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帝国戦記 第23話 『高級娼婦』


醜い女はいない。 ただ、どうすれば可愛く見えるかを知らない女はいる。

ラ・ブリュイエール





広報事業部を率いるリリシア・レイナードとイリナは、帝国重工関係者にとって最高の休息場所になっているトラック諸島の春島にあるホテル「ブルーオーシャン」の近くの、青い空と透き通った海を一望できる真っ白な砂浜が広がったプライベートビーチに居た。

二人は新しい雑誌「魅了」用の写真撮影を行うために、スタッフを率いて春島に来ていたが、必要分の撮影を終えると、東京へと向う便が出航する明日の昼までを自由時間に指定して、スタッフを含めて島の各地で思うままに羽を伸ばせるように取り計らっていたのだ。


大きく育っている椰子の木の下に、強い南国の直射日光を避けるように設置されている白色のビーチチェアの上で横たわっていたイリナの隣に、同じようにビーチチェアの上に横たわっているリリシアがいる。

リリシアもイリナと同じく準高度AIであり、その外見は美しく整った容貌とパイロープガーネットのように赤い瞳の中には、強い意志と他者を惹きつける輝きを宿しており、腰まで流れる髪が魅力的な妖艶な美女であった。能力と宣伝効果をかねてリリシアが宣伝事業部を率いている。

「んんん〜〜〜〜っ♪」

「春島でゆっくりするのも悪くないわね」

「うんうん、空気も綺麗で空が青くて最高っ!」

「ご機嫌ね…ならもう一つ、メールを送ったわ見てみて」

イリナは自分のIDとパスワードを用いてネットワークにアクセスするとリリシアから1通のメールが着信しており、メール内容を見て驚いた。

「!?……ブルーオーシャンのスイートルームの宿泊チケットID!」

「ええ、貴方の愛人を誘って楽しみなさい。
 公娼関連の手配を頑張ったご褒美よ」

「やったー!」

「喜んでもらえてよかったわ」

「ありがとう! 今度の休日にでも風霧さんと一緒に行こうっと♪」

「ふふっ、頑張ってね」

イリナの感謝の言葉に応じたビーチチェアに横たわったままのリリシアは一切なにも身に纏っておらず、よどみのない端正なラインで作られた大理石の像のように滑らかで、魅惑的な裸体を惜しむ事無く晒していた。対するイリナも同じく裸体であり、その美少女の容姿を裏切らない程よい大きさで形の整った乳房や無駄の無い肉付きで可愛らしさと女らしさを大自然に見せ付けている。

リリシアも開放派に属していた。

そもそも、開放論の基礎になる考えはリリシアの母にあたるトラック諸島の総督を勤めているリリス・レイナートの考えに感化されたイリナがリリスの代理として広めているのだ。

波の漣(さざなみ)の音の中で穏やかな時間が過ぎて行く。
しばらくしてイリナが口を開く。

「そういえば…ようやく来月から本格活動だね…」

「ええ、そうね……やっと日本の公娼地域とグアム島に建設を進めていた大型娼館の全てが来月には動き出すわ。周辺の娼館は既に稼動しているけど、やはり中心部が動かないとシックリと来ないから、ようやくって感じがするわね」

「これで安心できるよ」

「稼動したら広報事業部も暫くは忙しくなるわよ?」

「判っているって♪」

リリシアが長い髪を右手で優雅に掻き分けてから言葉を放つ。

「今回の娼婦街一帯を中心に行われた再開発工事で、旧来の貸座敷は一掃されたわ」

「毎年8000万円を投入する大事業だからね〜」

「ふふっ…それに、優雅で美しい町並みに生まれ変わった娼婦街を見て、
 見学に来ていた日本内務省の役人は面白い具合に驚いていたわよ」

「やっぱり!
 私も最初はビックリしたもん」

「私と同じだわ。 国土開発事業部の面々は凝り性が多いから、
 当然といえば当然だけど、予想以上に計画が拡大していったので驚いたわよ」

「だね!」

イリナがコロコロと明るく笑いながらリリシアに応じて、対するリリシアも嬉しそうにイリナに受け答えする。妖艶な美女であるリリシアと、明るくて活発な美少女のイリナは性格は大きく離れていたが公私問わず仲はとても良い。

リリシアが言うように膨大な予算に支えられた娼婦街の開発計画によって、広報事業部の管理下におかれている娼婦街は、新築娼館の建設数にあわせて、順次に旧来からの貸座敷を取り潰していったのだ。こうして、娼婦街の中核になる大型娼館を中心に、いくつもの瀟洒な造りで作られた娼館が景観に合うように立ち並ぶようになっていた。都市開発に関しては国土開発事業部を率いる真田は一切の妥協は行わない。

優れた都市計画で作られた世界有数の美しい町並みと言っても良いであろう。

そして、見た目の綺麗さだけでなく、日本国防軍の警備部隊による警護による治安維持が常に行われていた。さらには娼婦街内だけでなく、周辺の土地すらも国土開発事業部によって、交通機関などの利便性を保ちつつ、風光明媚を生かした一等地に生まれ変わっている。

「私達が掌握する全ての娼妓の再教育と調整もようやく終わったし…
 次は大型豪華客船と娼館を併せ持った船舶の建造計画を始めないとね」

「だね〜、でも人数は足りるの?」

「合意の下での志願者限定なので娼妓数は足りないけど、無理強いは出来ないから仕方がないわ。…でも、契約に同意した娼妓から順々に教育を施していったのと、マスコミによる情報操作で公娼婦のイメージ向上も行った分の手間と時間を掛けた価値は有るわよ」

リリシアが言った様に広報事業部が行ったのは娼妓の労働環境の改善だけではない。

娼妓に対して睡眠学習装置を使用した上質の教養と心構えを刷り込み、リリスやリリシア直伝の相手に対して可愛く見せる方法を伝授し、さらに体調恒常化処置に加えて、ナノマシンを介した遺伝子改変を行っていた。遺伝子改変と言っても大きく変えるのではなく、老化抑制と身体バランスの調整に限られていた。

身体バランスの調整とは人間を構成する約60兆の細胞は栄養を基に一定のスピードで新しい細胞と入れ替わっており、それを利用した遺伝レベルの整形手術である。つまり、広報事業部は管理下にある娼妓を遺伝レベルで容姿を2年の時を掛けて1から2ランクにかけて向上するように調整していたのだ。

体に過負荷を与えない範囲に限定した遺伝子変更なので、擬体娘達のようなレベルには達してはいないが、それでも一般社会においては美人や並以上に属するだろう。もちろん、本人が望めば元の容姿に戻ることも老化抑制を解除する事も出来るのだ。

また、志願者限定であったが、一つだけ例外が存在する。

欧米諸国から派遣された色気仕掛けを行うような女性工作員に関しては、洗脳処理後に広報事業部の元で娼妓要員として活用していたのだ。律儀な帝国重工らしく、他の娼妓と待遇は同じで、更には衣食住と給与は保障していた。

「…話は変わるけど、貴方でしょ?」

「何が?」

「体のラインを美しく見せ付ける思想の浸透…開放論の初歩かしら?
 娼妓達の間でも広がり始めているわよ」

「あははは…」

心当たりが有り過ぎるイリナであった。

「広めるのは賛成よ…でもね、気品と節度は守るのよ?」

「もちろん!」

リリシアも開放論に対する理解者なので問題はなかったが、リリシアは美しく優雅に見せる事こそ至上と信じており、 節度を守らない開放主義に対してはそれなりに厳しい態度なのだ。

広報事業部がここまで娼妓達の強化に力を入れていたのは、将来の軍の拡大に伴う日本帝国軍の兵士達の性欲処理用として備えていたのと、上質な観光産業を兼ねた社会秩序の要として期待していた。

つまり、広報事業部は戦時は従軍娼婦として動く高級娼婦の整備に着手していたのだ。

軍隊に何故に娼婦なのか?

それは、軍属による性犯罪を防ぐためである。

軍隊と女を切り離せると考えるのは犯罪に等しい妄想であろう。ナポレオンの軍隊だけでなく、宗教軍と色合いが強い十字軍にすらも娼婦の群れが付き従っていたのだ。

元の世界において、形ばかりの体裁にこだわった米軍や他の先進諸国の軍が海外駐屯地や戦地にて多くの性犯罪を生み出してきた事が良い証拠であろう。

日本国防軍に関しては事情が違っていた。

準高度AIが使う擬体は高価な生体素子にて作られているのは、 自己治癒能力と電磁パルス耐性の獲得や、弱電磁波探知を避ける目的だけでは無く、人間とのコミュニケーションを通じて日常生活に溶け込めるようにする目的が大きかった。

ともあれ、彼女達の基本ロジックにある愛国心の影響か準高度AIの多くは、節度を守る紳士的な日本人に対して憧れと親愛の情を感じていたのだ。その上でお互いの相性さえ合えば性行為に至る事は難しくない。公私共に結ばれている副官と上官が少なくない事実が良い例であろう。

その根幹には人間の女性のように扱われることに対する憧れや期待が大きい。

性格の良い美人や美少女が周囲に居て、同意を得れば性的接触を含む満足感が得られるならば軍隊といえども自然と雰囲気は柔らかくなる。少なくとも性犯罪者になって嫌われたいと思う者は居ない。事実、彼女達は合意に至らない無理やりの性行為、つまり性犯罪を激しく嫌悪している。このように日本国防省は両者の存在を掛け合わせることで、任地先での性犯罪を未然に防いでいたのだ。

明治日本に飛ばされた日本国防軍第3任務艦隊の性処理問題に関しては従来から付き添ってきた擬体で十分に対応が出来ていたが、兵員の募集によって国防軍が拡大を続ければ、擬体による対処療法は頭打ちになるのは確実だった。広報事業部が運営する各地の娼館は帝国軍だけでなく日本国防軍にとっても将来欠かせないものになるであろう。

リリシアはビーチチェアから起き上がる。

「イリナ…今から私の部屋に来ない?」

「うん、喜んで!」

「じゃあ、行きましょう」

リリシアには気に入った相手に対しては相手の同意の下で、お互いを束縛しない範囲で性別を問わずに愛人関係を結ぶ趣味があったのだった。

開放派の決まりを守っている二人は一般街道を歩くためにガーデンテーブルの上に置いていた水着を着用する。着替えが終わって、二人が歩き始めるとイリナは、その瑞々しい頬っぺたは少し紅色に染めてリリシアと腕を組んでぴったりと密着しながら歩いて行く。

腕を組まれるリリシアの表情も、イリナと同じように嬉しそうだった。
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【あとがき】

レンフォール戦記の方で活躍しているリリシアですが、日本帝国の興亡でも彼女らしさを出すために、最後は百合っぽく締めくくりました(汗)


【Q & A :電子知性体なのに家族?】
基礎人格を基準にして家族を形成しており、ダインコート4姉妹の母体はセシリア・ダインコートであり、レイナート三姉妹であるリリシア、アリシア、アリスはリリス・レイナートが母体になります。


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年06月26日)
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