■ EXIT      
奇妙な空白

その夜ウェモンは、エカテリナの電話にホッとしながら、 早く帰るように言おうとして・・・、 『おお、エカテリナのボディガードかあっ、ガッハッハッ』 ・・・ガッハのでかい声に耳を塞ぎたくなった。

『まあ、ガッハ様といるのだから、今夜はだいじょうぶか』

老エシュは、ミルファの食事の支度にちょっと席をはずすことにした。
もう料理も必要はなさそうだったからだ。
とりあえず、船で自分の家に戻った。


ガッハも、フェリペたちも、ひさしぶりにエカテリナの声を聞いて、 たまらずに駆けつけたものだから、仕事はほっぽらかしになっている。
今日のところは急いで戻るしかなかった。

次の寄港地でも必ず電話を入れるよう、双方が念を押すと、 急ぎ無音ヘリで帰っていった。

ひさしぶりにエカテリナは一人きりになり、 ガッハの船の甲板で、宴の後片付けをしていた。
とはいえ、ほとんどはフェリペのメイド部隊が片付けているので、 さほどはやることは無い。

波ひとつ無い静かな湾、遠くの夜景が美しかった。


どこかで、水音がした。


老エシュが船に戻ると、誰もいなかった。
『あの方たちについて行ったんだろうねえ』

何しろ莫大な金を預けっぱなし、 しかも、さらにミルファのために尽くしてくれると言うのだから、 (エカテリナがチンピラたちに撮られたビデオの販売代金である) これに不義理な事をしては、後が恐ろしい。

『出港日に半金はとどければいいか』

誰もが何の疑問も無く、 エカテリナは誰かの元にいると思い込んでいた。



コポポポ・・・・

『なんだろう・・・』

ひどく温かい、何かに包まれているような、 いつまでも眠っていたいような、 奇妙な感触。

蒼い目をゆっくりと開くと、 そこは青、それも黒い青がどこまでも続く場所。


ぼんやりとした周りの情景。

フニュ 手の下に、スポンジより柔らかい感触がした。
エカテリナの手首ほどもある柔らかい管(くだ)状の物が、 びっしりと地面を覆っている。

なにもかもが揺らめいて、はっきりしない。

『目が覚めたかね・・・』
『醒めたかね・・・』
『サメタカネ・・・』

不意に声をかけられ、ぼおっとした頭を左右にゆっくりと回した。
何か、こだまのようでもあり、何人もいるようでもあり、 不思議な声だった。

足の下にスピーカーがあるような感じだ。

意識がはっきりしてくると、エカテリナは自分の姿に気づいた。
「あ・・・え・・・きゃっ!」

一糸もまとわぬ生まれたままの姿。

思わず顔を赤らめ、胸を隠し脚を精一杯縮めた。

『すまんな、ここでは服は一切つけられんのだ。』

エカテリナの前に1メートルほどの、ボオッと光る球体があった。
それが話し声にあわせて緩やかに明滅する。
これが話しているのだろうか?。

『だがわからぬ、その美しい身体をなぜ隠したがるのか・・・』

声の具合から、本気でそう思っているらしいことは分かった。
顔を赤らめたエカテリナは、思わずボケた返事をしてしまう。
「そのお、やっぱり恥ずかしいですよぉ。」

『しかし、昨日も一昨日も大勢の男性相手に、自ら望んで見せていたようだが?』

これもまた、本気で不思議そうな声。
エカテリナの顔が一段と赤くなる。
一昨日からの、奮闘をどこかで見ていたらしい。

『んっ!、はっ!、あっ!、ああんっ!、いっ!、いいっ!』
黒い背中に白い足が強くからみ、 歓喜する白い顔がのけぞる。
うめき声と痙攣が、深くエカテリナの股を割り、 黒い背中がのけぞった。
『くるっ!、ああっ!、きてるっ!、くうううううううっ!!』
うっとりと、興奮した桃色の顔がのけぞり、あえいだ。

商船の船長と激しくSEXをしたシーンがやたら克明に浮かぶ。、 『あの人、たくましかったなあ・・・って、何を考えてるの?!』 包まれた肉の中を、激しく動きまわる感覚が、 ひどくリアルに思い出す。

『はあんっ、ああっ!、すごい、あふうんっ!、ひふううっ!』 精液にまみれた顔が、次々とペニスを咥え、 前後からごつい身体の男が細い腰をガンガンと責めつける。
肉体労働者のしぶとい性欲は、激しい膨張を繰り返し、 エカテリナの前後から深く槍の様に突き上げ、 濡れた黒光りを、アナルとヴァギナへ叩きつける。

『ふぐうっ!、んんっ!、んひゅううっ!、んっ!んうううっ!』 頭から浴びせられ、顔や胸にもかけられ、 白濁でそまった身体に、興奮したエキスが噴き上げる。 『は・・・あ・・・・あ・・・・!!!』 ドビュッ、ビュグウゥッ、ズビュウウウウッ のけぞる身体に、熱い精液が繰り返し中出しされ、 恍惚の極みの顔が、月光を受けて白く輝いた。

材木商人と職人たちあいてに、 船の上で乱交をやらかしたシーンがビデオで写したように浮かんだ。

『なんでこんなにはっきり思い出すんだろう?』

まるで、ビデオで撮った映像だ。
そればかりか、お尻がむずむずし、子宮がヒクヒクし始めて、 あそこがジュンと熱くなっていっぱいあふれてくる。
恥ずかしさがさらに強くなる。

ただ尋ねる声に、いやらしさや探るような下心はまるで感じられない。
「私は、娼婦ですので、私と肌を合わせることで元気を出していただけるなら、 喜んで、その、お見せしますわ。」

状況が良く分からないまま、エカテリナはこの奇妙な声と対話をしていた。
話しながら、ようやく意識が正常にもどってきた。
まともな疑念がやっと出てきた。

「あなたは、どなたですか?」

苦笑するような感覚が伝わってきた。
エカテリナは、思わず自分の中に意識を向けた。

違和感があった。
意識が伝わるなどと言うことが、あるのだろうか?。

相手の感覚を、考えを、予測したり読み取ったりすることは、 彼女は不思議なほど才能があった。
だが、相手が全く見えないのに、わかる事などありえない。

『そうだな、昔私のことを『妖』(あやかし)と呼んだ人間がいたが、 その呼び名は気に入っている。』


ぽおっと明かりが一段明るくなる。

『だが、娼婦とは何かね?。生殖の行為とは別のようだが。』

どうやら、相手は人間ではないらしい。
はたとエカテリナは気づいた。
相手も、こちらの考えが読めるのだ。

『だったら、私の考えも読める・・・?』
蒼い目を閉じ、ゆっくりと、自分の意識を開いていく。
まぶたの裏に思い浮かべる。

自分の記憶を失ってからの、時間と経験、 そしてその中でのさまざまな感覚と感情、知識。

自分と言う娼婦は、こういうものなのだ、と。

どこかで自分と『妖』の意識がつながっている、 ただ、それはかなり小さく覗き窓のようなサイズらしい。
自分が開けば、相手も見えるはずだ、

ゾロッ

何かが、自分とつながっている。

意識が一瞬途切れ、何かが自分の中に、入っているのを感じた。
ふっとそれが消え、また意識が戻る。

『ううむ・・・きみの言う娼婦というさまざまな形態の職業についてはわかった。 実に興味深いな。』

なんなのだろう、今の感覚は?。
エカテリナは、目覚める前の事を思い出した。
船で一人待っていて、何かに呼ばれたような気がして、船べりにいき、 足に冷たい何かがからみついて、そして意識が途切れた。

『きみが思っている通り、私は人間ではないよ。』
発光体が輝きを増した。

『ただ、まともに意識を通すと、相手は発狂してしまうのでね、 この青い世界のような、意識の緩衝地帯を作って、 会話とほんの少し意識を通じさせている。
きみのように、早く理解して、意識を開いてくれるのは、 私としても助かるよ。』

さっきの苦笑のような意識感覚が、また伝わってきた。

『ほんのちょっとだけ、見せよう』

ざあっと、水の感覚が広がる。
冷たい低温、かすかな瞬くような光、 黒々とした見渡す限りの揺れるひも状の物。
凄まじいばかりの、触手の群れ。

ゾクンッ、ゾクンッ、ゾクンッ、

『あ・・・ひ・・・あぐ・・・』

生ぬるい粘液の中に、エカテリナはいた。
口に、鼻に、耳に、目に、手に、指先に、無数の触手状のものが張り付き、 アナルに、尿道に、ヴァギナに、ぞろぞろするものが入り込んでいる。
ガクガクと身体が震える、 気持ちよさと、おぞましさと、そして、身体中を嬲られる感覚。

子宮の中にも、触手状のものが無数に蠢く。

思わず、腰をひねり、腿をわななかせた。
絞めつけられた触手が、驚いたようにあたりを探りまわす。
無数の微小な吸盤が、触手先が、襞と言う襞を探りまくり、 さらに先端部を増やし、中から蠢動を開始する。

「ひぐっ!、ひいいいっ!、だめえええええっ!!」
エカテリナの快感と興奮に、その瞬動が増幅し、 腿にも、クリトリスも、乳首にも、さらに吸い付き絡みつき、 全身の快感のツボを中からも外からも探りまくっていく。

『ひあ・・・ひ・・・ああ・・・あぐう・・・』
この世のものとも思えぬ快楽が、身体中を犯し貪る。
よだれがたれ、愛液が絶え間なくあふれ、快感が全身を走りぬける。
意識がバラバラに壊れ、快感が理性を破壊しつくそうとする。

『ひあっ・・・だめっ・・・いく・・いく・・・・いくううううううっ!!』
ふっと、意識が青い世界にもどった。

『だいじょうぶか?』
『妖』が心配げに尋ねた。

『すまん、うっかり本体のチャンネルを切るのを忘れていた。』
視覚だけを見せるつもりで、触感を消すのを忘れていたらしい。

エカテリナは、あまりの快楽に腰が震えていた。
あんなすごい快感は、初めてだった。
もはや人間の絶えられるものではない。
あそこがトロトロに濡れて、滴りが青い世界にフワフワと漂い出す。

『きみが反応してしまったために、末梢の触手たちが興奮してしまったようだ。
いまは、きみの反応がなくなったので、元のように生体の保護と管理だけをやっている』

ようやく身体が落ち着いてきた。
そして、理解する。
ここは海底であり、あの巨大な黒いものの意識の中。
自分は粘液の中に封じられ、水圧や低温から守られて、 無数の触手による意識の交流、さらには生命維持も行っているらしかった。

「そうなのでしょ?」

意識を開いたままのエカテリナは、確認するように話した。
むしろ状況がわかった事で、不安もかなり減った。
エカテリナのおおらかさや素直さは、 こういうときに、驚くほどの感受性で現状を受け入れる。

自分が巨大な怪物の中に取り込まれているという事より、 それが大事に自分を保護し、心配してくれている事を感じ取る。

エカテリナから素直に返ってくる感謝や喜びの感覚は、 ありとあらゆる相手を魅了してしまうのだった。

まさに天性の娼婦の才能と言えた。

『ううむ、さすがだ。あの一瞬の感覚でそこまで読み取るとは。
あれが見込んだだけのことはある。』

「あれ?」

ふと、また苦笑するような感覚。
『待ちきれないようだな、早くあわせろと大騒ぎだ。』

フイッと、明るい光が起こる。
ぱあっと金色が広がり、白と薄桃色が混ざり合い、そして、人の形となった。

身長は170ぐらいだろうか?。
長い金髪が背丈よりも長くうねる。
きめ細やかな白の肌が、薄い桃色を帯びてすらりと伸びる。
蒼い目が、長いしとやかなまつげの間に輝き、 エルフの長い耳と、気高く気品ある美貌がフッと微笑んだ。

『な、なんて、何てきれいな・・・』
美しくふっくらとした胸と、細いくびれきったウェスト、 曲線美を描く腰のライン、 そして、長く鮮やかな、なまめかしい脚線。
美の女神かと思うような神々しい女性が、髪をなびかせて歩き出す。 が・・・・・
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