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レンフォール戦記 第一章 第12話 『火力戦』


派遣艦隊旗艦『長門』CDC(戦闘指揮センター)

31ノットに達していた艦隊速度を、対地砲撃戦を行うために17ノットまでに下げた。
速度を下げたことによって生じた余剰電力は、万が一に備えて防空用のTHPL(戦術高パルスレーザー)にまわされるのだ。

攻撃第一陣となる艦砲射撃の最終段階に向けてスタッフが動き始める。

「IPS(統合電力システム)連結、出力安定」

「THPL(戦術高パルスレーザー)準備良し」

「FCS(火器管制装置)、同調開始…全艦リンク!」

「各艦も照準共有。緒言変更なし」

「発射っ!」

砲術仕官の進捗を確認した艦長が命令を下した。

命令が下ると同時に、砲術仕官がコンソールにある発射キーを押すと、 戦艦「長門」の仰角いっぱいの主砲身の先が光る。発射信号を受け取った他の艦も数瞬遅れて砲撃を開始した。 主砲からオレンジや白の閃光を吐き出し、ロケットアシストによって飛翔距離を大幅に伸ばした 誘導砲弾 (LRLAP) が125km離れた目標に対して解き放たれていく。

A全周回360度、俯角-6度-+71度、毎分12発以上の射速度を誇るAGSに換装されている各艦艇の主砲塔は流星雲のように砲弾を吐き出し始めた。

砲撃の主力は3隻の船だ。

長門級戦艦 :55口径 2連装410mm砲 4基「長門」
新高級巡洋艦 :60口径 3連装203mm砲 3基「高雄」「愛宕」

艦隊周辺をカバーする8隻の護衛艦も負けじと射撃を行っていた。




―――シュ―――
―――シュ―――




鋭く空気を切り裂く音と共に、艦砲射撃がカトレア郊外のゴーリア軍先遣隊本陣に降り注ぐ。
そこには、後方予備として市内に突入していない5000程の兵が布陣していた。

戦艦、巡洋艦、護衛艦から放たれた広域制圧用事前調整破片弾の砲弾は地上から15メートル上空で炸裂し、辺りに眩しい閃光が鋭く走ると、一瞬にして大平原は轟音と炎に包まれる。

爆発と共に発生する絶望的な熱、衝撃波。
さらに燃焼効果のある破片が音速以上の速度で降り注ぐ。

間断なく連続する爆発音と共にゴーリア兵たちの肢体が引き裂かれ 肉片になっていく光景。 肢体は無事でも鼓膜を破られ泣き叫ぶ兵。

防御力と生命力に優れた地竜であっても至近距離で降り注ぐ戦艦の主砲弾の前に鋼鉄のように強靭な体であっても関係が無い。戦車ですらも押しつぶされる爆圧によって圧死していった。 炸裂地点の真下にいた生き物はより悲惨だった。 衝撃波に瞬時に液状化するほどに潰され、数千度に達する輻射温度によって 焼き尽くされ遺体のかけらも残らなかった。

巡航ミサイルの方が幅広い運用が出来るが、殺傷能力においてさほど大差が無い400mm砲弾はコスト面で圧倒的に有利だった。1基の巡航ミサイルに対して、125発の砲弾が用意できるのだ。経済性を重視する彼らは無駄な出費を好まない。

もっとも、絶望的な火力差で殺されていくゴーリア兵にとっては、安上がりに殺されていく事実はなんら慰めにもならない。

「な・・・何が起きたんだ!?」

「いやだ。まだ死にたくない!助けてくれ!!」

「神よ! 神よ!!」

「俺の腕・・・俺の腕がぁぁぁぁぁ」

「頼む・・・目が見えない・・・誰か俺を此処から・・・後生だから・・・」

前兆無き悲劇に呆然とする者。

泣き叫び命乞いをする者。

神に祈る者。

爆風によって致命傷を追う苦痛の声を上げる兵士。

彼らが、どれほど真摯に問いかけても疑問に答える者は居なかった。必死に祈っても神の救いは訪れなかった。神は常に不在だ。返ってきたのは容赦ない攻撃のみであり、等しく降りかかる災いにゴーリア本隊の士気は絶望的に低下していった。

一つの爆発が起こるたびに数百の命が散っていく。

流星のように降り注ぐ超音速の砲弾が、彼らを等しく肉片へと化していった。意思を持ったように降り注ぐ砲弾は、ゴーリア軍の逃走を抑え、大地を舐め回すように火線が移動し、容赦なくキルゾーンに押し込めていく。

上空の無人偵察機からの情報を元に管制された近代砲撃の猛攻からは逃げられない。
砲撃の冴えと激しさは衰えを見せなかった。









――――同時刻、クローディア率いる守備部隊本隊――――

カトレア守備隊主力に攻勢を掛けていたゴーリア軍部隊の動きが突如止まった。
それだけではない。機動防衛戦を展開していたカトレア守備隊 も動きを止めていた。巧みに守備隊を統率していたクローディアも例外ではなかった。 誰しもが途中に突如として、郊外に立て続けて発生していく大爆発に驚く。

「何が起こっているんだ!?」

守備隊兵の上げた声は全員の疑問を代表していた。

出来事は郊外に起きた大爆発だけではなかった。
回転する翼をもつ漆黒の何かが、群れを成して介入してきたのだ。

カトレア守備隊やゴーリア軍の驚きを余所に、彼らは行動を開始する。

「さて。ゴーリア諸君…終わりの始まりだ」

アーゼンは機上にて厳かに謳い上げた。

「高島、予定通りに進めろ」

「了解」

アーゼンの隣に座っている高島忠雄 中佐は、指示に従って 部隊に対して命令を下していく。

司令機とのデータリンクによって空中脅威目標不在を確認した、護衛の「AH-64G」が次々と対地戦闘機動に入っていく。 大空の猛禽が地上の獲物に向って降下を始めていく。


そして・・・
ヘリ部隊による攻撃が始まった。


天空を我が物顔で往来する 見たことの無い存在が、信じられないほどの火力を叩き付けて来ると ゴーリア軍の兵士達は、蜘蛛の子を散らすように逃走を図る。 彼らは懸命に走ったつもりだった。しかし、レインハイム皇国軍は彼らを逃がすつもりは無い。

当然だが高度、速度、火力、防御力に勝っている相手から逃げることは出来なかった。

「AH-64G」に備え付けられている30mm自動式機関砲が重低音と共に唸る。
最大400発/分 最大射程は約3,500mを誇る機関砲が炸裂する度に、ゴーリアの兵達が引き裂かれ、大地にひれ伏していく。

大盾を構えた兵士が、盾ごと粉砕される。

強靭な肉体を誇る、オーガーで有っても例外ではなかった。
当然だ、強靭な肉体とはいえ特殊装甲の装甲版で守られている 主力戦闘車両の背面や上面装甲を破るために作られた武器が、 鉄以下の強度しか無いものに遅れるを取る訳がない。

「アレは一体何なんだ!!」

絶叫の声を上げて疑問を声にしたゴーリア兵が居た。

しかし、その兵士に『あれは「AH-64G」です』と答えてくれる者は居なかった。
返答の変わりに機関砲が降り注ぐ。機関砲を食らった兵士は、もう二度と疑問に思う者はいない。本人の意思とは関係なく全ての苦悩から開放させられていた…命という代価を差し出すことによって。

「畜生っ! 火球(ファイヤーボール)!」

魔法使いの放った魔法は奇跡的にコックピット付近に命中する。

「やったぜぇっ!! …何っ!?」

その喜びは瞬く間に絶望の色へと変わった。命中させたはずの標的が先ほどと変わらぬ姿で健在だったのだ。

魔力密度が足りず貫通力の無い火球は ボロンカーバイド製の装甲板に阻まれ、装甲面を僅かに焦がしただけだった。 魔法使いと「AH-64G」の距離が離れすぎていたのだ。有効射程外の「AH-64G」には届きはしたが、着弾した頃には 過半数の魔力を消費し尽くしてしまい、威力は減退しきっていた。

到底貫ける威力ではない。

攻撃を行ってきた目標に対しては反撃を行うのは当然だが、魔法使いに対しては より積極的な反撃が行われていく。 魔法使いとは、携帯型重火器を持っていると同意語なのだ。

彼らが不正規戦や伏兵として動き回れると、地上軍の被害が大きくなってしまう。 当然、攻撃優先度は高かったのだ。

パイロットは機首に備わるTADS(目標捕捉・指示照準装置)の前方監視赤外線装置(FLIR)からの情報を元に熱源を辿る。ヘルメットの動き合わせて機関砲が動く。

機関砲が火を噴く。 打ち込まれた機関砲弾を回避することも出来ず、魔法使いの魔法障壁は一撃で貫通され、その勢いを保ったまま体を引裂いて 命を奪う。

魔法使いが30mm砲弾によって引き裂かれると、彼が所持していた5枚のディース金貨が辺りに飛び散る。
ゴーリア国の通貨ではない、レーヴェリアに存在する経済大国のメンフィム皇国で取り扱われている金貨であり、 金の含有量もゴーリア金貨とは比べ物にならない。

「金貨だ!」

一人の兵士が状況にもかかわらず、輝ける黄金色に喝采の声を上げた。
声につられて、冷静さを無くした周辺のゴーリア兵が欲に駆られ拾おうと慌てて寄ってくるが、 彼らもまた、機関砲の餌食となった。

熟練した技術で操られる「AH-64G」の群れは、強力な火力でゴーリア軍を容赦なく駆逐していく。

「AH-64G」の群れに守られるように「UH-60L」が次第に集まってきて上空にホバリングする。

綱が降ろされて、それをたどって次々と特殊作戦軍の兵士達が懸垂降下していく。
機敏な動作、統率のとれた振る舞いで、周囲を警戒しながら組織力を失った敵の掃討に入っていく。 カトレア守備隊に対して味方だと知らせるように、地上に降り立った特殊作戦軍の兵士たちはゴーリア軍のみに攻撃を加えていく。

見知らぬ兵の援護にカトレア守備隊の面々は驚き、戸惑う。

「・・・あれは銃なの・・・?」

クローディアは呟いた。
当然ながら、その疑問は守備隊全員の共通であった。

現存している大抵の銃はマッチロック式銃と呼ばれる緩発式火縄銃である。 当然、連射能力は無く、天候に左右されるなどの 使い難さもあって、魔法戦力が充実しているレンフォール王国軍では使われていない。 大国の一部ではフリントロック式の銃の配備が進められているが、やや高価で大量配備には至っていない。

列強兵装について詳細な情報を所有しているクローディアは、 従来の威力をはるかに超えた破壊力に驚きを隠せなかった。

いつの間にか大地に降り立ったアーゼンが、クローディアに向って歩いていく。 アーゼンは彼女の持つ雰囲気と魔力から現地における上位指揮官と判断したのだ。

「現場指揮官だな?」

アーゼンはクローディアに尋ねる。

「貴方達は一体…」

クローディアは リリシアの親衛隊長として幾多の実力者と謁見する機会があったが、今まで会ったことの無い底深さを感じさせる目の前の男に畏怖を抱いた。恐怖を必死に押さえ、次の動作を必死になって読み取ろうとするが、その心配は次の言葉で杞憂に終わる。

「私の名前はアーゼン・レインハイム。
 要約すれば、リリス女王の要請に基づいて救援に来た援軍の最高責任者」

アーゼンの声には戦場独自の興奮を感じさせない、淡々とした声で答える。

「リリス様の援軍…!? リリス様がお戻りに!」

魔王級の力を有するアーゼンの存在故に、クローディアは驚きはしたが、その言葉を信じた。

「そうだ」

クローディアの驚きに、アーゼンは冷静に応えていく。

二人の会話が終える頃には、副官の忠雄 中佐の指揮によって、 カトレア守備隊本体に攻撃を仕掛けていたゴーリア軍の組織的抵抗は終わり御告げていた。

所定目標の部隊と降下地点の敵を掃討し終えると、その猛威は周辺の部隊にも及び始める。

周辺に展開していたお陰で無傷だったゴーリア軍部隊も、 次々と「AH-64G」から対人・対資材用で高爆発威力弾頭で殺傷範囲は50mに達するHET70mmロケット弾が部隊に対して撃ち込まれていく。

炸裂すると、街路に敷き詰められている石畳が破壊されてうち崩されていく。圧力波によって周囲に広がる調整破片によって、人間だった物体が引き裂かれ、爆発したように弾けていく。

気を利かせたつもりで建造物に隠れた兵も居たが無駄であった。

上空の無人偵察機からもたらされる情報とリンクしたヘリの群れが、常に攻撃に最適な位置へと移動するのだ。

前方監視赤外線装置(FLIR)によってゴーリア兵の体温を探知し、そこに対重陣地ミサイル AGM-154F「インフェルノ」を打ち込んでいく。 サーモバリック爆薬が生み出す凶悪な高衝撃熱圧力で建造物ごと叩き潰していく。 それでも、辛うじて生き残ったゴーリア兵に対しては、特殊作戦軍の兵士が突入して念入りに掃討していく。

奇跡的に火線から逃れることの出来た僅かな兵も居たが、その 少なくない数が精神異常をきたしていた。 常軌を逸したような光景に対して精神が拒否反応を示し、心が壊れてしまったのだ。

しかし、彼らも時を置かずして、先に逝った仲間の後を追う事になる。

「命中! 命中!」

「こちら、ドラグーン小隊、指令を求む」

「ドラグーン小隊、D14地区へ向え」

「了解! ドラグーン小隊、D14へ向います。以上(オーバー)」

「ドラッヘン小隊、対地掃射終了。補給のため帰搭する」

「HQ了解、ドラッヘン小隊、帰搭を許可する」

無線が飛び交う。効率よく情報が伝達され、無駄の無い動きで追い詰めていく。 程なくして激しかった射撃音が止むと、郊外で連続して発生する爆発の音が妙に響く。

守備隊本隊の周辺に展開していたゴーリア軍は誰一人として生き残っていなかった。
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