■ EXIT
男たちの演歌・女たちの艶歌 その2

近代的な軍隊になればなるほど、 補給や整備など、何一つおろそかに出来るものは無い。
気力や根性だけでは、船も戦車も飛行機も一ミリたりとも動かない。

そして、 火薬を満載した軍艦は、まかり間違えば小さな火事一つでも爆沈する。
航空機は、ビス一本抜け落ちただけでも、エンジントラブルを引き起こす。
砲塔を動かせなくなった戦車は、格好の的にされる。


まして、情報の錯綜する戦場では、 補給と整備の困難さはいかなるコンピューターでも処理不可能と言っていい。

あのERですら、量子コンピューターによる超高度予測プログラムよりも、 現場の判断が優先される。

最後は人間次第、 整備の男たちはそれを、身をもって知っている。


居酒屋『だいかぐら』で行われた、第一空軍基地、第二陸軍基地、第四海軍基地、 整備関係者代表による合同大宴会ののち、 司令官宛に、各整備部隊から提案書が出された。

先日の火災を教訓にし、より高度の整備と、活動の効率化もはかれる、 人員の照合を高速化するシステムである。
常時携帯している小型通信機に、簡易なシステムを組み込むだけで、 対象の名前、所属、階級が自動的に表示される。
非常時の混乱を防ぎ、搭乗員にあわせた整備や、連絡ミスの防止、 補給の円滑化などの利点が挙げられ、予算も非常に安い。

もちろん、即座に採用された。

裏で、小型通信機に3分ごとに0.3秒発信を行わせ、 基地内の監視システムと、ハイレベルのチェック機能が組み上げられている。

システムは、偏執狂的な完成度を誇っていて、 機能は高度化しながら、使用感はほとんど変わらないため、 監視システムを使っている警備担当者たちが、 システムが高度化していることにほとんど気づかない。

そして、小型通信機をはずして活動するものへのチェックは、 度を越すほどの厳しさであった。

これだけでも、大変な改革なのだが、 さらに整備部代表者たちは、海軍基地指令を動かし、 安いが上質の酒を輸入させ、各基地内の酒場に納入させた。 表向きは、先日の火災援助へのささやかな礼ということにしてある。

整備部が音頭を取って、小規模な交流会(というか宴会)をちょくちょく開いた。
これが一時的とはいえ、各基地内部の交流を活発化させた。
大規模な基地でも、顔見知りが増えると情報が早くなる。

ほぼ完全に基地内部に侵入した異分子は、身動きが取れなくなった。


『うわっちゃ〜〜』
基地の状況を調べたチイは、 恐ろしく巧妙なシステムに舌を巻いた。

人員確認が、小型通信機で簡単にでき、 裏で、超高度の監視システムが、スパイ活動を厳しくチェックしていく。
さらに、人間がそれを高度化する。

基地の酒場で、先日の火災への疑問が噂される。

元々下層の兵士たちは、本能的にこの間の火災へ不審を抱いていた。
『俺たちの基地を、よそ者に勝手にさせてたまるか!』
整備部隊がそれとなく広めた話題に、どっと意気が上がる。
人の判断力はスパイにとって、一番の敵だ。

こうなると、通常のスパイ活動はほぼ不可能に近い。


彼女のように、地元になじんている特殊な例はとにかく、 外部から色々な目的で入り込んできた同業者は、 新しいシステム(酒盛りも含む)稼動後、悲惨な事になった。

『あの人たち、やるわねえ』
かなりの人数が監視を受けたり、逃亡して行方不明になり、 グラムリングシティ周辺の三基地は、内部情報が非常に漏れにくくなっていった。

以上の報告を受けて、上司たちは愕然としたらしい。
(音声のみの通話で顔は見えない)

特に、強力な新システムは、簡素なくせに恐ろしく強力な防壁が組んであり、 手も足も出ないと言う。

困り果てる上司のボヤキを聞きながら、チイは背筋に一筋汗をかいている。
上司は自分のことで頭がいっぱいで、ある事実に気づいていない。

誰も突破不可能なプログラムの中身を、どうしてチイが知っているのか?。


彼女がこれらの情報を入手できたのは、非常に幸運な偶然があったからだ。


先日の『だいかぐら』整備部合同宴会の時、 一人だけ妙な男がいた。

はっきり言ってデブ、 ぼさぼさ頭に、分厚いメガネでニキビづら、 服の色もちぐはぐなら、靴下は茶色にピンクの水玉という破滅的センス。

そのくせ目はギラギラして、気持ち悪いぐらいだ。

酒には弱いのか、コップ半分のビールで真っ赤だ。
みんな気色悪げにそいつをチラッと見て、目を背けるが、 親分のヴァンが、 「今度の仕掛けは、こいつが組み上げたんだ。」 と大仰に褒め上げ、ちょっとだけ周りの見る目が変わっていた。
かえってぶすっとした顔になったが、 実は頬のところが緩んでいるのをみると、やはりうれしかったらしい。
ある程度話を聞くとふらっと出て行ってしまった。


なんだあいつ、と周りがぶうぶう言うのを、 ヴァンがその場はとりなしていたが、どうもチイの記憶に引っかかる。

『あいつどっかで・・・・・あ〜っ、あのオタク野郎か!』


少し前に、あるネットアイドルの巨大フィギュアが、 グラムリングシティの情報センターに飾られた事があった。

飾られた初日に売って欲しいと執拗に頼み込み、 ついには警備に追い出されたのがあいつだった。
たまたま、チイはイベント用の酒やつまみを配達していて、 もめてる所を見たのだ。

『たしか、ヒラガ・大滝とかいったっけ』


基地の中ではかなり嫌われ者らしく、傍若無人、傲岸不遜、 親しい人間がほとんどいない。
だが、システムプログラムや、構造設計図を書かせたら、 異様なほどの力量があり、むげにも出来ないらしい。
なぜかヴァンだけは、以前からけっこうかわいがっていて、 彼の言うことなら聞くらしかった。

気になったチイは、 フィギュアが作られたネットアイドルの追っかけ連中に、 ネット上でたずねてみた。

『ヒラガ・大滝』の名前を出すと、チャット画面がどよめいた。

クレイ>ヒラガ・・・あ!
粉山椒>げっ、ジェネラルヒラガーか?!

ジェネラル(将軍)?。
いろいろ聞いてみると、ネットおたくとしては相当なビッグネームらしい。

実は第四海軍基地は、軍ネットおたくの巣窟と言われていて、 マニアック趣味者たちの巨大情報サーバーまであったらしい。

それの管理人、というか将軍様がヒラガというわけだった。
実際そこはヒラガの王国であり、怒らせたら相手は間違いなく致命傷を負うと言う。

先日の火災でサーバーをダメにされ、血の涙を流したとか、 腹を切りかけたとか、まあそれほど怒り心頭に発したらしい。

『だとすると、火災が計画的犯行と聞いたら激怒するわよねえ。
いったいこいつ何を組んだんだろう?』

こういう先読みをしていく能力は、チイの優れた特性だった。
秘書を務めたら、まず間違いなく最優秀なクラスになれるだろう。

さっそくネットおたくたちから、情報収集を始めた。
ヒラガに接近してみる事にしたのだ。
『おたくは無理でも、コスプレイヤーぐらいならなれそうね。』

酒場の雑多な人種とつきあい慣れしているチイは、 見かけや趣味にはあまりこだわらない。
『変』なヤツの方が面白いと思っている。



高度CG技術と、こだわりのデザイン、 そして最新のプログラムを組み合わせたネットアイドルは、 バーチャルネットワークのシンボルとして、非常に多用されている。

ただ、人気のあるデザイナーは少なく、 注目を浴びるのは一握りである。

それらの新作は立体映像で、まず現実のお披露目をして、 高額のスポンサーを探すのだ。

当然、ネットおたくたちも『目垢(一般大衆に見慣れられること)』がつく前の、 レアな映像をどうにかして得ようと、必死になる。

凄絶な攻防戦が、発表会では演じられることになる。

だが、ヒラガは悠然と構えていた。
「あなた、ずいぶん平然としてるわね。」

ヒラガがじろっと目を向けると、 サングラスをかけた細身の女性が、フィギュアを見ながらメモを取っていた。
「この程度の情報なら、オレにはすぐ手に入る」

「へ〜、すごいわね。」
さすが、おたくのジェネラルというところか。
「でも、あのマントの色、ちょっと気にならない?、もう少し金をまぶした方がいいと思うけど。」

ヒラガが細い目を広げた。
「ああ、俺も気に食わん。それにベルトのバックルが平凡すぎる」

「うん、さすがに目の付け所が違うわね。あれだと他が立ちすぎるわ」
ヒラガの口が少しだけゆるんだ。

だんだん、会話が進んでくると、 デザインのオリジナリティや、色の選択など、次第に場を忘れて熱中してくる。 コスプレで、実際の作る場合はどうするかの話になると、 卵パックの利用から、3次元設計図、マイクロ配線の印刷法から新聞紙の固め方まで、 実に高度な(?)話になだれこむ。

なぜこんな話になったかなど、どうでもいいというのが、 おたくのおたくたるゆえんというか。
しかし、涙ぐましい努力というか、とことん凝りに凝った製作法は、 聞いていてなかなか面白い。

半端で満足しないのは、 ヒラガの根っからの性格らしい。

あの整備の神様ヴァン・マツウラが、 ヒラガをけっこう可愛がってるというのは、 こと自分の仕事に関しては、一切妥協しない根性に、 一目置いているからだという。

予算と時間、それらの兼ね合いと設計図、 それをぜひ身につけてみたいというチイに、 ヒラガは優越感をくすぐられて、夢中になってきていた。

2日後に、数十枚の設計図を抱えてきたヒラガを見て、 チイもさすがに感服してしまう。
超精密な設計図に、計画表、予算予測などなど、 軍のプロジェクトでもやれそうな仕様だ。

こういう専門バカ、特に大バカほど可愛いのがチイの性癖。

死に物狂いで働いて疲れきった男を見ると、 その満足げな顔に、ひどく身体がうずくのだ。

ヒラガはヒラガで、サングラスを取ったチイをみて、思わずまじまじと見つめてしまった。
「どうかした?」

「あ、い、いや・・・」
真っ赤な顔が、何より雄弁に物語っている。

チャイナドールのようなかわいらしい顔立ちに、女性の妖艶さを含んだ色香。
こういう女性と間近に接した事のないヒラガは、明らかに戸惑っていた。

その上、チイという女性がコスプレをしたらどうなるか、 考えただけで、頭に猛烈に血が上ってきた。

『自分の完璧なコスチュームを付けさせたら、 ネットアイドルなんか目じゃないかもしれない!。』

頭ではそういう理屈付けをしているが、 それが初めて感じた恋だということには、到底気づけそうに無い男である。


「完璧だ、完璧だ、完璧だあああっ!」

ヒラガがわざわざスタジオを借りて、チイがコスチュームを身に着けると、 絶叫するのも無理は無いぐらいはまっていた。

『龍の試練』という超メジャーなゲームの女勇者役、 ほっそりとしていながら、力強さと美しさを兼ね備えたスタイルは、 額の赤い宝玉が見事に映える。

さまざまなポーズをデジカメに取り、 あらゆる角度を映したがった。

かなり恥ずかしい位置もあったが、チイはにっこり笑って許した。
だが、今度はヒラガの方が自分に気づいた。

ズボンが痛いほど勃起していた。

「あ・・ちょっ、ちょっと・・・」
あわてて内股になってトイレへいこうとするヒラガに、 ふわりと柔らかいものが抱きついた。

ドクン、ドクン、ドクン

心臓の音だけが、静かなスタジオに響き渡る。
m薄いコスチュームの下に、温かい肌が息づいている。

「ありがとう・・・こんなに完璧なコスチュームになるなんて、感激しちゃった。」

「あ、ああ・・」
口がカラカラに渇いて、言葉が出ない。

振り返った時、チイの赤い唇が目の前にあった。
生まれて初めての、甘い夢が唇を覆った。



「んあっあっ、いやあんっ!、はんっ!」
破れたタイツの間に、ぬらぬらと光るスリットが広がる。
分厚い唇がそこに吸いつき、血走った目で息づく淫らな花びらを追い回す。

熱を帯びたザラザラの舌が、 あふれ出る愛液を転がし、陰唇をこすり上げ、 何度も上下する。

ブチュッ
愛液が噴き出すと、思わずそこを突き、もぐらせ、這い込ませる。

「いやんっ、いやらしいよおおっ!、あひいんっ、」
べろが軟体動物のように蠢き、掻き回す。

ほっそりとした足が、びくんっ、びくんっ、と痙攣する。

熱い腿が、ヒラガの頬をこすり、挟みつける。
淡い女のにおいが、鼻腔から脳を直撃する。

勃起した淫核が、太い指先に捕らえられた。

「ひうううっ!」
顔に飛び散った愛液で、ヒラガが不気味にわらう。
「ぐへへへへ、犯してやるううううううっ!」

ぬうっと立ち上がった脂肪の固まりに、 そこだけが隆々としたごつい逸物。
皮が頭までかぶっているが、仮性らしい。

ぞくぞくっ、
奇妙な興奮を感じ、チイは潤んだ目を向けた。

皮をグイと引っ張ると、ぬっとデカイ亀頭が出てきた。
『すご・・あんなの入るかしら?』

のしかかってくる肉の塊に、 脚を掴まれて、広げられて、 その動きにドキドキしながら待ち焦がれて。

ブリュッ

「おあ・・っ!、おっきい・・・っ!」

亀頭が侵入するのが、すごく当たる。

グリュッ、リュッ、グリュッ、

「んあっ!、あんっ!、」

ウィッグが乱れ、あえぎが胸を震わせる。
狭いチイの中を、巨大な男根が、 今にも爆発しそうに膨らんで、ぐいぐい押し広げる。

想像以上に大きかったペニスは、チイのあそこが裂けるかと思うほどだ。

「はあっ、いいっ、いいよおっ!、そこっ、ごりごりしてえっ!」

抱きついた甘い香りに、ヒラガはむしゃぶりつき、 コスチュームを破らんばかりにたくし上げて、胸のふくらみを咥える。

腰がサルのように飢えて動き、 温かく蕩けて、締めまくられる感覚に止まらない。

服がほどけ、あふれ出る愛液が滴り、はじける。
次第にスムーズに動くようになり、 かえって快感は増幅する。

「ぐうっ!」
ヒラガが必死にこらえ、グイと抱き上げる。
チイはひざの上に乗せられた。

座位で跨ったチイは、ヒラガの巨体に較べると、 あまりに細く可憐で、壊れそうだった。
脂肪太りした脂ぎった身体に、赤くいきり立った巨根が屹立し、 チイの細い腰を、ゴリラのように責め立てている。

チイの頬は染まり、快感は想像以上に激しい。
膣肉が強くこすれ、音を立てて蠢く亀頭が、中をゴリゴリとこすりつける。

「ああっ、もう少しっ、も少しいぃっ!」
歯を食いしばって耐えるヒラガ、 切先がチイの奥の扉をゴツゴツと叩き、激しく抵抗する感覚に、 夢中で腰を振り、突き上げる。

白いしなやかな腿が締め付け、足首が強くからんだ。
黒髪が激しく揺れて、跳ねた。

「いく、いく、いくううううううっ!」
激しい絞込みが、痙攣を引きずり出した。

バッシュウウウウウウァァァァァァ

「あーーーーーーーーーーっ!!」

汗で光る身体に、薄い布地が張り付き、異様な色香を放った。
ヒクヒクする感覚の中で、再び、もたげてくる欲望。

「ああん、すごくっ、復活がはやいいっ」
一瞬萎え掛けたチンポが、雄叫びを上げるばかりに膨らむ。
ニキビだらけの脂ぎった顔に、 チイは柳がしなだれるように、甘くキスを繰り返す。
この男が、自分の中を蹂躙しているかと思うと、 ゾクゾク感じてくる。

チュウチュウと乳首を吸いまくるヒラガに、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。
「おっぱい、小さいでしょ・・・」
「うめえ、すごくうめえぞぉおっ!。」
今にも歯で食いちぎりそうなぐらい、夢中で可愛らしい乳房をもてあそぶ。

ぬるぬるになって、動きやすくなった胎内を、さらに掻き回し始める。

「あんっ、今度は、こっちぃ」
抜けないように用心しながら、後ろを向こうとするチイに、 今にも暴発しそうなこすれあいを絶えながら、バックの姿勢になる。

「ああんっ、モンスターに犯される勇者よぉ」
「お、おおう、そうだっ、お前は負けたんだっ、敗者は全てを失うんだあっ」
コスチュームプレイに刺激されたのか、モンスターになりきって雄叫びを上げる。
可愛らしい尻の白さに、生唾を飲む。
むにゅと掴む肌に、ゾクゾクしながら、 指を食い込ませ、腰を突き上げた。
グリュッ、

「ああんっ、そんなあっ、私勇者なのにいいっ!」

密着度の高いバックは、強烈さも倍以上。
お腹が震えるような快感が、のめり込む。

「だまれだまれだまれえぃ、お前の全て奪いつくして奴隷にしてやるうっ」

腿をグイと広げさせ、のめり込むように突き入れる。
ゴツンッ
深い所を直撃され、チイの半裸の身体は、思わずのけぞった。

「ああんっ、奴隷っ、奴隷っいいっ!」
生白い股間に、白い体液がトロトロと滴り、 赤い襞が引き出され、巻き込まれ、エロいことこの上ない。
絡み合う粘膜が、複雑に絞り、こすり、亀頭が張り裂けそうに感じる。
さっき出したばかりだというのに、もう、チイの細い腹に射精したい。

ゴツゴツゴツ
「当たってる、底にあたってるううっ!」

黒髪を振り乱し、白い肌が激しくのたうつ。
細い腰が、激しく揺れ動き、 滴りがボタボタと落ち続ける。

熱い雫が後から後からわいてくる。
お腹に出された精液と、チイの愛液が激しく渦巻き、 強張った亀頭が、それを掻き混ぜる。

突き当たり、今にも突き抜かれそう。

爪が床に痕をつけ、あえぎが床を湿らせる。

「ひぐっ、ひっ、ひぐっ、いっ、いくっ、あっ、だめっ、いくっ、いくっいくううっ!!」
びくんと白い肢体が跳ね、絞めつける肉にたたきつける。

ビュグルルルルルルルルウウウッ

「はひっ・・・・ひっ・・・あっ・・・・」

ガクガクする腰に、何度も突き入れ、痙攣を繰り返した。



あえぎ、火照る肌が冷たい床に気持ちいい。
髪をなでながら、ヒラガが満足げなため息をついた。


「なあチイ、あんなとこ辞めろ。」
『だいかぐら』のことを言っているらしい。
『あんなとこ?』
それが、チイにカチンと来たことには気づいていない。

ここでいらぬ事言わなければ、いい夜だったのだろうが、 ヒラガは、チイの苦労を知らなかった。

「俺様専用のコスプレイヤーになりゃ、あんなとこの10倍は出してやる。 薄汚い酒場で、イヤイヤスケベオヤジ相手にする必要はない!。」

もともと傲岸不遜なヒラガは、 これでくどいているつもりなのかもしれない。
が、チイの凶悪な目を見て、思わず舌が凍った。

「あんなとこ?、イヤイヤ?、スケベオヤジぃ??」
ぎゅっと握った手がゴキゴキ音を立てた。

「あんた何様のつもりぃ?!」

バッキイイイッ

顔が反転するぐらい強烈な右フック。
平手ではなく、拳が出てしまっていた。

「あたしはねえ、好きであそこに勤めてんだよ、 みんな気のいい人たちなんだよ、 気に入った男としか寝る気は無いんだよ!。」

チイが貧民街に身を投じて5年、 ひどい目にもずいぶんあったが、支えてくれた人たちは優しかった。

「バカぁぁぁぁぁぁっ!!」
服を引っさらうと、スタジオを飛び出した。

チイは地域に溶け込んだスパイ『草』ではあるが、かなり変り種だ。

元々ある反政府組織幹部の養女で、本物の両親は弾圧で殺されている。
スパイとしての適性はほぼゼロと判断されたにもかかわらず、 組織への情報提供者となる道を選んで、一人グラムリングシティへ身を投じた。

さまざまな苦痛や苦労を舐めながら、 いつの間にか、歓楽街や貧民街の人間たちと、 しっかりつながりを持って生きていた。

ヒラガも悪気は無かったのだろうが、 彼女を助けてくれてきた人たちの事は、どうしてもがまんできなかった。

「ばか・・・」

変な男だけど、せっかく好きになりかけてたのに。
ひどく腹立たしかった。



翌日『だいかぐら』。
他の女の子がひどく避けているテーブルがある。

分厚いメガネをかけた、あぶらじみたデブ。

ずんぐりむっくりした姿に、チイがびっくりすると、 ヒラガはひと言くぐもった声で、 「おじや」

チイは黒い目をぱちくりさせた。
ヒラガは、すねた目をして、真っ赤になって怒鳴った。
「おじや!」
怒鳴った顔の半分はまだ見事に腫れていて、巨大なばんそうこうが張ってある。
口もうまく動かせない。とうぶん固いものは噛めまい。
だが、こんな顔で店に来るだけでも、 傲岸不遜を絵に書いたようなヒラガにしてみれば、絶対にありえない行動だ。

真っ赤になって、すねた目をして、 これでも謝っているつもりらしい。
チイの目には、でっかい子供のように見えてきた。

「ぷっ・・・」
チイは笑いをこらえるのに必死だ。
こうなっては彼女の負けである。

後日、彼女がヒラガとくっついたことを知って、 『だいかぐら』の客も含めた全員がのけぞったらしい。


「どうでもいいけど・・・やばすぎないこれ?」

チイは古典で有名なOVA『ギャラクシーヒーローレジェンド』の、 女指揮官のコスプレをしていた。

軍服のピシッとした上半身に対して、 黒いミニスカートに同色のブーツ、 黒のレースをあしらった長いストッキングにガードルという下半身。
マニアが見たら、鼻血が出そうなデザインだ。



もはや、ヒラガにくっついてるチイには、 リヴァール軍の機密など無いに等しかった。
整備部の新システムも、こいつが練り上げた特級品。
通常のプログラマーぐらいでは、手も足も出ないはずだ。

ただ、やたらと情報を流してしまっては、 リヴァールの諜報機関もバカではないので、 ヒラガも自分も命が危ない。
これまでの報告も考え合わせ、いらぬ情報は送らない事にした。
なんといってもチイの立場上、大事なのは基地の内部動向、その他の機密ではない。

「何を言うか!、コスプレはキャラだけではならん。 その世界が大事なんだ。俺は今の愚劣なリヴァールのシステムなぞ認めん!!」

傲岸不遜さには、さらに磨きがかかったようだが、 すぐにカメラとビデオの調整に入る。
ジェネラルヒラガーが独占しているという、謎のコスプレイヤー映像は、 今やマニアがよだれを流して欲しがるレア物だ。

『まあ、スタジオだからいいんだけど、 へたすれば銃殺されかねないよこれは。』

リヴァールのシステムの問題点や、改良すべき兵器の特徴、宇宙戦略の計画案まで、自慢げに話す空想話は、どうもやたらと本物くさい。

こいつが整備部で本当に良かった、とチイは心の中でつぶやいた。
こんなのが、兵器開発省にでもいたら最後、次期大戦は絶対早まる。
チイは妙に確信があった。

『ま、当分こいつと楽しく遊んでましょう。』

なんだかんだ言いながら、ミニスカートをちらちらさせて、 ヒラガを興奮させながら楽しんでいるチイなのでした。




白い額にシワをよせ、チイはむっつりと考え込んでいた。
5時間前、本部から命令が来た。
『ヴァン・マツウラの情報を最優先事項として調査せよ』


このフォルティエ自治区には、三つの軍基地、第一空軍基地、 第二陸軍基地、第四海軍基地がある。
ここはリヴァール王都の喉首にあたり、重要な地区だ。

だが、さまざまな条件が重なったとはいえ、 その三つの軍基地が非常に情報管理が堅固になり、 あちこちの諜報機関が忍ばせていたスパイたちは、 ほぼ全滅してしまっている。

彼女はER連合に名高い特殊部隊ニーベルゲンの下部組織に属し、 若いが情報の精度と分析力が高く、ニーベルゲン本体も注目している『草』だった。 反政府組織クラダルマにも関係があり、かなり顔は広い。

現在活動しているスパイで、唯一まともな情報を手に入れているのは、 彼女だけになっていた。

こうなると、今回の騒動の中心人物であるヴァン・マツウラ、 これの情報を集める事が必然になってくる。
これすら、チイの情報が無ければ判断できない所だった。


その上、意識しているのかいないのか、 意外なほどヴァンの活動には隙がなかった。

ほとんど基地に入りびたりで、たまに休みを取ると、 ほぼ必ず特定の娼館に泊まり、与えられている自宅には、 年に数回しか帰らない。
独身で子供もいないために、家に帰る必要性もないのだが、 これには、諜報機関も手の出しようが無い。

彼女に白羽の矢を立てたのは、そのへんの事情もあるようだ。
『ぜえったい、あんにゃろの陰謀だな・・・』
最近、彼女の上司から直接自分の方へ通話をさせるやつがいる。
どうやらニーベルゲンの幹部くさいのだが、 やたら毒舌家で皮肉屋、そして恐ろしく直感と判断力が鋭い、 実に嫌なやつだ。

これはかなりの難問だった。
本来、『草』として地域に溶け込んだチイが、 個人の情報収集専門に当たるとなると、 これは全く違う行動を取らねばならない。
これまでの『草』としての活動一切を棄ててかからないと、 無理かもしれなかった。

以前、チイもヴァンのことは調べようとした事がある。
だがこいつばかりは困った。

以前には何度かそれとなくモーションをかけてみたが、 ぜんぜん反応が無い。
他の整備部隊員から寝物語に、惚れ込んだ娼婦がいるらしい事は聞いていたが、
まさかあんなすごいのだとは思わなかった。

シアン・ハルレインというダークエルフハーフを一目見て、 思わず迫力負けを覚えた。
特に胸、あれって反則だよぉと、ぼやきたくなる。
チイはまだ75Aカップなので、胸にはちとコンプレックスがある。


あの時運んでいたとっくりは、酒がいっぱいで、 お盆の一段だけでも、持ちなれていない人間は、まず腰が砕ける。
それをひょいと、下の段を全く動かさずに取り上げた。
相当武術か何かやってないと、あれはムリだ。


体つきを見ても、実践的に鍛えている感じ。
見かけはしなやかそうで、細い強靭な筋肉がしっかりある。
どう見ても、ただの娼婦とは思えない。

『まさか、よそのスパイじゃないでしょうね?』
そうだとすると、自分の握っている情報の優位性は崩れてしまう。

考えてみるとおかしい。
第一空軍基地の総合整備責任者となれば、階級はとにかく、将官待遇。 実質は基地のNo3と言ってもいい。
そんな人間が、どう見ても四級市民のダークエルフハーフを、 本気で愛しているらしい。

シアンは気づいていないようだったが、同僚たちの宴会に、 「顔見せ」で連れてくるのは、結婚が近いような深い関係がほとんどだ。

彼女がスパイだとしたら、これは只者ではない。

『草』としては異例のことだが、 チイは組織に、シアンについての調査を依頼した。
だが、これがチイの不安をますますあおる。

出身や、市民管理扱い(奴隷)になるまでの経緯はハッキリしているが、 5年前に市民権を獲得して、ひとり立ちの娼婦になるまでの期間が、 ほとんど調査不能だった。
暗黒街と何らかのつながりがあるらしい。

さらに調査が進められ、彼女が過去に、 『キラー・ビー(殺人蜂)』のあだ名を持つ暗殺者だった事が分かり、 上のほうではかなり驚いた。

シアンとヴァンの会話が、ヴァンのふるさとの言語で、 この辺では珍しいケントス言語圏のものであることも、 さらに疑念を深めることになった。

リヴァール連合は、元はさまざまな王国の連合体であり、 かなり他種の言語が存在する。
共通語はあるものの、地域ごとになまって、非常に通じにくい。

シアンは隣のハンザン自治区の出身であり、 焼き討ちにあって両親を失い、 わずか12歳で奴隷として売られ、 よその地区の言語教育など受けている閑は無かったはずだ。

『シアン・ハルレインに接触してみろ』

命令が来たのは、それからすぐの事だった。
『またあいつかよ・・・』

『草』を潰すかも知れないような命令は、 チイの上司ぐらいでは簡単には出せない。
またニーベルゲン幹部の口出しにきまっている。

確かに、ヴァン.マツウラに近づくには、彼女からが有利だろう。
だが、暗殺者の過去を持つシアンに近づくなど、 毒蛇の穴に手を突っ込めと言うようなものではないか。

心の中で思いっきり毒づきながら、チイは必死に考え始めた。
さすがに、まだ死にたくはない。



「あんた、何か用かい?」
シアンが後ろからおどおどとついてくる気配に気づき、 振り返ってみると、見覚えのある顔だった。
美しい黒髪と、チャイナドールのような整った顔。
隠れようとはせず、不穏な気配も無い。

「えっと、たしか『だいかぐら』の・・・?」

少し頬を赤くしながら、 ぺこりと頭を下げた。
「チイです。シアンさんでしたよね?。先日はご利用ありがとうございます。」
ああ、あのときのウェイトレスか。
ちょっと小首をかしげるシアンに、チイはますます顔を赤くしながら、 おそるおそる近づいた。

「で、何か用かい?」
その可愛らしい様子に、新入りの娘たちを重ねて、 シアンは再び優しく尋ねた。

「あの、あの、シアンさんは、その・・・」
もじもじしながら、小さくなった言葉に、シアンは思わずふきだした。
『どうしたら、そんなに胸が大きくなるんですか?』

たしかに先日、自分の胸を見て、うらやましそうな目をしてはいたなあと、 悪いと思いながらも笑ってしまった。

だいたい、エルフ系の女性は、さほど胸は大きくない。
シアンはかなり例外的で、ほっそりした体型に胸だけ95ぐらいはある。
それでいて、ほとんど垂れていない砲弾型という、反則技並みのスタイル。

「う〜ん、やっぱりいっぱい揉んでもらったからかなあ。」
笑われてちょっとふくれていたチイも、真面目に応えられて、 屈辱っぽいものが、グサッと胸に刺さる。

「だいたい、男って乳触るの好きでしょ。 あんまりいじられるんで、乳首黒くなりそうで困ったわよ。」

マメな手入れは、娼婦としてのたしなみだ。
「でも、あんたならいっぱい揉んでくれるボーイフレンドいそうだけど?」

だが、チイはちょっとさびしげな顔を、横に振った。
「こいつはヤボだったわね。」
シアンもすまなそうな顔をした。貧民街の生活は良く知っている。
一夜限りのSEXはあっても、長く関係をはぐくめるような相手は、なかなかに難しい。

「まあ、ちょっとおいで。」
「え・・・?」
「いいから、おいでなさい。」

先日の『だいかぐら』の、威勢のいいウェイトレスとは別人のような様子に、 面倒見のいいあねご肌のシアンは、ルイーデの館へ連れて行った。

『あ〜顔真っ赤よお・・・。
芝居とはいえマジにならないとひっかかんないだろうしなあ。』
心の中で目いっぱいニーベルゲン幹部に毒づきながら、 借りてきた猫のようについていった。

「おや、シアンその娘は?」
すすめられてお茶を飲んでいたチイは、びくっとした。
『たしかルイーデの館の主・・・』

『草』としては最大限の危険をおかしてまで接触をする以上、 何か納得のいく理由、それも感覚的に理解できる理由が必要だ。 つまり本音。

考え抜いた末に、チイは自分の貧しい生い立ちから、 娼婦という、女が一番のし上がりやすい職業への憧れをネタにすることにした。
本来SEXが好きで、売春をやっている彼女には、そちらへ移りたい気持ちがある。
それに、この間感じたシアンの胸へのうらやましさも。

ただ、ここまで自分の本音と芝居のギリギリのラインで来たため、 シアンよりさらに迫力ある女性に、怯えてしまった。

ぞっとするような目をした、30がらみの美女は、 なぜかチイの女の部分全てを、見透かしてしまうような気がした。

『こっ、これムリ、なんぼなんでも、こいつはムリっぽい!』
背中の肌が泡立ち、本能が警報を鳴らした。
まるで蛇ににらまれたカエルだ。

「『だいかぐら』のウェイトレスのチイって娘。」
ルイーデの館の主は、興味深そうな目で舐めるようにチイを見た。
ぞくぞくっと寒気が走った。
この手の反応を見慣れたシアンは、困った顔をする。

「ルイーデ、あんまりおびえさせないでよお。」

ルイーデは鼻で笑った。
この歓楽街のことは、裏まで知り尽くしている。
『だいかぐら』のウェイトレスのことも知っている。

「あなた、『だいかぐら』で安く売る(売春)より、ここで勤めてみない?。
身体はすごく敏感そうだし、けっこう男性のお相手も好きそうじゃない。
あなたの好きな中年の男性も多いわよ。
それに、うちに勤めたら、ちゃんと働いただけの代償はあるわよ。」

強烈な磁力を放つブラウンの目に、飲み込まれそうになり、 チイは思わず椅子から転げ落ちた。

「ご、ごめんなさい!!」

脱兎のごとく逃げ出すチイに、シアンはあっけに取られ、 ルイーデは面白そうな目をした。

「へえ、あれで逃げ出せるなんて、なかなか芯のある娘ねえ。」

長年無数の女性たちを束ねてきたルイーデは、 視線に人の心をしばる力があり、 並みの娘なら今の言葉に魅入られ、 どうしようもなくなってうなづいていたはずだ。

「素材はなかなかいいし、男性経験もかなり豊富そうよ。
今度はぜひともスカウトしなくっちゃね。」


『今度はぜひともスカウトしなくっちゃね。』
置いてきた盗聴器から聞こえるセリフに、チイは青ざめる。
今度スカウトされたら、逃げ出せる自信が無かった。

まるでクモの糸に絡め取られるような感覚、 言葉の毒に痺れて、そのまま身をゆだねたくなってしまう。
だいたいどこで、自分が中年好きだと気づいたのかさっぱり分からない。
あの視線で、素っ裸にされたような気分だった。

会話を聞くと、どうやら狙い通り、 生活に困って、娼婦になろうかどうしようか迷ってる娘と取られたらしかった。
甘い上質な菓子と茶の味が、今でも口に残っている。

『それにしても、何て店だろう』

リヴァールでは義務教育を受けにくく、明らかにレベルの低いはずのエルフの娼婦たちが、全くちがう地方の客と、交互に話したり笑ったりしていた。
注文やサービスでまちがう様子が全く無い。
会話で通訳を呼ぶことがほとんど無いのだ。

接客のマナーも、段違いに高い。

『あそこではシアンは、さほど珍しく無いってことか。』

シアンの慕われようはすごかった。
町の子供たちに、見習いの娘たち、人間の娼婦すら相談に来る。
あれならヴァン・マツウラの入れ込みようも理解できる。

差別の激しいリヴァールで、ほとんど例外的な世界だ。

あんな店で働けたら・・・。
ほとんどの貧民街の女性は、そう思うだろう。

貧しい虐げられた最下層の住人にとって、 あれほど魅力的な店は見た事が無い。
『だいかぐら』はずいぶん良い職場だが、 チイでもルイーデの館がうらやましくなってしまった。

『エカテリナは、まだ帰ってこないかなあ・・・』
シアンが、心底寂しそうな声でつぶやいた。

『そうね・・・』
あのルイーデが、ふと涙ぐんだような声でささやいた。
いったい何者だろう?、この二人にこんな声を出させるなんて。

ズカズカと足音がした。
『こ、これはガッハ様。出迎えもせずに失礼しました。』

鉱山王のガッハ・バルボアか?。
とんでもない大物がきてるんだなここは。
ふとチイは、盗聴器を聞き入った。

『エカテリナに会ってきたぞ!』

シアンもルイーデも、ビックリした声を上げ、 エカテリナという人物の話を聞きたがった。
『ああ、元気そうじゃった。 それどころか、色々楽しませてくれるワイ。』

例の3人とか、宴会の懐かしい料理とか、 ごくたわいも無いような話題だが、チイの目はギラギラ光った。

あのガッハが注意して名前すら出さない3人とは?。
そして、ガッハもその3人も『会いにいく』というエカテリナは何者?。

全身がゾクゾクする。
長年『草』として磨き上げてきたカンが、 巨大な鉱脈にぶつかった事を感じている。

チイは、重大な岐路にさしかかったことを感じ、 思わず足を止めて考え込んだ。
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