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レンフォール戦記 第一章 第14話 『悪運』


カトレア市内の混乱しているゴーリア兵の隙間を掻い潜って、アーゼンが解き放った 特殊作戦軍の各偵察部隊が活発な活動を行っていた。上空から偵察活動の支援を行う アーゼンとクローディアが乗り乗り込んでいた1機のUH-60Lが2機のAH-64Gに守らながら飛行する。

偵察部隊はクロスコムがもたらすデータリンクの付与により、無人偵察機、無線偵察機、戦域管制機との間でリアルタイムでの情報送受信機能を有しており、航空支援と の相乗効果によって極めて効率の良い偵察活動を行っていた。

アーゼンが投入した3つの偵察部隊のうち1つの、第3偵察小隊の16名は 時速4キロメートルの時折立ち止まり周囲を警戒しながら進んでいた。 警戒と確認を怠ることなく裏路地を抜けて、開けた大通りに差しかかろうとしていた。

『こちらリコー3-2よりHQへ、周辺に目標らしき存在なし。探索を継続する』

『HQ了解。そのまま北西へ前進せよ』

『了解。北西に向って前進します』

油断の無い行軍によって敵の探知を避け、一方的に情報を収集していく。 偵察部隊は可能な限り敵との衝突を避けて行動している。 無力だからではない、本来の任務ではないからだ。

しかし、 活動に障害が出る場合は徹底的に掃討していく。

偵察活動中の第3偵察小隊の一人の兵士が 物陰から大通りの80メートル先にいる敵兵士を捉える。 警戒しながら確認すると一人ではなく複数だ。索敵が進むと情報が鮮明になっていく。 規模からして要所警護の為に配置された兵士らしい。野戦陣地どころかバリゲート の構築すら行っていない。

まともな実戦経験も無く配備されたばかりの部隊であろう。

大通りに陣を引くゴーリア兵を特殊作戦軍の兵士は熟練した無駄の無い動きで、見つかることなく情報を集めていく。 兵士の捉えた情報は突撃銃のスコープやカメラからクロスコムに伝達され 専用プログラムによって暗号化が行われてから共有情報として所属分隊に伝えられる。 情報の氾濫を避けるために所属小隊長には概略情報として分隊長から伝達され、 脅威度が高いと判断した場合のみ、小隊長は詳細な戦術情報のアクセスへと切り替える仕組みだ。

小隊長は分隊兵の発見したゴーリア兵の脅威度を低く見なかった。
熟練兵と交代され陣地を構築されれば面倒な事になると判断すると、詳細な情報得るための指示を下す。

高い熟練度を有する兵士は小隊長の命令を見事に応えて、偵察最適ポジションまで音も無く移動し、兵士の数、陣地の有無を正確に調べ上げていく。

向こうは完全に気が付いていない。情報をまとめ上げた小隊長は数瞬で決断した。撤退経路として 有望なルートに敵が居座るのは好ましくない。それに野戦陣地が構築される前に叩くべきだ。

『こちらリコー3-2よりHQへ、敵3個小隊を捕捉、脅威目標と判断。支援要請を送る』

独力でも十分に排除は出来るが小隊 の弾薬を温存する為に小隊長は支援ユニットに精密爆撃の要請を行った。 偵察任務に就いている各小隊の支援優先度は重要度からして高い。

クロスコムを介して支援要請を終えた小隊長は一人の兵士に指示を下し、 敵兵が群がっている中心にレーザーマーカー照射を行わせる。 残りの兵士はミサイル着弾後の残敵に備えて油断無く銃を構えた。

広場の一角に作られたランディングゾーンの近くに設営された 特殊作戦軍野戦司令部の戦域管制用電子装置は 受け取った支援要請をコンマ数秒で処理を行うと、 カトレア戦域に展開している戦術ユニットの中から第3偵察小隊最寄 のユニットを選び出して野戦司令部で指揮を執っている 高島 中佐のコンソールに支援要請内容と最適ユニット を表示した。

連絡を受け取った高島は第3偵察小隊の支援要請を即座に了承し、隷下ユニットに対して作戦コマンドを送信する。

高島の隣で近代軍のあり方を見ながら守備隊に指示を下していたメリッサは、 特殊作戦軍の通信方法を見て感心していた。 魔法通信では成し得ない音声以外の情報伝達を含んだ多様性にひたすら感心してた。

「これが…彼らの戦い方なのね…
 絶え間ない通信と鮮度高い多方面からの情報の共有…かぁ、勝てないね」

メリッサの呟きは誰にも聞かれること無く風に溶けていった。


野戦司令部からの作戦コマンドを受け取ったRQ-12ハルファス型無人機は偵察行動を一時中断して、コンピューターらしい 反応で、作戦コマンドに応えるべく即座に 攻撃オプションを開始した。

無人偵察機として多用されている本機だが、本来は汎用無人機である。

つまりUCAV(無人攻撃機)としての機能も拡張パッケージで得ていた。レーヴェリアに持ち込まれた全無人機も同じような改修を受けていたのだ。

――――――――RQ-12ハルファス型無人機 性能諸元――――――――
【建造元】
レーヴェンハイム社

全幅:4.03m
全長:9.52m
全高:5.08m
自重:6710kg
最大離陸重量:16111kg
ペイロード:1007.2kg
発動機:ER社製HRQ187-EW-28ターボファン×1
巡航速度:850km/h
実用上昇限度:21,800m
フェリー航続距離:2,000nm

基本兵装:30mm自動式機関砲 1門
搭載兵装:AM-10中距離対空ミサイル、対重陣地ミサイルAGM-154F、各種対地爆弾など。
―――――――――――――――――――――――――――――――――

野戦司令部からデータを受け取ったRQ-12は、受信情報に記されている概略位置に向けて1発の対重陣地ミサイルAGM-154Fを発射した。

『…リコー3-2へ、支援機よりミサイル発射、15秒後に着弾予定、注意せよ…』

ミサイルの経過はリアルタイムで第3偵察小隊のクロスコムに情報が伝えられる。 RQ-12から発射されたミサイルは途中までは受信データに従って飛翔していく。 そしてレーザーマーカーの信号を捉えると一切の迷いを感じさせない飛行で、それに向って突き進んでいく。

『着弾まで5…4…3…2…1…』

カウント終了と同時に大通り布陣していた敵兵の中心に閃光と大轟音が発生する。 重陣地や洞窟に対して絶大な威力を示す対重陣地ミサイルAGM-154Fが炸裂したのだ。

結果として、それは大きな災厄となった・・・ゴーリア兵達にとって。 着弾点から最寄に立っていた兵士は高衝撃熱圧力によって人体のもろい部分が引き千切れら潰され、絶命し、肉塊となった状態で数十メートルの高さまで吹き飛ばされる。

むしろ即死できた者は幸運だ。

なまじ生き残っても3500度に達する熱風を浴びてしまい、声にもならない絶叫を上げながら人の形をした松明として朽ちていく者もいる。重度の火傷や損傷によってショック死するまで味わう絶望の時間。

離れていても安全ではなかった。

燃焼効果のある調整破片が音速の数倍の速度で周辺に飛び散って兵士を切り刻んでいく。

運よく僅かに生き残った兵士は、その地獄を呆然と見つめるだけだった。
そして、それが彼らの人生最後の行為となった。立ち尽くす兵士を見逃すほど 特殊作戦軍偵察小隊の面々は甘くは無い。まさにプロの兵士たる態度であろう。

「撃て」

小隊長が静かに命令を下すと、既に照準を終えていた第3偵察小隊の面々は 、狙い定めたゴーリア兵に対して引き金を引くと、Rx4G突撃銃の銃口から6.8x43mm弾が飛び出していく。

それぞれ銃口からセミオートによる単発の発射。

小銃射撃を行った偵察隊の面々は右の肩に発砲の衝撃を苦も無く受け止めながら、 状況の推移を確認する。追加攻撃の必要性は確認されなかった。大通りで燃え盛る 炎の音の中、硝煙に燻されて輝きを失った真鍮の薬莢がポトと地面に落ちていく。

0.5秒にも満たない射撃時間であったが、生き残ったゴーリア兵に対しては十分な効果を示した。 大通りのゴーリア部隊は攻撃してきた相手すら知ることも出来ずに 一兵も残さず全滅した。


















―――――交易都市カトレア内、ゴーリア軍侵攻隊野戦本陣―――――

カトレアの中心部に交易都市の名に相応しい商館施設や館が幾つも 建てられていた。 その中の一つ、レンフォール王家と縁のある商館は規模と中央部に位置 する利便性からゴーリア軍によって接収され、館内に ゴーリア軍侵攻隊野戦本陣が置かれていた。

それだけではない、この館には カトレア戦で捕虜になった容姿に優れたものが多いレンフォール軍の女性兵士達も戦利品の一部として集められていた。捕虜として捕らえられた者の中には連行される前に、暴走した兵士達によって集団暴行を受け死んでいった女性兵士も多い。

もっとも、暴行を受けず収容されても末路は決まっており、決して幸運とは言えなかった。そう…彼女たちは、労働力として確保した奴隷とは違ってゴーリア軍の褒章として存在しているのだ。

逃げられないように幾つかの部屋に分けられ収容され、手かせと足かせによって行動の自由を大幅に奪われていた。

慰み者になるのは時間の問題だったのだ。

その館内の一室にて一部の捕虜となる7人の囚われた女性たちがいた。

疲労と悲しみによってうずくまっている女性達が大半であった。泣き疲れた者も多い。 そんな中、気丈にも凛とした美しさを有するエルフの女騎士が仲間を励ましていた。 彼女はこの室内の中で最上位の階級で あった。

「泣かないで、きっと助けに来るわ」

「…うん…早く、おうちに帰りたい…」


女騎士が慰めている中、なんの予告無しにゴーリアの兵士が扉を開けて室内に入ってきた。 室内の女達は自らの順番が来たことを悟って身をかたくする。そんな中、 エルフの女騎士は枷によって自由に動かない体を必死に動かして、仲間達をかばう様に前に出る。

「連れて行くなら、私を最初にしなさい!」

エルフの女騎士は毅然と言い切った。
彼女もまた、レンフォール貴族末席としての矜持を持っているのだ。

「いい心がけだなぁ。よしエルフ来るんだ」

エルフの女騎士は気丈に振舞っても、徐々に体が震えが強くなっていく。 それでも、勇気を振り絞り決心すると弱々しく立ち上がる。

「…みんな…最後まで諦めないでね…」

言い残すと女騎士は兵士に連行されて行く。









その商館にある一番立派な館長室にキィームは居た。

「な、何だったんだ…あれは……ええっい、忌々しい!」

予想外の出来事にキィームの声は怒りと恐怖で震えていた。

カトレア上空に縦横無尽に駆け巡っていた回転する翼をもつ漆黒の何か。 その付近で発生する連続した爆発。 しかし、郊外の本陣付近で発生した絶え間なく発生している大災厄に比べれば大した事ではないと 思っていた。それほど郊外の出来事は彼らの度肝を抜いていた。

まるで天地が引っ繰り返るような大爆発の連続。

キィームがここに居る理由は、一行に来なかったリリシア確保の報告に我慢できず、欲求に従い僅かな手勢 で地竜隊を追って市内に赴いたからだ。もし出向いていなければ、どうなっていたか… 傲慢な彼であっても事実を痛感していた。怒り散らし終えると落ち着きを取り戻す。

「まぁ、良いわ……アンドラスを失ったのは惜しいがワシが無事ならば問題は無い」

「まだ死んだと決まったわけでは…」

キィームに仕えていた騎士の一人が言うも、考えに浸っていたキィームは彼の言葉を無視して言葉を続けた。

「失った兵は幾らでも補充できる…」

有能なアンドラスの生死よりも、自分の無事を喜んでいた。
欠点や問題を考えず愚直なまでに常に良い面だけを見る彼らしい精神の切り替え方だ。

場違いな喜びに浸るキィームを余所に、野戦本陣に詰め掛けていた参謀や 騎士たちは、混乱の度合いを深めていく状況から正確な情報の把握と、 麻痺しかけた指揮系統の回復に必死になっていた。

指揮系統の麻痺 の8割がたはリリシアの仕業であるが、誰の仕業かが判っても損害 は回復しないし、慰めにもならない。

リリシアがもたらした被害に追い討ちを掛けるように、 突如として発生した郊外の連続する大爆発と空からの謎の軍勢。これだけでも 十分な程に混乱に陥れる情報だが、 極めつけがカトレア守備隊と交戦中を最後に一切連絡の取れなくなった 少なくない軽歩兵部隊の存在。

連絡兵を斥候として代用して、最前線に送っても誰一人戻っては来ない。

唯一得られたのは絶叫のみの断末魔じみた魔法通信だけであり、これで混乱しない方が逆にどうかしているだろう。

駄目押しのように充足していた偵察兵力もいつの間にか枯渇寸前にまで落ち込んでいた。

小さな部隊にすら魔法通信を行える兵を配備出来るのは レンフォール軍位であろう。ゴーリアでは中規模な部隊までが限界だ。 伝令兵としても活躍していたゴーリア軍の 偵察兵力はリリシアからも狙われていた。

しかし、それだけの被害でここまで酷い事には為らないであろう。

生存者が皆無ゆえに 彼らは知る手立ても無かったが 行動を開始した特殊作戦軍との偶発的遭遇戦が最大の要因である。 偵察任務の主な内容は敵が居ると思われる場所に赴いて、その存在を確認する。 故に特殊作戦軍との遭遇率は否応無しに高くなっていた。

ゴーリア軍の偵察戦力の事実上の壊滅と連絡網の麻痺。

その隙を突く様にゴーリア軍は特殊作戦軍偵察部隊の浸透を許しており、本来ならば組織だっての警戒線や偵察作戦を行うべきだった。完璧に阻止出来なくても、各要衝に守りを固めた阻止戦力の配備などの最低限の妨害を行うべきだったのだ。

深慮という言葉が似合わないゴーリアであっても敵による偵察行動の自由を 許す事は、どの様な災厄を招くか知っているはずだが、全てが混乱していた。

彼らを責めるのは酷であろう。

絶対的と言って良いほどの軍事技術の格差がもたらす現実は厳しい。 例えゴーリア軍が全く混乱していなくても、経過の変化は見られても同じ結果を迎えたのだから。

ある意味、戦っている相手を知らないで居られた彼らは幸せだ。

まだレインハイム皇国軍という名称を知る由も無いが、 彼らの保有戦力の正確な情報を知ってしまったら…絶望の二文字しか 浮かばないであろう。

ゴーリア軍全体に降りかかろうとしている災厄に気が付かないキィームは本来の用件を果たすべく、動き回る参謀の一人を呼び止めてから、怒鳴るような口調で尋ねる。

「おい! アレはどうなったんだ!」

「め、命令どおりに、例の確保した捕虜は此方に移送中ですので、もう暫くお待ちください」

参謀の答えにキィームは軍儀までに捕虜移送が間に合わぬと知ると、悪態をつきながら 館長室から出て行く。参謀は場違いな目的を遂行しようとする上司を流石に信じられないような視線で見送ると、再び現状を打開しようと必死に各方面に対する問い合わせを再開した。

キィームは館長室の扉の向こう側の個室にある立派なベットを思い浮かべつつ、表情に 嫌らしい笑みを浮かべながら軍儀に向かって行ったのだ。
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【あとがき】
キィーム君は何を確保したのでしょうか(笑)
彼のポジティブさが羨ましいww

全く関係ないけど…アリシアにスク水を着せてP90を持たせてみましたw
意見、ご感想お待ちしております。

(2008年08月26日)
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