gif gif
■ EXIT
gif gif
gif gif
帝国戦記 第22話 『憂鬱』


覚えておきたいのは、民衆と言うものは、頭をなでるか、消してしまうか、そのどちらかにしなければならないことである。

ニッコロ・マキャベリ





1900年 6月21日 木曜日

清国政府は出兵した義和団鎮圧 8ヶ国に対して宣戦を布告。




1900年 8月24日 金曜日

高野さゆりが量子論を提唱する。




1900年 9月3日 月曜日

帝国重工が二重巻締型缶詰を使った各種商品の販売を開始。
また、缶詰関連の特許も同時に獲得する。




1900年 11月11日 日曜日

ロシア帝国は義和団の乱を口実に清国との間で第二次露清密約を交わして満洲地方の権益を独占する。




1900年 12月24日 月曜日

列国公使団、清国政府に対し義和団事件に関する12ヶ条の講和条件を要求。




1901年 1月1日 火曜日

オーストラリア連邦が成立。




1901年1月15日 火曜日

シベリア鉄道全線開通。




1901年 1月22日 金曜日

イギリス帝国の女王ヴィクトリアが逝去。




1901年 3月13日 水曜日

ロシア、ドイツ、フランスは朝鮮鉱山利権と満州利権を取り扱う三国間条約を締結。
この条約は他国がロシア、ドイツ、フランスが有するアジアにおける利権地帯のいずれかへ侵攻した場合に互いの防衛のため参戦するという相互防御同盟を目的とした条約である。また、3国間の共同歩調の証として1894年に締結されていた露仏同盟が全面破棄となった。




1901年 5月1日 水曜日

帝国財団は第二回の帝国賞の受賞者を発表。

【帝国物理学賞】
ドイツ帝国:ヴィルヘルム・レントゲン (X線の発見)

【帝国技術賞】
日本帝国:高野さゆり (試験飛行機流星)
日本帝国:ソフィア・ダインコート (ディーゼル機関)

【帝国化学賞】
日本帝国:神崎久美 (充電式電池)
オランダ:ヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフ (ファントホッフの式)

【帝国生理学・医学賞】
日本帝国:高野さゆり (糖尿病治療薬)

【帝国文学賞】
ドイツ帝国:シルビオ・ゲゼル(現代商業の要請に応える貨幣の適用とその管理)
フランス:シュリ・プリュドム (両世界評論)

1901年受賞者(第二回受賞者)として合計8人が選ばれ、受賞者にはトロフィーとそれぞれ2万円が授与される事となった。




1901年 5月11日 土曜日

アメリカ合衆国は米比戦争の戦死者が5000人を超える。














1901年5月20日 月曜日

イギリス帝国の植民地大臣ジョゼフ・チェンバレンは植民地省にある自らの執務室にて事務次官と共にアジア情勢を分析していた。

「……半島に関しては、ロシアを中心にフランス、ドイツの利権でほぼ固められております。 また、朝鮮民族に関してはその大多数がロシア各地のインフラ整備に投入され、アフリカ植民地における黒人のような立場に陥っており、もはや大韓帝国が自主的に主権を取り戻すことは出来ないでしょう」

事務次官が情勢をチェンバレン植民地大臣に説明した。

「プレーヴェの統治方法はマキャベリの君主論に忠実なようだな」

「はい、ロシア帝国のプレーヴェ内務次官は朝鮮半島の原住民の教化を完全に諦めた様で、消し去るつもりのように酷使しております」

「有色人種の中では日本人以外は文化を有しつつ近代化を果たすことは出来ないであろう。
 ロシアの考えは妥当だな」

チェンバレン植民地大臣は帝国重工の躍進と大多数の日本人が有する誠実な人柄から、日本人は有色人種でありながら特別視するようになっていた。数々の実績を出しているのに否定するのは余程の愚か者であろう。そして、チェンバレンは愚か者ではない。

ロシア帝国のプレーヴェ内務次官は数々の政治工作を行い、内務大臣ドミトリー・シピャーギンから極東方面を任される様になっていた。プレーヴェの統治方法は知的で冷酷で無駄が無く、犯罪行為を行った朝鮮民族の精神問題を根本から解決するべく、ロシア各地にて強制労働に従事させていったのだ。

会話や法が通用しないなら、後は力しかない。

その裁きは、罪を犯した本人のみならず、一族郎党と関係者を含めて一蓮托生という厳しさであった。朝鮮民族を輸送するのにシベリア鉄道が大きく活躍したのは皮肉であろう。ロシアはこの改革により、半島内に蔓延る犯罪撲滅と、より多くの廉価な労働力の確保を同時に実現したのだ。

朝鮮半島はプレーヴェが着任して1年で完全な白人の支配する土地と化しており、もはや朝鮮貴族には実権は無い。ロシア官僚が支配する世界に成り果てており、大韓帝国に友好的だった総領事も権限に勝る内務次官の決定には逆らえなかった。抵抗運動もシベリア鉄道を通って運ばれてくるロシア帝国陸軍の圧倒的な武力の前に、簡単に踏み潰されていったのだった。

発展途上国にも満たない大韓帝国に対して興味が無くなったチェンバレン植民地大臣は半島の話を終わりにするべく口を開く。

「朝鮮半島の件は良く判った…
 しかし、日本が半島に全く興味を示さないのは…やはり高野公爵の関与か?」

「それに関しては、間違いありません」

事務次官が断言すると、チェンバレン植民地大臣はお手上げのように呟く。

「既に帝国重工は世界最先端技術を有する世界有数の大企業の一つ……それを率いる高野公爵は太平洋の多くの島々を領地として抱えて、有力な観光、産業地として開発しつつある。成長は留まることを知らないようだな」

「そうですね…帝国重工の売り出す商品は常に人気が高いですが、特に去年から売り出された缶詰商品の人気は層を問わず大きなものへと成長しつつあります」

1900年9月3日から販売が始まった缶詰商品の中でも特に、公爵領で採れた新鮮な味を保った果物缶詰が世界的な人気になっている。欧米でも缶の構造は簡単に解析する事ができたが、製造に関しては同等の密閉精度を保つどころか、帝国重工と比べて低精度であっても現実的な価格での量産は不可能だったのだ。

「機密情報は未だに盗めそうに無いか?」

チェンバレン植民地大臣は事務次官に尋ねた。

欧米諸国にとっては認めがたい事実であったが、どれだけ頑張っても帝国重工で生み出す製品を自国で生産は出来なかった。そして、製造方法を探ろうと、多岐にわたる合法や非合法な活動を展開しても全く進展する様子を見せない。

事務次官が言葉を続ける。

「帝国重工の機密ですが、未だに入手に成功しておりません。 それと、ダインコート姉妹をはじめとした幾人かの科学者との接触には成功しましたが、高待遇を提示したにも関わらず、イギリスに移住する気は全く無いようです」

1900年6月1日に行われた有人動力飛行機「流星」の飛行事実は大きい。

欧米における高名な多くの工学博士や科学技術者達が流星の外見を模倣しても、有人動力飛行に失敗した事から、欧米各国は改めて帝国重工の科学技術の高さを認識させていた。それだけに欧米各国は"さゆり"を初めとした帝国重工に勤める科学者達の獲得に今まで以上に躍起になっていたのだ。

「黄色人種が我々の知らない情報を握っているのは不本意だが、今は帝国重工とは敵対する訳には財政的に許されないので、当面は合法的な諜報活動に限定するしかあるまい…それに、これ以上の工作員の消耗には流石に耐えられないからな」

帝国重工は前にも増してイギリス帝国に対して、より多くの商品を委託することによって、擬似的な三角貿易が生まれるように調整していた。そしてイギリス帝国は第二次ボーア戦争の真っ最中であり、戦費調達の為に帝国重工製商品の代理販売の利益は絶対に手放せず、好き嫌いを別にして帝国重工を擁護する動きをしなければならない事情がある。

チェンバレン植民地大臣は話題を変える。

「帝国重工の件はおいておくとして…アジアにおけるロシア、ドイツ、フランスの共同歩調を取り纏めているアーヴァイン商会の資金源は掴めたか?」

「資金源に関しては掴めました。
 帝国重工との代理販売で得た利益を元に行う鉱物資源開発であります」

「ふむ……帝国重工の嗜好品は高く売れるからな…
 で、その利益で得たアーヴァイン商会の所有鉱山はどのくらいか?」

「傘下の商社を含めればアメリカに6箇所、アフリカに17箇所、朝鮮半島に13箇所、ロシア国内に35箇所の希少資源鉱脈を有しており、特に有力なのがロシアのレナ川上流にあるミールヌイダイヤモンド鉱山になります」

事務次官がチェンバレン植民地大臣の質問に答えた。

「多いな…しかも外れなしで採掘しているのか?」

「それに関しては、調査中であります」

「わかった…報告を続けたまえ」

「鉱物資源の利益の多くがロシアだけでなくフランス、ドイツにも投資されており、各国とも無視する事が出来ず、アーヴァイン商会の政治工作によって三国間条約の締結に至ったようです」

「確か…アーヴァイン商会の売り上げ規模はデビアス社を超えたはずだったな…」

「はい、ダイヤモンドに関しては世界最大手です。
 しかも株式取引で莫大な利益も上げており、世界上位の財閥に成長しております」

「三国間条約か…忌々しい限りだ。
 ロシアは日本から購入した我が国の最新鋭戦艦でアジアで優位に立ってる」

チェンバレン植民地大臣はイギリス帝国に更なる富をもたらす清国利権に遅れをとっている事に焦りの色を濃くしていた。イギリス帝国はアフリカ南部の支配権を巡って第二次ボーア戦争の真っ最中であり、アジアに兵力を投入する余裕はない。

対するロシア、ドイツ、フランスは共通の利益によって共同歩調をとり始めて、多くの資源を手に入れ始めていた。

「はい…我々が三国間条約の足並みを乱そうにも、アーヴァイン商会が利害調整を続ける限り、極東利権で乱れることはないでしょう」

このようにイギリス帝国のアジア戦略は完全に後手に回っていたのだ。全く行動を起さない日本帝国をロシア帝国に対して焚き付けようにも日本帝国もアーヴァイン商会から資源を購入しており、敵対する要素は限りなく小さく見える。

チェンバレン植民地大臣は、このように第二次ボーア戦争を初めとした、筋書き通りに進まないアフリカ情勢と、全く先の見えないアジア情勢に対して焦燥感を感じ始めていたのだった。
-------------------------------------------------------------------------
【あとがき】

行き成り戦争が起こるわけでもなく、ちゃんと背後の事情が出来上がってから起こるので、戦争はもう少しお待ちください(汗)


【Q & A :何故、X線技術は帝国重工で発表しなかったの?】
ウィルヘルム・コンラド・レントゲンは人間的に素晴らしいので、彼に裕福になって欲しい意味で行いませんでしたw

【Q & A :ディーゼル機関の特許って?】
史実よりも1年早く1896年に帝国重工が開発して獲得しています(悪)


意見、ご感想お待ちしております。

(2009年06月22日)
gif gif
gif gif
■ 次の話 ■ 前の話
gif gif