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レンフォール戦記 第一章 第11話 『急転』


「では! 参る!」

既に予備動作を終えていたアンドラスは突風のように飛びかかる。

対するリリシアは身体能力を強化し、 必殺ともいえる鋭い剣戟を かわしながら、唱えようとしている魔法詠唱に必要な魔力を練りあげていった。

鋭利な切っ先がリリシアを掠る。鋭い剣圧が風となってリリシアの肌に当たる。

『高振動!? 空気の流れを操って切断力を増してるんだわ』

「ずいぶんと鋭利な魔法剣ねっ!」

リリシアは叫びながら横に回避する。

真横を通過した剣に対して、 リリシアは魔力によって発生させたテレキネシスを剣戟の動きを牽制する。 アンドラスほどの剣戟は完全には止められない。しかし、リリシアには 剣の勢いを殺すだけで十分だ。僅かに出来た隙を突いて鋭い反撃を繰り出す。

回避反動を利用した鋭い回し蹴りをアンドラスに向けて放つ。
足の先端に魔力を集め魔法剣に匹敵する殺傷能力だ。

虚を突いた蹴りであったが、アンドラスの反応が間一髪で間に合う。彼の動体視力は並じゃない。
数瞬後、アンドラスの顔があった場所にリリシアの足が通過する。

「お主もな!」

間一髪の攻撃を食らっても、アンドラスの闘志は衰えない。
むしろ歓喜の声を上げて、より闘志を燃やしていく。

アンドラスは突き、なぎ払い、多用の技を連続して繰り出す剣は、素早く正確に間接などの重要部分を狙っていた。 表刃と裏刃の双方に掛けられている魔法は 空気抵抗の軽減と、高周波振動による切断能力の向上を剣に与えていた。
近接戦でしか使えないとはいえ厄介な能力である。

回避しつつリリシアは言葉を紡ぐ。

「空裂(ヴェイン)!」

リリシアは投入魔力量を増やした4発の無詠唱魔法を放つ。
放たれた空気の塊がアンドラスに向っていく。

「此れしきの魔法如きで!!」

アンドラスは叫ぶ。

鮮やかな足裁きで3発の衝撃波の塊を難なく回避すると、空を切った衝撃波が鋭い着弾音と共に辺りに土埃を撒き散らす。

「ふんっ!」

アンドラスは直撃コースの衝撃波を剣で迎撃すると、剣の付属魔法とリリシアの空裂魔法が干渉し合って衝撃となって霧散した。凡庸の使い手ではないアンドラスの回避は攻撃行動にも繋がっていた。空裂魔法の迎撃の為に振りかざした剣を引き戻す様にして、アンドラスは剣閃を走らせる。

「振衝波っ!」

剣閃が走ると同時に、周辺にまで舞い上がった砂煙がさっと太く二つに割れて、大きな空気断層がリリシアを襲う。

線ではない面の攻撃。超至近距離で放たれ、リリシアは回避が出来なかった。

「くぅっ!」

魔法障壁によって威力は減退したが、小さな悲鳴と共に、軽いダメージを受けてしまう。

「どうした?
 動きが鈍いではないか!
 クククっ・・・剣は待ってはくれんぞ!」

肉食獣の笑みを浮かべ、隙の無い剣戟を行う。
アンドラスの攻撃は徐々に速度を増していく。 鍛えられた身体を更に魔力で強化してきたのだ。

幅広い魔法戦に対応しているリリシアであったが、近接戦に特化した魔法剣士が 相手だと分が悪い。同じ身体強化でも効率性が違う。 距離が離れるほど不利になることを熟知しているアンドラスも己の攻撃範囲 に納め続けるために容赦ない追撃を行う。

戦いに情けを掛けるのは戦いに対する冒涜であり、相手に対する侮辱でもある。
アンドラスは冒涜もしないし、侮辱的な行動も起こさなかった。

一撃、二撃、三撃・・・・
リリシアは連続攻撃を回避していくが、フェイントを交えた五撃目の下段攻撃で 一瞬バランスを崩してしまう。アンドラスは隙を逃さず鋭い蹴りをリリシアの腹に繰り出した。

蹴り飛ばされたリリシアは一瞬で跳ね上がり、無詠唱魔法で庇いながら追撃をかわす。
僅かに遅れて、アンドラスの剣が大地をえぐる。

アンドラスは楽しそうに笑った。

「やるではないか・・・疲弊し、手傷を負っているとはいえ、ここまで粘るとは・・・
 流石は魔王の娘といったところかぁ!」

口を開きつつも、剣を横一線になぎ払う。

技に緩急を入れ、パターン化を避ける。
呼吸を乱すことなく、じりじりとアンドラスは間合いをつめる。

リリシアは考えた。
ルーンビュートを使った牽制。 駄目、かなりの強度を誇る私の防御結界を簡単に切り裂いた、あの魔法剣の切れ味では 簡単に断ち切られてしまう。 逃走を試みても、背中を見せた瞬間に勝敗が決してしまう。 狡知に長けている相手との賭けに勝つには並大抵の手札と掛け金では勝てない。 芳しくない状況を打破するためにリリシアは決断した。


凛と透き通った声で詠唱を開始する。

「アイン・ソフ・アエティール・アブラクサス・ティータス・アイテール・・・・」

リリシアの周辺に上級魔法特有の複雑な魔法構成が展開されていく。
それでもアンドラスは余裕の態度を崩さない。


「何の魔法かは知らぬが・・・我が間合い内で長大なスペルを唱えきれると思うなよ!」

魔法は複雑な構成になるほど詠唱も長くなる。
アンドラスはリリシアの構成規模から詠唱規模を推測した。

発動してしまった大魔法は剣技では止められない。 アンドラスは剣の優位を保つために両手に力をこめて、魔法剣の 詠唱を開始する。

「纏え、暴風の風よ! 刃となれ!! 
 颶裂斬(ボレアスブレード)ッ!!」

呪文を唱え終えるとアンドラスの剣に、今までとは比べ物にならない程の風が集まる。 剣の周りの空気が圧縮され渦を巻きながら高振動していく。 密度の低いの魔力で構成された魔法では、直撃する前に構成自体が引き裂かれてしまうだろう。

剣が青白く光る。セントエルモの火と呼ばれる 静電気などが尖った物体に集まり発生させるコロナ放電による発光現象だ。

攻撃魔法のような射程や範囲はないが、効果範囲を限定している分、魔力が圧縮されており威力は高くなっている。

「行くぞぉぉぉっ!」

アンドラスは構え、咆哮を上げながらリリシアに向っていく。

しかし、リリシアは剣が迫っても詠唱を止めない。
紙一重で回避していくが、唯でさえ神経を磨り減らす回避という 行動を行いつつ、詠唱も行うという離れ業によって徐々に回避精度も落ちてくる。

「マラキムより来たりし領域よ、神聖剣の一振りとなりて、災いを振り払え!
 アウル・エマナティオ・ゲーティア・・・・・」

リリシアは両手で複雑な印を組みながら力ある言葉を紡いでいくも、すでに無傷で回避は出来ていない。体の箇所が剣で切られていた。
遂にアンドラスの剣先がリリシアの胸に迫る。 近接魔法剣の極致の一つに数えられる颶裂斬。致命傷の一撃!  構成具合から呪文の完成は間に合わない。アンドラスは避けられない事を確信した。

リリシアに顔に笑みが浮かぶ。
賭けに勝ったのだ! 彼女の罠が発動する。

「絶焔っ!(フレイムストライク)」

リリシアは最上級魔法の詠唱中に、別系統の中級魔法を解き放った。


「な、何だと!」

アンドラスは完全に虚を突かれた。

同じ魔法を複数展開するのではない。 上級魔法以上と予測される魔法を唱え構成を練りながら、全く違う構成の中級魔法を無詠唱で唱えた事実に 豪胆な彼も驚きを隠せなかった。高い魔法技術を有する、リリシアの真骨頂だ。

咄嗟に迫り来るフレイムストライクを魔法剣で火炎の魔法構成を引き裂く。 リリシアの魔力から生み出されてた火炎の欠片であっても まともに受けたら唯ではすまないであろう。

「ぬぅううううっ!」

熱線が肌を焼き、視界が揺らぐ。
しかし、アンドラスは耐え切り、体勢を崩さず剣を構え、飛び掛ろうとした。

その不屈の闘志ゆえに、リリシアの本当の罠に掛かってしまった。 リリシアの魔力によって放たれた絶焔(フレイムストライク)は 無詠唱であっても並みの絶焔とは比べ物にならない火力があった。 火力に見合った分の酸素が燃焼によって周辺から奪われていたのだ。

一瞬だが予想外の呼吸困難に陥ったアンドラスに隙が出来る。
その隙に、印を組み終わったリリシアは最後の言葉を紡ぐ。

「天煌滅爆!(ディヴァインレージ)」

リリシアの目の前に凄まじい閃光が走る。

超高温のエネルギーの奔流によって 大気が急速な熱膨張を引き起こす。それは爆轟現象を引き起こし、強烈な衝撃波に変換されていった。












派遣艦隊旗艦『長門』CDC(戦闘指揮センター)

「偵察結果を集計しますと、
 敵は・・・この付近、座標1-14-55に集中しております」

情報参謀はコンソール上に表示されているデジタル情報化された偵察写真に 器用にペンタブを扱い、必要な情報を書き込みながら状況を説明していく。


「後30分でカトレアを攻撃圏内に収めます。
 しかしながら艦隊による市街地攻撃は、威力があり過ぎて守備隊も巻き込んでしまいます」


参謀の言葉にアーゼンは決意した。

「戦争に破壊は付き物だが、必要以上の破壊は避けるべきだな。
 よし…

 艦隊攻撃目標、別名あるまで市街地外に展開している敵陣に集中。
 弾種、広域制圧用事前調整破片弾…

 奴等には野戦陣地という概念は無い、近接信管調定は15メートルで十分だ。
 遠慮は要らん、全てを吹き飛ばせ」

アーゼンは ゴーリア先遣隊本陣の運命を決する命令を下した。


「アイ・サー! 誘導砲弾、シーカーに緒言入力開始」

仕官の一人がコンソールを器用に操作する。
大部分がコンピューターにより自動化が 進められており、必要数値の入力を開始して数秒で準備を終える。

「艦隊、誘導砲弾、インホット! 砲撃準備完了!」

実戦経験豊富なスタッフは無駄なく的確に動く。
これらは、平時でも欠かすことも無く続けてきた訓練と、幾多の戦いで得てきた 実戦経験、そして積み重ねてきた軍事システムの為せる業であろう。


「予定通り私は特殊作戦軍と共に市街地に向う。
 此方の合図で艦砲射撃を開始しろ」

アーゼンは預言者の如く厳かに周りのスタッフに対して告げる。
彼は王としてではなく、軍人として戦場へ赴くのだった。

特殊作戦軍(SOTCOM)・・
正式名はニーベルンゲン特殊作戦軍

アーゼンがER軍の中に作り上げた通常戦力とは別個に編成され、特殊な訓練を受け、特別な装備を持ち、 既存の陸海空軍・警察部隊では対処できない特殊作戦に投入され、一般に比較的小人数による 部隊行動で、後方攪乱、重要施設破壊、対テロ、情報収集、心理戦、人質救出、要人暗殺などの 特別な任務を遂行する精鋭部隊。

特殊作戦軍の兵士はミスリルカーバイト繊維と イオン導電性ナノゲルを組み合わせて作られてた、 優れた防御力と倍力効果を有するナノスーツを着用して、生存性を高めている。

ナノスーツの人工筋肉部分の動力源はATP合成酵素によって得られているため、倍力時間 を2倍程度に抑えていれば12時間の連続稼動が可能なのだ。

主要武器にRx4G STORM(一部隊員はXL7モデルを使用、対戦車兵は別)を使用。

隊員全てにIFF(敵味方識別装置)とクロスコムを実装。隊員と無線偵察機 (ドローン) の みならず友軍の戦術ユニットの連携やデータリンクを可能にしている。 基本的な軍用魔法(無線封鎖時の行動に備えての指向性テレパシー、精神感知、感覚遮断、緊急時のヒーリング)を習得し総合力を高めている。

それに加えて、アーゼンの条件洗脳によって作戦行動中は感情をコントロールする徹底振りだ。

アーゼン・レインハイムはレインハイム皇国軍最高司令官だけでなく、ER軍大将としての階級も有している。そして、特殊作戦軍司令でもある。

つまり、自軍だけでなく、特殊作戦軍すらも動かすことが出来るのだ。

科学と魔法の利点を取り入れた特殊部隊がレーヴェリア界で活動を開始した瞬間だ。


ゴーリアにとって最大の不幸は派遣軍最高司令官が『最強』と『最恐』の二つ名で呼ばれている魔王アーゼン・レインハイムだったことだ。














「上陸開始まであと60秒・・・」

全軍に行き渡っているクロスコムに戦域管制官からの無線が入る。 その内容はエアクッション型揚陸艇に乗っている将兵に等しく伝えられる。 装備の再点検を行うものや、一切口を閉ざし、海岸線に懸命に目を凝らす者、全ての将兵 に共通している事実があった。建軍以来、敵軍と比べて圧倒的と言ってよい程の 軍事技術力の優越があった。

しかし、アーゼンによって鍛えられている 皇国軍や特殊作戦軍の中に奢り高ぶった将兵は一人も居ない。

油断と慢心は最大の敵だからだ。





「上陸開始まで10秒・・・・・5、4、3、2、1・・・・・前進、前進、前進・・・・・進めぇ!」

4翅の推進用シュラウド付大型プロペラを動かしながら45ノットの速度で浜辺に乗り出した エア・クッション型揚陸艇が徐々に減速し、やがて動きを止める。艇の前部にあるランプが ブザーと共に開く。ランプが開ききると装甲車輌や高機動多用途装輪車両が大地へと乗り出していく。

無線に乗った命令が飛び交い、レインハイム皇国軍上陸第一陣が順次に上陸を果たしていく中、ゼイレン級強襲揚陸艦「ゼイレン」から 飛び立ったヘリ部隊で編成された強襲部隊が上空を通過していく。

その規模は攻撃ヘリ「AH-64G」20機に護衛された 多目的/強襲用ヘリ「UH-60L」24機、合計44機に達する。 戦域管制用に改装された2機を除いて、UH-60Lの積荷はニーベルンゲン特殊作戦軍の完全武装の兵士12名である。

22機に及ぶ「UH-60L」に分乗している264人の兵士、29個分隊で編成される特殊作戦軍の任務は、 レンフォール軍の上級司令部と合流し、敵勢力の行動阻止である。

爽快な空の模様の中、カトレア市外に展開していたゴーリア本陣に最初の災厄が降りかかろうとしていた。 そう・・・彼らは不幸にも、この世界初の近代砲撃による洗礼を受ける羽目になった。

ゴーリアにとって避けることの出来ない『絶望』という名の『災厄』が始まろうとしていた。

彼らの短い夏は終わりを迎えたのだ…
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