レンフォール戦記 序章 第04話 『娼館ペディルム』
エステルとして微行を行っていたリリスは、暖かい陽気を全身に浴びつつ、アザレア大通りに面する歩道を歩き続ける。彼女はよほどの事が無い限り、
街の雰囲気を感じ取るために馬車は使わない。そして、王都上空は保安と安全の意味から政務と軍務以外では飛行禁止なのだ
。
半ば過ぎた頃に森に囲まれた小高い丘に到達する。丘の頂上まで道が続いており、その頂点には両翼前柱廊式のアルマ教神殿がそびえ立っている。純白の大理石が静かな美しさを醸し出しており、純粋に観光資源としての評価が高い。
その、神殿がそびえる丘を中心にして、景観を壊さないように配慮がなされている娼館が立ち並んでいる。どれもが厳しい審査の元の運営で選ばれた、上質の神殿娼婦が働いている。
つまり、レンフォール国内で認可を受けている娼館はアルマ神殿の分家と言っても過言ではないのだ。
その丘の周辺にある娼館の中の1つに娼館ペディルムがあった。
娼館ペディルムの近くまで来たリリスはニマ〜ァと悪巧みの表情を浮かべる。
「ふふ、良いこと思いついちゃった♪」
リリスは誰にも聞こえないように呟いた後に行動に移った。
アプローチ階段のある娼館ペディルムの正門には目もくれずに、裏路地に接する従業員用出入り口まで歩いていく。
「よしよし、誰も居ないわね…うふふ♪」
誰も居ないのを確認すると、リリスは認識障害魔法を掛けてから、こっそりと館内に入る。その理由はウェス・エリュキナに悪戯するためであった。
その時に彼女が呟きつつ浮かべた笑みは、娘アリシアを着せ替えする時に良く浮かべる笑みと非常に酷似していた。
彼女は真面目に悪戯心を忘れない。
館に入ったリリスは館内を隠れるように進んでいく。リリス級になれば、極めて高い魔力隠蔽や魔法構成によって、並みの相手では見つかることは無いが、ムードを大事にするリリスはあえて、見つからないように神経を尖らせて行動していく。
魔法による探知を行わず、自らの目で探すところは彼女のこだわりだった。
やがて、1階フロアの中心に位置する、ドームといわれる、六本の柱に支えられた緩いカーブがかかったガラス張りの天井を有する、三層の吹き抜けホールに到達する。これはドワーフによる凝った建築技法である。
複雑な技法で作られた、そのガラスのドームから光が静かに降りてきて、フロアを優しく照らしていく。この娼館のこだわりの一品である。
フロアの各所でシルクの長手袋と色っぽいが上品さを感じさせるイブニングドレスを見事に着こなした神殿娼婦いた。彼女達は5人の男性客と入り混じって談笑していた。妖艶な女性から清楚な少女の赴きをした幅広い夢魔がいた。そして、夢魔の血を引いているエルフや人などの娘達も神殿娼婦として参加しており、彼女達も惚れ惚れする美しさだ。
血は薄くても、美しさと不老は受け継がれる。
ただし血の濃度の分に応じて出産率は低くなる。
彼らは会話して、気に入った神殿娼婦と交わるのだ。
彼女達が生み出す、ゆっくりとした夢の様な時間。
その魅力は客を信徒に改宗させて、心を掴み続ける。
「皆は頑張っているわね」
リリスは満足そうに呟く。
レンフォール国内の神殿や娼館の発展は夢魔族の安泰に繋がるからだ、祖国の安泰を
喜ぶのは為政者として当然である。
「しかし、ウェスがフロアに居ないとなると…執務室になるわね」
リリスは2階にある執務室へと足を伸ばす。
「ついたついた♪」
リリスは執務室の扉の前に立つと、何かを呟く。
そして、堂々と執務室のローリングドア型の扉のドアノブを90度回右側に回して開ける。
執務室の応接間を通って、曲がり角の先にある執務机のあるに青基調で各所に金の刺繍が施されている
イブニングドレスを着た女性が、暖かい陽気に当てられてか、机の上に伏せて気持よさそうに眠っていた。
暖かい陽気に当てられたわけではない、入室前にリリスが執務室に向けて掛けた、眠りの魔法によって眠りに落ちていたのだ。
「まぁ、ウェスったら…
抵抗(レジスト)に失敗した上に、こんなに気持よさそうに眠っちゃって…
うふふ…」
寝ている女性がリリスが探していたウェスなのだ。
リリスの読み通りだ。
リリスによって眠らされたウェスも、フロアの神殿娼婦達と同じように、シルクの長手袋を身に着けていた。そう、そのシルクの長手袋は神殿娼婦の証であり、
ウェスも副支配人という立場であったが、時より神殿娼婦も兼ねているのだ。
リリスはウェスに近寄ると、彼女を優しくゆっくりと抱える。ウェスを見つめる眼差しはとても暖かく慈愛に満ちている。そして、心なしかリリスの足取りは軽い。そのまま、ウェスをソファーまで運んでいった。
ウェスをソファーの上に横たえると
、なんら躊躇いも無くリリスは、両肩から胸の谷間に掛けて開けたセクシーな
イブニングドレスに手を掛けて肌蹴させて行く。必要最低下の手捌きで、衣服を脱がす事無く必要部位を露出させて行く。
寝ている相手に気付かれる事なく着替えさせる事の出来る彼女にとっては簡単な事なのだ。
「寝てる貴方が悪いのよ♪」
リリスは免罪符を自ら作り上げると、己の為すべきことを行った。
「大丈夫?」
「え…エステル様、大丈夫です…はぁはぁ…」
「御免ね…少し白熱しすぎたわね」
ウェスに対するエステル(リリス)のご褒美は、少しばかり白熱しちゃったのだ。
リリスの性技は想像を絶する快楽をもたらす。つまり、快楽中枢を直接刺激するような愛撫であり、その分だげ体力の消費が激しいのだ。
また、リリスほどの存在と深く交われば、どれほどにリリス自身が気を付けたとしても
、微量ずつだが相手の魔力を奪ってしまう。もっとも高位の夢魔と交われば房中術と似たような効果が出るので、相手にもメリットが無いわけでもない。
こればかりは上位種であるリリムが有する特性であり、リリスの意思を持ってしても全てを抑える事は出来なかった。
リリスはウェスの体力と魔力の同調疲弊を心配したが、彼女の表情は非常に満足げであった。
「無理はしないでね」
「…もっと…しても良かったのですよ?」
ウェスが顔を赤らめて言った。
「無理は駄目よ…」
リリスの目は誤魔化せない。
そっとウェスに近づいて、自らの唇を彼女の唇に優しく重ねて、キスを行った。
リリスはその際に、キスを通じて彼女から奪ってしまった魔力分をやや上回る魔力量をウェスに渡す。
ウェスの全身から感じられる、満腔の悦びを感じ取ったリリスは、その艶やかな目で、
瞳を潤ませて喜びを表現している彼女の表情を見つめる。
ウェスったら…
そんな目をしちゃうと、もっとやりたくなるじゃない♪
ふふ…貴方が悪いのよ?
リリスは、そう思うと、ウェスの唇に重ねていた自らの唇を少し開けると、
口内に仕舞われていたピンク色の舌を使って、目前の唇を掻き分けて、ウェスの口内へと侵入していく。
リリスの舌は最小の動きで、ウェスの舌を捉えて、しっかりと絡める。
いや「絡め取る」と言っても過言ではない。 リリスはその位に自らの舌をウェスの口の中で踊らせいたのだ。
ご褒美の時間は終わっていたと思い込んでいたウェスは、その行為に最初は驚いたが、すぐに嬉しそうに自らも舌を動かして迎え入れていく。神殿娼婦としても活躍しているウェスは降って沸いた幸運を逃すほど鈍感ではない。
経験に裏づけされた、そのウェスの舌技はリリスには及ばないが、神殿娼婦として一流であり、かなり高度だったのだ。
リリスとウェスの舌が口内で怪しく蠢く。
舌と舌が絡み合い、二人の唾液が交じり合って、リリスの甘い唾液が舌を辿ってウェスの口内へと注がれていく。
ウェスは、それを飲み込む度に体の底から燃えるような興奮を感じた。
夢魔族の唾液や汗などの体液には少なからずの興奮作用があるのだ。
静かな執務室に、吐息と口の隙間から時々漏れる、感極まった声をもらしながら、二人はお互いの背中に手を回して静かに抱き合いながら、
舌同士の愛撫の応酬でしばらく激しく愛し合っていた。
やがて、リリスがウェスから離れた事によって、この舌を絡めるディープキスは唐突に終わりを迎えた。
この辺りで止めなければ、再び深みへと嵌ってしまうからだ。
「う…はぁ…あっ…」
ウェスが名残惜しそうに涙目でエステルを見つめる。
それを見たリリスは少しだけ困った表情を浮かべて、優しく諭すように言う。
「私もね…本当は、もっと続けたかったわ…でもね。
あそこで止めなかったら、夜まで続いたわよ?」
「っ!」
ウェスは顔を真っ赤にした。
図星だったのだ。あの時、すでにウェスの精神は、ほとんど快楽に飲まれており、リリスがあの場面で
止めなければ、火照りのあまりに泣いて懇願するまでになっていたであろう。
「それよりも、少しは楽になったでしょ?」
「あっ…エステル様…」
ウェスは自らの魔力が回復している事に気が付くと、そのエステルのきめ細かい心配りに
心が温まっていく。
リリスはウェスからそっと離れると、真面目な表情に切り替えた。
「さて、お仕事、お仕事♪」
リリスはウェスが使っている机の隣にある執務机の席に座ると、
その引き出しの中にしまわれていた書類を机の上に出して、一気に片付け始める。
国家をそつなく運営する政務能力を有するリリスにとって、この程度の量は容易く処理できる量であった。書類に目を通し終えると、羽根ペンを手にして、それぞれの書類に了承の印や、改善点を流れるようなペンさばきで書いていく。
レンフォール王国では紙は珍しくない。
むしろ、品質の良い紙を近隣諸国に輸出しているぐらいなのだ。
その質の良い紙に書かれた書類を手にして、次々と処置を下す。
リリスは、既に自分が居なくても娼館ペディルムが動くような仕組みを作り上げていた。分業化が進んでおり、主にリリスが決めることは娼館拡張や発展に関する事だった。そう、娼館ペディルムにおいてエステル(リリス)の立場は、定期訪問する出資者であり、大まかな経営方針を決める役目であったのだ。
しばらくして、リリスは溜まっていた書類を片付け終える。これは、リリスの優秀性だけでなく、必要書類を厳選して用意しておくウェスの優秀さをもうかがい知る事が出来るであろう。
「予定より早く終わったわね…」
「エステル様、私の方も片付きました」
リリスは少し考える。
そして、ウェスから噂話から市民の情勢を聞くために、休憩を兼ねたティータイムを行う事にした。
ウェスはかなりの事情通であり、色々な情報を入手しているのだ。
「ウェス、ティータイムにしましょう」
「はい!」
リリスは夕方になる頃に娼館ペディルムを立ち去った。
すでに、今後の方針を伝え終えているから問題は無かった。長期にわたって来れない場合の指示も出してあり、磐石ともいえる体制であった。
本当のところリリスは、もう少しウェスとゆっくりして居たかったが、微行に使える自由時間はそれほど多くは無い。ウェスも何かを察しているのかエステルの多忙さを理解しており、文句は何一つ言わなかった。
リリスはウェスに正体を語っていない。
しかし、ウェスはご褒美の後にたびたび受け取るエステルの魔力から、
愛すべき支配人は、身分を隠した上級貴族か、その縁の者ではないかと推測していた。
微行を行って民衆の生活を知って国政に生かしているのではないか…と
もっとも、ウェスはエステルの正体は誰であれ、惚れた気持ちは変わらず今の関係が続けば良いと思っていた。
ウェスは既に末期のベタ惚れだったのだ。
レンフォールの隆盛は誰の目にも明らかだったが、それは決して順風満帆ではなかった。
多大な利益をもたらすアルマ教、優れた知識層を抱え、彼らが生み出す魔法製品は品質の高く、高価で取引されている。
これ程の富を生み出すシステムを有している、レンフォールが普通の国だったら、既に併合されるか属国化されていたであろう。
リリスの優れた点は自らが有する魔王としての力に溺れず、彼女は建国時の混乱が収まると、直ぐに国内防衛戦力に特化したレンフォール軍を建軍した。リリスだけでなく、数は多くは無いが、魔法に長けた夢魔族が多く参加する騎士団の存在もあって、レンフォール軍は大きな抑止効果となっていた。
侮れない軍備は外交の場でも生かされ、南方諸国においてリリスの発言力を確かなものにしていた。
どの様な世界、どの様な時代においても、力なき国家に発言力などは無い。
また、リリスは外征能力を限定した事で余分な軍事費を抑えていたのだ。
また、軍事力による国内治安の安定とアルマ教の発展は、大きな恩恵をレンフォールにもたらした。
レーヴェリア界では珍しく、王都ユーチャリスの各所には文字を含んだ看板が多い。
商店の軒先には、その店が扱っている商品を象徴する意匠の入った
絵と文字が書かれた看板が下がっている。
つまり、レンフォール王国において庶民においての識字率はかなり高い事を意味する。
建国の中心となっている、集まった夢魔の全てが読み書きが出来たのだ。
彼女達が産み落とした子も当然、その教えを受け継いでおり読み書きが出来る。魔法の基礎は読み書きから始まるのだ。
リリスは各所に学問所を設けて、幼少時からの教育を大きくサポートしている。
読み書きなどの基礎教育は国力の底上げにも必要不可欠であり、アルマ教の神殿娼婦においても欠かせないのだ。
当然であろう。
アルマ教の神殿娼婦は神官階級である。
読み書き出来ない神官は、神官として相応しくない。
そして気品とは教育と知性によって培われる事から、
学問もアルマ教の教義に無関係ではなかった。レンフォールに於いては、既に教育の連鎖が出来ていたのだ。
教育と布教は深い関係を保ち、それが夢魔の文化として定着していく。
また、神殿娼婦は交代で学問所の教員を勤めたりもする。
これらが、魔法技術立国としてのレンフォールの基礎を支えていると言っても過言ではないであろう。
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【あとがき】
中世に長靴下やストッキング?
調べてみると14〜15世紀のヨーロッパに布製のモノありましたw
危険な言葉を避けて、少しエッチに書くのって大変だった(汗)
これ以上進むと15禁になるので自粛(汗)
【質問】
彼女達の風習や日常が良く判る、序章ってもう少し続けたほうが良いかな?
それとも、直ぐにでも戦争編に突入したほうが良いでしょうか?
少しエッチな表現は、もう少しソフトな表現にするべきでしょうか?
ご意見をお待ちしております!
(2009年02月17日)
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