使用しない様になっていた。

「準備完了!」

「此方も出来たわ」

彼女達の声が室内に響くと、リリシアが次の命令を下す。

「搬出準備開始!」

リリシアの声とともに作戦は次の段階へと移った。

小型コンテナが出来あがると運搬車の荷台の上に2個ずつが縦に並べるように乗せられる。周囲の擬体兵達がその小型コンテナに金塊、正貨、砂金などの回収品が重量オーバーにならないように計算しながら出来る限り丁寧に迅速に詰め込んでいく。下の2箱が許容量いっぱいに達すると蓋を閉めて、次の小型コンテナを2箱を載せてから先ほどと同じ作業を行っていく。

金は37.3cm四方で1000kgに達するが、金塊や正貨の大きさもまばらであり、砂金ならばともなく、その形によってはデッドスペースが生じてしまう。そこで国防軍は無理やり詰め込むのではなく、容量に余裕のあるコンテナの中に1200kgづつを詰め込む事で効率的な作業を実現していた。

擬体兵ならばその様な累計計算も容易にできるので問題は無い。
データリンクによって成し遂げられている見事な連携作業であろう。

この様にして1台の運搬車に付き6個のコンテナの荷造を終えると、2体の兵士が注意深く外に運び出していく。運搬車には7箱まで運び出す能力があったが、安全性を高める意味もあって6箱に留めていたのだ。本店内の特殊作戦群によって持ちこまれた運搬車は20台である。余裕を込みこんだ計画によって、大きなアクシデントは起こることなく、小型コンテナの作業が終わるごとに運搬車にて外に運び出していった。

運搬車の性能に加えて擬体兵の能力が相まって人力運搬と比べて
160倍の効率で搬入作業を進めていく。

20台で120個のコンテナに入った合計144トンの金が外に運び出される事になる。 これで運び出す必要のあるコンテナは残り694個であり、6往復で全ての作業を終える計算だ。

外に運び出された小型コンテナは、小型作業用重機にて5式コンテナに荷崩れしないように各所を固定しながら詰め込んで行った。これらの詰め込み作業を終えると、運搬車は次の小型コンテナを回収するべく再び銀行の中へと戻っていく。

重量制限により、一度に詰め込む小型コンテナの数は6個(7.2トン)である。

全ての準備を終えると回収作業に取りかかるべく、5式コンテナの開放部を閉じて システムを起動させると、5式コンテナからヘリウムガスによって膨らんだ気嚢が回収用特殊ケーブルと共に浮かび上がっていく。

伸びた特殊ケーブルの先端部分が上空に待機している4式大型飛行船「銀河」に搭載されている回収用アームに引っかかると、ケーブルをクレーン部に受け渡して5式コンテナを釣り上げていく。 回収用特殊ケーブルがある装置の下方部分は複数のケーブルによって完全幾何拘束を取り入れた 可変拘束制御技術とクレーン部分のジャイロスタビライザ方式制振装置によって水平を保ったまま、釣り上げていった。

このような回収システムを用意する事で、飛行船1隻あたり約17回の回収作業を行うことで、日本国防軍はサンクトペテルブルクの頭上に太陽が昇りきるまでに日本国防軍は全ての作戦を完遂したのだ。大小問わず、一つたりとも持ちこんだ機材を残さない徹底ぶりである。














サンクトペテルブルクでの流血無き軍事作戦を終えた日本国防軍の飛行船団は高度12000メートルの上空を巡航速度の時速395.4kmにてトラック諸島に向けて帰路に着いていた。このまま順調に飛行すれば28時間後には夏島港に着く予定である。

直線コースを進めばもっと早くに帰還できるが、目撃されないように安全ルートを航行しているので仕方が無い。警戒態勢が解除された今、帰還するまでに空いた時間を生かして特殊作戦群の面々は自由時間に入っていた。

飛行船の運用に関しては現在はAI制御で行っているので、特に操作する必要は無い。

黒江とリリシアも例に漏れずプライベートを満喫しており、 二人はリリシアの自室にて酒を酌み交わしていた。その室内の照明は淡いタイプに調節されている。

黒江はリリシアに向かって言う。

「…凄いな。
 リリシアの言葉一つで、作業速度が向上して予想時間よりも89秒も余裕が出ていたぞ?」

海上船舶と違って容積の限られている飛行船の室内はそれほど広くはなく、簡単な家具と小さな洗面台に加えてベットしかない。それでもプライベート空間があるのは大きいだろう。しかも、バイオプラント浄化設備のお陰で船内で使用した水は完全にリサイクル出来るので、軍用飛行船にも関わらず毎日のシャワーすら浴びる事が出来たのだ。

話しかけられたリリシアは、ワイングラスに注がれている果実の蒸留酒を喉に流し込んでから答える。このワイングラスは飛行船対応型としてパイオポリマー製で作られており落としたぐらいでは割れる事はない。

「ふふっ、想いは人を強くするのよ?」

「同感だな」

リリシアの言葉に、黒江は同意する。
黒江も高野と同じく電子知性体とも言える彼女たちの成長を知っており、
その同意は偽りではなく心の底からのものであった。

リリシアは冷蔵庫の前まで行き、冷蔵庫から好物を取り出すと、ベットに腰を掛けている黒江の隣に座った。 彼女の格好は総レースのセクシーなキャミソールである。それが彼女の黄金率の権化のようなボディと相まって淫らで官能的な雰囲気を出していた。

「くくっ、金庫室の中を見たらロシア中央銀行本店は大騒ぎに違いないわ」

リリシアが人の悪い笑みを浮かべる。
嫌味な感じがしないのはリリシアの持つ魅力所以であろう。

「た、確かに……」

黒江の顔にも苦笑の表情が出ていた。
国家通貨の価値を決める金が消えていたら誰だって驚くだろう。
驚かない方がどうかしている。

真面目な表情に戻ったリリシアが言う。

「これでロシア帝国に残された金は各所に保管されているもので、
 おおよそで276トンまで減ったわね」

「ロシア帝国が金の損失を誤魔化せても2年か……
 彼らは国際地位を保とうと大きく足掻くだろうな」

リリシアの言葉に応じた黒江の言葉通り、ロシア帝国には足掻く選択肢が残されていた。

確かに特殊作戦群によって金は奪われたものも、その際に目立った破壊活動は行ってはいない。つまり日本帝国やロシア帝国が発表しない限り他国がロシア帝国における金保有量の状況を知る術は無かった。

このように礼儀正しい帝国重工はロシア帝国が絶望に陥らないように逃げ道を用意すると共に、戦時国債の売り上げに影響が出ないように最大限の配慮を行っていたのだ。

帝国重工の配慮と思い遣りは世界を大きく巡る事になるであろう。
もちろん、これはイギリス的な皮肉である。

黒江が言葉を続ける。

「しかし……先ほども食べていたが…そんなに、それが好きか!?」

「当然! しかも"はるな"特製となれば美味しさは倍増よ〜」

リリシアは自信満々に答えた彼女の手には、大きなグラスに一杯に盛り付けられているチョコパフェがあった。作戦成功時を祈って"はるな"から送られた2個の特製のチョコパフェである。リリシアは作戦成功時に食べようと特殊冷凍にて丁寧に保管しており、そのうち1個は2時間前に食べ終えていた。

「言い切るな…しかし、はるな特製か…」

嬉しそうにリリシアはスプーンでチョコパフェをよそって口の中に入れていく。黒江は"はるな"の菓子技術を知っているだけに、少し興味が出たようだった。黒江もリリシアとのデートの際に"はるな"が運用する広報事業部に連なる洋菓子店「榛名」に何度か足を運んだ事があるのだ。黒江の視線に気が付いたリリシアは尋ねる。

「黒江、食べてみる?」

「いいのか?」

リリシアは快諾すると、スプーンに黒江の好きなチョコアイスを大目によそい食べさせていく。

「ほう…これはしつこくなくて美味い」

「良かったわ♪」

リリシアと黒江は交互にチョコパフェを味わって綺麗に食べ終えると、綺麗好きであり家庭的でもあったリリシアは汚れものをそのままにしておけない性分から、チョコパフェが乗っていたグラスを洗面台にて手際よく洗い始めた。

それらを終えると、雑談を交わしながら先ほどと同じように酒を飲みかわしていく。

「ふふっ…喉も潤ったし、小腹も満たしたわ……じゃあ、次を満たしましょう」

リリシアが意味ありげに言う。
最早、二人の間に言葉は要らなかった。リリシアと黒江は室内の淡い照明に照らされながら、作戦成功とお互いの無事を祝うかのように、お互いの唇をそっと重ね合わせていった。
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【あとがき】
リリシアがチョコパフェ好きなのはER戦記からの伝統ですw

しかし…ロシア帝国蔵相エドワルド・プレスケがどの様に驚くかなぁ(汗)
まぁ……普通の神経だったら失神するでしょう。

健全小説なので、黒江とリリシアのラブシーンはココでストップw


【あれ、日清戦争の賠償金より得た「両」が少ないのに何故違うの?】
清国の両は銀基本なので価値が違います。

【軍がリヤカー!?】
リヤカーもきちんと作ればトン単位の物を運べます♪
それに、陸上自衛隊には84mm無反動砲運搬専用リヤカーがあります(驚)


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2009年11月25日)
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