■ EXIT      
妖(あやかし)その1

「最終確認する、この航路だ」
浅黒い顔の男が、壁に貼られた地図に、ナイフを突き立てる。
周りの男たちも、傷や凶悪な目つきで、みな一様に日焼けしている。
反政府組織とは名ばかりの海賊、『エピタ海リヴァール革命団』の連中だ。

「女も金もたんまり乗ってる。地元の裏の連中は話はついた。」
このあたりを取り仕切っている裏組織ダイダロスは、革命団とは反目しあっているが、 代替わりでゴタゴタしているため、 跡目が決まるまで動けないということにしてある。

「女は飽きたら、身代金と交換だ。殺すんじゃねえぞ。」
下卑た笑いを浮かべる部下たちを見回し、男も楽しそうに笑った。

「以後は通行料を払ってもらうお客さんだからなあ。」
壁に貼られた写真は、マツグランが所有する娼艦「エメラルド」が写っていた。
静かな海域に、さざなみが立つ。

白と青の客船「エメラルド」が、ゆったりと航行していく。
舳先には、白いドレスを着たはかなげな女性が立っていた。
青い海を、さらに深い蒼の瞳に写し、 金髪を潮風になびかせ、ドレスが風に舞うように動く。
愛らしい美貌は、はかなさと寂しさを漂わせ、 見る者の胸を絞めつけるような感情を引き起こす。

その後ろには、岩のような巨体にピシリとスーツをまとった男、ウェモンが、不動の姿勢で立っていた。

その黒いほがらかな目も、今日はかすかな悲しみを帯びて、 風に飛んでしまいそうなエカテリナを見ていた。

2週間前、エカテリナは出産を迎えた。
過去の記憶を失い、1人投げ出された場所は、 エルフやその血を引く者を差別し、同じ人権を認めない世界。 冷たい世界の中で、孤独のさびしさは、 氷原に裸で立ちすくむような思いだった。

『家族が欲しい』

エカテリナは女であり、家族を、子供を生むことが出来る。
ほんのひとときでいい、すがれる温かさがほしかった。
だが、それすら冷たい世界には通用しない。

エカテリナのいる《市民管理扱い》階層には親権が無い。

通常、《市民管理扱い》の子供は所有者のもの。 そして娼婦の場合は、父権優位の原則があり、出産直後に『適切な対価』で取り上げられ、投機の対象にされてしまう可能性が高かった。


リヴァールには《市民管理扱い》の市場、すなわち奴隷市場がある。
当然商品たる奴隷にはランクがあり、値段も親によって異なる。

父親が血族と認めなければ、超一流娼婦として活躍しているエカテリナの子供は超一流のサラブレッドと同じ。その子供は凄まじい値をつけるだろう。しかしルイーデは手放す事によって得られる代価を選んだのである。

また愛人であり、ガード役であるウェモンは、ルイーデとの契約、裏社会の掟のために、子供を作ることができない。もし作れば、子供を抱いてERや帝国にでも亡命するしかなくなってしまう。

思い悩んでいたエカテリナは、映像フェチのフェリペ公爵夫人から、死刑囚たちの慰み者になるシーンを撮りたいという申し出に、はっと気づいた。 ある事情から、エカテリナが悲しく思いつめている事を知っていたルイーデは妊娠の許可を与えていた。エカテリナも子供が安心して生きられる環境に行く事を承知していたのでルイーデの意見に反対するはずも無かった。
『マインドサイバネティクス』によって了承するように意識改造を施されているエカテリナにとって、ルイーデの提案を呑むことが子供たちにとって最良の道と信じて疑わなかった。

元々親権の無い死刑囚であれば、ルイーデの許可の下、一週間だけ仮の親権がエカテリナに与えられ、子供を抱くことが出来る。

わずかな陣痛の後、美しい小さな二つの命が生み出された。
双子だった。

胸に抱いた二つの命に、 エカテリナは最高の笑顔を見せ、与えられる限りの愛情を注いでいた。
自分の乳を含ませ、飽きることなくその姿を目に焼きつけ、 わずか7日という残酷な期限を、精一杯味わって。

『お母さんに出来ることは、ここまでなの、ごめんね』
最後のささやきに、赤子の目がぽかりと開いた。

その目は、金と銀。
左右の目の色が違うという、極めて珍しい瞳だった。
兄は右が金、左が銀。妹は右が銀、左が金。

命ある宝石に、ウェモンは息をのんだ・・・。


ザザザ・・・・
潮騒が、エカテリナの意識を深く潜らせていく。
精神の深みへ。
哀しみの青い光をまとい、潮騒に導かれて、正常な時には潜ることのない深い底へ。

子供は生まれる前からの約束で、フェリペ公爵夫人のメイドに抱きとられ、 どこかへ連れて行かれた。

『そなたもとんでもない子供を産んだものよのう。』
フェリペ夫人の言葉が甦る。
艶然と、不思議な微笑を浮かべていた。

金銀妖瞳の赤子たち、しかも双子となれば、その価値は計り知れない。
その存在が知られれば、盗賊どもが群れをなして襲ってくる。

『あの赤子たち、十数年は世に出せぬぞ。』

興奮と歓喜、 稀代の趣味人であるフェリペにとって、これほど面白い出来事は無かった。 エカテリナの悲しみも、赤子の数奇な運命も、 彼女にとっては、劇の一幕でしかない。

しょせんエカテリナは、巨大な波の中にもてあそばれる、一粒の真珠に過ぎないのだ。

ルイーデは、エカテリナを娼艦に乗せた。
彼女も女。
エカテリナの引き裂かれる気持ちは良く分かった。
それゆえに、しばらくグラムリンクシティを離れさせることにした。

この船はマツグラン傘下の調教済みの《市民管理扱い》すなわち奴隷の権利を売買する船であり、娼婦になる女の買取船であり、そして売春も行う船でもある。
娼艦は、奴隷船のようなイメージがあるが、 かなり上等な客船を使ってある。

乗せられる《市民管理扱い》は、重要な商品であり、 どこでもすぐに買われるぐらい、血色も体調も良くなければならない。
また、貧しく苦しい生活をしていた者が、逃げるのをためらうぐらい待遇もいい。

エカテリナは指導員ということでこの船に乗っている。


脳波はゆっくりと波を沈め、 深い眠りに似た状態へ、エカテリナの意識を沈めていく。 この海の何か、潮騒か、香りか、あるいはまだ見ぬ存在か、 それが、エカテリナの遺伝子を目覚めさせていく。

ゆっくりと記憶が逆回しになり、自分の無数の記憶が流れていく。

ふっと、風に流されるように、 エカテリナが後ろに倒れる。
ウェモンがさっと抱きとめると、静かに身をゆだねた。
「このまま・・・じっとしてて・・・・」
あぐらをかいたウェモンは、懐にエカテリナを抱くようにして、 静かに座っていた。

ザザザ・・・
意識がさらに深く、堕ちる。

深い深い、深海の底のような闇、 だが、その中を沈んでいくエカテリナの身体は青い光を強くし、 真っ暗な闇をしだいに照らし出した。


コポポポ・・・
エカテリナたちの真下、深度6000メートルの深海。
もぞり

深海の闇よりも黒くわだかまる何か、 それはゆっくりとだが、みじろぎをした。

夢を見ているのだろうか。

時の計測すら無意味なほど、太古から存在しているそれは、 昼も夜も無い、水圧と低温の世界に、 長々と身体を伸ばしていた。

それにとって、そこは、お気に入りの場所。
永遠にも似た平穏の中で、かすかな光を見た場所。

だが、その夢が急に覚めた。

『ナ・・・ンダ?』

意識が、それの中に目覚めた。

『ヒカ・・・リ・・・?』

7つの白い目が開いた。

『コレ・・・ハ・・・、コレハ・・・・?』


エカテリナの意識世界が、無数の光の乱舞を見せる。
闇の奥から、燐光を帯びた何かが飛び出す。
それが目の前に立った。


星をまとい、空を飛ぶ夢、 花畑の中で、何かを読んでいる夢、 白い光粒が次々と弾け、映像が現れてくる。
目の前に立った者は、蒼い目をした、銀髪のハーフエルフ。
自分と良く似た背格好の少女。
かつて『イリナ・ラングレー』と呼ばれた、エカテリナの知らぬ少女。

トクトクトクトク・・・
心臓が波打つ、力が身体の底からあふれ出してくる。
彼女が無意識に封印していた力が、ゆっくりと化け物のように起き上がってくる。

横に座る、白髪の美しいエルフ、 そして・・・・威厳ある美貌の女性・・・・エルフ、 身体に力が満ちていく、 彼女の精神がわきあがり、 力が、闇に消えた全てを隆起させていく。

だが、それは記憶を失う直前、暴走する魔法により、無理矢理に身体に孕まされた力。 どこかで何かがきしんでいた。

銀髪のハーフエルフが手を伸ばす、エカテリナも手を伸ばす。
それは、自分の失った半身だと分かる。
指が、今触れようとする。
蒼い目が涙を流した。

彼女の・・・名は・・・・イリ・・・

グワアン!!

客船の右後方に、水柱が上がった。
衝撃が船を揺らし、巨大な音響が耳をつんざいた。

エカテリナをかばって、ウェモンは船の縁に頭から激突して失神した。

1キロ先の戦闘艦艇らしい船の砲撃だった。
エピタ海リヴァール革命団の名前で、即時停船を命令してきた。

夢が、一切が粉々に砕け散る。
銀髪のハーフエルフが、自分が、手を伸ばしあったまま離れていく。 二人は絶叫した。
銀髪の少女が激怒し、凶暴な怒りがその目を赤く染めた。

『だめ!、止めなさい!!』
エカテリナは絶叫した。

エカテリナの失った部分、 記憶すなわち知識と力“だけ”の銀髪の少女は、 燃え盛る怒りに、瞳を妖しい真紅に輝かせた。
その身体から炎のように力が吹き上がってくる。

あらゆる物を灰にしてしまいかねない力、禁呪と呼ばれる究極の暴力。
エカテリナは、その力を恐れた。

必死に押さえ込もうとするエカテリナ、 膨れ上がる力を解き放とうとする少女、 急激に世界が回転した。

手際よく船長や船員たちを縛り上げて船倉へ放り込む。
女たちは見張りをつけて押し込め、 アジトに帰ってからなぐさみものにする。
マツグランと交渉し、身代金と後の通行料を決める。

『エピタ海リヴァール革命団』の連中は、 てきぱきと片付けて、さっさとアジトへ引き上げる予定だった。

「こいつは失神してくれててラッキーだったぜ。」
ウェモンの岩のような巨体に、少々びびりながら、失神したまま縛り上げる。

だが、相棒は返事をしない。
「おい、どうしたい?」

振り返ると、相棒のベガッスは女を組み敷いていた。
「あっ、こっ、このヤロウ!」

相棒が強姦魔のような女好きなのは知っているが、 まさか作戦活動中に、仕事をほったらかして女を犯すようなバカだと知って腹が立った。

女のなまめかしい足に“絡みつかれ”激しく動いている尻に蹴りを入れようとして、 あえいでいた女が、こちらを見た。

息をのむような美貌の中に、真紅の妖しい瞳がきらめいた。
思わずその目を見て、男の意識は吸い込まれた。


「うふ・・・ふふふ・・・」
乱れたドレス、ほつれた髪、淫蕩な笑みを浮かべ、 真紅の瞳の少女は、ゆらり、ゆらり、船の中央へ向った。


半覚醒の状態のまま、銀髪の少女を押さえようとしたエカテリナの人格は、 力を使い果たして失神し、夢のない眠りの中に落ちた。
押さえられた銀髪の少女は、吹き上がる力のみを残して共に消えた。
どちらも彼女自身だから。

だが、半覚醒の状態で無理矢理に起こされ、全力を振るったエカテリナは、 冷え切ったエンジンをいきなりレッドゾーンに叩き込んだように、 身体と神経、そして意識体に深刻なダメージを受けていた。

元々彼女の物ではない力、暴走する魔法に孕まされた力は、 脳の深部から彼女の本能に根ざした夢を引きずり出した。
いや、非常事態になった生命が、それを選んだのかもしれない。
ルイーデが、催眠で刻み込んだ性欲の権化を。


後には、二人の男が下半身むき出しのまま、白目を向いて失神していた。
陰嚢がからからに干上がるほどしゃぶり尽くされて。


赤い舌が、精液に濡れた唇をぺろりと舐めた。
男性の精のエネルギーが、とてつもなく甘美に感じた。
膣に、口に注ぎ込まれたそれが、上質の酒のように、粘膜にしみこんでいく。
傷ついた心身を癒すエネルギーを、粘膜が吸い尽くしていく。
激しい飢えが、さらに男性を欲していた。


真紅の瞳が光り、 彼女に銃を向けた男は、意識を吸い込まれてふらふらとついていった。

強烈極まりない魅了(チャーム)の力が、その目を見た男を呪縛していく。

「おい、どうし・・・」

操縦席にふんぞり返っていたボスは、ゆらゆらと入ってきた女性に目を奪われ、 意識すら吸われた。
あとから、ゾロゾロとゾンビのように意思の無い目をした男たちが入ってきた。
「さあ、しましょう・・・、みんな、楽しくしましょう・・・」
男たちが、エカテリナの身体に群がった。

ビリッ、ビビビッ、ビリビリッ、

ドレスがひきちぎられ、下着がむしり取られる。

ピンクの口を吸われ、乳房を歯型がつきそうなぐらい噛まれ、細いつま先が咥えられ、 あそこにしゃぶりつかれ、手に握らされる。

「んあああんっ、んっ、んううっ、んっんんっ、んふううんっ」

肌という肌に、男たちが貪りつき、 狂ったようにしゃぶり、嬲り、こすりつける。
もみくちゃにされながら、エカテリナは身体に走る快感を嬉しげに貪り、感じた。

あふれる蜜が、脳髄を蕩かすような香りを放ち、 汗からも、だ液からも、同じ香りが立ち昇る。

「んあうっ、んんんぅうっ!」

膨張したものが、濡れそぼっているエカテリナを一杯にする。
後ろからも、今にも裂けてしまいそうな感触が、ゴツゴツとあたりながらめり込んでくる。

手でしごいているものが、どっと塊のような精液をぶちまける。
それがきっかけになったかのように、エカテリナの顔に、胸に、腿に、背中に、 次々と、熱い煮えたぎった精液がぶちまけられる。

ジュブッ、ジュブッ、ズブッ、ズクッ、ドクドクドクッ、ズブッ、ズッ、ズブッ、

エカテリナの体臭は、媚薬と化して男たちを狂わせ、 子宮を突き上げながら、ほとばしる感覚が、うっとりと細い眉を震わせる。

すすり上げる口内に、あふれる精液が熱く渦巻き、飲み込まれる。
アナルから腸の奥へ、轟く痙攣が強烈に染み込む。

腰をくねらせ、絞り上げるたびに、アナルも、膣も、子宮も、 繰り返し射精する白濁でいっぱいにあふれる。

足指がしゃぶられ、ふくらはぎを嘗め回され、 感じる、感じる、 首筋をなめ尽くされ、鎖骨のくぼみをだ液が濡らす。

背中を何本もの亀頭がこすりつけ、へそを犯すようにこねられる。
顔に突きつけられ、目も開けられぬほどぶっ掛けられる。
口に、喉に押し込まれ、飲み込む体液が細い喉を震わす。

乳首がつままれ、乳がほとばしり、 前後から突き上げられ、 腰が砕けんばかりに広げられ、さらにねじ込まれていく。

「んはああんっ!、ああふううんっ!」
暴行同然に輪姦されながら、甘く狂ったあえぎが船内を満たす。

十数発放った男が、青くなって失神する。
浅黒い男は、心臓が止まったかもしれない。

乱暴にそいつを蹴転がし、待ちきれずほとばしらせながら、 ドロドロの胎内に突撃する。

しなやかな足が歓喜に痙攣した。
いまや、白い裸身は全て、ドロドロの白濁に覆われ、 うっとりと潤った目をしたエカテリナは、真紅に光るそれを、 次々と男たちに向けた。

全身から立ち上る香りは、精液と混ざり合って、 催淫作用をさらに強烈に沸きあがらせた。

浮き上がる身体に、前後から叩き込まれるペニス。
両手に、口に、次々と持たれ、しごかれ、しゃぶり、すすり上げる。

胎内に痙攣と脈動が立て続けにほとばしり、粘膜が無数の軟体動物のように絡みつき、すすり上げる。

しなやかな脚がからみつき、子宮の奥まで射精を届かせ、 膨張する亀頭が、子宮口を犯し、中を掻き回す。
歓喜するエカテリナがのけぞり、締め付ける、絞り上げる。
痙攣が陰茎の髄を突き抜け、白い腹の中にぶちまける。

何度も、何度も、叩きつけ、ぶちまける。
それでも萎えることは許されず、さらに精の全てをすすりだされる。
アナルが妖しい蠕動で、陰茎を絞り上げ、 腸が異形の生き物のように蠢き、亀頭から男の精をすすりだす。
白い尻肉に指が食い込み、広げ、叩き込む。
繰り返す絶頂が、男の全てを破滅させ、カラカラに干からびさせる。

歓喜に染まった桃色の肌が、男の精をうけてうるおいきった粘膜が、 次々と男を飲み込み、すすり上げ、搾り取っていく。

いつしか、白い歯に妖しく犬歯が伸び、 目が赤い燐光すら放っていた。

男の精は、その身体に吸い込まれ、取り込まれ、 エカテリナの心身に取り込まれて、そのエネルギーとして食われていく。
犬歯がかすかにこするだけで、 脳髄が煮えたぎる快感が、何もかも破壊しつくす。
爆発的な射精が、男が失神するまで止まらない。

口にあふれ、滴り落ちるそれを、 惜しそうに受け止め、 赤く、異様に長くなった舌が、ぺろりとそれを舐めた。

「んはっ、はあんっ、あんっ、ああ〜〜っ、んうっ、んっ、んぶううっ!!」

魔宴の中心で、エカテリナの妖しいあえぎ声だけが、うつろにこだまし続けた。


船の甲板から、男が1人もいなくなった。
戦闘艦艇からも、次々と様子を見に行った男が戻ってこなかった。

「いったい・・・何が起こってるんだ?」

船に残っていた革命団のメンバーは、 わずか5人まで減って、ようやく異常な事態に気づいた。

「な、なんかやべえんじゃねえか??」

本能的な恐怖から、短絡的に娼艦から離れることと、 念のためミサイルを撃ち込んで追尾できないようにすることで、 逃げることにした。万一船が沈んだらそれまでのこと。

だが、

バシャッ

しぶきが船にはじけた。

船員が振り返ると、 ヌラヌラとした水の後が、甲板についていた。

そして、そこにいた船員も消えていた。

バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、

音が4つ。
残っていた全員が消えた。



広い船室に閉じ込められ、娼艦の女たちは、怯え切っていたが、 中に1人、ミルラ(猫族)の血を引く若い娼婦、キャナル・ミレサがいた。
オレンジのふわふわの巻き毛に、猫族特有のいたずらっ子のような顔。
身体はスレンダーだが、胸はすでにDカップ。

身が軽く、元気のいい少女は、誰も来なくなったことに、 ついにがまんできなくなり、通風孔から船室を抜け出した。


「う・・うあ・・・」
誰もいない船の中、操縦室について、彼女は思わず呻いた。
裸で、土気色をした男たちが、ほとんど死んだようになって、 あるいはうつろな目をして、ごろごろと転がっていた。

そして、その真ん中に、 白い肌をドロドロに汚し、金髪から白い白濁を滴り落とす女性が座っていた。
だが、どれほど汚されても、その美貌と輝きは変わらない。

「リ、リナねえ?!」

キャナルはエカテリナにひどくなついていて、エカテリナのことを『リナねえ』と呼んでいた。

「・・・?」

まだ赤い燐光を放っていた目が、『リナねえ』という言葉に、 ふっと光を消した。 「あ・・・あら?」 エカテリナの意識が、ぽかりと目覚めた。 『蒼い目』がぱちぱちとまばたきした。 「え、あ・・・きゃああああんっ!」 全裸で精液まみれの身体に、最高に気分のいい目覚めをしたエカテリナは、 真っ赤になって身体を抱きしめた。


結局、娼艦は全員無事のまま。

人事不省におちいった革命団のメンバーは、 治安当局に引き渡されたが、当局はひどく手を焼いた。
何しろ全員、意識不明の重態で、会話が出来るようになるまでに1週間、 何が起こったのか記憶している人間はいなかった。

悲惨なことに、ほぼ全員足腰が立たなくなっていた上に、 生殖機能も破壊されていた。
(当局は生殖機能のことはシカトし、ケガをしていたウェモンが奮戦したのだろうという結論に落ち着いた)

エカテリナは何も覚えていなかった。
乱暴されて、記憶が飛ぶことはたまにあることなので、 これも不思議には思われなかった。

反政府組織を潰したことで、当局からは報奨金も出て、 船の全員は祝杯を上げることになった。
ただ1人を除いては。


頭に包帯を巻いたウェモンは、 不満げな顔でベッドに寝ていた。
唯一のけが人が、エカテリナをかばって舷側に激突したウェモンだった。

「ウェモン、具合はどう?」 エカテリナがバスケットを抱えて入ってくると、 不満げな顔もパッと消える。

しかも目を見張るほど可愛らしい、ミニのナース姿で、 ごていねいにナースキャップまでかぶっている。

「看護婦さん、ぼくはもうだめです」
この大男が甘えるなど、エカテリナ以外はだれも見たことがあるまい。 というか、見られたらまず間違いなく悶死するだろう。

エカテリナは甘えつく大男を、さらに甘やかすように口移しでワインを飲ませ、 ベッドに上がりこんだ。

ベッドのきしみと、甘いあえぎが、すぐに部屋を満たした。

そして、海底から何かがじっと船を見ていた。
次の話
前の話