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ER戦記 第05話 『グローバルスタンダード』


ER圏とは巨大複合企業である帝国重工(後のER社)の豊富な資金と高い技術と ラングレー王国の優れた文化、佐伯国の海運力、レインハイム皇国の軍事力 が見事に融合して誕生した勢力である。

総帥府の設置してあるルフィル中央管轄区を中心に拡大していった支配圏を各管轄区として区切 り、それぞれを連邦制度で統治し、基軸通貨の浸透と施政と投資に力を入れていった。
その努力が域内総生産を高め世界有数の巨大市場に発展していく。

しかも域内における関税の撤廃による単一市場の利点を最大限に生かして、各管轄区経済と帝国経済を牽引し類を見ない発展を遂げていく事になる。


それに比べてセヴァロス連邦は、膨大な軍事費と、経済政策の失敗による税収低下による慢性的な 財源不足に加えて、更に追い討ちをかけるように大寒波による食糧不足によって危機に直面し民 衆の不満は高まる一方である。

巨大な人口を誇る鳳華民国は省エネルギー概念を持たずに急激に工業化を進めてしまったツケによ る慢性的なエネルギー不足と、国際競争力の無さゆえに商品を売るべき場所が自国内以外に無く破滅的 なデフレに苦しんでいた。

更に、他国を蛮国を見なす鳳華思想による国際社会における孤立化も深刻に響いていた。


国外に対して積極的行動を取らなければ自壊してしまう、引くに引けないお互いの内政事情 と共産主義国同士の慣れ親しみもあって、共闘の道を採させたのは至極自然の成り行きであった。

セ鳳共同危機対策委員会が設置され、お互いの危機を乗り越えようとセ連からはエネルギー資源を鳳華から は食料をお互いに輸出しあって打開しようとしたが、鳳華民国自身も多量の食料を必要としており、継続し た多量の食料を輸出し続けることは到底無理だったのである。

また、鳳華自身も本来輸出したい工業製品はセ連自身も自給できるものばかりであり、2国間の経済交流では 問題解決を図ることは出来なかった。

そこで、セ鳳共同危機対策委員会の導き出した結論は、他国勢力にある地下資源や穀倉地帯を獲得し、占有権 を高めて得られる利潤をもって財政再建を図ることである。

普段ならば慎重論が先に出てくるが、大戦終結から日が浅く、連合、帝国、ERの力が弱まっていると彼らが 思い込んでいる今の現状が、双方の政府に拡大政策を決意させた。

言い換えるならば、生き残る為には手段を選べない状況になっていたのである。


セ連軍は手始めに豊富な油田地帯を有する北方のカラニア国と、大規模な穀倉地帯と地下資源の豊富な セルバニア王国に対して同時侵攻し、国際社会からの激しい苦情にも関わらず、激しい戦略爆撃と戦車師団 の猛攻によって双方の首都を1週間で制圧してしまう。

鳳華人民軍もセ連と時を同じくして隣国の蓬莱国に侵攻する。

蓬莱軍の装備する連合製やER製兵器に比べ、鳳華製兵器は著しく性能に劣り、鳳華軍は大損害 を受けるが、600万に達する陸軍兵力に支えられた物量作戦によって徐々に蓬莱軍を押し切り20日 ほどで全土を制圧してしまう。

更に2国は国際社会の神経を逆なでするように、
戦車で蹂躙―――いや、他国を解放する為に進撃を続けていく。


そして、2国はその矛先を世界有数の地下資源埋蔵を誇るルマール国に目をつけた。

新興国家であるルマール政府に資源地帯割譲や武装解除に加えて共産党樹立などの無理難題を押し付け、 それが断られると即時に、ルマール国内の赤軍パルチザン残党の支援を大義名分として、 セヴェロスク連邦軍と鳳華人民軍がルマール国に武力介入を開始した。

本来、セ連軍と鳳華軍は独立間もない弱体なルマール軍を、精鋭1個軍団をもって圧倒する短期決戦を目論んでいた戦争だが、セ連軍と人民軍は大きな計算違いをしていた。

それは、ER軍の中から抽出された良好な状態を保っている兵団から 編成されている軍事顧問団が万端の準備を整えて待ち構えていた事である。


大軍の行軍に適さない複雑な地形を生かしたER軍事顧問団による辛辣な攻撃と、事前にルマール軍に渡されていた大量の対戦車兵器と携帯用対空火器によって向上した火力によって繰り広げられる粘り強い抵抗によって、国境付近のルマール陸軍基地の瓦礫の山と引き換えに、侵攻軍は多大な損害を受ける事になる。

最大の誤算はセ連軍と人民軍の航空兵力が軍事顧問団の1個航空軍の阻止行動により、全く活動できなかった事である。

それも当然であろう。

使用機材で劣り、燃料不足からのパイロット訓練不足。
そして、留めに電子妨害によるレーダー機器の麻痺による索敵能力の低迷化。

総合航空兵力に劣っている相手ならいざ知らず、 制空戦闘に関して長い経験と優れた装備を有するERFの海外派遣軍『軍事顧問団』相手だから、当然である。

そして、新興独立国家郡から形成される軍と、それを支援するERFがルマール側に本格的に参戦して状況が変化―――防衛側にとって好転、侵略側にとって悪化―――していく。









帝国暦204年6月24日

ER海軍のステルス戦略爆撃機:震山(G24)を改良して設計され、今回が実戦初参加の 征空型空中早期警戒管制指揮官機は、葛城から飛び立った航空機を管制誘導する為に、第3任務艦隊 の150Km北東方の上空3万メートルを飛んでいた。

空中早期警戒管制機「征空」

高高度飛行性能、ステルス性能、居住性に優れ、30tの優れた搭載量と無給油で92時間の飛行時間を誇る 震山を改修して設計された機体である。

防空用のパルスレーザー以外の戦術兵器を外して戦域管制用の量子コンピューターと、電波、赤外線、弱電磁波 、磁気偏差、重力偏差の優れた探知装置を組み込んで、衛星網の支援無しでも万全な支援を行えるように開発 された新世代の早期警戒機でだった。

また、大気境界面との反発力を利用しながら航行する大気層ジャンプ航行によって、震山を越える恐るべき 低燃費を実現してすると同時に、ジェット推進戦闘機や従来型ミサイルではこの高度を飛行できない事から、ずば抜けた機体の安全性が確保されている。



ステルス戦略爆撃機「震山」

飛鳥で培ったスクラムジェットエンジン技術を生かして大戦末期に竣工した、 極超音速巡航戦略爆撃機(HCV)としてERエアロスペース社の航空宇宙第3設計技術師長ソフィア・ラングレー によって開発された機体。

終盤の作戦においてHUCAV(高度無人攻撃機)の母艦や、戦略爆撃任務として参加して重要目標破壊に多大な戦果を残す。 震山は最新技術がふんだんに使用されている機密兵器の一つであり、ERF全体でも1個航空大隊規模しか運用されていない。

そして、この機体に施される爆装は通常弾頭だけではないのだ。
AGM-202ステルス滑空誘導爆弾を18発(撃目標上空で約10個もの面制圧用のブンカーバスター爆弾を散布)やBLU-102ブリュナークを4発搭載した機体が存在している。

BLU-102とは、貧弱の核兵器と呼ばれる非核型大威力兵器の最新型気化爆の事だ。

金属水素化合物をアルミニウム金属で囲んだ微粒粉末を大量に空中拡散した後に点火する爆弾で、粉塵爆発の原理を応用した広範囲破壊効果を有している。また、爆発半径2km四方に強烈な衝撃派による物理的な破壊とコンプトロン散乱による電磁パルスの発生による電子装置に対するに破壊に加えて、更に周囲の酸素をも消費する為に対人殺傷率がきわめて高い。


また、このようなステルス機ばかりの部隊では自らレーダー波を発生させると、その意味が薄れる為に早期警戒機との データ―リンクは必須であった。

そのためにトランスポンダと呼ばれるモデムとコンピューターを通して暗号化された、赤外線やレーザー交信や バースト交信(メテオスキャッター通信)を使用した指向性デジタル通信を行って情報のやり取りを行うのだ。


「エリアZ08-8500にてパッシブモードにて弱電磁波反応、
 赤外線反応による識別不納機多数探知。
 IFF反応無し、敵迎撃部隊と推定」

征空の戦術情報アナリストが応える。

「敵航空兵力の機種と数は特定できるか?」

指揮官の山口陽一准将が尋ねる。

「敵パターンから照合完了。
 敵迎撃部隊はSu-43が48機、J-7が36機、計84機です。

 警戒地域内では他の敵航空機は見当たりません。
 なお、敵は統一行動を取って、グリッド4-25-8にて作戦遂行中の第25飛行大隊に、  対して向かっている模様」

第25飛行大隊は戦闘爆撃機であるF-15S/MTDで編成された航空隊である。
戦術情報アナリストの報告を受けた、山口陽一准将が指示を出す。

「敵さんは、苦しい台所事情の中を、やり繰りしてきてるな…
 よし、ズール4-1とのデータ―リンクを開始せよ」

ルマール上空を飛行する征空は前線航空管制を開始する。

「FAC(前線航空管制官)シルフィより、ズール4-1へ。
 グリッド4-25-8にて制空戦闘を行え。方位(ベクター)4-25-7経路まで脅威は存在しない。
 FL350(高度35000フィート)を維持しつつ、データリンクを開始。状況5、以上(オーバー)」

ズール4-1とはこの空域内で使われている、
F-22Hを装備する制空担当の葛城航空隊の符丁であり、シルフィとは征空の符丁である。

「了解(ラジャー)、アカウント確認、ズール4-1、受信(コピー)
 既定高度を飛行中、これよりデータリンクを開始する。以上(オーバー)」

征空とのやり取りを行ったズール4-1の隊長機は隷下の部隊に対して命令を下す。

「ズールリーダーより各機へ、
 データ―リンク完了後、操縦桿から手を離せ、管制モードを優先する。
 データリンク後は操縦桿から手を離せ。
 チェックせよ」

第3次世界大戦中期以降、ERFの戦術ユニットの大半は管制機からの指示で組織的に動けるように変化している。 これは、操縦桿から手を離せば自動的にコンピューター優先になって飛行バランスを立て直したりする、 デジタル飛行制御プログラムを更に発展させた物である。

時と場合によっては、管制機からの指示により作戦機は自らは全くレーダ波を発する事が無く、最適なポジションから長距離ミサイルによる同時多数攻撃などが可能となった。

これは敵は撃たれる直前まで何処から狙われるか判らず、此方は常に敵を補足でき、敵は攻撃を受けるまで此方を補足出来ない。情報において常に優位に立つ事が出来るのである。

そして、正しい情報を掴みつづける事は、組織的運用においても有利であり、現代戦ではチームワークの 優れた方が勝利する事から、ERFはこの分野には常に力を払っていた。

「管制モード終了後、Z04、Z06、Z08は作戦圏内で小隊規模で行動し、敵部隊の退路を絶て。
 残りは空戦に入れ、以上(オーバー)」

上官の命令により各パイロットが操縦桿から手を放すと、合計32機のF-22Hが制空からの攻撃目標に基づいて、機体内の統合コンピューターが最終計算を行い、機体のインテーク・ダクトの横と下の収納庫に収められている三角柱構造の最新型空対空ミサイルAAM-11に目標に関する最適コースと標的に関する電子情報を伝達した。

三角柱構造のミサイルは弾薬庫の空間を無駄にしなくてすむ。
更に、その構造ゆえに、揚力を稼ぐ事も出来きてステルス性能を増す事もできる。ミサイルにとって良い事ばかりである。

長距離迎撃ミサイルレンジに達した各F-22Hがそれぞれに収納庫を開いて、必要な電子情報を伝達したAAM-11を1機2発の割合で大空に解き放っていく。
編隊から放たれたマッハ6に達する猛速を誇る、合計62発のラムジェット推進ミサイルが容赦なく敵航空部隊に向かって突き進んで行った。

セ連軍と人民軍の航空部隊を誘い込む為に大規模ECMを行っていない現状にもかかわらず、既に旧式化が著しいJ-7はミサイル攻撃の直撃を受けるまでF-22Hから補足されていることに気がつかなかった。

もっともF-15S/MTDですら、満足に補足出来ないのだから、酷な話であった。
セ連軍の最新鋭機Su-43は赤外線異常による探知で、ミサイル接近を自機の2Kmの時点で探知していたが、 秒速2010キロメートルに達していたミサイルに対して有効な回避手段を取る術も無かった。

更に、AAM-11の恐ろしい点は、速度性能だけではない。
管制機からのデータ―と標的直前で自前で集める、画像イメージ、電波輻射、赤外線パターン、弱電磁波の4系統の情報を処理して自動的にデコイか本物かを見分けてしまう点であるから、同レベルの技術が無ければ避ける事は出来ない。

機体の破片やミサイル衝撃波による誘爆、やシステムの誤作動による幸運によって救われた機体もあったが、それでも 54発のミサイルが標的の15メートル付近で爆発し、飛行に必要不可欠な素材を容赦なく破壊していった。

F-22Hの超音速巡航性能を生かした高い移動力とステルス能力と征空の高い管制能力と探知能力を生かし、F-15S/MTDで 編成されている味方戦闘爆撃機部隊を迎撃しに来た敵迎撃部隊をF-22H部隊によって遊撃する作戦である。

囮として使われているF-15S/MTD自体ですら、爆装しなければ制空戦闘機として侮れない性能を誇るからこそ、 余計に性質が悪いだろう。

もし、迎撃部隊が来なければ、地上部隊や集積場や野戦基地を徹底的に空爆するだけである。
例え対空ミサイルであるAAM-11であっても、ラムジェットミサイルの運動エネルギーをもってすれば、装甲車輌や防空ユニットを撃破することは容易いのである。

そして、搭載量からするとF-22HよりもF-15S/MTDの方が優れているから、いかなる状況においてもF-15S/MTDを無視する 事は出来ず、セ連軍や鳳華軍は航空部隊を温存する事が出来ず、常に大きな負担を受ける事になった。

また、ステルス機と通常機を上手く組み合わせた事により、敵は常にステルス機による奇襲を警戒する必要性が出てくるようになった。
機材と燃料の消費に拍車がかり、これも無視できない負担となっていた。

これこそが、シンプルだが、確実に敵に出血を強いていくユリウス・ラングレー少将の立案した航空作戦であり、セ連軍と鳳華軍は知らず知らず、航空撃滅戦という茨の道へ誘導されて突き進んでいく事になる。









先進科学研究所

「昨日の戦闘で使われた新型ミサイル…
 AAM-11の実地評価はどうだったんだ?」

「稼働率は91%で、プログラム関連のバグは7件、
 ハードウェアの問題は11件の報告がありましたが、概ね満足する結果だと思います」

「ふむ」

AAM-11に搭載されている精密機器には、『バイオミメティックス』と言われる生体模倣技術を生かした画期的な物が使用されている。それは、人間や動物の脳の情報処理方法を真似るよう設計されたニューラルネットワークを活用した新開発のシステムである。

先進研の研究者や技術者らが目を向けたのは重量がわずか数グラムで、必要な光学的部品だけでなく、ハードウェアやソフトウェアを管理する生物であった。解析できても、再現の難しい、そのシステムを量子科学によって見事に再現したのである。

バイオミメティックスによって作られた画像処理チップは、基本的には高性能の網膜のごとく機能する。
バックエンド・プロセッサーにデータを送る前に画像を部分的に「処理」してしまうのだ。これに対して従来の視覚システムは、関連情報を抽出するために、多量の大容量データ―を、消費電力の大きいプロセッサーで処理しなければならず、どちらのシステムが優れているかは一目瞭然であった。

「バイオミメティックスを量子科学で再現する方法が優れているのは認めます。
 しかし、これを発展させたアレは危険すぎませんか?

 アーゼン大将の肝煎りで進められている計画はのは知っています。
 ですが、あんな物を本格採用したら人は100年も経たないうちに思考と言う作業を停止して…」

彼は最後まで言葉を続けることが出来なかった。
より強い意志を持った言葉によって遮られてしまう。

「科学とは神と悪魔の表裏一体でが危険な物なのは認めよう。
 しかし、我々に善悪を判断する権利等は無い!!

 善か悪かを判断すのは大多数の無知な人だ・・・
 それに、私は見てみたいのだ。あの技術がもたらす変革というものを…」

量子科学技術の第一人者である博士は助手に対して複雑な笑みを浮かべていた。
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