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レクセリア戦記 第06話 『ニーシェル川の討伐 1』


リスタルを出て日が沈む前に、ロイ、イリス、セレーネの一行は川から適度に離れ、地面が水平で水はけがよく、卓越風を防げる場所にキャンプを張った。キャンプといっても簡単なもので、耐水の魔力が篭った毛織物で作られたマットを敷いて、携帯型の虫除け結界石を設置するだけのもの。三人がまず最初に行ったのは、水の補給であり、それを終えると次に行ったのは焚き火を起こすのに必要な材料を集めである。

慣れたもので、比較的短時間で火の主燃料になるカシやブナ等の枝が十分に集まった。枝の中には火持ちを良くする為にあえて湿った枝も少量含まれている。乾燥したものを中心に整理してある程度の量を積み上げると、かまどとして使えるように、乾いた石を並べていく。

倒木の皮を砕いたものを点火材として用意して、
火をつける準備を整えた。

「今日は三人だから焚き火の準備は何時もより速く済んだね〜」

「そうだな」

ロイとイリスが頷き合う。
二人を見るセレーネの瞳は優しげなものだった。イリスとロイの動きからして、何時も一緒に行動しているの判るのが、セレーネにとっては嬉しいのだ。

「じゃあ、二人とも、
 焚き火の準備が出来たので、この先の役割分担を決めましょう」

姉の言葉に即座に反応するイリスで、ロイがそれに続く。
セレーネが無難な案を提案し、ロイとイリスはそれを快諾した。

セレーネとイリスが調理の担当となる。味気ない保存食はそのままでも食べられたが、調理を行えばそれなりの味が付くので、余裕があれば大半の冒険者は調理を行う。セレーネとイリスはもちろん調理派であった。ロイは追加の水汲みの担当となる。長期の冒険ならば狩猟も行うが、今回は短距離なので行わない。

「持ってきた保存食材から、
 白ワインをベースにした野菜スープはどう?」

「賛成だけど…
 えーと、白ワインはお姉ちゃんが持ってるの?」

「もちろんよ。
 お酒を適度に嗜むのは良い女の務めだから」

イリスは姉の生き様を見て納得して頷く。同性のイリスから見ても姉はお酒を飲む姿も生き様も格好良かった。姉であると同時に魔術師としての師匠であり、将来の目標だったのだ。

スープにイリスは関して一つ思いつき、発言する。

「スープに鶏肉の燻製肉を入れてもよいかな?」

「ロイの好物だからでしょ?
 いいわ、それも入れましょう」

「やったぁ!」

鶏肉はロイの好物なので、イリスは冒険の際には保存が利く鶏肉の燻製肉は常に持ち歩いていたのだ。調理内容が決まると、二人は行動に移った。セレーネが荷物の中からまな板と金属製の蓋つき鍋のダッチオーブンを出す。続いて調理器具を出してから、味のアクセントになる調味料と白ワインを取り出した。イリスが梱包してあった鶏肉の燻製肉、ドライソーセージ、野菜を用意する。

二人は白ワインと水からスープを作るのだ。

「私は野菜を切るから、イリスは焚き火の点火をお願いするわ」

「うんっ」

セレーネはそういうと、玉ねぎとにんじんをナイフで均等に切っていく。手つきは慣れたもので、玉ねぎとにんじんを切り終えると、ニンニクとセロリのくきの部分をみじん切りにする。その間にイリスはかまどの部分となる石で囲った、その上にダッチオーブンを鎖で釣る軽量型の小さな鉄製三脚のトライポッドを設置した。

「キャベツとしめじがあれば良かったんだけど…」

「あれは持ち運ぶには少しかさ張ってるし、それに保存が難しいからね」

「そうなのよ。残念だわ。
 せめて、しめじは生えていればよかったんだけど…
 こればっかりは運次第よね」

キャベツがあれば味に深みが増し、加えて栄養バランスも良かったのだが、冒険に持ち運ぶには適していない。しめじは栽培ができず希少なので高価なので、一般的な冒険者が口にするためにはコナラやアカマツなどの林で見つけるのが現実的な方法だった。

イリスが火を起こすと、次の段取りに移る。セレーネは焚き火の火が強くなりすぎないように調節しながら、ダッチオーブンに油を引いてトライポッドに掛けてから、ニンニクとセロリをダッチオーブンで炒め始める。ダッチオーブンからニンニクとセロリの香りがたってきたところで、燻製状態の鶏肉を入れる。続けて切った野菜、白ワイン、水筒にあった水を入れて煮込みを始めた。

料理に使う水は先ほど川で汲んだものだったが、冒険用に開発された携帯型濾過容器に一番下から小石、小砂利、砂、消し炭、細かい砂、麻を入れて濾過を行ったものなので衛生面での問題は無い。加えて加熱するので完璧な処置と言えた。

冒険者産業の発展に伴って、
レーヴェリアではこれらのような野営道具が発達しているのだ。
必要は発明の母であった。

セレーネがレードルでダッチオーブンの中をゆっくりと混ぜ、
えぐみを無くすために出てきた灰汁を丁寧に取る。

イリスはマットの上に上機嫌な表情でスープを食べるに適した深型プレート型の皿を3枚並べていき、それを終えると油紙に包んだ堅焼きパンを皿の横に3個ずつ置く。

セレーネはレードルをゆっくりと動かしながらイリスに尋ねる。

「そうそう、ロイとは一緒にお風呂に入ってる?」

「もちろんだよっ! あの言いつけも守ってるから安心してね〜」

「偉いわ」

どうやら、イリスにとってロイはまだお兄ちゃんであり、男として意識してないようね。 少し残念だけど、気長に待つとしましょう。

セレーネはロイの誠実でひたむきな性格を気に入っている。才能に関しては未知数だが、努力さえ怠らないならば後天的にも一流にまでなら伸ばすことが出来るので、特に気にしていない。むしろ、幾ら超一流の素質を持っていたとしても、性格の歪んだ人物は願い下げだ。一応、ロイには冒険者以外でも食べていけるように、幼少の頃に読み書きに加えて基本的な計算と幾つかの技能を教えていたので、転職を行うにあたっても大きな不安はなかった。

セレーネは沸騰から10分ほど煮込むと、ローリエ(月桂樹)の葉を乾燥させた香辛料をダッチオーブンに入れた。すがすがしく、ローリエ特有の明瞭な芳香がほのかに漂う。それから、にんじんが柔らかくなるまで煮込む。頃合になると、コショウとバジルで味を整え、レードルでシェラカップにスープを一滴注いで味見を行う。

「スープはこれで良しと」

「そろそろロイが戻ってくる頃だね」

「そうね」

火を弱め、スープの透明感を保ったまま目を離さず20分間の煮込みに入る。太陽が傾き、辺りも暗くなってきた頃に水の補充に出ていたロイが戻ってきた。

「おっ、美味そうな匂い」

「ロイ、お帰りなさい。
 タイミング的に丁度良かったわよ。
 イリスと私の合作ね」

「そうなんだ。
 美味そうな匂いで一層腹が減ったよ」

「それは良かった。
 今日は私がよそうから二人とも座って。
 それと食後はちょっとした軽いトレーニングを行うわよ」

魔力親和性を確認して次の段階に移れそうだったら移りたいわね…

セレーネは幾つかのプランを考えつつも、てきぱきと準備を始めた。スープをよそう前に食後にタイムティーが飲めるようにポットを用意する。タイムティーはハーブの中でも特に強い殺菌作用があるので、食後の口内洗浄に適していた。ロイとイリスが座って1分ほどで準備が整い、三人は楽しい夕食へと移る。
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【あとがき】
食事シーンってどうしても書きたくなるw

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↓ また、セレーネのイラストになります。

カラー化を希望する場合は掲示板までご一報下さい。



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(2012年07月07日)
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