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レンフォール戦記 第一章 第07話 『リリスの帰還』


太陽が頂点に達する頃にアリシアだけでなく、レンフォール王国首都ユーチャリス王都関係各所に対して同時に広域伝達魔法形式の伝達魔法が送られてきた。

王都地域に限定されているとはいえ、広域に渡り多方面同時伝達という離れ業が出来るのは、関係各所の人員を 掌握しているだけでなく、高い魔法出力と高度な制御技術を有していないと出来ない芸当だ。

アリシアは広域伝達魔法という意味を理解すると 驚きは、喜びに変わった。

懐かしい波長を有し、広範囲に渡って尚且つコレほどの術を行使できるのは知っている限り・・・・
ママしか居ない・・・
本物のママだ!



広域伝達魔法とは、魔法通信の簡易版で一方的に情報を送信するのが伝達魔法で、その同時多方面版が広域伝達魔法である。

術者の技量によって伝達距離と送信数の上限が決まるが、 範囲が広い分、音質が劣化するだけでなく、広域発信の為に第三者によって 傍受されやすい。

リリスの場合は指向性を高めて送信内容が余分に分散しないように若干改良されているが、安全性から機密情報伝達には用いられない。



アリシアは伝達魔法を受けてしばらくすると、リリスからの情報のやり取りが出来る魔法通信を受け取った。アリシアは愛するママとのやり取りにて、事の詳細を知って安心した。

さらにカトレアに対してはパパが軍を率いて向っている事も…


アリシアは喜び通しだった。

私自身、小さすぎた頃もあって顔は覚えていないけど・・・
パパが大事なお姉ちゃんを助けに向っている。
あのママが強いと言い切り信頼する人・・・

アリシアは物凄く強いんだろうなぁ、と想いを馳せる。

事情を知った城内にいる人々の表情も明るい。
近隣諸国にすら届くレンフォールの女神の威光は伊達ではない。

「・・・でも、最後に言っていた・・・ 『もう少しで港に着くけど、驚かないでね♪』って・・・
 一等戦列艦にでも乗ってくるのかな?」

アリシアは自らの想像を働かせて考えたが、それ以上の事は思いつかなかった。
しばらくして、侍女長レリーナが、大慌てで部屋に駆け込んで来た。

「アリシア様!!」

それはもう、侍女長レリーナの普段の行動からは思いも付かないほどの慌てぶりだった。

「フリゲート艦メリスから緊急連絡です!
 大戦艦を中心に未知の艦隊が、すごい速度でユーテリエント港に向かってるようです!」

「ええっ!?」

慌てて、アリシアは遠目でユーテリエント港の光景を見ることが出来るバルコニーまで走る。

バルコニーに到着すると、ら手すりに手を掛けると身を乗り出しなが、感覚強化魔法を唱えて遠見を行い目を凝らす。 しばらくすると、前に親善訪問してきた レーヴェリア最大最強とされている一等戦列艦テメレーアより遥かに大きい艦の群れが接近しつつあった。

「!!」

アリシアは心底驚いた。


――――――――――――――レーヴェリア界の戦列艦事情―――――――――――――

一等戦列艦は、大砲を3層〜4層の階層に亘って配置し、全長は70mを超え排水量は4,000トンに達する大型艦。 武装は100〜150門の7.62cmカノン砲(国によっては重カノン砲13.97cmも装備する)を有する。1200〜1500人の水兵を必要とし、必要資源の多さと建造に金と時間が掛かる事から持てる国は限られていた。戦艦に該当する。

二等戦列艦は、80から100門の7.62cmカノン砲を有し、大国以外ではこの船を艦隊の主力として扱っている。 重巡洋艦に該当する。

三等戦列艦は、64から80門の7.62cmカノン砲を有し、小国ではこの船を主力として扱っている。巡洋艦に該当する。

それ以下はフリゲートとコルベットに分類する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


見事な艦隊運動を披露しつつユーテリエント港に進入してきた艦隊。

巨大にも関わらず優雅さと強さを感じさせる先鋭的なデザイン。
その中で、特に巨大な船があった。

レインハイム皇国軍の装甲巡洋艦「ローゼンベルク」である。

それは、レーヴェリアの水準では到底船とは言えなかった。


見た印象は海に浮かぶ堅牢な城砦・・・

いや、大要塞としか表現が出来ない。
木材ではなく、鉄製らしいのも信じられなかった。

そして、大きさからは想像もつかない程、速度と機動性に富んでいる。


……そして、 22.2cm大型要塞砲バシリスクすら軽く凌駕する巨大で長砲身の大砲!
どのような冶金技術で作られているのか分からない。

帆が無くて走行可能な未知の技術!

あの船の力が如何程のものか想像もつかない。
アリシアには呆然と眺める事しか出来なかった。


『アリシアちゃん、驚いた?』

リリスからの魔法通信がアリシアに入る。声が弾み心底嬉しそうだ。
ちょっとした悪戯が成功して顔にニヤリと浮かべる、雰囲気が伝わってきそうだった。

『あれにママが乗ってるの!?』

『うん♪』

リリス返答にはまったく悪びれた様子は無い。

『ママぁ〜 やり過ぎだよ!』

久しぶりに魔法通信を介して会話を交わしたママは全く変わっていなかった。

ちょっとした頭痛を感じつつ 魔法通信で受け答えを続ける。
しかし、この一件でアリシアは全ての不安を忘れることが出来た。
人身掌握術と悪戯心に長けたリリスの真骨頂だ。

『ふふっ、誉め言葉として受け取っておくわ』

場の雰囲気と主導権は完全にリリスの手に握られていた。

「た・・・たぶん・・・アレにママが乗ってる・・・」

艦隊の方に向けた人差し指の先をプルプルと震わせながらアリシアは言った。 ちょっと疲れたような感じだったが、張り詰めていた緊張感が嘘のように消えて口元は嬉しそうに緩ませている。

「えっ ええーー! り、リリス様が?
 では・・・先ほどの『驚かないでね♪』とは・・・この事ですか?」

冷静なレリーナが取り乱している。


これは戦時下の不安を一気に払拭するためのリリスの一計である。
あえて一部の情報だけを公表し、驚きと関心を集め・・・ 緊張の糸が限界に達する直前に最後の情報を公開し、その心理的衝撃と共に一気に情勢を好転させる。


未知の存在。

確固たる存在感を放つ堅牢なる海の要塞。

港にいる全ての人々の注目を集める中、巨大な艦からリリスが上陸艇に乗り込み 港に上陸を果たすと辺りは歓声に包まれた。

リリスの企みは成功を収め、噂が広まりレンフォール軍の士気だけでなく 城下の民の士気も大きく向上した。

水測艦に従い、装甲巡洋艦ローゼンベルクを中心にした艦隊は ユーテリエント港の近くに展開を終えた。そして、定められた計画に従って艦隊は行動を開始する。


リリスの帰還と共に大艦隊の存在は民に安心感を与えた。
それは、レーヴェリア界の歴史が大きく動き出した瞬間だった。



ちなみにユーテリエント港の軍港区画内に設置されている 乾ドックにて新機軸を盛り込んだ新型フリゲート艦建造のため張り切っていたドワーフ造船監督は、 海上を動く巨大戦列艦の群れを見て 頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

優秀な職工達も呆然と見ている。


帆も無く海上を動く巨大戦列艦の群れ…
考えも付かなかった斬新な設計思想…

盤木上に竜骨を組み終えた建造途中のフリゲートが小さな存在に見えた。

彼は思った。
何が来ても、もう驚かん!
必ずこのような巨艦を作ってみせる…

この時の衝撃によって、後にドワーフ造船監督と職工達は大艦巨砲主義者として 各方面を狂奔する事になるが、後にユーテリエント港に入港してきた戦艦、強襲揚陸艦、大型航空母艦、大型コンテナ船などの各種大型艦艇を見て度に驚く事になる。










派遣艦隊旗艦 戦艦『長門』のCDC(戦闘指揮センター)で 集計情報を見ていたアーゼンは疑問に思った。

「ほぉ…二等戦列艦とはな。
 経済規模からとても自国で建造しているとは思えん。」

亜大陸方面に飛ばした8機の無人偵察機からの情報だ。

アーゼンの呟きは当然だ。
何時の世に於いても主力艦級ともなれば建造には高い技術と生産力が必要だ。

科学文明の発達していないこの世界でも例外ではない。
それに建造には多く資源を消費する。資材価格も決して安くはない。

過去の事例とリリスからの事前情報の結果、 この世界でも戦列艦に使われている木材は船解体後 に、協会等の重要施設の建築資材として再利用されるほどだ。

つまり、軍務だけでなく 民需としても再利用できる体制が整っていないと採算が合わない。

特に、帆柱(マスト)に使用できる巨木は戦略物資として価値が高く、 当然ながら数百年単位の巨木は少ない。 確かに、木材をつなぎ合わせる方法は存在するだろう。しかし 、風圧を一手に受ける帆柱では、見合った技術を投入しなければ 簡単に折れてしまう。不良技術で作られた船で外洋に出るのは自殺行為だ。


軍艦というのは、それなりの下地が無ければ作れるものではない。
資源の運搬、資源の加工、資材組み立て・・・技術の積み重ねだ。


ゴーリア本土に対する偵察では第一次産業 ――――― 農業、林業、漁業、鉱業のように 自然界に働きかけて直接に富を取得する産業がこれに該当する。 ―――――の存在しか確認できなかった。

これでは外洋に出るこの出来る戦列艦は到底作れない。
戦列艦を受け止める産業自体が整っていないのだ。恒久的に維持する資金も足りないに違いない。

作れても、武装漁船か戦列艦に見える置物だろう。

皮肉な言い方をすればお金と手間をかけた、沈没の艦艇、水没の艦艇・・・


「資源…いや、採掘場の規模からして有り得ないな。
 戦略偵察情報から判断すると軍艦を購入するだけで産業が手詰まりになるだろうよ。
 となると、奴隷売買の対価で購入か?」

アーゼンが忌々しい感じで言った。

「恐らくは…」

情報仕官の一人が、分析した情報の中で判断し肯定する。 無人偵察機からの多方面に及ぶ情報で、 初歩的な経済力しか有していないゴーリアの実情を大まかに 掴んでいたのだ。

「ならば我々は徹底的にやろうではないか」

このアーゼンの一言は、後にゴーリアにとって最悪の形で現れる事になる。
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