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ER戦記 第02話 『ラングレー一族』


帝国暦204年4月6日早朝

任務部隊として派遣されていた天城、蒼龍、飛龍の3隻の葛城級次世代大型航空母艦 が戦争終結後に久しく同時に寄航した。

葛城級航空母艦……
2年間に及ぶ第三次世界大戦の初期からERFの機動艦隊の中核を為している空母。

葛城級はレーヴェン級で培われた運用実績を生かした設計、搭載機数の増加を図るための船体長を増大、 装甲版に超軟質ハイセラミック複合装甲の採用、そして新型機関によって得られる大電力により運用可 能となったリニアカタパルトと個艦防空用対空レーザーを装備したあらゆる環境で活躍する事が出来る 新世代の大型航空母艦。

建造された7隻の全てが機動艦隊の中核として大戦中に目覚しい活躍をする。

特にシーナ・ラングレー少将(当時)が指揮する蒼龍を中心とした第3任務艦隊は大海原を駆け巡り、 通商連合軍艦隊を翻弄し続けた。

そして、戦前から竣工していた葛城、天城、蒼龍の3隻に加え、戦時中に完成し戦力化に成功した、 飛龍、雲龍、飛鳥、鳳翔の各艦は第3任務艦隊に編入されシーナの卓越した戦術によってリヴァール 王国連合海軍を中心とした通商連合軍艦隊に大打撃を与え制海維持戦略の継続を絶望的な状態へ と追い込んだのである。


シーナ・ラングレー中将。ERで重要な地位にいるセシリア・ラングレーの長女。
緩やかなカーブの掛かった銀髪に、軍属とは思えないほど優しげな印象を与え、多くの人を魅了し 続ける美貌を持つ。

だが、シーナの本当の真価は外見的魅力ではなく内面的に存在している。人を 安心させ冷静さを保たせる雰囲気と人を結束させる能力・・・これは一癖二癖もあるニーベルンゲン の統括者アーゼン大将を始め、その幕僚ですら同意する程。そして、冷静な判断と極めて高い能力。

これは敵でもある通商連合軍すらも公式に認めており戦史に載せている程である。



戦争終結後、シーナ中将率いる第3任務艦隊は天城、蒼龍、飛龍を中核とする機動艦隊に再編された。

大戦で活躍した第3任務艦隊の主要根拠地の一つ、ラングレー管轄区のフィールズ郡に 隣接するフィールズ軍港に入港したのには理由がある。

葛城級の初期型である天城は3次大戦の戦訓を取り入れた改装の為、飛龍は本格的なオーバーホール と航空隊の再編制の為、既に改装工事とオーバーホールを受けている蒼龍はテスト を行う試作艦載機の受け取りの為に入港したのだ。

このフィールズ軍港ではルフィル軍港に匹敵する大きさを持つので 大型空母3隻と多数の護衛艦艇郡で編制される艦隊を難なく受け入れる事が出来る。

艦艇にとって大事な拠点であるが、人にとっても大事な拠点でもある。

雨も少なく常夏のラングレー管轄区の中心都市であるフィールズ郡には陽気で開放的な住民によって 作り出される魅力と色彩溢れる商業区と観光区、そしてルフィル妖精館に次ぐ規模のフィールズ妖精館 が快く出迎え疲れを癒してくれるから、この寄港は第3任務艦隊の全乗組員の歓喜を呼び込んだのは当然であろう。

第3任務艦隊司令であるシーナ・ラングレー中将がフィールズ郡の東地区に位置するフィールズ 湾岸都市の郊外に設けられたラングレー管轄区軍司令部に呼び出されたのは昼頃であった。

シーナは司令室に入室し、室内に管轄区軍司令ではなく意外な人物が居た事に驚いた。


笑みを浮かべているシーナの母。
ラングレー王国の女王にして、ER重鎮のセシリア・ラングレーである。

「シーナ、直接会うのは1ヶ月ぶりかしら?」

「その位になりますね」と母を敬愛してるシーナは嬉しそうに応える。

「ラングレー王国の行事とシーナの来航が丁度重なって良かったわ。
 本当は一族全員が揃えばもっと嬉しいのだけど…
 皆、多忙でなかなか会う機会が無いのが現状なのよ」

彼女は高い能力に相応しく会長職や主席秘書官のERの重要な役職に就いているだけでなく、 ラングレー一族の代表としてラングレー王国の女王も勤める事から多忙な毎日を過ごしている。

彼女が統治するラングレー王国はエルフ系王族では世界で最も歴史が長く、 王国を中心とするラングレー管轄区はER圏にある5つの管轄区の中で最も 多くのエルフ系住民が生活している。

「まあ その椅子にでもかけて」

「はい」

シーナは優雅に椅子に座りながら思った。
管轄区軍司令ではなくセシリアによって呼び出されたことにより、 久しぶりの親子の会話の為ではなく、何か大事な用事があるのを察した。

「今回の私の艦隊の来航はテストを行う試作艦載機の受け取りと、
 担当技術主任との合流以外にも何かあるのですね」

シーナの問いに対して、しばらくの間を置いてからセシリアが口を開いた。

「ラングレー王国…
 いえ、ラングレー管轄区はどのような戦略的価値があるかはシーナなら判るわよね?」

「勿論です」

シーナは、理解し頷く。

セシリアの言うように、ラングレー王国はER圏において重要な意味を持っている。

経済、工業、政治ではなく文化的中枢としてだ。 エルフの発展と歴史の集約といっても過言ではない。

勿論、文化的中枢を抜きにしても、ER圏外に繋がる海洋航路の戦略拠点としても無視できない価値を秘めている事からラングレー管轄区軍は海洋戦力が他管轄区に比べて充実している。

「シーナ…
 貴方は私に代わって、女王になってみないかしら?

 貴方は知名度に加え多くの人から慕われているわ。
 それに加えて貴方は人とエルフの混血。
 今後のラングレー王国の象徴として相応しいと思うの。

 ラングレー王国の安泰はERの安泰に繋がるわ…
 返答は直ぐにとは言わないから、考えてみてもらえるかしら?」

セシリアの言った事は聡明なシーナですらも予想出来なかった内容であった。





数時間後

シーナがセシリアのいた管轄区軍司令室から辞してから、 担当技術主任と合流する為に第3任務艦隊の旗艦である航空母艦・蒼龍の司令室に待機していた。

そこで、シーナは本日3度目の驚きを迎えることになる。
1度目は母との予期せぬ再開(再開といっても1ヶ月ぶりだが)、2度目は女王の件、3度目 は担当技術主任として赴任してきた技術仕官の存在である。

「ソフィア・ラングレー技術少佐、本日17時25分に蒼龍に着任致しました」

ソフィア・ラングレー
彼女はシーナと同じくセシリアの次女である。

シーナと同じくセシリアの特徴を濃く受け継ぎ、流れるような銀髪に美しく整った顔立ち。
見事に引き締まった体。
大きな違いといえば、エルフの証である長い耳ではなく、人間と同じであること。

それは、彼女の体から自然と沸いてくる強力な魔力が貯まり過ぎないように生態変化の魔法を常 に使いつづけているからである。

魔法素質に恵まれたソフィアであるが、彼女は魔法よりも航空機 に興味を持ち、戦闘機パイロットになりエースにまで上り詰めた。
しかし、やがて航空機設計に興味を持ち技術畑に転身して現在に至る異色の経歴の持ち主でもある。

ソフィアは軍人としての挨拶と報告が済むと、個人としての挨拶を行った。

「シーナ姉さま、お久しぶりです」

「着任してくる技術主任はソフィアだったのね。
 此方こそ宜しく頼みます」

久しぶりに会う妹に優しく微笑みかける。
妹のソフィアは嬉しそうに返事をした。

「ソフィア…
 貴方は技術部からの派遣要員としてERエアロスペース社に行ってもう3年になるわね。
 職場には慣れましたか?」

「はい。仕事は忙しいけど親しい同僚も出来て楽しいです。
 それに色々な航空機に乗れるのが楽しいの」

笑顔で応えるソフィアを見てシーナは微笑む。

「ソフィアは何処に行っても飛行機を操縦したがるのね。
 やはり今回の試作機もあなた自身で?」

「はい。試験段階の技術を多数盛り込んだ試作機なので、
 実際に航空母艦から飛ばしてみないと判らない事が沢山ありますから、
 安全確認を含めて自分自身で飛ばしてみたいの」

ソフィアの設計する機体は元・エースパイロットの経験に加え、自分自身で飛ばし安全性を確かめる方法 をとっている為に、現場での運用評価はかなり高い。

二人は同じ軍属とはいえ、艦隊勤務と技術部勤務では殆ど接点が無かった。
それだけに、期間は限られているとはいえ、同じ場所で仕事が出来る事に二人の表情は明るい。

「これで、イリアが来れば3姉妹が揃う事になるわね」

シーナは冗談とも願望とも判断出来ないような口調でソフィアに語りかけるが、姉の真意を測りかねたソフィアを察してか、シーナは言葉を続ける。

「ふふっ、今度暇が出来た時に私と貴方とイリアとイリナで食事を…
 都合があえば母も誘いたいわ」

問いに対して肯定的に頷いたソフィアに満足し、シーナは本題に入り始めた。

「さて、ソフィア…一つ聞きたいのです。
 航空母艦を使用する運用実験ならば葛城級ではなく、
 レーヴェン級を使えば機密保持も楽に出来ると思うのです。
 なぜ各国の注目の的となっている葛城級をテストベースに選んだのですか?」

レーヴェン級空母
帝国暦157年に帝国条約機構軍とER軍で使用する為に大量建造された航空母艦で、現在 では同型艦の多くはは戦没するか、一部は大改装され現役に留まり、残る未改装の艦はカテゴリーB として予備役に位置付けられている艦艇である。

僅かに間を置いてソフィアが口を開く。

「レーヴェン級は葛城級のようなリニアカタパルトを備えていませんから」

シーナには、愛する妹の立場によって何か話せない事情があるのを察した。

「事情は判ったわ。
 ところで…テストに必要な機材等はどのくらいの期間で搬入を終えますか?」

「シーナ中将、このファイルに詳細が書かれております。
 早速、目を通していただきたいと思います」

シーナはソフィアから手渡されたファイルを読み始めた。
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