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帝国戦記 第04話 『始動1』


第三任務艦隊の編成表

第三任務艦隊:大鳳(艦隊旗艦)
     ┃
     ┃
     ┣━第一航空護衛戦隊
     ┃  ┣━大鳳級強襲揚陸艦:大鳳(艦長 軍事AI)
     ┃  ┣━利根型巡洋艦:利根
     ┃  ┗━利根型巡洋艦:筑摩
     ┃
     ┃
     ┣━第一護衛戦隊
     ┃  ┣━利根型巡洋艦:鈴谷
     ┃  ┣━満月級護衛艦:満月
     ┃  ┗━満月級護衛艦:清月
     ┃
     ┃
     ┣━第二護衛戦隊
     ┃  ┣━利根型巡洋艦:伊吹
     ┃  ┣━満月級護衛艦:大月
     ┃  ┗━満月級護衛艦:葉月
     ┃
     ┃
     ┗━第一支援隊
        ┣━明石級大型工廠艦:明石
        ┣━間宮級大型補給艦:早埼
        ┗━間宮級大型補給艦:白埼

護衛戦力が歪なのは野党の介入によって、侵略性を軽減するために最小限に留められている。




1895年5月9日木曜日

艦隊を構成する主要メンバーは会議を行うために、第3任務艦隊旗艦の大鳳に一堂に集まっていた。 場所は、艦内の提督の居住区にある会議室兼食堂である。

提督ともなれば、時として海外の高級将校との会談も行う必要がある。そのために広めの執務室や会議室兼食堂だけでなく、専用の厨房と専用のシェフを有しているのだ。

「これより会議を始めます」

"さゆり"の声で会議が始まった。

また、1個艦隊の首脳部であっても高野と"さゆり"を含めて14人という驚くべき少人数だ。

広範囲なオートメーション化と高度軍事AIの存在により、劇的な乗員の削減を成し遂げていた。

自衛隊時代を例に挙げるならば、"さゆり"単体で、訓練幕僚、作戦幕僚、航空幕僚、砲術幕僚、対潜幕僚、掃海幕僚、情報幕僚、通信幕僚、電子幕僚、気象幕僚、監理幕僚、保全幕僚、運用幕僚、船務幕僚、武器体系幕僚、補給幕僚、機関幕僚、整備幕僚、後方幕僚、企画幕僚、計画幕僚、安全幕僚、当直幕僚の合計23に及ぶ幕僚と旗艦の艦長を兼任している。育成に長い時間が必要な幕僚を育てる必要はなく、彼女一人で補える。

人間では到底こなせない超過密量の仕事も、"さゆり"が操作する大鳳のメインフレーム奥に設置された、日本国防軍技術開発局が開発した51式軍用複合演算機(量子・DNA複合コンピュータ)にかかれば容易い。

"さゆり"は本体はハードではなくOSにあるため、彼女はよほどの事が無い限り、専用の擬体で行動しても任務上に問題は無かった。また、擬体状態であっても"さゆり"は侮れない。

脳核内部に量子科学を応用したバイオミメティックス(生体模範技術)によって製作された生体フラーレンチップをベースした連想記憶メモリを搭載しており、各種推論エンジンを自己組織化できるRAS(Reflective-Architecture-system:リフレクティブアーキテクチャシステム)を採用しており、思考の発展だけでなく発想すら可能になっている。

高野や"さゆり"だけでなく、上層部の極一部の人間しか知らなかったが、特注品タイプと言われている彼女の擬体は日本国防軍開発実験団(JDF-Test-and-Evaluation-Command:TECOM)が"終末計画"に備えた専用擬体のテストヘッドだった。そのために、特定条件下において彼女はナノマシンを介した構成物質の配列組み換えによる自己進化すら可能だったのだ。

終末計画とは、環境破壊や世界大戦で人類が滅んだ後でも、日本民族の生きた証を電子知性に継承させる、滅び行く世界で唯一可能な"日本保全"を目的としている計画である。

"さゆり"が愛国心にあふれ、優秀なのは当然なのだ。

優秀な彼女のお陰で、幕僚数を最小限に出来ており、司令官以外の人間による首脳部といえば技術幕僚と各艦の艦長、そして大鳳に収容されている上陸用の特殊作戦群の部隊長に限られていた。準高度軍事AIは"さゆり"と繋がっており、人格は別にして意思決定は統一されており不参加である。


高野が行動方針を述べていく。

「艦隊の行動方針ですが、2ヶ月は本艦と明石以外は海上待機になります。
 長期の海上待機は大変ですがドックが完成するまで他に手段がありません」

列強に本艦隊の情報を与えない意味で仕方がなかった。

「こればっかりは仕方が否応なし…
 つまり大鳳と明石で本艦隊の拠点を作るのですな?」

明石の工廠を監督している初老の好々爺といった感じがする技術幕僚の真田忠道准将(さなだ ただみち)が巡洋艦の艦長達の意見を代弁する形で言った。彼の心配は当然だ。航続距離は長大とはいえ、第三任務艦隊は政治的な要因によって、新鮮食品を作り出すバイオプラントの搭載が最小限に留められており、作戦行動時間が延びないように調整されている。それを抜きにしても、人には大地での休息地が必要なのだ。

「その通りです。
 大鳳と明石は本艦の揚陸艇とヘリを投入して、
 可能な限り迅速に買収した幕張の土地に必要機材を揚陸を行います。
 そこを基点にして収納用ドックを将来的に造船工廠になるような拡張性を持たせて作ります。

 あとは明石で作る工作プラントと、この艦の擬体化工兵大隊を投入すれば、
 収容する程度のドックならば1ヶ月位で出来上がるでしょう」

高野の言葉に"さゆり"が続く。

「全ては拠点構築後になりますが、
 その後の資金の調達プランに関してはS-581Bのフォルダを開いて下さい」

高野と"さゆり"以外のメンバーは会議室の机に備え付けられた端末にアクセスしてプランを確認していく。千葉港も開港しておらず、警戒しながら入れば姿を見られることは無いであろう。会議参加者たちは一様に満足した。

役割も記されている。

フォルダを見て、真田は一つ気になる点を見つけた。

「学校開業…ですか?」

真田の疑問に"さゆり"が自信満々に応える。

「人は石垣ですよ。 教育を疎かにした国家に未来はありません。
 それに私達だけでは計画遂行は不可能ですし、会社拡大にも必要不可欠です」

「これに、彼女達を投入するのですか!?」

艦長の一人が驚愕する。
それを見て、"さゆり"は少し焦った表情を浮かべて弁解を始めた。

「あ…だっ、大丈夫! 作戦モードは使用しないので安心してください。
 でも、彼女達ならきっと紳士淑女な生徒を育てていくはずです!」

"さゆり"が教師として白羽の矢を立てたのは特殊作戦群に所属している準高度軍事AIである。普段は愛らしかったり、可愛らしかったり、男性の受けは非常に良かったのだが、作戦モードになると敵より恐ろしい。

特殊作戦群の黒江大輝大佐(くろえ だいき)が冷や汗を浮かべた。

彼は、185cmに達する屈強な体躯を有して近接戦闘(CQB)に長じて、"黄色い悪魔"と東南アジア紛争の際に恐れられていた。42歳に達していたが27歳時に老化抑制処置を受けており、現在も現役の特殊部隊の一員でもある。平時においては天衣無縫なおおらかさと、きめ細やかな感情と心配りの人柄で部下から慕われている。大の釣り好きで、休日の際にはタバコの煙をふかし、小船に乗り放歌高吟で釣りをするのが趣味だった。

日本国防軍だけでなく、あの時代の米日英の軍隊では、一定以上の能力を有する将校は本人の意思に関係なく、末永く国家に貢献させるために老化抑制処置を受けさせられるのだ。高野や黒江は珍しいケースではない。

「だ、大丈夫なのか?」

そんな黒江が心配そうに言う。

彼は過去8度の特殊作戦に従事しているベテランであったが、それでも時より行われる、準高度軍事AIの熾烈な訓練は冷や汗ものなのだ。訓練用弾頭とはいえ、終末ブースト時に音速を超える迫撃砲弾を迎撃出来るスペックを持っている彼女達の狙撃を受けながらの訓練はどれだけやっても慣れない。

もちろん、黒江には厳しさは国家に対する献身から来ていると頭では理解している。並みの実戦を越える熾烈な訓練のお陰で、特殊作戦群の実力は世界一流になった経緯があるからだ。

「人間の適応能力は凄いですよ?」

"さゆり"の言葉は、答えになっておらず、黒江の心配は少しも晴れなかった。

「学校に関しては直ぐには無理なので、まずは会社の運営に力を尽くすそうと思う」

高野の言葉に一同が同意の声を上げる。"さゆり"は紳士淑女をいち早く育てたかったが、物事には順序があるのを知っており異存は無い。

真田は面白そうに端末の一点を凝視してから、高野の方に視線を向けて口を開く。

「ほう…会社の名前は帝国重工ですか」

「帝国重工…シンプルで誰でも覚えられる名前だと思います」

高野の声に反論は無かった。
日本国防軍将校によって運営される、帝国重工がこの日を境に動き出す。
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【あとがき】
今回はあとがきは無しw

【Q & A :大鳳の提督用居住区は大げさでは?】
大鳳の提督居住区は現代の米空母を参考にしています。


【Q & A :特殊作戦群の規模は?】
アメリカ特殊作戦軍を参考に日本国防軍は中央即応連隊を拡大し、隷下の特殊作戦群も規模が拡大しています。


【Q & A :"さゆり"が何故に高野の副官?】
日本国防軍開発実験団の暗躍で、温和な高野の元で、無理なく、ゆっくりと"さゆり"の自我を成熟させていくのが狙いでした。


【Q & A :"第3任務艦隊"に何故、これほど大量の擬体が?】
野党にとって、人間を超えた能力を持ち、愛国心と自我が確立した高度AIの存在は汚職や他国に都合が良い平和運動を行なう上で、目の上のたんこぶでした。

故に戦争を利用して葬るために、平和団体と共に政治活動を繰り広げて、擬体率の高い艦隊に認証コードという枷を付けてから、遺族年金問題を盾にして更に日本の各駐屯地から擬体や最新鋭の準軍事AI等が集めて、派兵した先で敵の手で始末させる計画が原因です。


【Q & A :終末計画って何?】
"さゆり"を頂点に一つのシステムに統合された電子知性体が人類が絶滅しても日本を継承していく継承プランの一つ。"さゆり"の愛国心と人間に対する憧れがその一端であり、滅び去った日本民族が宗教的存在のように電子知性体達に崇められる、狂気の計画とも言えますw


【Q & A :"さゆり"はハッキングされないの?】
自我の確立と恒常性システムの監視があるので"さゆり"に対するハッキングは現実的ではありません。同等レベルのシステムで力押しでやれば3万年ぐらいで書き換えできるかもしれませんが…唯一の方法は、時間を掛けて会話による説得のみです。

(2009年04月21日)
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