■ EXIT
ワイルド・ワイド・ウェスト 18 『英傑たち』

薄暗い地下空洞に、無数の星が静かに広がる。

小型プラネタリウム装置と、淡い香の香り、 フェリペのメイド部隊が、あっという間に空洞の色合いを変えてしまった。

ジジャや女たちは、驚くばかりだ。


「それにしても、よくここが分かりましたね?。」

とても組み立て式とは思えない白いテーブルとイスに座り、 極上のハーブティを、存分に味わいながら、 エカテリナは、疑問に思っていたことを聞いた。

「ほっほっほっ」

フェリペが笑い、ガッハが納得できないという顔をする。

この新型ボーリングフィールドマシンは、 自動操縦で穴を掘り進みながら、壁面を強化し、 掘った土や岩は、 振動型輸送コンベアによって運ばれる。

このコンベアは、磁力を発生させることで、 リニア式高速移動路にもなるという優れものだ。

マシンの移動距離に応じて、自動的にコンベアは延長され、 ほとんど人の手を借りずに目的地へのびていく。
トンネルの整備は、後ろから目的に応じて施されていく。

これはもう、ボーリングマシンというより、 無人の大型プラントである。

最後の最後で、待ちきれなくなった全員がマシンの後ろまで、 移動カプセルで来ていた。

ところが、街の中心に出るはずだったのを、 フェリペが急に言い出した。

「ん・・・・?、おぬしやわらわを呼んでいるようだえ。」

とそっちへ強引に進ませたら、あの地下室を直撃したのだそうだ。

『じ、地獄耳っ!』
『あ、あ、ありえねえええええっ!』

ちょうど、フェリペたちの事を話していたのだから、 全員が、背中に冷や汗をかいたのは、言うまでもない。

「本来は、試掘探査プラントの試作品での。 わしが長年研究開発をさせておったものよ。」

鉱山はまず探すのが大変なので、掘らずに探査する方法は、 ずいぶん研究されたが、結局は『掘ってみないと分からない』。
それをいかに簡素化、無人化、スピード化をするかが、 鉱山関係者の長年の懸案だったのだ。

思いっきり自慢そうなガッハだが、

「そういうご自慢は、予算も考えませんとね。」

サーニャに釘を刺され、うっと、酢を飲んだような顔をする。

サーニャ・エグゼリオンは、 エグゼリオンコングロマリットの総帥であるだけでなく、 株を初めとする金融市場では、『天災』のあだ名を持つ。

額の多少に関わらず、なぜか世界的に相場が大混乱し、 彼女一人勝ちでなぎ倒されてしまうので、恐れられている、 とんでもない相場師である。

費用捻出のため、彼女が周りの迷惑もかえりみず、 株、レアメタル、食料、原油などで同時多発的に価格変動を引き起こし、 世界規模で、市場をひっかき荒らしたのは言うまでもない。

さすがのガッハも、サーニャの莫大な資金協力無しには、 これだけの無謀な工事は不可能だった。

「そんな無茶を・・・。」

思わず涙ぐむエカテリナに、全員が優しい目を向ける。

「我らのプライドもかかっておったでのう。」

艶然とした笑みを浮かべ、フェリペが厳かに言った。
きょとんとするエカテリナに、笑みが苦笑に変わる。

エカテリナは、飛行機事故の事かと思ったが、 どうやら意味が大きく違う問題らしい。

彼女に惚れてしまった議員や貴族などの男たちが、救出のために動き回り、 混乱極まりないリヴァールの議会がまとまり、 ついには国家規模のプロジェクトが動き出したなどと、 神ならぬ身に、分かるはずもない。

彼女のパトロンを自認する4人にとっては、 彼らに先んじられては、面子丸つぶれ、 プライドに関わる事態でもあったのだ。

『そなたは、己がどれほどの者か、とんと気付かぬらしいのう。』

心中で苦笑するフェリペ、だからこそ愛おしい。

すると、急にエカテリナの顔が輝いた。

「ガッハ様、あの機械は“試掘探査プラント”とおっしゃいましたね?、 資源調査用のセンサーはありますか?。」

「ああ、もちろんだが、どうかしたのか?。」

突然の質問に、面食らった顔をして、ガッハは応えた。
この娘は、いつもガッハの予想を遥かに越えた言動をする。

娼婦としての美貌と身体、技術はもちろんだが、 言語、経済、科学、数学、経済、芸術、スポーツ、 どれだけ話しても、話し飽きることが無いほど、 教養と知性が深く、感性がすばらしい。
みな、彼女に深く深く、しびれてしまう。

『このような女性と、二度と再びめぐり合うことは出来ない。』

エカテリナを見いだしたガッハやフェリペたちも、 その後の彼女の客たちも、 みなその事を、痛いほど感じる。 彼女を守らねばならないと、思うのだ。



前に彼女が、地下空洞に高周波の口笛を流した時、 壁面の反射が異常であることに気付いた。

エルフの耳は、平均で人間の数倍、 場合によっては数百倍という、特殊な音域を聞く能力者もいる。

高周波の反射音は、一種のレーダーとして、コウモリなどが使うことで知られている。
障害物から、餌や敵の種類まで、分類し、聞き分けていく。

エカテリナも音楽の才能とともに、そうとう特殊な音域まで聞こえる。
反射音に気付いたのも、不思議は無かった。


足元の小石を無造作に渡され、 ガッハは鉱山技師用の、常時携帯している拡大鏡を目にはめ、じっとのぞきこんだ。

黒曜石のようなツヤのある石だが、幾重にも絡まりあった結晶のような層があり、 非常に変わった構造を持っていた。

彼女自身気付いていないが、実はこの知識も、 エカテリナが祖母から教わったものだったりする。
それも、王宮にわざわざ収められた、最高級鉱石。

「むっ、むむむ・・・」


目の色を変えたガッハが、センサーを向けて5分もすると、 計測器が警戒音を立て続けに発し出す。

「これは・・・マンガン岩塊か?・・・いや、なんだこれは?!」

それは、結晶ではなく、化石だった。
分析器が、微細構造をはじき出し、画面に現す。
おびただしい、ミニサイズの花のような節を持つ長い管形が、 無数に絡まりあい、固まっていた。

足元に無造作に踏みつけているがれきを見て、 ガッハともあろう者が、思わず声をふるわせた。

「ま、まさか・・・?」

「この地層は、10億年ほど前の海底だったようです。」
よく見れば、ところどころに魚や貝のような化石ものぞいている。

ガッハは、おもわず青黒く分厚い地層を見上げた。

「ネクシア草群落か!」

砂漠の植物には、好んでナトリウムを取り込む植物がいる。
乾燥しきった環境で、塩分によって、水分の保持能力を高めるためだ。

ネクシア草は、古代のこの星の海底に存在し、 5億年前に絶滅した、半植物半動物の奇妙な生物だった。 動く能力は無いが、生物にはありえぬほど重く固い殻をまとっていた。

その殻は、大量の重金属を含んでいた。

強固な殻を作るために、普通の生物には毒となる重金属を、 海水から、好んで取り込む特殊な代謝機能があったらしく、 海底の火山脈にある、大量の重金属を含む温水噴出口に、 大群落を形成することがあった。

マンガン、クロム、モリブデン、ステンレス、 極めつけ貴重な重金属類を、けた外れに多く含むことから、 鉱脈を探す鉱山士の間では、どこかにあるという巨大な群落を夢見て、 『夢の花園』という、金鉱以上の伝説としてささやかれていた。

数万年の時をかけて、巨大なサンゴ礁が出来るように、 このネクシア草の群落は、ぎっしりとその殻が絡まりあい、重なり合い、 鉱山王ですら、呆然とするほどの『夢の花園』を形成していた。

そして、そのかけら一つで、センサーの検出した数値は、 故障ではないかと思うほど、莫大な含有量をはじき出していた。

「はふう・・・」

コングロマリット総帥は、蕩けきった顔で、へたり込んだ。
壁面が全て、黄金を敷き詰めたように見えた。

フェリペとリンゼは、価値が分からないため、きょとんとしている。

「金鉱石の、5倍・・・いえ、10倍近い価値になるわ。」

金鉱石は、トンあたり数グラム金を含めば優良とされる。
10グラムを越えるのは、世界的な高品位鉱山だ。

二人はあ然として足元を見た。

「いきなり市場に流したら、どの産業も大騒ぎでしょうね。」

熱いため息を吐き、目は異様な艶を帯びている。

先日まで、あらゆる市場で『大騒動』を引き起こしていた『天災』サーニャは、 今すぐ、これを市場にぶち込んで、大混乱を楽しみたい欲望で輝いている。
こんな目を見たら、彼女のことを知る市場関係者は、 『やめてくれ』と、全員泣いて土下座する。

「市場価格を混乱させないよう流すなら、投資額の何倍、いや何十倍?。」

ボーリングフィールドマシンには、 小国なら、数年分の国家予算に匹敵する金が投資されている。

これだけの莫大な資金は、動きを誤魔化すだけでも、 王宮事業、軍装備と運輸、コングロマリットの流通、鉱山事業の関係事業所など等、 とてつもない作業が必要だった。ワイロに使った金も半端ではない。

これを『出してみせるわよ』と、決断したサーニャもサーニャだが、 それを関係する事業でプラスへ転換し、 4人で、その分を稼ぎ出す計画まで出来ていたのだから、 (でないと、サーニャにケタはずれの税金がのしかかる) さすが『三枚のジョーカー』と『鉱山王』といえよう。

それを一気に大黒字にしてしまったエカテリナは、 さらに『とんでもない』わけだが・・・。


ガッハがにんまりと笑う。

「鉱床とちがって、大きさはさほどなさそうじゃが、 それでも、現在の市場価格で、70倍から90倍は見込めそうじゃな。 このマシンで小出しに採掘すれば、多少効率は下がるが、 ほとんどコストもかからん。利益は4人で折半としよう。」

ヒュウ

リンゼが思わず口笛を吹いた。

「気前がいいわね。」

だが、ガッハの視線でその思惑に気付いた。
この4人が潤えば、それは間違いなくエカテリナに向かうのだ。
『さすが・・・鉱山王。』

リヴァールに戻れば、彼女は4級市民のただの娼婦に過ぎない。
彼女に多額の金を持たせるのは、本気で命に関わる。

それより、彼女を愛している4人が、彼女のために使う分には、 誰も文句も言えなければ、手出しも不可能。

肥満して脂ぎった男だが、そのスケールの大きな愛情には、 愛のライバルとして、頭が下がる思いだった。

そして、エカテリナ。

この無私の娘は、自分の利益などこれっぽっちも眼中に無い。

迷惑をかけたことが、利益につながったのを、純粋に喜んでいた。

『あなたは・・・ほんとに・・・困った娘ね。』

思いっきり抱きしめたい衝動に、必死に耐えるリンゼだった。
いや、全員同じ気持ちで、エカテリナを見た、が・・・、

「んっ、んんっ!」

すでに耐えてないのもいたりする。

目をギラギラさせて、獣じみた欲望で、 ゴスロリドレスが、大胆にはだけ、小ぶりな胸をぴんと勃起させて、 エカテリナにむしゃぶりついている。

「さ、サーニャいつのまに。」

金塊の幻想と、市場の大嵐の妄想で、興奮しきっていたのか、 後ろからしがみつき、よだれに唇をテラテラ光らせながら、 エカテリナの首筋を愛撫し、ねぶっていた。

「あああ、だ、だめ、こんな所で、だめですぅ」

さすがに羞恥で赤く染まった華麗な首筋に、 濡れた赤い唇が、激しくしゃぶりつき、あえぎ、身体をこすり付ける。

「だめよ、だめ、止まらないの、」

酔い痴れた目は潤み、羞恥から立ち上る香りに、ますます興奮し、 黄金の幻想にしびれて、腰を、恥ずかしげも無くガクガクと動かす。

それをなだめようと、エカテリナの長い指先が、 女香を放つ秘所にすべりこみ、そっとやさしくくねり動いた。

「うぁっ、あああっ!」

獣のごときうめきをあげ、一匹の雌と化したサーニャは、 自ら細身の腿を開き、浮かした腰を、激しくくねらせる。

潤んだぽってりした陰唇が、白い指先に嬲られ、 ぬらぬらとあふれる愛液で、チュプチュプと卑猥な音を立て、 爪先がひねられ、小さな肉の芽をほじり出し、 淡い赤みを帯びたそれを、絶妙のかげんで、こすり、撫で回し、 勃起させた上に、きゅぅっとつまみあげる。

「あひいいっ、ひっ、ひいっ!」

獣じみたあえぎは、幼さすら漂わせる美貌に、淫靡なツヤをまみれさせ、 まごうことなき、妖艶なメスの顔を晒して、 伸びた舌先から、銀の糸を引いて口もとを濡らす。

ぼっと、白い肌が赤く染まり、絶頂に細い腰をびくびくと震わせ、 笑い顔で開いた口が、白い歯をきらめかせる。

 かぷっ

 「ん・・っ!」

 かすかに、エカテリナの眉が震える。
首筋に食い込む歯型が、ちりちりした痛みを伝える。 だが、指は妖しいうごめきを止めず、手元まで濡れながら、 陰唇を開き、中を探り、貪るように描き回す。

「ひっ!、あああっ、かんっ、じるうっ!」

ここがどこかも忘れ、サーニャは激しい声を上げ、 小ぶりなふくらみを、エカテリナの艶やかで美しい背筋に押し付け、 身体ごとこすり付ける。

 ガブッ、ガブッ、ガブッ、

歯型が、何度もエカテリナの身体を彩り、 その痕を、赤い濡れた舌がいとおしげに嘗め回し、 指先が突き上げるたびに、痙攣し、 さらにあえぎを、噛み付き、嘗め回し、彩っていく。

「はあんっ、ああっ、あんっ、あっ、」
 「うおっ、ああっ、おおおっ、ひっひっ、あひっ、いくっ、いくっぅっ!」

全裸の二人が絡み合い、噛み付き、嘗め回し、 こね回し、突き上げ、探り出し、 汗と愛液にまみれた白い肌が、暗い地下で妖しく蠢きあう。

小さな舌先が、無毛の恥丘をはいずり、 赤い妖艶な舌が、ふくよかな香りの谷間にもぐりこみ、 お互いの秘所に顔をうずめあって、激しく求め合う。


「くうううっ、激しいのう。」

喜悦の笑みを浮かべ、手ずからマイクロディスクカメラをのぞき、 フェリペはサーニャとエカテリナの乱れ狂う乱舞を、夢中になって写し撮る。 撮影マニアでもある彼女は、この行為そのものが、SEXに等しい快感でもある。

「はあ・・・ああ・・・はあ・・・」

リンゼが、ブラウンの目を潤ませ、唇を濡らして、 ムチの先を噛み、嘗め回し、腿をこすり合わせている。
濡れた雫が、腿からヒザまで垂れてきていた。

もちろん二人とも、自分の最高潮まできたら、乱入するつもりだ。
凶暴な妖しい目の色は、猛獣のそれにも等しい。
並みの男なら、萎縮して縮こまりそうなほど、 赤く興奮したまなざしは、エカテリナの華奢で愛らしい姿に注がれていた。

「よろしいので?」

ウェモンが、申し訳なさそうにグラスを干した。
口を「へ」の字にしたガッハが、ちょっとつきあえと、横に座らせたのだ。

「まあ、しかたあるまい。今手を出すと、命が危ない。」

今のフェリペたちは、飢え切った雌トラのような状態だ。
ガッハから見れば、若いだけに止めようも無い。

「もうしわけありません。」

ガッハの配慮と、エカテリナのガードとして、両面から頭を下げる。

同時に、フェリペのメイド部隊長のクルーアも、 クールビューティな美貌に、本気で申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

主の性癖を知り抜いているだけに、今のフェリペの邪魔をしたら、 『悪魔のしっぽを踏む』に等しい。
その後始末には、散々苦労させられているのだ。

絶妙の手際で、干したグラスを新たに作り、 かすかな合図で、5人のメイドたちを呼び寄せる。

「しばしの間、私たちでお慰めさせていただけませんか?」

ずらっと、妖艶なダークエルフのメイドたちが、並んだ。
さすがにフェリペの選び抜いたメイドたち、美しく壮観な眺めだ。

「ちょっとお待ちください、ここでお客様をおもてなしするのは、  私たちの務めですわ。」

そこへ、ジジャとファミが、ミューンの娘たち4人を連れて、艶然と微笑んだ。

「ほほう、砂エルフか。エカテリナがどういう教育をしているか、 見せてもらおうじゃないか。」

さすが鉱山王、彼女たちの礼儀作法や姿勢に、 一目でエカテリナの『教育』を見抜いた。

メイド部隊と砂エルフたち、肌合いは似たようなものなのに、 色香や雰囲気では、圧倒的に砂エルフたちの方が上だ。

気おされてしまったメイドたちを尻目に、 ガッハは平然と、砂エルフの娘たちの中で、くつろいだ。

「まあ、がっかりするな。
あれだけの女たちに、エカテリナの教育だ、 戦闘用の部分が多いあんたらには、しかたないさ。」

がっくりするクルーアに、ウェモンがクスリと笑いかける。

メイド部隊は、フェリペの腹心であり、近衛兵に近い。
その戦闘能力は、軍の特殊部隊を上回る。
フェリペの元で、それを感じさせないように磨かれているが、 さすがに色事では、エカテリナとその教育に適うわけも無かった。

そして、素手の戦闘力でウェモンに匹敵する相手は、ほとんどいない。 彼女たちの戦闘力を見抜けるのも当然だ。

「あなたは、それを身をもって知ってるわけね。」

憮然とするクルーアに、ウェモンが『まあな』と苦笑する。

「今度教えてちょうだい。」

くやしそうな本気の目に、おやま、とあきれた顔をする。
もちろん、色事やベッドの腕前の話。
実際、エカテリナの技量を身体で知っているウェモンは、 ルイーデの館で、女たちへの、実戦指導員的な部分も受け持っていた。

「あとで後悔してもしらねぇぞ。」

クルーアは豊満な胸を反らせた。
彼女の半生からすれば、新たな男の一人や二人受け入れて、 後悔するほどやわなつもりはない。

「のぞむ所よ。」

また一つ、エカテリナを中心として、 奇妙な縁がつながることになる。
次の話
前の話