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帝国戦記 第08話 『始動5』
四四艦隊計画とは以下の様な艦隊計画整備である。
帝国重工で建造する次世代型戦艦2隻、英国で建造中の富士級戦艦2隻、帝国重工で建造する次世代型巡洋艦4隻を基軸にしている。
5年以内の艦隊編成予定図
帝国軍統合軍令部(設立予定)
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┣━戦艦戦隊
┃ ┣━長門級戦艦:長門(帝国重工にて建造予定)
┃ ┗━長門級戦艦:陸奥(帝国重工にて建造予定)
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┣━巡洋艦戦隊
┃ ┣━葛城級巡洋艦:葛城(帝国重工にて建造予定)
┃ ┣━葛城級巡洋艦:浅間(帝国重工にて建造予定)
┃ ┣━葛城級巡洋艦:蔵王(帝国重工にて建造予定)
┃ ┗━葛城級巡洋艦:乗鞍(帝国重工にて建造予定)
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┣━旧式艦戦隊
┃ ┣━富士級一等戦艦:富士(イギリスで建造中)
┃ ┣━富士級一等戦艦:八島(イギリスで建造中)
┃ ┣━鎮遠級二等戦艦:鎮遠
┃ ┣━扶桑級二等戦艦:扶桑
┃ ┣━吉野級防護巡洋艦:吉野
┃ ┣━吉野級防護巡洋艦:高砂
┃ ┣━松島級防護巡洋艦:松島
┃ ┣━松島級防護巡洋艦:厳島
┃ ┣━松島級防護巡洋艦:橋立
┃ ┣━エスメラルダ級巡洋艦:和泉
┃ ┣━秋津洲級防護巡洋艦:秋津洲
┃ ┣━千代田級巡洋艦:千代田
┃ ┣━浪速級防護巡洋艦:浪速
┃ ┣━浪速級防護巡洋艦:高千穂
┃ ┣━済遠級巡洋艦:済遠
┃ ┣━高雄級巡洋艦:高雄
┃ ┣━広丙級巡洋艦:広丙
┃ ┣━摩耶級砲艦:摩耶
┃ ┣━摩耶級砲艦:鳥海
┃ ┣━摩耶級砲艦:愛宕
┃ ┗━摩耶級砲艦:赤城
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┣━第一護衛戦隊
┃ ┗━雪風級護衛艦:8隻(帝国重工にて建造予定)
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┣━第二護衛戦隊
┃ ┗━雪風級護衛艦:8隻(帝国重工にて建造予定)
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┣━第三護衛戦隊
┃ ┗━雪風級護衛艦:8隻(計画中)
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┣━第四護衛戦隊
┃ ┗━雪風級護衛艦:8隻(計画中)
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┗━第五護衛戦隊
┗━雪風級護衛艦:8隻(計画中)
一等戦艦よりも大きい排水量の葛城級巡洋艦が竣工した時を境にして艦種類別及び等級が見直される予定だ。
また、駆逐艦ではなく護衛艦と明記したのは海軍任務を商船護衛第一にする為である。そして、護衛艦が竣工次第、摩耶級砲艦は廃艦となるだろう。防護巡洋艦も戦力が整い次第順次に、練習艦や補助艦として改装されていく。
国家経済に悪影響を与えないように旧式艦艇の代艦建造のみで、次世代型艦艇を揃えていくのが四四艦隊の特徴であった。
上村は四四艦隊の概要を思い出しつつ、要となる戦艦の概要が表示されているLOEL(ラージ有機エレクトロ・ルミネッセンス・モニター)を静かに凝視していた。
(排水量 32,450トン、全長 220m、全幅 33m、吃水 9.65m…か、一等戦艦を上回る大きさの葛城級巡洋艦を上回る戦艦か…。ふむ…戦艦が巡洋艦より大きいのは当たり前。不思議なことに先ほどと違って普通に見えるぞ。…発電量…205.7Mw…ああ、大きいなぁ)
巡洋艦葛城で驚きつくしたのか、上村は冷静だ。
「…これは幾らぐらいに?」
「2,390万になりますな」
上村は信じられない価格を言った真田に対して問いただした。
「はっ!?」
「二千三百九十万円ですぞ」
上村の問いに真田は堂々と答え直す。
1895年の日本の国家予算は1億1843万円だった。
国家予算1億1843万円に対して一隻2390万の戦艦の建造。
大軍拡に見えるが、実は違っていた。
1895(明治28)年3月に立てられた海軍拡張計画が、明治天皇と高野との会見の後に下方修正されおり、イギリスに発注済の富士級戦艦「富士」「八島」は建造を続けるとして、テームズ社、ジョン・ブラウン社、アームストロング社、ビッカース社の4社に1隻ずつの建造を依頼する筈だった敷島級戦艦の「敷島」「朝日」「初瀬」「三笠」4隻は計画取り消しとなった。
史実に於いて建造されていた香取級戦艦「香取」「鹿島」の発注案すらも立ち上がっていない。そして、国内で建造する薩摩級戦艦「薩摩」「安芸」も建造されないだろう。
イギリス、ドイツ、フランス、アメリカに発注する計画だった巡洋艦に関しても計画の全てが見送られていた。横須賀鎮守府造船部にて建造中だった須磨型防護巡洋艦の「須磨」「明石」も建造遅延による旧式化が避けられないので建造中止となり、資材へと転用されるのだ。
「…残念ながら、海軍予算が10年間で6,200万円です…
付いている予算からして、
とてもそのような高額な戦艦の購入など出来ません」
上村は海軍費の現状から妄想に等しい計画に、海軍軍人として心惹かれるも現実を知っており、残念そうに呟く。国家あっての海軍であり、常識人の上村は国家を蝕んでまで軍拡したいとは思わない。
戦艦富士の建造費は1038万円であり、それに比べて長門級(史実では4,390万円)の価格は2,390万と、富士の約2.3倍の値段に達している。上村が驚くのも当然である。
しかし、史実に於いては賠償金の約84%が軍事費に使われており、それに比べれば健全ですらあったが、それでも必要費用は戦艦4780万円、巡洋艦3620万円、護衛艦2088万円、の合計1億488万円にも上る巨費に達している。
もちろん、戦艦建造は高野の指示だ。軍事費を無視した計画であったが高野には腹案があった。そして、これは明治天皇に対しても事前に確認済みでもあったのだ。
高野は詳しい事情を明治天皇から聞いている筈の上村の反応に少し不思議に感じつつも、腹案を述べ始めた。
「建造は一括ではなく造船所が完成次第に順次行っていきます。
建造順位としては代艦として建造される雪風級護衛艦の4隻を先に建造し、
次に巡洋艦2隻となり、最後に残りの護衛艦となるでしょう。
また、護衛艦の価格は1隻87万円になりますので、
四四艦隊の費用は3202万円に抑えられます」
「それは…どういう事ですか?」
上村は計画の中心とも言える戦艦が含まれて居ない事と巡洋艦の隻数が足りないのを怪訝に感じた。その反応に高野は先ほどよりも明確に不思議そうな表情を浮かべた。
「陛下から聞いていませんでしたか?」
高野の疑問に"さゆり"がニューロインプラントを介した通信で助け舟を出す。彼女は明治政府要人の主要データをダウンロード済みであり、知らされていない理由を思い立ったのだ。
『おそらく、上村さんを驚かせるつもりでしょう。陛下は茶目っ気のある方ですので』
『なるほど…"さゆり"、ありがとう』
『どういたしまして♪』
高野が納得した通り、明治天皇は普段は茶目っ気のある性格で、皇后や女官達には自分が考えたあだ名で呼んでいた。得心した高野は会話を続ける。
「長門級戦艦「長門」「陸奥」、重巡…いまは巡洋艦ですか…
これの「蔵王」「乗鞍」は我々が保有し、民間軍事事業部として有事の際に派兵します。
つまり傭兵艦隊ですよ」
「なんですとぉ!?」
一企業が大型戦艦を保有するという高野の言葉は上村の理解を大きく超えていた。
まるで聞きしに勝る大航海時代の商人の様である。
「日本帝国に余裕が出たら順次、艦艇を販売していく方式になりますし、
購入されない場合も帝国重工で使用するので問題は有りません」
予想外の内容であったが、日本にとっては大きな恩恵に違いない。
海軍費を抑えつつも、将来の制海権を確保できるのだ。
高野は現段階の列強に対して、絶対的な強さを有している日本国防海軍の艦艇は使うつもりは無い。しかし、日本帝国の軍事力は乏しく、今すぐ軍拡に取り掛からねば日露戦争を戦えないことも理解しており、それを補うために高野が立てた策が民間軍事事業部の活用であった。
戦艦と護衛艦の建造費捻出に関しては、建造費に関しては石炭の代わりとしてバイオ燃料ペレットを各国に販売して稼ぐつもりである。良質の英国炭を遥かに上回る能力を有するバイオ燃料ペレットは有力な商品になると考えていた。
宣伝に関しては簡単だ。
バイオ燃料ペレットを使用して、殆ど黒煙を吐かない船舶で各国の主要港に入港すれば良い。後は噂として勝手に広まっていくだろう。利益のほかに地球環境保全も狙っている。バイオ燃料ペレットは硫黄酸化物の排出量が極めて少ないのだ。
事実、高野の睨んだとおり「バイオ燃料ペレット」は「抗生物質」に劣らないほどに、大きく日本の外貨獲得に貢献する事になる。火力発電所、石炭動力艦の性能を大きく引き出すバイオ燃料ペレットを一度でも使用してしまえば、非効率を覚悟しなければ石炭には戻れないだろう。
高野の話で明治天皇が納得していた理由は主に2つあった。
一つ目は、国家予算の大半を軍備ではなく国家開発に使いたかった。
二つ目は、提供された歴史文献と未来道具から推測してた高野が率いる第3任務艦隊の力は大日本帝国の力を大きく上回っているであろう。既にその気になれば、後進国の明治日本程度の制圧も容易であると推測しており、それ故に今さら軍艦所有を禁じるのも可笑しな話だと思っていた。
実のところ、高野が高度技術を有していても建造に手間のかかる戦艦を作るのはロシア艦隊に対する備えではない。同等の錬度であれば葛城級巡洋艦と雪風級護衛艦で編成された艦隊ならば、この時代のロシア艦隊に対抗することが出来る。
日露戦争時のロシアの新鋭戦艦であったボロジノ級だけでなく、次世代艦であるエフスターフィイ級戦艦が有する40口径305oニ連装砲の最大射程が20,310mに対して、葛城級巡洋艦の52口径155o三連装砲は通常砲弾でも最大射程が29,800mに達しており、連射性能だけでなく貫通性や命中率でも勝っていた。
速度にしても10kt以上も早く、ロシア艦隊は逃げることも満足に戦うことも出来ないだろう。
リベット打ちの艦艇では連続して放たれる高初速155o砲弾には耐えられない。
巡洋艦だけでなく、戦艦すら打撃を与えることが出来るのだ。
沈めるだけが海戦に勝利する方法ではない。
つまり、長門級を建造するのは、ロシア艦隊やロシア野戦軍だけでなく、要塞までも列強の度肝を抜く巨砲で粉砕して、戦争の流れを戦艦で変えてしまうことによって、消し去ることの出来ない強烈な大艦巨砲主義を列強に植えつける戦略目的があった。
むろん、雪風級護衛艦の性能も侮れない。
排水量は3,200tと吉野級防護巡洋艦よりは少ないが、連射に優れる52口径127o連装砲を3基の性能は1895年において、有効射程24kmに達し、一斉射撃の威力が砲兵3個中隊に匹敵する。それは、防護巡洋艦にとっては致命傷とも言える威力なのだ。
そして、62口径57o単装速射砲や、70口径40o連装機関砲から放たれる高初速砲弾はコルベットや砲艦であっても大打撃を与えられる。しかも、全砲塔の旋回も人力ではなく電動になっており、小さな目標に対してもスムーズな攻撃が可能になっていた。
また、機銃銃座ですら防御鋼板(シールド)付き砲塔である。
雪風級はイギリス帝国が有するオーランド級装甲巡洋艦よりも小型であったが、あらゆる面で凌駕していたのだ。太平洋戦争においての幸運艦として名高い雪風の名を頂いた、雪風級は拡張性に優れ、あらゆる戦場において日本帝国海軍を支えて行くことになるであろう。
統合電力システムは明治の時代では進みすぎた動力機関であったが、工廠艦にあるのは統合電力システムの製造設備であり、この時代のレシプロ機関の製造施設は無かった。1.5世紀先の最先端技術の動力機関を"我慢して"作らねばならなかった。
当然であろう、工廠艦にあるのは21世紀半ばの技術で作られた艦隊の稼働率を維持するための生産設備である。
間違っても1.5世紀前の艦艇部品を作る機能では無かった。
連想メモリ製造工場で白熱電球や真空管を作ることは出来ない。
生産ラインの仕組み自体が大きく違うのだ。
そして、列強のスパイも無能ではない。
帝国重工を直接調べられないと悟れば、必ずや帝国海軍に所属する乗員の雑談や噂からある程度の調査は行うであろう。
幸いにも2060年の時代に於いては信頼性が高くて量産艦艇に使用されている統合電力システムは戦闘による損傷を受けなければ長期に亘って大規模修理を行わなくても運用できるのだ。販売は日本帝国で使用する艦艇に留めて海外に転売する事を禁じて、精密整備は帝国重工が行うことで対処して極力知られないようにする。
もっとも…現物を手に入れて基礎原理が判ったとしても、生産できるものではない。
単一結晶冶金技術を始めとした各種の先端技術があって初めて動くのだ。
2065年度に於いても、このタイプの統合電力システムは日本製で占められていた。
高野は上村に対して言葉を締めくくる。
「戦艦ではなく巡洋艦2隻という内容に不満が出たとしても、
完成した船で標的艦を撃沈すれば周囲の意見も変わるでしょう」
冷静に説明された上村も納得した。
彼も明治天皇と同じように前々から、
今の日本には大軍拡を行う余裕などは無いと結論に到っていたのだ。
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【あとがき】
後に、長門級は日本海軍に売買されます。
もちろん、近接防御用THPLを初めとした極秘兵装や電装品は外してからですが…
当時において町で大金持ちの方が掛かっていた金持ち病と揶揄されていた糖尿病の治療薬ではなく抑制薬も販売する予定です。あの時代で8500円もあれば一般的(?)な魚雷艇も買えますし。
意見、ご感想お待ちしております。
【長門級戦艦 第一案性能(後日修正となる)】
排水量:32,450t、全長:220m、全幅:33m、吃水:9.65m
機関:統合電力システム 205.7メガワット
燃料搭載量:4,250t
最大速度:33.1 kt、巡航速度:18.2 kt、航続距離:巡航で18,500海里
乗員:士官・兵員:885名
兵装
50口径406o連装砲 4基(8門)
54口径127o連装砲 12基(24門)
62口径57o単装速射砲 20基
その他
【雪風級護衛艦 性能】
排水量:3,200t、全長:118m、全幅:12.5m、吃水:4.35m
機関:統合電力システム 18.5メガワット
燃料搭載量:650t
最大速度:34.2 kt、巡航速度:20.0 kt、航続距離:巡航で9,500海里
乗員:士官・兵員:87名
兵装
54口径127o連装砲 3基(6門)
62口径57o単装速射砲 4基
70口径40o連装機関砲:6基
70口径40o4連装機関砲はボフォース L/70の改良型になります(恐)
(2009年05月02日)
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