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レンフォール戦記 第一章 第15話 『偵察結果』


太陽が水平線に隠れる頃には艦砲射撃も終わりを向かえて、戦場の真っ只中にも関わらず カトレア市内は静けさを取り戻し始めていた。

理由は簡単だ。

レインハイム皇国軍は一部の部隊を除いて弾薬の蓄積を行いつつ 阻止線を兼ねた防衛線の構築に力を入れ、カトレア守備隊もその動きに合わせて動いていた。

対するゴーリア軍は生き残った本陣部隊と郊外近辺に展開していた部隊を 迎え入れ指揮系統の回復を主眼に置いた再編成に手が一杯であり、戦う何処ではなかったのだ。 頭数に勝るゴーリア軍と言えども、街中という限定空間では力押しは出来ない。部隊を分けて混雑による混乱を避けるために全軍を幾つかの部隊に分けて統率しなければ、烏合の衆になってしまう。

参謀達の奮闘によって、大損害といってよい状態から、なんとか再編を終えたゴーリア軍は今後の方針を決めるために カトレア市内のゴーリア軍侵攻隊野戦本陣で軍議を開いていた。

「あの爆発攻撃が止まったのは魔力切れだと判断します。
 そうでなければ止めた理由に説明が付きません」

参謀の一人が憶測を交えて言った。
ほかの参謀が疑問を交えて尋ね返す。

「リリスではない、別の魔王級の存在が居るとでも?」

「しかし、あの爆発を起せるほどの魔力は感じられたか?」

「隠蔽魔法と併用なら説明が付くのでは?」

魔法使いの一人が理由を必死に考えて言った。 自らの確信を補強するために、いかにも有りえそうな事象 をもっともな形でまとめて口に出してしまったのだ。

「あんな派手な爆発で隠蔽は必要なかろう!」

「回避を困難にするためなら意味はあります!」

確かに禁呪に連なる魔法ならばあの破壊力は生み出せる。 周りを納得させる言い分であったが、禄に調査を行わず推測で魔法と結論付けてしまうのは大きな失敗であった。 しかし、あの現象を「何かの魔法である」という先入観を植えつけてしまった事実は動き出していく。

その第一歩が、近代科学兵器を魔法という枠組みで捉えて行動するという事だ……

「ふん…魔王といえども物量の前には敵うまい」

キィームは話し合い自体が面倒といわんばかりに畳み掛ける様に言った。

しかしその言葉には説得力がある。 魔王級の存在が絶対的な強さを有しているならば、金と手間のかかる 軍隊などは必要ない。個で圧倒的であっても圧倒的な 数の前には魔王と言えども魔力を消費しきってしまい膝を屈してしまう。

それは歴史が証明している。

「直接攻めて来ないのは魔力だけでなく兵力も枯渇しているに違いない!」

キィームは更に畳み掛ける。

通常ならば敵戦力の把握、陣地の有無など真剣に検討されるべき課題が多岐 に及ぶ。だが、真剣に論じられていなかった。 軍儀の中心たるキィームは会話の内容に対して心此処にあらずであったからだ。

それは…

ゴーリア軍にとって運が悪い事に、軍儀の最中にリリシアを運び終えたという報告を受けたからだ。 意識は取り戻していないが、既に厳重な拘束状態で一室に監禁されている。

キィームは待ちに待っていただけに、 直ぐにでも監禁されている一室に向かいたかったが、事情が許さなかった。

いくら横暴な彼といえども大損害を受けたにも関わらず、軍儀を抜け出し 対応も行わずに捕虜を襲っていた事が国王の耳に入れば怒りを買ってしまう。名門であっても国王と比べることは出来ない 。口封じには限界があることを彼は良く知っている。

彼は軍儀をいち早く終わらせるため に異様な熱意を持って会議の流れを強引に進めていく。 10分程の話し合いで強引に軍儀の流れをまとめ、終息に向けて仕向けていくのは、まさに執念の成果である。

「帰ってきた斥候によると敵は精々千を少し超える程度と言うではないか。
 それに対して我らは八千にも上る!

 広範囲魔法で大きな被害を受けたのは今に始まった事ではない。
 今まで通り一斉に攻め立てれば労することもなく戦も終わる!!

 これより直ちに攻撃再開だ!
 これは命令だ! 歴史は我々が作るのだ!」

もっとも彼は短気で残忍な性分から部下に嫌われ恐れられており、罰を 恐れて反対意見は出るはずもなかった。典型的な暴君そのものだ。

「判りました…」

司令官の判断は絶対だ。軍議は終わり、参謀や騎士たちは 暑くも無いのに汗を拭う仕草を行って緊張を隠しつつ、 不毛な命令であろうとも、その命令を実行するために慌しく動く。

キィームの方針が参謀の手によって作戦内容としてまとめられ、 それぞれの騎士たち伝えられていく。すでに匙は投げられたのだ。

キィームは艦砲射撃が2時間程度で終わった理由を知らなかった。

それは郊外に展開していたゴーリア本陣に打撃を与えるよりも、 ゴーリア軍に恐怖を植え付けカトレア市内に拘束するのが主な目的だったのだ。

攻勢が無い理由は、兵力が無いのでは無く、カトレア市内に展開している皇国軍部隊は、皇国軍第28装甲旅団との合流を果たしてから、 鉄量の奔流を持って攻勢に転ずる計画である。そして、野戦本陣に戻れたゴーリア軍斥候は見逃されていた事も…カトレア市に展開している特殊作戦軍は既に待ち構える準備は終えていたのだ。

キィームの発言は確かに、望みどおりに歴史を作り出す事になる。

しかし、それは彼の望む展開とは程遠いものになるとは、この時には気 付きもしなかった。

ゴーリア軍はアーゼンの描いた状況にまんまと乗せられていたのだ。














「はぁはぁ・・・」

少女と言ってもよい赴きの外見の 人族の兵士が女性の美しさを生かしたレンフォール軍の軍装を纏い、 槍を抱えながら日の暮れたカトレア内を息を荒くしながら走っていた。

男性人口よりも女性人口の方が多いレンフォールでは女性兵士は 珍しくは無い。

カトレア守備隊に所属する兵士だが昨日の防戦途中で友軍と離れ離 れになってしまった彼女が、今まで無事だったのは 太陽が昇っている間は身を隠して殆ど動かず隠れていたからだ。

しかし、今は見つからないように走っているのではない。
友軍と合流するために闇に紛れて移動している途中で 運悪く哨戒中のゴーリアの一団と遭遇してしまい、逃げ切る為に必死になって走っていた。

男だったら一人の為に、ここまで追いかけられないだろう。 ポニーテールと愛らしい顔が、良くマッチしており ゴーリアのやる気を駆り立てて追跡を執拗にしていた。

追っ手が直ぐ後ろから追いかけてくる中、段差に足をとられ勢い良く 転んでしまう。

「痛っ!  うっ…」

その際に足を挫いてしまう。この先を思い浮かべ泣きそうな表情で言う。

「いや…来ないで! お願いっ!」

動きの鈍った獲物を追い詰めるように 3人のゴーリア兵がゆっくりと近づいてくる。ゴーリア軍が蹂躙していった土地で 良く見られる光景の一つだ。征服者の権利を振りかざすために男たちは、ゆるりゆるり と近づいていく。じわじわと少女の心を追い詰めていく。

「嫌ぁーー!」

少女は叫び声と共に倒れたままの体勢で槍を繰り出すが、足腰の力が 加わっていない槍は勢いに劣り、いとも簡単に 避けられ、剣によって槍が叩き落される。

「あ…あ……」

最後の抵抗も空しく終わり少女の顔が絶望に染まる。
足を痛め、武器を失い、逃げることも出来ない。ただ怯えるだけの存在。

「次は俺の槍の番だな!!」

剣しか所持していない一団の言葉に 経験に乏しい少女も、この先に何が起こるのかを理解させられる。 涙を流し、否定の意味を込めて弱弱しく顔を左右に振りながら、 逃げようと手で大地を這いながら動こうとするも、彼女の行為全てが男たちの被虐心を注いでいく。

我慢できなくなった男の一人が少女を蹂躙すべく体当たりのような衝撃と共に、ゴーリア兵が少女に圧し掛かる中、残る二人のゴーリア兵は嫌らしい笑みで哀れな少女を見下ろす。

少女は両手で必死に抵抗するが未成熟な体でまともな抵抗が出来なかった。 恐怖の余り目を閉じ、弱々しい悲鳴を上げる、動揺のあまりに男の動く音すらも聞こえない。

勢い良く少女に乗りかかったゴーリア兵は、乱暴にだが的確に少女の着ているレザーアーマーを剥がしていく。手際からこの様な事が手馴れていることが良くわかる。邪魔な鎧を剥ぎ取り終えると、彼は少女が身に纏っている洋服に手を掛けようとする。

しかし、その行動は最後まで行うことは出来なかった。

特殊作戦軍に所属する先行偵察任務として行動していた、4人編成の特殊偵察チームの隊長である西沢 健(にしざわ たけし)がゴーリア兵の蛮行を目撃すると、すぐさまに射線を確保して流れるような動作で消音装置つきのRx4Gを構えて迷うことなく即座に放った。

狙撃手としても有名な彼は、高いエイミング能力を有しており 30メートル程度の距離ならば瞬時に当てることが出来た。一人一発ずつの弾丸で十分だった。

注意散漫で少女に気を取られていた彼らの結末は当然の結果であろう。

何も起こらない事に困惑しながら、恐る恐る目を開けると、少女に圧し掛かっていたゴーリア兵は すでに目の前にはおらず、それどころか裏路地の端で3人のゴーリア兵が絶命していた。

「大丈夫か?」

特殊偵察チームの任務は、本来なら長距離強行偵察や、通常部隊よりも高度なミサイル誘導や戦術航空管制 などの任務に就くが、 今回は能力を買われてアーゼン直属の命令である『可能な限り市民やレンフォール軍と思われる対象は安全圏まで保護』 を行うべく、索敵にあたっていたのだ。

「・・・うん・・・」

少女の顔は若干赤かった。
西沢は気付きもしなかったが、それは恋する少女の表情であった。俗に言う一目惚れだ。
そして、彼は渡来前の座学で聞いていた事を失念していた。

レーヴェリア界の結婚適齢期は14歳からである事を……

「私の名前はリリです…貴方様の名前を教えて下さい…」
恋愛感情に疎く年下に興味の無い西沢であっても 彼女の余りにも愛くるしい仕草に魅せられてしまう。 西沢は後にリリとの間で波乱に満ちた交際が始まろうとはこの時は知る由も無かった。














「だめだわ・・・波長が弱すぎて位置を特定できない!」

アーゼンと共にUH-60Lに乗り込んでいるクローディアは悔しそうに言った。
既に彼らはカトレア市を何度も往復していたのだ。

「諦めたら、そこで終わりだ」

「そうだったわ、まだ諦めるには早いわ!」

アーゼンはリリスの波長からリリシアの波長をある程度は 予測は出来るが、ラインを通しているクローディアが探知に苦労している 状態では、アーゼンには探知しようがない。

魔法も決して万能ではなく、理論と限界が存在する。

これほど探知条件が悪ければ、 強大な魔力を有するアーゼンといえども梯子をはずされた状態に等しいのだ。

そして、彼は強大な力を有しているが、決して神ではない。
こればかりはラインの繋がっていなければ如何する事も出来ないのだ。

クローディアは再びラインを辿る為に集中し始める。アーゼンは、僅かながら思案して言った。

「お前の探知能力を一時的にだが、過負荷によって強制的に強化する事は出来る…」

アーゼンは最後まで言い切れなかった。
その前にクローディアが口を挟み主張を行ったからだ。

「クローディア・フランシアは、リリシア様の為なら喜んで死ねるわ!」

クローディアは澄み切った瞳でアーゼンを見据えて迷い無く言い切ったのだ。
その美しい顔には怯えの感情は無く、むしろ気高さを感じさせた。
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【あとがき】
下の絵は後日おこなう、リリの射撃練習ですw
レインハイム皇国軍からG36系列を供給されるレンフォール軍(笑)
意見、ご感想お待ちしております。

(2008年09月02日)
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