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帝国戦記 第27話 『夏島港』


目指す港がないような航海をしていたら、どんな風が吹いても助けにならない

ミシェル・エケム・ド・モンテーニュ





1902年 5月1日 曜日

帝国財団は第三回の帝国賞の受賞者を発表。




1902年 5月8日 木曜日

台湾県民を日本国籍に編入。




1902年 5月20日 火曜日

米国保護下にキューバ共和国成立。




1902年 8月9日 土曜日

エドワード7世戴冠式。




1902年 10月10日 金曜日

ロシア・ドイツ・フランスの三国間条約はアジア方面の兵力増強を発表。





1903年 3月1日 日曜日

帝国重工は公爵領と幕張地区にて燃料電池自動車の運用を開始。





1903年 5月1日 金曜日

帝国財団は第四回の帝国賞の受賞者を発表。




1903年 6月15日 月曜日

米国にてヘンリー・フォード、自動車会社を設立。




1903年 10月29日 木曜日

フランス、清国と雲南鉄道敷設協定を締結。










世界的に見れば驚異的な速度であったが、帝国重工の水準ではスローペースで四四艦隊を成立させた 帝国海軍であったが、当初は考えもしなかった問題に直面していた。

練習艦不足である。

旧世代艦の秋津洲と千代田で訓練できるのは航海訓練が限界であり、統合電力システムや各種兵装に関しては新世代艦に乗り込んでから習得しなければ為らず、練習艦としての意義がほとんど無かったのだ。

これでは無駄な訓練が大きく生じてしまう。

高野は練習艦の問題を解決するために日本国防軍向けに建造していた改雪風級護衛艦の砲塔数を1基に減らして、その分のスペースに箱型塔檣を増設し、講義室などの教育施設を付け足した船を香取級練習艦として無償で日本海軍に提供する事で、この問題を解決する。

改雪風級は雪風級と比べて船体が一回り大きく充分な船体安定性と復原性能を発揮して、経験の浅い士官候補生が外洋の荒波にもまれても簡単には疲弊しない造りになっていた。

香取級の竣工をもって、秋津洲と千代田は雑務艦へと変更になる。 これにより帝国海軍における艦艇は雑務艦を除けば新鋭艦で占められることになったのだ。

日本帝国艦隊の現有戦力は以下のようになる。

第一戦艦戦隊:「扶桑」「山城」
第二戦艦戦隊:「伊勢」「日向」

第一巡洋戦隊:「葛城」「浅間」
第二巡洋戦隊:「常磐」「八雲」

第一護衛群
第一護衛戦隊:「雪風」「海風」「山風」「江風」
第二護衛戦隊:「浦風」「谷風」「磯風」「浜風」

第二護衛群
第三護衛戦隊:「天津風」「時津風」「峯風」「澤風」
第四護衛戦隊:「沖風」「島風」「灘風」「矢風」

第三護衛群
第五護衛戦隊:「羽風」「汐風」「秋風」「夕風」
第六護衛戦隊:「帆風」「野風」「波風」「沼風」

第四護衛群
第七護衛戦隊:「夏風」「強風」「神風」「朝風」
第八護衛戦隊:「春風」「松風」「旗風」「追風」

第五護衛群
第九護衛戦隊:「疾風」「朝凪」「夕凪」「夜風」
第十護衛戦隊:「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」


当初の計画と違った点は、帝国重工の好意によって雪風級護衛艦「神風」「朝風」「春風」「松風」「旗風」「追風」「疾風」「朝凪」「夕凪」「夜風」「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」の14隻が無償で建造され、帝国海軍に引き渡された事であろう。

帝国艦隊の第一戦艦戦隊と第二戦艦戦隊を構成する長門級は最高機密に属する船であり、幕張造船所で竣工して必要な試験を終えると、4隻の戦艦は夜間の闇に乗じて日本本土を離れて、そのまま機密保持に適したトラック諸島まで移されていた。

日本帝国海軍に4隻の戦艦がトラック諸島の停泊地にて、引き渡されたのが1903年9月24日であり、それから1904年1月に到るまでトラック諸島に訪れた帝国海軍の引継ぎ要員は日本本土には帰還せず、トラック諸島の近海にて訓練に明け暮れている。

また、4万トン級の大型戦艦にも関わらず1隻あたり685名の乗員で運用出来た事が機密保持に大きく役立っていた。 4隻合わせても2740名に過ぎないのだ。

3000名の程度の部隊が長期であっても遠方で演習や訓練を行うのは珍しくない。日本国防軍の根拠地とも言えるトラックの休養施設を利用できる事から、既に3ヶ月に上る訓練であっても、帝国軍の将兵の不満は無かった。

諸外国の技術で再現するならば、これほどの巨艦の運用には1隻あたり2500名以上の乗員が必要であったが、帝国重工は可能な限りの箇所の自動化や省力化を推し進めて可能な限りの人員削減を行っていたのだ。省力化によって人件費による軍事費高騰を防いでいたが、これはダメージコントロールを犠牲にしていた訳ではない。

長門級は二重殻構造で作られており、同じ箇所に連続して被弾しない限り主要区画にダメージが及びにくいように作られている。また、被弾時には浮力剤や消化剤の注入による被弾対策も施されており、極めて沈みにくい戦艦とも言えるであろう。









「失礼します」

トラック諸島の軍事機能が集約している夏島の日本国防艦隊司令部の一角に、日本帝国海軍の上村中将が居た。 長期演習に伴った滞在の為に、国防軍の施設の一角を借りていたのだ。流石に連合艦隊司令長官の坪井大将がトラック諸島に長期滞在するわけにも行かず、上村中将が長官に代わってトラック諸島に展開している第一、第二戦艦戦隊の面倒を見ていたのだ。

「上村中将、国防軍からの報告があり、補給整備を完了したそうです」

「彼らの仕事は何時も手早く確実だな」

「そうですね」

補給参謀が上村中将の言葉に心から頷く。

上村が窓の外を見る。そこから見えるトラック諸島の環礁内にある、夏島の港付近に設けられた、 大型浮きドックに改修工事の為に入渠している長門級戦艦の長門と陸奥を眺めていた。

その周囲には、とても一企業の所持する戦力とは思えぬ艦隊戦力が停泊している。上村中将は日本国防艦隊とのファーストコンタクトを行った一人であり、帝国重工の底力を知ってはいた筈だが、その留まる所を知らない発展に驚くばかりである。

近代設備がほとんど無かったトラック諸島に、彼らは僅か5年程度で横須賀海軍工廠を上回る拠点を建設していたのだ。驚かないほうが無理であろう。

「お車を用意しましょうか?」

「いや、ここから3kmも無いので、散歩がてらに歩いて行くよ」

「わかりました。
 私もお供いたします」

帝国重工や国防軍の敷地内では自動車は珍しくない。
それでも歩くのは、夏島の景観が綺麗だからだ。

二人は日本国防艦隊司令部を出ると港の方に向かって歩き始める。夏島港は海岸線にあるのではなく、夏島から2km先の沖にあるのだ。海上に浮かぶ、周囲1.5kmに及ぶメガフロート(巨大人工浮島)型の港である。主要区画と工廠しか完成していなかったが、それでも十分すぎる機能ともいえる。そして、この存在ゆえに、トラック諸島は外国人の立ち入りが禁止されていた。

当然ながら、この夏島港の存在は軍機に属している。

しかも、幕張工業地帯にて作られた、 夏島港を構成する、細分化された海上浮遊体は夜間のうちに幕張港から運び出される念の入れようだった。そして、厳重な防諜体制にて守られていた夏島港を、一部とはいえ帝国軍に公開したのは戦争が近い証明とも言えるであろう。

次の戦争に勝てば、日本帝国や公爵領の地位は大きく上がり、史実と同じように不平等条約が改正され、列強とも言えども簡単には手出しが出来なくなるからだ。

上村中将と補給参謀は、その夏島港への道をゆっくりと歩いていく。

日本帝国軍や日本国防軍の兵士を問わず、行く先々で上村中将の姿を見つけては敬礼する。
統一作戦を見越して、双方の軍において階級の権限は、同等のものとして扱われていた。さらには最上級司令部が認めるならば、命令すら行うことが出来るのだった。

暫くすると、陸地から海の上に掛かる大橋の端に設けられた、歩行者の通行のために作られた歩道区画に到る。その場所でも、南国特有の暑い陽射しは変わらなかったが、中に海の香りを乗せた、涼しげな風が吹いていた。歩道には木が植えられており、のんびりと歩くには気持ちの良い場所でもある。

「兵達の様子はどうか?」

「夏島だけでなく、環境の優れた春島にて休養が出来ているので、全く問題ありません。
 むしろ、本土よりも休養に適しているかと」

「確かにな」

補給参謀の報告に上村中将は苦笑いを浮かべた。

夏島の北側にある、春島には日本国防軍向けの娼館があり、広報事業部が発行している割引券があれば割安で利用可能なのだ。今回の長期訓練に伴って、広報事業部から帝国軍の派遣艦隊に対して、毎月の初めに割引券の無償提供が行われている。

帝国重工は国民の心だけでなく、兵士達の心も見逃さず捉えていたのだ。 上村は帝国重工の卓越した人心掌握に、心から感心していた。

「また、ここの休養施設だけでなく、トラック諸島で採れた天然マンゴーなどの果物の味も格別です。  例え、収穫時期を過ぎていても、帝国重工の貯蔵施設に保管されている果物の鮮度は採り立て時と殆ど変わりません。休養と食事が確りしていれば、兵士達の不満も抑えられます」

「補給の大事さを痛感させられるよ」

上村中将はしみじみと呟くと、補給参謀が応じる。

「全くです。正面戦力は整いましたが、
 後方戦力に関しては寒い限りです」

「日本が作り上げたのは近海迎撃用の艦隊だからな…
 その点、日本国防軍が有する大型補給艦が羨ましいよ」

「海軍の中では徐々にですが、日本国防軍と接した者たちを中心に、
 後方支援体制の充実を求める声が日々高まっております」

「ははっ、貴様もその一人だろう?
 案ずるな、私も同意見だ」

上村中将は茶化すように言う。勇猛果敢で見られがちな上村中将は、かなりの理論派であり正道を重んじている。

史実でも日露戦争の分岐点、日本海海戦においては、判断を誤った東郷司令官の指令を直ちに修正し、自ら率いる巡洋艦中心の第二艦隊単独で勇猛果敢に追撃して、日本海海戦を勝利へと導いているのだ。

上村中将は話題を変える。

「補給艦と言えば、帝国重工の新鮮な味を保つ貯蔵技術には脱帽だな」

「貯蔵技術の向上は民需だけでなく、軍にとっても大助かりですよ」

余剰穀物、果物、魚介類などを鮮度を保ちながら、保存できる 帝国重工の冷凍設備と缶詰は日本帝国軍の食糧事情を大きく変えていたのだ。

保管技術の向上は食料事情だけでなく、弾薬貯蔵にも及んでいる。

弾薬貯蔵庫は順次に建て替えが進められていた。 新造の弾薬貯蔵庫では、インピーダンス高分子重合体を配合したタイルによって静電気発生を防いで弾薬保管の安全性を高めるだけでなく、高温多湿による火薬変質を防ぐ為に貯蔵庫内は常に一定の温度に保つようになっていたのだ。

しばらく歩くと、上村中将と補給参謀は目的地の夏島港に到着する。

「ここは…何度来ても圧巻ですね」

「そうだな…これを見ていると戦艦がちっぽけな存在に見えてくるよ」

「これほどに巨大な海上浮体建造物は他に在りませんから…
 しかも、ここの施設だけで4万トン級戦艦ですら、大部分が建造出来てしまうのが驚きです」

二人は、この夏島港の軍港区画にある海軍工廠の付近に設けられた軍艦停泊用の桟橋に足を向けた。 桟橋には、扶桑、山城、伊勢、日向が並んで停泊している。

更には、ここから見える6箇所のドームに覆われている全天候型ドックの中では、今年に入ってから新規に建造している2隻の長門級戦艦の他に、この世界では見かけぬ新艦種の建造が進められていた。

「この規模の建造物は帝国重工以外では為しえない所業だな」

「彼らが味方でよかったです」

「全くだな…心の底から同意するよ」

夏島港の存在は、構成する海上浮遊構造体を建造した幕張造船所の生産力と技術力を証明する証拠とも言えるであろう。

そして、上村中将も最高意思決定機関に属する人物であり、補給参謀が驚いている夏島港が計画の始まりに過ぎない事を知っていた。

そう、本土開発と世界情勢が落ち着けば、帝国重工は宇宙進出の為に夏島港を基点として、トラック諸島から3km先の海上にメガフロート型宇宙港の建設が始められるのだ。

上村は54歳という初老に達していたが、それでも少年のように心を躍らせながら、宇宙進出の模様を心の中で思い浮かべていた。
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【あとがき】

運命の1904年が近づいてきました。
戦争は起こるのか!? または起こすのか? 乞うご期待w

表では書きませんでしたが、第三回帝国賞の受賞者の発表は以下の5名になります。

【帝国物理学賞】
フランス:アンリ・ベクレル(放射線の発見者)

【帝国技術賞】
日本帝国:ソフィア・ダインコート (ハニカムラジエーター)

【帝国化学賞】
フランス:ピエール・キュリー(ラジウムとポロニウムを精製、発見)
フランス:マリ・キュリー(ラジウムとポロニウムを精製、発見)

【帝国生理学・医学賞】
日本帝国:高野さゆり (中毒中和剤)


【Q & A :夏島港は諸外国は知ってるの?】
現段階では知りません。
もし、知られたら脅威論が沸き起こって、ろくでもない展開になるでしょう…

まぁ5年そこらで、あの規模の施設が出来上がるとは思わないので、日露戦争が終わるまで知る事は無いし、目撃者を帰すことも無いのでwww

戦争に勝てば、日本帝国の力を認めて簡単には手出しできなくなるので、それまでの辛抱です… まさしく、臥薪嘗胆!


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年07月20日)
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