帝国戦記 第二章 第09話 『文民統制』
人民の、人民による、人民のための政府は地上から滅びる事はないであろう。
エイブラハム・リンカーン
アメリカ合衆国は米比戦争に苦戦しつつも経済発展を続け、都市部では建物は高層化の時代に突入を始めていた。ニューヨーク市マンハッタン5番街を中心に、建築物もそれまでのヨーロッパの豪華志向から、技術と資本を競い合うものに変質を始めていた。このように高層化建築の先駆となったのがパークロウビルやフラット・アイアンビルである。
高層ビルに入居することがビジネスの成功とも評され、富豪や財閥は、鋼鉄の使用によって高層化したビルに商売の拠点を移していく。
しかし、戦争の影は各所に現れていた。
未亡人の増加、負傷兵の増加…
光と影が混在するアメリカ合衆国。
アメリカにおける政務の中心であるワシントンD.C、ペンシルベニア通り1600番地にあるホワイトハウスにある大統領執務室にて米国大統領ウィリアム・マッキンリーが海軍長官のウィリアム・ヘンリー・ムーディと会談を行っていた。
史実では1901年9月6日ニューヨーク州バッファローで開催された、パン・アメリカン博覧会会場にてマッキンリー大統領は無政府主義者レオン・F・チョルゴッシュによって暗殺されていたが、この世界では暗殺を免れている。
このような背景もあって、アメリカ帝国主義の始祖とも言われるマッキンリーは大統領選にて二選を果たして大統領職を続投していた。
マッキンリー大統領は上機嫌に海軍長官ムーディに問いかける。
「派遣艦隊の準備はどうかな?」
「隻数が多いので準備に手間取っていますが、
戦艦10隻と防巡10隻は4月中には旅順に到着するでしょう。
しかし…本当に宜しいのですか?
派遣する戦力は我が国の戦艦の半数に上ります」
「ああ、米比戦争では海軍の出番は海上封鎖以外には殆ど無いからな…
ロシアは予想外の損害を被ったが、最終的な勝利は揺るがないだろう。
それに、米比戦争であまり良くない結果が出ている。
ここで何かしらの大きな成功を収めなければ国民は納得しないであろうよ」
ロシア帝国のプレーヴェ内務大臣はマッコーミック大使を通じて、対日戦に対してロシア海軍の指揮下に入る義勇艦隊を派遣した場合、戦勝後にて4600万ルーブルの支払いを約束していたのだった。前払いとして2000万ルーブルが既に支払われている。
また、アメリカ合衆国を安心させるために、戦勝の定義も明確に設定されている。
この様に小さくない金額を支払ってまでプレーヴェ内務大臣がアメリカに接近していたのは、予想以上に手ごわい日本帝国軍に対しての対応策の意味もあったが、アメリカに対する工作に加えて、それ以上にイギリス帝国を牽制の意味もあった。
それ程にイギリス帝国海軍は強大なのだ。
また、ロシア艦隊との共同作戦時にて、アメリカ戦艦が1隻沈没する毎につき275万ルーブルの支払いを約束する保障すらも付いている。
巨費を惜しまない程にプレーヴェ内務大臣は
帝国重工が保有している技術を高く評価していた。
ロシア帝国の勝利を全く疑っていないプレーヴェ内務大臣があえて、支払い条件を対日戦争の戦勝を条件にしたのはアメリカ艦隊のやる気を奮い立たせる為である。
史実と違ってロシア帝国の好調な経済状況が、アメリカとの取引を可能にしていた。また、プレーヴェ内務大臣にとって対日戦争の目的は技術獲得だけでなく、極東制海権の確保もあったのだ。それらの代償と考えれば安い出費であろう。
そして、ロシア側の案に同意していたマッキンリー大統領であったが、彼はロシア帝国の拡張政策を認めていたわけでは無い。ロシアの案に同意した真意はロシア帝国の戦争を効率よく利用するためであった。
「私とてロシアの思惑に容易く乗るつもりは無い」
「と…仰いますと?」
海軍長官ムーディは思わず大統領に尋ねた。
「ロシア艦隊との戦いで大損害を受けた日本側は、
我々が派遣する義勇艦隊を見て大いに驚くであろう」
「当然でしょう」と海軍長官ムーディは即座に答える。
アメリカが送り込む義勇艦隊が加われば、ロシア帝国の艦隊戦力は開戦前よりも膨れ上がるのだった。普通の国ならば驚かない方が異常であろう。
しかも、アメリカは各個撃破の対策を施している。
義勇艦隊は旅順に到着してするまで星条旗で行動し、旅順港にてロシア帝国の聖アンデレの十字架が白地に青の斜め十字帯に描かれている海軍旗に交換するのだ。更には、その時に義勇艦隊の乗員は一度アメリカ軍籍を離れて、傭兵として個人の契約でロシア帝国軍の作戦に参加する手筈になっている。
この様に回りくどい方法を採ったのは、中立国国民が戦争当事国に対して有利になる行動を行えば国際法に反する行為だったからだ。詭弁に等しかったが、この時代の国際法は国力に応じて解釈幅が広がるのだった。
マッキンリー大統領はアメリカ帝国主義の権化に相応しい毒々しい表情を浮かべて言う。
「義勇艦隊が旅順に着いても直ぐには海戦は起こらない、
我々はその間の時間を有効に使う」
マッキンリー大統領はロシア艦隊の現状に注目していた。
ロシア艦隊は再度の大攻勢に出るためには砲身交換や整備などを必要としている。
そして、義勇艦隊派遣の戦闘参加の条件として、戦艦8隻以上のロシア艦隊主力と行動を共にする条件をロシア側に認めさせていた。
これは、義勇艦隊をロシア側からの使い捨てや囮作戦を避けるために措置であると同時に、大攻勢時にしか動けないようにするための時間稼ぎの意味もあった。それに、義勇艦隊も旅順到着後に直ぐに動くことは難しい。休養と艦艇の整備を行わねばならず、またアジアの海に慣れる為に多少の訓練は必要なのだ。
マッキンリー大統領は言葉を続ける。
「刻々と戦力を回復していくロシア艦隊に加えて我らの艦隊を見せつけることで、
日本に揺さぶりを掛ける。
フィリピン海域の監視に当たっているアジア艦隊も牽制に投入してもい。
我々の手で絶望的な状況を演出し、戦力不足に苦悩した日本に対して、
4隻戦艦を引き渡す代償として、グアム島を貰い受ける。
そして…グアムを起点に日本の利権を徐々に頂いていく」
アメリカ合衆国が米比戦争を遂行する資金を得るために、帝国重工に対して相当量の金や白金を輸出していたが、マッキンリー大統領は帝国重工の技術と共にそれらの回収を狙っていた。金は通貨の価値を維持するのに必要不可欠であり、白金の価値は1900年に装飾品に使われ始めて以来、価格は右上がりだったのだ。
また、マッキンリー大統領が代償にする戦艦は新鋭艦ではなく、
旧式に属するインディアナ級戦艦3隻と戦艦テキサスを考えていた。
インディアナ級戦艦は外洋航海を行うには舷側が低すぎたため、主に沿岸防備に運用されていた艦艇である。代償が手に入るならば失っても惜しくは無い船である。そして、戦艦テキサスは全長94.2mで装甲艦(中央砲塔艦)という既に予備役になっている艦艇であった。
当然、マッキンリー大統領は日本が旧式戦艦を
容易く買うとは思ってはいない。
海軍長官ムーディも同じであり、疑問を口にする。
「もし、日本側が応じなければ?」
マッキンリー大統領は海軍長官ムーディの疑問に答える。
「戦艦4隻をロシアに売買する計画がある事を事前に日本側に
流して買わざる得ない状況に追い込む。
それでも日本が我々の戦艦を購入しないのならば、
戦力回復に努めているロシアに対して格安で売りつければ良いだけであり、
最終的にはアメリカ戦艦が売れる事実には代わりがないだろう」
「なるほど…」
そして、マッキンリー大統領の計画はこれで終わりではない。
日本が素直に戦艦を購入すれば、ロシアに対して中立国を介して日本に売買した戦艦よりも新しい戦艦を売買して、ロシア側の戦力優位を保つのだ。そうして、戦力差に嘆く日本に対して更なるアメリカ製兵器を日本に売りつけて代金を回収していく。
マッキンリー大統領が行おうとするのは、
意図的に自分で問題を起しておいて自分で揉み消すマッチ・ポンプ式である。
21世紀にアメリカ合衆国が多用していた手段でもあった。
流石は先祖様と言ったところであろうか。
そして、日本側戦力の崩壊が判明したときにマッキンリー大統領はアジア艦隊を用いて代金回収の名目で相応の資産がある、幕張地区や制圧可能な公爵領を差し押さえる計画だったのだ。
マッキンリー大統領が派遣を決めた艦隊戦力は以下の陣容になる。
戦艦
「バージニア」「ネブラスカ」「ジョージア」
「ニュージャージー」「ロードアイランド」
「ミズーリ」「オハイオ」「イリノイ」「アラバマ」「ウィスコンシン」
防護巡洋艦
「デンバー」「デモイン」「チャタヌーガ」
「ガルベストン」「タコマ」 「クリーブランド」
「オリンピア」「モンゴメリー」「デトロイト」「マーブルヘッド」
新鋭戦艦であるバージニア級戦艦「バージニア」「ネブラスカ」「ジョージア」「ニュージャージー」「ロードアイランド」の5隻が含まれている事からして、大統領の意気込みが良く分かるであろう。
先日行われた日露間の海戦にて日本艦の高性能ぶりが判明した結果、このような重厚な陣容になったのだ。義勇艦隊を率いるのはチャールズ・ドワイト・シグズビー少将とロブリー・D・エヴァンズ少将の二人である。階級は同格であったが海軍長官ムーディの指示により、シグズビー少将は上位司令官として認定されている。
また、フィリピン海域の監視に当たっているウィンフィールド・シューレイ代将が率いるアメリカ合衆国海軍アジア艦隊の陣容は以下のようになる。
戦艦
「キアサージ」「ケンタッキー」
装甲巡洋艦
「ペンシルベニア」「ウェストバージニア」「ブルックリン」「ニューヨーク」
防護巡洋艦
「セントルイス」「ミルウォーキー」
「シンシナティ」「ローリー」「ニューアーク」「サンフランシスコ」
輸送船23隻、その他12隻
アジア艦隊の艦艇戦力は戦艦2、装巡4、防巡6というそれなりの陣容であるが、必要に応じて合衆国本国に控えている戦艦8隻、装巡4隻から増強が受けられるようになっていた。流石に海域警備に向く防護巡洋艦のこれ以上の派遣は、自国通商路の保護の為に行えない。
また、アジア艦隊の母港は、湾内が良港に適した作りになっているマニラ湾の中にある東部のマニラ港である。マニラ湾南部にあるカビテ港は商業港として物資の搬入に活躍している。
そして、ようやく獲得したアジアにおける自国唯一の橋頭堡を守るべく、マニラ湾の入り口という位置にあるコレヒドール島にはフォート・ミルズ基地が建設され、アメリカ軍は大量のコンクリートを使用し、要塞化も強引に推し進めていたのだ。
史実と比べてアメリカ海軍戦力が上昇していたのは米比戦争の影響と、ロシア帝国の急激な軍拡に対抗する為である。海軍優先思想のセオドア・ルーズベルト副大統領の努力もあって、ペンシルベニア級装甲巡洋艦6隻、セント・ルイス級防護巡洋艦3隻、デンバー級防護巡洋艦6隻が史実と違って既に全艦が実戦配備されていた。
更にはコネチカット級戦艦ですらも「コネチカット」「ルイジアナ」がアメリカ本土周辺で訓練航海を始めており、残る4隻の建造が急ピッチで進められている。
ロシア帝国の勝利に疑いのない戦争にアメリカが介入する理由を察した海軍長官ムーディが納得した表情で「なるほど」と頷く。そして、ひとつの疑問が思い浮かぶ。
「ひょっとして…
議会が我々の行いに好意的なのは投資家たちの影響でしょうか?」
義勇艦隊の派遣費用に関してはアメリカ持ちであった。
当然の事ながら主力艦10隻の運用費は決して安くは無い。
遠方に派遣するとなると更に高くなる。
当初から計画されていた派遣計画ではなく、ロシア帝国からの要望に応じて派遣する事から議会に追加予算の申請が必要だった。しかし、予算を求める臨時議会において、前金に加えて将来の利益が約束されているとはいえ、米西戦争の際には反対に回った議員ですら賛成していた事に海軍長官ムーディは不思議でならなかったのだ。
「オフレコだぞ?
お前の推測は当たっている。
議員の献金主達の要望もあってスムーズに進んでいるのだ。
無論、それだけではない。
私は合衆国の国益になるから積極的に応じている」
「なるほど…」
「有権者の利権を守るために、選挙で選ばれた我々政治家が軍隊を
コントロールする…
これこそが文民統制(シビリアンコントロール)だと思わないか?」
「泣けてくる話ですね…」
アメリカ合衆国においては、軍隊の統帥は大統領が行い、軍隊の維持および宣戦布告は議会の権限で行う。そして、大統領や議会を動かす政治家の多くは資本家からもたらされる献金によってコントロールされている。
マッキンリー大統領の言葉はアメリカの理想と現実のギャップを皮肉に表現しているであろう。
ロシア艦隊による奇襲から始まった日露戦争の初戦に於いて大打撃を受けた日本帝国であったが、最高意思決定機関や日本政府は冷静だったが、驚くべきことに国民も大体は冷静そのものであった。
なぜならば、国民の怒りが爆発する前に高野が手を打っていたのだ。
まず、高野は佐世保と舞鶴が受けた被害に関しては、帝国重工が全面的に補填すると発表していた。そして、新聞社各社の前で特別会見を行い、国民に対して冷静な対応を行うよう呼びかけると同時に、広報事業部を通じて戦争拡大論を抑えさせるように各種工作を行わせている。
高野は日本帝国の発展に尽くす大功労者でもあり、日本人である限り無視できるような存在ではなかった。
しかも、数々の善政により賢帝として多くの国民から慕われている明治天皇も高野の発言に同意したことから政治効果は爆発的に発生した。
会見時に高野が言った「戦争よりも国内発展に尽くすべきだ」
この一言も忘れてはならない。
このような会見を行われては、双方のこれまでの功績からして、
他の者が大々的に「ロシア討つべし」など言えるはずも無いだろう。
そして、日本人の多くは戦争による賠償金を目当てにしなくても、
一生懸命に働けば豊かになれると知っている。
国民がそのような考えに至った背景には、帝国重工によって拡大した内需と最高意思決定機関の指示を受けた帝国議会が推し進めるケインズ型公平分配型経済によって全人口の約87%を占めていた極貧層の減少が大きい。
経済状況の好転によって日本帝国における極貧層は低所得層に代わりつつあった。確かに生活は楽ではなかったが、徐々に好転していく生活環境のお陰もあって、未来に希望が持てているのが大きいであろう。
日本帝国における極貧の代名詞であった農村部に関しても帝国重工が設立してから比べると、収入が1.5倍に増加していたのだ。この様な状況が出来上がっていれば、国民の多くは好き好んで戦争を行いたいとも思わない。
ただし、ロシア帝国軍が日本本土に上陸してくれば話は別だった。
今の生活を守るために狂戦士や狂犬のように一心不乱に戦いに赴くであろう。生活水準の向上によって、多くの国民が守るべき価値のある祖国と見るようになっていたのだ。
このような情勢から日本帝国の戦略方針は戦争に関しては、
当面は専守防衛に留めて、可能な限り国力を国内開発に当てていく事になる。
1904年 4月13日 水曜日、日露戦争が勃発して2か月が経過していた。
日本帝国では戦争中にも関わらず、ロシア帝国からの攻撃が無く平穏そのものである。
幕張にある高野邸の客室にて元老の山縣が高野に話し合っていた。
例の如く、さゆりが高野の隣に座っている。
山縣が口を開く。
「我が国は戦時国債の発行どころか、徴兵すらも行っていない。
欧米諸国の公使から不思議がられているよ」
欧米諸国の予想外の行動は、それだけではない。
日本帝国はイギリス帝国からの軍事支援も丁重に断っていた。
もちろん、日本帝国はマクドナルド駐日英国公使に対しては最大限の礼を持って対応している。
「でしょうね。
しかし、我々は大規模陸戦を行うつもりは全く無いので、
徴兵を行わなくても兵員は十分に足りています。
それに、ロシアに対して陸戦を行う利点は現段階ではありません」
「まったくだ。
陸戦を行うぐらいならば、土木工事に従事させたほうが遥かに建設的だな」
高野の言葉に山縣は力いっぱい同意する。
史実と違って山縣は参謀総長に就任せず、帝国議会を取りまとめるのに奔走していた。高野に感化された山縣達の働きによって、帝国議会は薩長藩閥支配は終焉を迎えて、純粋に国益を考える場所となっていたのだ。
日本帝国における貧困層の減少は帝国重工の働きだけでなく、健全化を果たした議会による成果も大きい。そして、山縣が軍部に復帰しなかったのは貧困層の減少に喜びを見出していた事が大きかった。軍隊ではそれを味わうのが難しくなる。
"さゆり"が言う。
「日本帝国の為に絶対に総力戦を行うわけにはいきません。
それに…戦いよりもやるべき事が山積みです」
"さゆり"の言葉に山縣と高野が同時に頷く。
山縣が悪戯小僧のような表情を浮かべて言う。
「うむ…、損害補充分と若干の拡張要員を残して、残り全ての志願兵を
工兵として訓練するのを知れば、諸外国は余計に驚くだろう」
大量の工兵を育成するのには訳がある。
国内開発に必要な大規模工事に従事させるためだった。いかに帝国重工であっても、日本国内全てを一斉に開発する事は出来ない。そして、産業育成に好都合な大規模工事にも関わらず、民間土木会社に委託しないのは不用意に土木産業を拡大しないためだ。
その理由は、肥大化した土木産業を維持するために意味不明な公共工事を乱発した未来の悲劇を避けるためであった。年に100人も渡らない場所に立派な鉄筋製の橋を税金にて作るなど無駄の極みであろう。
宇宙移民という世界征服に匹敵するような難事業を目標に定めている日本帝国にとって、
不要な産業を維持するために税金を投入する余裕などは無い。
これらの増強となった工兵隊は帝国重工の国土開発事業部から派遣された監督官の監修の下、しっかりとした土木作業を軍事作戦として行うのだ。当然、作るのは要塞や塹壕ではなく港や道路といった国内インフラ整備である。
高野が言う。
「日本が戦時国債を発行せず、さらには目立った軍拡を行わないだけに、
ロシアの戦時国債が今後も面白いように売れて行くでしょう」
余りの売れ行きに、ロシア帝国はその資金の一部を国内投資に回してすらいる。
これは、ロシア帝国ですら手に余る資金が集まり始めた証拠と言えよう。
そして、欧米財閥の介入の証拠と言えた。
なにしろ史実でもユダヤ系財閥が日本帝国の戦時国債だけでなく、ユダヤ民族を迫害していたロシア帝国の戦時国債を購入して大きな利益を上げていたのだ。
「ひとつ面白い情報が入っています」
「ほう? どの様な情報でしょうか?」
山縣は高野の言葉に興味が出る。
「アメリカ海軍の戦艦10隻、防巡10隻がアジア方面に向かっています。
十中八九、ロシア帝国に対する支援でしょう」
「予想以上に多いですな…」
山縣の予想という言葉からアメリカの動きをあらかた予見した事が分かる。
"さゆり"の言葉が続く。
「しかし、これは絶好の機会でもあります。
この艦隊情報を機会を見計らって世界各地に流せば、
ロシア戦時国債は今よりも増して面白いように売れるでしょうね」
初戦の段階で大損害を受けて戦力が激減してしまった日本帝国だったが、最高意思決定機関の中心とも言える、帝国重工は8年前から戦争準備をしており、ロシア帝国が攻勢に出た場合と出なかった場合、万が一にも帝国軍による初動迎撃に失敗した場合に取るべき計画も事前に準備されていたのだった。
後は現在の情勢に見合った準備計画を現在のパラメーターを当てはめて行動すればよいだけである。最良の結果は遠ざかったが、最悪な結果には至っていない。
「本当に、貴方達が味方でよかったと思うよ」
山縣がしみじみと呟く。
最高意思決定機関の挽回策とは、長門級戦艦の事である。
国防軍に所属する戦艦「長門」「陸奥」は、4月1日の時点で電探射撃装置を取り付ける改装工事を終えており、来月になれば出撃が可能な状態になるだろう。それに加えて日本帝国艦隊の主力部隊とも言える戦艦「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」の砲撃訓練も最終段階に入っている事は、最高意思決定機関に連なる山縣は知っていたのだ。
日本が生み出した海洋戦略兵器に欧米諸国が慄く日が刻々と近づいていた。
これが、後にナガトショックと言われる出来事である。
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【あとがき】
アメリカ帝国主義は永遠に不滅です!(笑)
実のところ、この世界の経済状況が好転している日本帝国でも
まだまだ戦争が出来るような状態ではありません。
史実の日露戦争において軍事予算獲得の苦労が良くわかります…
何故ならば、国内資本だけでは満足の行く弾薬の補充すら厳しかったのですから(涙)
そういや、モンテネグロ公国…どうしよう?
史実だとロシア帝国側が参戦を認めなかったけど…うーむ…
【イギリス帝国が行おうとした軍事支援とは?】
カノーパス級戦艦
「カノーパス」「グローリー」
マジェスティック級戦艦
「マジェスティック」「マグニフィセント」「ハンニバル」
「ジュピター」「マーズ」
日本帝国が有する一部利権との交換で、合計7隻に上る戦艦の引き渡しです。
ロシア戦艦よりも高性能ですが、帝国重工の艦艇を知っている日本帝国海軍では、誰も乗りたくない船でしょうw
意見、ご感想を心よりお待ちしております。
(2009年10月17日)
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